その眼は、ファインダーは、レンズは、何を捉える。 作:一途一
「おい、まだ終わらないのかー」
「待ってよお兄ちゃん!この制服可愛いけど複雑なんだから!」
「…よし、出来たな。行くぞ。」
「なんか冷たくない!?」
何か騒いでる妹が居るが気のせいだろう。
「じゃあママ〜!行ってきまーす!」
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい!」
あの日から10年、俺達は高校生になった。
B小町は流石に解散してしまったが、アイは未だ芸能界で活躍していた。
今でも10年前と変わらない美貌にファンはまだ右肩上がりに増加している。
そして…あの日俺達を救ったあの男、ニノマエは10年経った今でも未だ意識が回復していない。
病院は既に退院し、あのマンションの一室で今も眠っている。
引取先は探したそうだが、親族が誰一人居なかったそうだった。
あの男はアイの嘘を剥ぐためだけに命を賭けた。
動機が最悪だし、良い奴とは言えない気がするが、感謝している。
もう一つ、ニノマエが残したカメラの付属メモリに二つの写真があった。
一つは俺の前世に勤めていた病院のカルテだった。
アイの子供…つまり俺達についての物だった。
一体どんな手段で入手したかは目を瞑らざるを得なかった。
そしてもう一つは、一枚のメモ書きだった。
『父親は芸能人関係?』
ニノマエは俺と同じ考えに辿り着いていた。だが差し込まれているメモリではなく付属メモリに入っている事から、
この事については封印したと考えられた。目を覚ましても教えてくれる可能性は薄いだろう。
だから俺はなるべく安全な方法で父親に近づく為に、裏方の道を目指した。
…妹と同じ高校に行ってるのは妹が心配だからだが。何か?
◆◇◆◇
定説:嘘を見抜ける者にとっては自分に嘘をつくことは容易い
◆◇◆◇
深い闇にいる。
目を走らせても何も無い。
数ヶ月、数年、数十年?ずっと上へ上へと目指して登っている。
時々見える光は全て
それでも上がって行く。僕の求めた真実を追って。
愛、藍、哀、阨、眼
………アイ。
何故か不思議なほどに体が軽くなる。登るスピードを速める。
もっと上へ。
目を醒ませ。真実を視ろ。虚構を剥げ。
目を醒ませ。真実を視ろ。虚構を剥げ
目を醒ませ。真実を視ろ。虚構を剥
目を醒ませ。真実を視ろ。虚構を
目を醒ませ。真実を視ろ。虚構
目を醒ませ。真実を視ろ。虚
目を醒ませ。真実を視ろ。
目を醒ませ。真実を視ろ。愛を受け入れろ。
カメラのレンズが、僕を捉えた。
◆◇◆◇
子供達が学校に行ったのを見届け、彼女は仕事へ向かった。
この10年で彼女のやり方は大きく変わった。
トーク番組ではなるべく自然な話を心懸け、ドラマでは自分の才能を信じるがままに演じる。
嘘で完全に塗り固める事は無くなった。隙が生まれた。それさえも力になると彼女は気づいた。
ニノマエのお陰で。
本物の彼女の顔を求める彼の眼には、確かに星が輝いていた。
異常なまでに調べ尽くし、嘘を剥ごうとしてきた。
彼女は正直陶酔した。ここまでして嘘を剥ごうとする人が居るとは、と。
そして嘘で固められた強固な防壁はたった一つの
ーーーーーーただ、過去の傷跡を残して。
彼女は、その傷が癒えると信じて彼の元へ向かう。本来の道とは大きく外れて。
◆◇◆◇
定説:物語の一文に線を引くだけで命が助かる事がある。同時に人を堕とすことも。
◆◇◆◇
目が覚めた。上には無機質なLEDライトが煌々と輝いている。
体は重しを全身に載せられたように動かない。
それに体中の所々から管が伸びている。まるで病人のようだ。
「ぁ゛…‥」
声も思ったように出ない。
このようだと随分と長い間自分は眠っていたようだ。
胃に何も入っていないからか、動きの重さとは真逆に体はとてつもなく軽く感じた。
眼だけを動かして周りの様子を伺う。右側にはいつもの自分の部屋、しかし整頓されている。
左側を確認しようと、眼を動かす。
…人がいる。艷やかな黒に見事に調和している桜色の髪。
眼を見開いていることからきっと驚いているのだろう。
彼女からは胡散臭さは微塵も感じない。画面越しでも視えていた物が今は綺麗サッパリ無くなっている。
星野アイ。僕が探し求め、嘘を剥ごうとしたアイドル。
「ニノマエ…くん?目を覚ましたの?」
「10年振り…なのかな…ははは…」
「体調は大丈夫?しんどくない?…って、喋れないんだったね。」
何か話してあげたいが、確かに声が出ないのでどうしようもない。代わりに口パクで伝えてみる。
『だ』『い』『じょ』『う』『ぶ』
口の動きをまじまじと見つめた彼女は、すぐ優しい顔になった。
「そっか、良かった。」
「私…考えたんだ。」
「ニノマエくんは他の皆と違って、私の素顔を求めてくれたんでしょ?。いつも魅せている偽りの顔じゃなくて、私の真実の顔。」
「こんなに嬉しいのはアクアとルビーと過ごした時間以外で初めてだった。」
「だからね…ニノマエくんのその眼を、私を求めてくれたその眼をもう一度見たかったの。」
彼女は照れたように言った。そしてそ甘い声のまま僕に問いかける。
「私と一緒に住んでみない?ニノマエくん。」
………???
僕が困ったような顔をすると、彼女は慌てて言葉を紡いだ。
「ほらっ、今のままだとロクに体動かせないし、誰かが支えないといけないでしょ?私ならアイドルもやってきたから体力あるし、アクアとルビーも高校生になったし、それに…」
少し言葉に詰まり、少し頬を掻く。やや上擦った声で言った。
「わ、私は自分の子供に、社長さん夫婦に、ファンの皆に愛されてきたと思ってるし、私も愛してたと思うの。だけど、パートナー、って言えば良いのかな、そういう関係になった人が居なくて…」
「だ、だから…どうっ?」
予想の斜め上を行く言葉に、絶句してしまった。声はそもそも出せないのだけど。彼女にそんな考えがあったのか。
だが、僕にも責任はあったのだ。好奇心で彼女の過去や周りの状況を探り、彼女の嘘を剥ごうとした。
僕が彼女の思いを歪めてしまった。僕の眼が彼女の眼を侵してしまった。
だけど、眼の輝きは留まることを知らずに増していく。
無音の声が紡がれる。
『い』『い』『で』『す』『よ』
後にはもう、戻れない。
◆◇◆◇
ニノマエから返事をもらった後、彼女は仕事があったことを思い出し、社長にニノマエが目を覚ました旨を伝えて部屋を出た。
誰かに見つかるのを避けるために階段を使って降りる。
「やっと、目を覚ましてくれた。」
ビル群の向こうには、夕日が見える。
「これからは、一緒に過ごそう。アクアのためにも、ルビーのためにも、斎藤さん達のためにも。」
彼女の眼は黒く染まっていく。
「アイは…欲張りなんだから。」
良かったら評価、お願いします。考察もしてもらえると嬉しいです。
してくれるとカメラマンが狂喜します。(露骨な宣伝)
追記:アイさんのキャラが分からずブレまくりそうで怖いです。