推しの子と元刑事【本編完結】   作:足洗

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蝶のように舞い蜂を刺す子供達の悲鳴を聞いて喜ぶろくでなし共

 

 

 

「無理無理無理無理無理無理無理」

「ああああああああああああああ!? ガチガチ言ってる!! 耳元でガッチンガッチン鳴ってる!!」

「そりゃ顎を噛み合わせてる音だ。警戒と威嚇通り越して怒り狂ってる合図だぜ。気を付けろぉ」

「なにを!? この状況で!! なにを!?」

「無理無理無理無理無理無理無理」

「じっとしてると顔を覆われる。そぉら動け動け」

「網を振り回すだけでも結構獲れるよ?」

 

 蹲るノブユキ、走り回るケンゴ、虫取網を器用に操るあかね。

 分厚い生地にポリ塩化ビニルを圧着加工した堅牢な白い防護服にポリカーボネートのフェイスガード付ヘルメット。完全防備の六人が居並んだ。しかしか弱い男子二名を除けば、現状で物の役に立つのは実質この四人。

 

『あ、映像来たわ。うぅわ……』

『今週の「今ガチ」は現地からの中継を俺と有馬が視聴者の皆さんと同時視聴する形になります……うぅわ』

『テロップ出し忘れてないわよね。これは……うぅわ』

 

【閲覧注意】※大量の虫が画面に映ります

 

 激遅注意テロップで草

 見ちまったじゃねぇか!

 ひぃぃいいいいいいいい

 音!音!!

 今ノブユキと同じリアクションしてる

 すげぇ

 今ガチはじまってた

 今日もガチですね

 今日もやっぱり恋愛してない

 恋愛?

 れん……あい……?

 今ガチに恋愛要素があると思ってる人がいるんだ

 逆になんでないんだよ

 アクたんとかなちゃん現地にいないの?

 ずるい

 悲報ツッコミ担当不在

 相席食堂やん

 ツッコミ二人が体よく逃れてて草

 裏切り者!w

 うぅわ草

 うーわ

 うわ

 ドン引きやん

 リアクションうける

 完全に他人事w

 ぎゃああああああ

 ノブユキのこの実家のような安心感

 ノブユキw

 ケンゴのガチ絶叫貴重

 男子二名相変わらずかわいい

 かわいい

 マシラパパー!

 マッシー

 全ての元凶

 マイボーイマシラ

 パパ

 動けw

 動けて

 群体型昆虫最強説

 厳しい

 動じなさ過ぎて

 この人なんにならビビるんだよ……

 虫の渦中で落ち着き過ぎだろこいつ

 あかねちゃん手際いいなw

 あかねちゃん!

 あかね坊俺だ養子縁組してくれ!!!

 マシラさん娘さんを僕にください

 パパと娘さん

 夏休みの小学生並に大量

 網ぶんぶんあかね坊かわいい

 この子も染まったなぁ……

 

『あぁうんコメント早過ぎて読めないわ』

『裏切り者、だけは見えたぞ。お? BANか? BANされたいのか?』

 

 無数の羽音が古民家の裏庭に満ちている。

 見上げれば飛び交う黒と黄の縞模様。不思議なものだ。その姿を目の当たりにするだけで、人間は本能的な嫌悪と恐怖を掻き立てられる。

 

「ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!! 覚えてろマッシーくぞだりゃあー!! スズメバチがなんぼのもんじゃい!! やったんぞおらー!!」

「蜂の子寄越せ! なぁ! オオスズメバチ! オオスズメバチだろう!? 蜂の子寄越せぇ!!」

 

 MEMちょがいった!

 MEMちょw

 こんめむ~

 がんばれMEMちょ

 なんぼのもんじゃい

 今日も不憫だぞMEMちょ

 すっぞオラー!

 イヤーッ!

 可愛いぞBBA!

 本日のマッシーの無茶振り

 なんだかんだやっちゃう

 なんだかんだ付き合ってくれるの優しい

 悪い男に騙される女

 MEMちょはちょろい、と

 ゆきw

 食いしん坊がいったぞ!

