その眼は、ファインダーは、レンズは、何を捉える。 作:一途一
『こんな
難波は悩んでいた。彼は週刊風秋のエース記者である。彼がやろうと思えば、どんな相手でも素性を暴けるはずだ。なら同業者であれば更に暴きやすい筈である。
記者という人種は元々暴くことを専門にしているため暴かれることに慣れていない筈だ。だから今回も簡単にニノマエの素性を暴けると考えていた。だが、情報が錯綜しているのだ。
ある人物はニノマエは二〇年前は親元を離れ無職の状態で放浪している所謂ホームレスだった。と言っていたり、またある人物は金持ちの息子で以前勤めていた部署にはコネで入った。など、どうも正確性に欠ける情報しか出てこなかった。
唯一信じられると思っていた鏑木には少しばかり金を握らせて喋らせたが、重要な部分ははぐらかされ、生い立ちについては全く知らないとの事だった。
…ただ、一つ有力な情報がある。
現在は国民的な女優で、ニノマエが当時窓際部署だった此処に飛ばされる事になった原因。
そしてその眼に魅せられニノマエが今も追い続けている絶対的存在。
曰く、ニノマエと同棲してるなんて噂も出てる。
「星野…アイ。」
疑いは深まっていく。
電話中に聞こえた謎の女性の声。
意識不明で親族も戸籍上存在しない筈のニノマエを誰が看病していたのか。
「面白い記事が書けそうじゃないか…」
そうと決まれば行動を始めなければ。
調べたい奴が出てきたら直ぐに行動に移すのが基本だ。
オフィスを出て、仕事を始める。
◆◇◆◇
「今日はお時間を取って頂きありがとうございます。」
「それで、聞きたいことっていうのは?」
「それはですね…」
歩け。
「ああ、ニノマエさんね。よくうちの機材買いに来てたよ。」
「そうですか。それでそのニノマエさんについてなんですが…」
聞け。
「すいません。この人に取材された事って無いですか?」
「いや…無いと思いますけど…」
「そうですか…そういえば貴方、去年辺りから会社で横領を繰り返してますよね。」
脅せ。
『個人情報保護の観点から取り扱いには注意:映像部人事ファイル』『戸籍謄本』
奪い取れ。
…準備は整った。全てはニノマエの素性を暴き、アイを終わらせるために。
俺は、ニノマエを潰す。その首からは、カメラが下がっていた。
◆◇◆◇
「今日アクアとルビーの入学式があってね。写真送ってもらったの!超可愛くなーい?」
画面には入学式の看板の前でツーショットをしているアクアさんとルビーさんの写真が写っている。
「もう高校生なのか。ほんの10日前ぐらいまであんなに小さかったのに。」
「それはニノマエくんが寝てたからでしょ?」
「まあそれも有るがな…時間は本当に早く過ぎちゃうな…」
「そんなおじいちゃんみたいな事言わないでよ、本当にそう見えてきちゃうじゃん。」
「え、僕そんなに老けて見える?」
「そうだね〜」
思わず頬を触って確認してしまった。良かった。肌のハリは未だ健在だ。
「僕はまだ30代後半だ。ギリギリセーフだよ。」
「アラフォー…ってこと!?」
「…そういえば僕の歳伝えたこと無かったな。ていうか誰かから聞いたこと無かった?」
「うーん、無いね。」
「そうか、じゃあ僕のことを老人呼ばわりしたアイさんにだけ教えてやる。僕はまだ36だ。…アイさんよりも6歳も年上だからな。もっと敬ってくれて良いんだ。」
「今しれっと私の年計算したでしょ。」
「気の所為じゃないか?」
「いやいや、今言葉と言葉の間が空いてたよ?」
そう言いながらも微笑む彼女。因みに最近はもうカップル認定を受けている。迷惑なことこの上ない。
暫くの沈黙の後、アイさんが口を開いた。
