その眼は、ファインダーは、レンズは、何を捉える。 作:一途一
その後、撮影は順調に進み、クランクアップとなった。
やはりアクアさんは凄い。高校生とは思えない洞察力で現場の状況を把握し、その場を利用した『最高の演技』を作り上げた。まるで人生経験を倍ぐらい積んでいるような…
そして案の定鏑木はアクアさんに目をつけていた。恋愛リアリティーショーに誘っていたのを見た。聞いてみた所アイさんの情報を知る対価らしい。
ついでにしれっと『カメラマン ニノマエ』の名刺を渡しておいた。きっと会社も解雇されているだろうし、もしもの時に頼る伝手になるだろう。鏑木は嫌な顔をしてたけど。
『それで〜?次は俺ちゃんの番ですか?』
「そうだ。何か分かったか?」
『そうっすね〜…』
「何も無いとかないよな?」
『うーん…』
「え、マジで何もないのか?」
『そう、なんすよね…お金にがめついのは分かるんですけど、そこ以外は真っ当みたいですね。』
「そうか…ああ、アイとの関係もついでに調べておいてくれるか?」
『良いですけど……理由ぐらい教えてくれても良いんじゃないですか。』
「そうだな…念の為だよ。何か隠してるかもしれないだろ?」
『まだアイの事を調べようとしてるんですか?碌な目にあってないのに。』
「それでもだよ。調べとかなきゃなんない。」
『分かりました。今度は時間が掛かるかもしれないです。お互い歳ですしね。』
「まだ三十代なったばっかりだろ。」
「ただいま〜。」
『え、今の誰?』
「切るぞ。」
『いやいや、絶対いm…』
申し訳ない。難波に知られたらもれなく記事にされる。
「おっと、電話中だった?」
「いや、今終わったとこだよ。ちょっと昔の仕事仲間に生存報告を。」
「ふーん…」
「夕飯何がいい?」
無理やりな話題転換だが此処は仕方がない。勘付かれたらカメラマンは終わりなのだ。
「そうだね、肉じゃが…かな?」
「分かった。すぐ作ろう。」
「ニノマエくん…何か隠してる?」
「…そう見えるかな?」
段々と此方側に近づいてくるアイさん。全てを透かすような眼が僕を捉え続ける。
そのまま壁まで追いやられる。体は不思議と動かなかった。
そのままするりと話してしまいそうな、そんな感覚に追いやられる。
アイさんはそんなのを構わないように口を開く。
「……うそ♡」
「…は?」
「あははっ。ほんっと面白い。」
「してやられたのか…」
「びっくりするぐらいに引っかかってたからね、ちょっと悪戯心に火が付いちゃった。」
「ご飯作ってあげませんよ…」
「それはやめて〜」
全く、びっくりさせないで欲しい。
アイはキッチンに向かう彼の姿を見て言った。
「いけない子だね。ニノマエくん。トップ・シークレット、だから。なんちゃってね。」
◆◇◆◇
定説:現実に正義と悪の境界線は存在しない。
◆◇◆◇
「んー!美味〜いっ!やっぱり仕事をした後に呑む酒はいいですなあ〜。」
一人の記者が酒を呑んでいる。彼の名は
「それにしても、アイのネタ一筋だったニノマエさんが彼女作ってるとはな…正味ありえないとしか考えられないな。ていうか目覚めてから一週間後に彼女作るとか有り得ないだろ。」
彼は思案する。いくら相棒だとしても、自分は知りたい謎を全て暴こうとする記者だ。こんなに面白そうなネタを逃さない訳がない。
「ニノマエさん…隠し事は良くないっすよ。」
彼はスマホを開いて、ある人物に連絡する。
「もしもし、鏑木勝也さんですか?週刊風秋の難波と申します。実はお聞きしたい事がありまして…」
◆◇◆◇
定説:記者の言うことを真に受けると痛い目に遭う。
◆◇◆◇
翌日、ニノマエの下に一人の来客があった。
インターホンが鳴り、扉を開ける。そこには鏑木勝也が居た。
「朝早くにすみません。今日は少し内密な話をしたくて来ました。取り敢えず、中に入っても?」
「ああ、構いませんよ。こちらへどうぞ。」
ニノマエは家の中に鏑木を招き入れる。
「今日はどういったご要件で?仕事でしたら電話で告げてもらっても良かったのですが。」
「いや、そういったことでは無いんですよ。」
「ほう。もしかして掛かりましたか?」
「その通りです。“悪質な記者”から貴方の事を教えて欲しい、と連絡がありました。」
「そうですか、後は僕に任せてください。アイさんの事は絶対に漏らさせません。」
「ありがとうございます。俺としてもアイは大事な“収入源”ですからね」
ニノマエは顔を顰めた。守銭奴でも流石に無神経が過ぎる。
「そういうのはやめてもらえますか?」
「おっと、申し訳ない。それじゃあ、これからも頼みますよ。『ニノマエチーフ』。」
「分かってますよ。鏑木プロデューサー。」
鏑木はそのまま玄関先に向かったが、振り返って言った。
「改めて、意識回復とカップル成立おめでとうございます。応援してますよ。」
ニノマエは少し怒りを覚えたが、直ぐに収めた。
「余計なお世話ですよ。それにカップルじゃないです。一緒に住んでるだけですよ。」
「それを世では『付き合っている』という気もしますが…まあ、頑張って下さい。」
その言葉を最後に扉は閉じた。ニノマエは気が抜けたようにソファに座り、いつの間にかダブルベッドが設置されていた寝室を眺める。
「夕飯何にしよう…」
◆◇◆◇
定説:口約束ほど信用できるものは無い。
◆◇◆◇
昼投稿です。四話見ました。これからどうやって話を進めるか悩んでます。