 食いしん坊ゆっき

 逃げて蜂さん

 ハチ終了のお知らせ

 食欲の権化

 ゆき強い

 エクスカリバール!

 聖剣エクスカリバール

 情け無用の女!

 妖怪蜂の子置いてけ

 鬼鷲見

 これは食い尽くされますね

 

『ゆきは一体どこを目指してるんだろうな』

『あれでなんで体形崩れないのかしら……』

 

 それらを意地と根性で踏み越えて娘さん方が往く。

 メムちゃんは両手に虫駆除用の発煙筒を炊いて掲げ、ゆきはバールを振りかぶって軒先に取り付いた巨大な巣へ挑み掛かった。

 

「あ! 二人とも待って! これ掃除機! 掃除機で吸ってから!」

「ギャアアアアアアアア!?」

「前が見えねぇ!」

 

 スズメバチ駆除の優れた味方、掃除機にプラケースを繋げた改造捕獲装置を抱えてあかねが駆ける。

 己もまた巣を剥がす為のノコギリで空中のハチを切り落としながら参じる。

 

 マシラが今日もおかしい

 おっちゃんがまた頭おかしいことしてる

 刃先が見えねぇぞ……

 みるみる蜂が消えてくんだけど

 は?

 パパすごい

 斬撃飛んでない?

 草

 ぱっぱは英傑だったんか

 月牙天衝出そう

 これがほんとの回転鋸

 ぐるぐるで草

 あ!これエックスメンで見たやつや!

 もうこいつ一人でいいんじゃないかな

 

『ホントだよ。お前一人で行って来いよ。ってか最近気付いた。視聴者はナチュラルに俺らを便利屋だと思ってる節がある』

『別に募集してるわけでもないのに駆除とか農作業とかの依頼めっちゃ来るもんね』

『皆さん、声を大にして言っとく。送ってくんな! 送ってくんな!!』

 

 必死

 必死すぎ

 アクたんのマジギレ

 草

 アクアくん怒りの着拒否

 実感篭り過ぎてて笑う

 送る(鋼の意志)

 フリですか?

 送るなよ?絶対に送るなよ?

 フリやん

 なるほどフリですね

 

『フリじゃねぇよ!』

『これはまた増えるわね……あぁ』

 

 かなちゃんの絶望顔ありがたい

 今日も苦労人

 苦労人二人w

 それもこれも全て五反田マシラってやつの仕業なんだ

 

 

 およそ八面六臂と言えるだろう。

 時にはこのようにオオスズメバチの巣の駆除に出張った。

 当番組のファンである鈴木さん夫妻からの達ての依頼である。

 特に夫人は、ノブユキが所謂“推し”なのだとか。曰く、毎回生き物にビビり倒す姿が最高に可愛いそうだ。

 

「ノブユキ頑張れ! 見ろ! 今お前トレンド入りしてるぞほら!」

 

 “熊野ノブユキ”

 “かわいそうでかわいい”

 “無理無理ラッシュ”

 “オオスズメバチ”

 

「みんな応援ありがとねッ!!?」

 

 スマホ片手のケンゴに抱き起こされながらノブユキはカメラに向かって叫んだ。

 聞くだに感謝より抗議と命乞いのような風味の強い声だった。

 

 

 

 

 

「いやー、防護服が人数分借りられないなんてとんだアクシデントもあったけど、誰も怪我なく鈴木さんも大満足。一件落着めでたいわ。ホントご苦労様~」

「番組公式アカウントへのたくさんの反響、感想コメント、ありがとうございました。虫ネタはどうしたって苦手な人も多いからまさかこんなに見てもらえるなんてな」

「ホントホント。ここのスタッフとどっかの大男はそういう脳ミソのデリケートな領域死んでるから困ったもんね。視聴者の皆さん本当に毎度ご愛顧ありがとー! ではでは今週の『今ガチ』はこれにて────」

