Machinery Gear Armies 作:ナイン(あかいろのすがた)
挑戦開始から7日目。
正面からブーストを使わずに近づいてくる敵機の動きを注意深く観察する。今までの挑戦ではここから、急にブーストで加速し反応が遅れた所を撃破されるパターン、ブーストのオンオフを繰り返し的を絞らせず接近してくるパターン、一定の距離を保ちながら弾幕を張りじわじわと追い詰めるパターンを確認している。
(今回は……、2つ目!)
即座に右手のビームライフルで偏差射撃を行うが、わずかに減速することで回避してくる。ならばとベルト部分に装備された大口径のリボルバーを左手で掴み放つ。しかしその前に瓦礫を盾にし防がれた。
相手は身を隠し続けるつもりはないようで、先程瓦礫の影に滑り込んだ時と変わらぬ、いやより速い速度で飛び出てきた。両手の銃を同時に発射するも、弾丸同士の間を一瞬だけ半身になり突っ込んでくる。
最早銃では対処が間に合わない距離だ。両手を空にしエネルギーブレードを展開する。お互いの間合いまで後ほんの数秒、敵機の加減速まで予測しタイミングを合わせまず右腕を振るう。
これまでにないほど完璧な動き。このまま突撃を止めないのなら確実に奴の機体は上下に真っ二つになると確信を持てた。そしてそれは事実だった。
ただしそれは、敵機がほんの少しだけ進路をずらさなかったなら、の話だが。
「はぁ!?」
思わず声が出る。既にこちらに向き直った敵機は腰のベルトから銃を引き抜き発砲した。必死になって後転を行い攻撃を回避するが、そこでようやく彼は致命的なミスを犯したことに気が付いた。
今も離れていく敵機との距離を詰めるには10数秒程度はかかるが、そこまでの間に必ず射撃を行ってくるだろう。そして先程の攻防で銃器を捨ててしまったこちらにはそれを妨害する手段がない。
正面突破は不可能、素早く判断を終え廃墟の間を通り接近を試みるが、奴は既に遮蔽物のほとんどない場所に陣取りこちらが現れるのを待っている。
(今回は無理かな……)
諦めの念が心を満たしていくのを感じる。あくまで今回の挑戦の話とはいえ、ほぼ敗北が決定しているというのは辛いものだ。
しかし、敗北を無意味なものにしないためにも最後まで手は抜かない。せめて一矢報いて情報と経験を得てやる。
───覚悟は決まった。
最も敵機に近づける場所からブーストを起動し一気に距離を詰める。途中にあるわずかな瓦礫を弾除けにしようと立ち回りつつ、ノンストップで接近した。
無論、奴も棒立ちで銃だけ撃っている訳ではない。陣取っていた場所から少し下がり、しゃがめばぎりぎり姿を隠せそうな位のサイズの建物があるエリアに逃げ込んだ。
だが潜伏するには時間が足りなかったようで、奴は堂々と姿を晒しながらビームライフルを放つ。幾らなんでも、この程度の単調な射撃には当たらない。本来は実弾銃であるリボルバーと組み合わせてバランスを崩し仕留めるのだ。
なぜかその攻撃をしてくることはなかったが、疑問に思ってももう止まれない。懐に潜り込み、エネルギーブレードを振るう。
その直前に、足元が爆発した。即座に後転し建物の影に逃げ込もうとする。その行動を先程見たばかりの敵機は、今度は彼の機体の左腕の肩を撃ち抜いた。
もしリボルバーの有無に気づかなければ、違和感を警戒することなく立ち回り今の一撃、あらかじめ地面に置かれたグレネードに気づかず終わっていただろう。
たとえ引き抜かれたリボルバーの弾丸が追撃として放たれ、もはや彼の機体が動けなくなろうとも。次のビームライフルの一発で敗北することを悟ろうとも。
次こそ勝ってみせると意気込む少年の力は、確かな成長を見せていたのだ。
挑戦開始から十五日目。
前から向かってくる敵機に対しわすがに下がる、フリをしてエネルギーブレードを展開している左腕の関節の内側に潜り込む。こちらのエネルギーブレードが当たる前に膝蹴りが飛んできたので、奴の太ももあたりを足場にブーストを併用しながら大きくジャンプする。
逆さのまま照準を合わせビームライフルを発射。同じ動きを取っていた彼らは腹部の端の部分にこれまた同じように被弾した。敵機が着地の瞬間を攻撃しようと加速しているのを見つつ姿勢を制御し、再びの接近に備える。
そこに水を指すように奴がアンダースローでグレネードを投擲してきた。カメラの目の前で爆発したせいで視界が奪われ、敵機の位置を知る方法は絞られた。
ワンテンポだけ間隔を空けビームライフルを放つ。そして即座に左腕を振るった。
エネルギーブレードが
この絶好の機会を見逃すはずもなく、左腕を戻しコックピットに叩き込む。だがさすがと言うべきか、奴は上半身を限界まで反らし命中スレスレの体勢になる。そして足裏と背中のブースターで地面を滑るように逃げていった。
あと少し下方向に攻撃していればと思ってしまったが、すぐに切り替える。周囲の爆風は収まりつつあり、視界はもうまもなく開けるだろう。
そこが決着の時になる。500を超える挑戦からくる勘に近い予測は、ある意味では正しかった。
煙が晴れる。
「……なに?」
そこには、赤いなにかが存在していた。いやなにかではない。自らの戦う敵、チュートリアルに住まう怪物。失われた左腕が、その推測の正しさを後押ししてくれる。
その体から漏れ出る血液のように赤い粒子はなんだ。そんな武装をこちらは装備していない。
ならばまさか、ここに来て、ここまで来て。
「相手限定の武装、なのか」
ここまで同じ機体、同じ武装、同じ地形で戦ってきたからこそ分かる、自身だけの手数の多さが生み出すアドバンテージ。
だが諦めることはしない。どんな効果を持つか分からない以上、不用意に近づくことはせず慎重に攻める。幸いにして奴の武器はビームライフルくらいしか残されていない。
そこまで考えた時には、既に相手は目の前にいた。加速の瞬間に身構えてこそいたものの、既に構えられた右腕を防ぐには間に合わない。
機体をエネルギー炉ごと切り裂かれる。今までの単なるテクニックによる加速とは比較にもならない速度だ。
正面からの対応はまず不可能。引き撃ちをしてもあっという間に追いつかれるだろう。些細な障害物など足止めにもならない。こちらだけ一方的に攻撃できるような手段はなく、つまり打つことができる手自体がない。
あまりに圧倒的なスペックの差があった。
機体が撃破されたことで真っ暗になった画面に、リトライまたはゲームの開始、そしてログアウトの項目が記入されたウィンドウが出現する。
うなだれたまま顔を動かさない彼は、そっとログアウトの表記をタップした。