その眼は、ファインダーは、レンズは、何を捉える。 作:一途一
今、僕の目の前にはアクアさんが座っている。
なんでも聞きたいことがあって僕の所に訪ねてきたみたいだが、顔がちょっと怖い。
なんか眼がギラついている。
「まずは、意識が戻ってよかったです。おめでとうございます。」
「ありがとうございます…」
「今日、俺がニノマエさんの所を訪ねたのは僕の父親の事について何処まで知っているのか…ということを聞くためです。」
「あのカメラの付属ファイルにあった一枚の写真と一枚のメモ書き。その2つしか俺の、星野家の今の家族構成に関するものがありませんでした。」
「つまりは…?」
「ニノマエさんは何か知ってしまったんじゃないですか?俺達の父親について。」
「嫌ですねぇ、知ってる訳が無いじゃないですか。あれは調べる必要がないと思ったからやめたんですよ。」
僕の返答に彼は顔を顰めた。だがまだ引き下がろうとしない。
「何で必要がないと?父親の事が分かればアイの本当の顔を知ることが出来たかもしれないのに。」
彼は中々にいい線を突いてくるが、少し外れている。
「まず、僕が貴方達の父親について調べようとしなかったのは、貴方達…星野家の親族の交友関係が異常なまでに強固な守りで情報が統制されていたからです。実際僕は病院の不法侵入をするまでアクアさんとルビーさんという子供がいることすら知らなかったですからね。それに、危ないと思ったんですよ。」
「危ない?」
「ええ。アクアさんとルビーさんの存在が明らかになった時点で、父親が芸能界にいることは見当が付いていました。なにせ隠されているのはアイドルになってからの交友関係ですからね。疑うのは普通です。…そして、あの日のことです。あれを受けて僕は確信しまた。
まず、あのマンションに住んでいることは誰も知らなかったはずです。隣の部屋の僕も知らなかったように。包丁の彼が天才のハッカーとかならまた別ですが、残念ながら彼は普通の男性なので、住所を教えるとしたら家族か、社長夫婦か、全く別の第三者しかありえません。第三者はまず居ないので、除外されますね。次に、貴方達アクアさんとルビーさんも除外、社長夫婦さんも随分アイさんに力を入れていたようですし、こんな事をするはずが無いので除外。アイさん自身から言うのはありえないので除外。そして残るのは…」
僕は一息置いて彼に告げる。
「今の時点で正体が分かっていない父親が教えた、という線になります。」
彼はやはり、という顔をしてその後ゆっくりと口を開いた。
「やっぱり…そうですよね。俺も同じ結論に辿り着きました。確かに危ないですね。普通は父親が俺達をストーカーに売るような真似はしないですもんね。」
「ええ。だから僕はこれからは関わらないことにしたんです。彼女を守るためにもね。」
「アイを守るため?」
「はい。これについては根拠はないんですが、何か調べちゃいけない予感がするんですよね。嘘とか、真実とかそういうベクトルじゃない、もっと深い闇に触れそうで。」
「そうですか。ありがとうございました。病み上がりなのに話を聞いてくれて。」
「いえいえ、とんでもない。僕はもうアイさんについて調べる気はもともと無かったですし、メモリも誰かに上げれば良いと思っていましたから。」
そしてそのまま帰ろうとした彼に、僕は一つ声を掛けた。
「アクアさん。」
「何ですか?」
「もしどうしても父親の事が知りたい、という時は、僕に頼って下さい。危険ですし、関わらない方が良いですが。でも、その時は最高のスクープを手に入れましょう。」
彼は僕がそう言うと分かっていますよ、と言わんばかりの顔をした。
「分かりました。もしそんな時が来たらニノマエさんを頼ります。」
そしてドアは閉じた。僕は今心配で仕方がない。
…だって、彼の今の目は昔の僕と同じ、真実を求める眼をしていたから。
◆◇◆◇
定説:眩い光を目にした人間は自分もその光を放っている事に気が付かない。
◆◇◆◇