「なぁに締めコメント入っちゃってんのーアクたん、かなちー」

「今日はここからが本番じゃなーい」

「油の温度ってこんなもん?」

「素揚げなら菜箸に泡が立つくらいが目安だけど、適当でいいと思うよ。私も流石に……“これ”揚げるのは初めてだし」

「毒とか平気なのかよ……」

「熱を加えれば消えるみたい。タンパク質由来だから。あ、刺された時も火傷しない程度の熱いお湯に患部を浸すといいそうですよ。あくまで応急処置ですが」

『へぇ~』

「かっかっ、あかね坊はすっかり我らの知恵袋だな」

「えへへ」

「…………ねぇ、なにしてんの?」

 

 屋外調理台のガスコンロで、油を満たした鉄鍋を火に掛けている。

 防護服で汗みずくになった後、近くの銭湯で一風呂浴びてさっぱりした面々は箱に入った今日の“収穫物”を示す。

 メムちゃんはニタリと、ゆきは晴れ晴れと笑う。

 

「「晩ご飯」」

 

 

 

 

 

 

「イヤァァアァアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「すげぇ声量」

「有馬は毎朝走り込みと発声練習を欠かさない努力家だからな」

「流石……やっぱりかなちゃんは今も、今までもずっと、演者なんだね……!」

「人のこと羽交い絞めにしながら情感たっぷりに吐くセリフじゃねぇだろがぁぁああ! あぁぁあぁ近付けんなぁぁああぁあぁ! まんまじゃないのぉ!? なんで素揚げぇ!?」

「ハチの成虫は高タンパクで食物繊維やミネラルも豊富だ。体に良いぞぅ。カリカリに揚げたものを軽く塩振って食う。これが醍醐味ってぇもんじゃあねぇか」

「ほぉらかなちー。あーん」

「ほいひぃよこれ。針までパリパリ」

「脚! 口から脚出てんのよ! 芸風(ファッション)迷走してんぞ悪食モデルがぁ!!」

「お尻の部分が特に肉厚なの。ほらほらかなちゃんも一思いに。大丈夫だよ。ほぼエビだよエビ」

「あんたはあんたでキャラ変しすぎじゃボケぇ!! これで人気出てもあんたに来る仕事世界ふしぎ発見のレポーターとかだぞ!? ……わりといいポジションだなファーック!!」

「毒舌キレッキレで草」

「毒舌を以て蜂毒を制するか」

「上手い!」

「うるせぇ!!」

 

 メムちゃんが箸で摘まんだ一際大振りのそれから逃れんとして死に物狂いで暴れる有馬嬢。

 娘の狂乱具合とは打って変わって、アクアは早々に観念して神妙に席に着いている。そして卓上に置かれた大皿とその中身を、光のない目で見下ろしている。

 

「読みが甘いな有馬。蜂の巣駆除の話が来た時点でこうなることは予測がついただろ。諦めろよ。俺は、諦めたよ」

「うわぁアクアの目と声が死んでる」

「今回は同情してやんねぇぞ。ぐあぁ……! まだ耳の中で羽音がする……! ミュージシャンの耳になんてことしてくれんだ!?」

「スズメバチ体操とか作曲してみたら?」

「ス・ズ・メバチ食ーべたらビーファイター♪ みたいな?」

「……ビーファイターってなに?」

「えっ!? 知らない!? ほらメタルヒーローシリーズの」

「??」

「あったなぁ。放送されてたなぁ二十年以上前じゃなかったか」

「MEMちょはどうしてそう自ら墓穴に入りに行くんだ」

 

 大量に獲れた蜂の成虫や蜂の子は、ソテーや照り焼き、漬けに焼酎等々、演者は勿論日頃世話になっている近隣住民の方々、ついでにスタッフを巻き添えにしてきっちりと美味しく消費された。

 

「これはエビこれはエビこれはエビこれはエビこれはエビ……うぷっ」

「────」

 

 アクアと有馬嬢が暫く使い物にならなくなったが、それはそれとして一件は落着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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