あの後、二時間ほどたった後に一人の来客があった。
サングラスを掛けた、金髪の如何にもという感じの人、斎藤社長だった。
彼は僕が家に招き入れると申し訳無さそうに口を開いた。
「まあ、なんだ。良かったな。意識回復して。」
「ありがとうございます。それで、今日斎藤社長を呼ばせていただいたのはアイさんの事についてです。」
「やっぱりか。なんか最近変だなと思ったんだよ。」
「変?」
「そう。些細な事なんだがな、アクアとルビーに今まで以上にくっつくようになってな。」
「それは親子愛、じゃないですか?実際の場面を見ていないので何とも言えないですけれど。」
「そうだと良いんだがな…」
「少し話が脱線してしまいましたね。今日僕が斎藤社長をお呼びしたのはそのアクアさんとルビーさんの父親についてです。」
斎藤社長は少し思案して、困った顔をした。
「やっぱりか。今日アクアが何処に行くとも伝えずにどこかに行ってたんだ。まさか此処だとはな。」
アクアさんは誰にも言わずに此処に来ていたみたいだ。
「父親については、俺からは何とも言えねぇ。第一アイに子供が出来た時も父親について話してもらえなかったんだからな。俺は何も知らない。」
「…ありがとうございます。斎藤社長のその言葉で確信しました。」
「何を確信したんだ?」
「アイが父親の存在を隠そうとしている、ということですよ。」
「まあ、そうだろうな。知られても良いことないし。…もしかしてその確認のために俺を呼んだのか?」
「まあ、端的に言えばそうなりますね。」
「嫌がらせじゃないだろうな。」
「かもしれないですね。」
「そこは否定しないのかよ。俺だって一応忙しいんだぞ。」
「申し訳ありません。」
「だけど謝られると俺が悪いみたいになるな…」
実は社長を呼び出したのは本当に疑わなくていいかという念の為の確認、という名目もあったのだが、伝えないでおこう。さらにややこしくなりそうだし。
斎藤社長にはそのままお帰り頂いた。不満そうな顔をしていたがまあきっと大丈夫だろう。これで今の現状はだいたい把握できた。
アイさんは夜に帰ってくるみたいだ。一日に色々済ませたからか疲労が溜まっている。少し寝ても大丈夫だろう。
◆◇◆◇
「…」
「…い」
「おーい」
目が覚めた。目の前にはアイさんがいる。少し寝るだけのつもりだったのに暫く寝てしまったようだ。
眼を擦ると視界が鮮明になってきて、アイさんの姿が見えた。
「おはよう。ニノマエくん。」
「おはようございます…」
「体調はどう?」
「万全ですよ。思わず昼寝してしまうぐらいに。」
「良かった。まだ病み上がりだから体には気を付けてね。」
「分かりました。」
彼女はそのやり取りの後、不満気に口を開いた。
「ニノマエくんさあ、いっつも敬語だよね。これから一緒に住むっていうのに。」
「そう…ですね?」
「それだよ!それそれ。私ぐらい敬語使わなくて良いんじゃない?」
「そうです…そうか、こ、こんな感じ?」
「そうそう、そんな感じ!」
「わ、分かった。」
どうやら彼女は僕が敬語で話すことが嫌だったみたいだ。
確かに一緒に住むのだが、なにかこだわりでもあるのだろうか。
…そうだ。アクアさんやルビーさん、斎藤夫婦にはこの事は言ったのだろうか。
「アイさん、一緒に住むっていうの、斎藤夫婦には言ったんでs…言ったの?」
「え?言ってないけど。アクアとルビーにも。」
どうやら彼女は嘘をつくつかない以前に性格に少し難があるみたいだ。
そこは言っておかないといけないだろう。
「あ、そうだ。」
彼女はなにか気づいたように口を開いた。
「私、芸能界今年で辞める事にしたの!」
やっぱり性格に難があるみたいだ。
◆◇◆◇
定説:運命の分かれ道は日常の中に潜んでいる。皆が運命だと思っているその瞬間はは既にシナリオのレールの上なのだ。
◆◇◆◇
定説はどの話でも適用できる物もあれば1話限りでしか使えない物もあります。
追記:1700UA有難うございます。思ったより伸びててびっくりしました。