「…ねぇ、そろそろもう良いと思うんだ。」
「何がだ?」
「ニノマエくん、まだどっかで取材とかしてるでしょ。鏑木さんから聞いたよ。」
やりやがったな。あの守銭奴アイ推し野郎め。
「…バレてた?」
「何で危険なのにそこまでして私の過去について探り続けるの?」
「そうだな…まあ、簡単だよ。」
彼女の言葉に僕の星の輝きが増し始める。
「何故?どうして?こういう事を突き止めるのは、皆が子供の頃から気付かない内にやってることなんだよ。国語のテストの問題で相手の心情を読み取りなさいっていう問題があるだろ?取材はいわば文章だ。その内容から相手が何を思って行動を起こしたのかを読み取るためのね。」
「僕は…アイの全てを知りたい。今も、過去も、丸裸にしたい。最初は興味本位だった。だけど、止まらなくなってくるんだよ。全てを暴いて、滅茶苦茶にしないと気が済まなくなる。」
ああ、こんな事を言うはずじゃないのに。
「アイさんは、何でそんな僕と一緒に住みたいだなんて言ったんだ?」
抗うことの出来ない、
彼女は喋る。
「私と似てる、って思った。私は、愛を求めて、愛を授けるためにこの仕事をしていたと思うの。あの日のニノマエくんは、私の姿と重なってた。授ける方は無いかもだけど、ニノマエくんは私を求めた。」
「あはは、なんか私でも何言ってるか解んなくなっちゃった。まあ、とりあえずは一緒に居ても後悔しないかなって。」
「僕と一緒に居ても後悔しない…か。」
こんなに短い時間で呆気なく10年間の執着は消えた。僕はアイさんの星の光に飲み込まれてしまったのだ。
「そういえば…私、一つ嘘を付いたんだよ。気づいた?」
「え?」
彼女は今までで一番魅惑的な笑みを浮かべて言い放った。
「ニノマエくんの事は14年前から知ってたんだよ。10年じゃなくて、14年ぶりだね。」
◆◇◆◇
14年前 某音楽番組
彼女は初めての音楽番組出演であった。これまでの活動で知名度はあるが、こういう場は初めてなのだった。
番組が始まり、カメラが彼女に向けられる。その時、彼女は見たのだ。
名も知らぬカメラマンの眼に星が輝いている事を。自分の眼をしっかりと捉えていることを。
彼女はその後直ぐにチーフプロデューサーにその事を聞いたが、曖昧に返されてしまった。
◆◇◆◇
RE。定説:運命の分かれ道は日常の中に潜んでいる。皆が運命だと思っているその瞬間はは既にシナリオのレールの上なのだ。
RE。定説:眩い光を目にした人間は自分もその光を放っている事に気が付かない。
◆◇◆◇
そして4年後まで時は進む。
彼を見た時、彼女は嘘だと思った。目の前に4年前に見たあのカメラマンが居たのだ。
彼女は運命だと思った。だから、逃さなかったのだ。
あくまで自然体に驚いて、彼を助けるのだ。此方側へ持ってくるのだ。
◆◇◆◇
RE。定説:嘘を見抜ける者にとっては自分に嘘をつくことは容易い
◆◇◆◇
10年後、目を覚ました彼を手に入れるため、彼女は色々と仕掛けを施した。
鏑木プロデューサーの信用を勝ち取り、自分での芸能界の地位を盤石なものにした。
全て、完璧な彼女の「作戦だという事だったんだよ。ニノマエくん。」
彼女は、その妖しい笑みを崩そうとしない。一定距離を保っていたソファの間が詰められる。
僕は10年という期間を甘く見ていた。どれだけ考えることが出来るか。どれだけ作戦を練れるのか。
僕は目覚めたときから既に彼女の術中に嵌っていたのだ。
「今、この時もね。」
強引に引き寄せられ、キスをされた。
砂浜の時とは違う。長く、舌を絡める扇情的なキス。
10秒程経った後、僕の口は開放された。
アイさんの顔が近づいてきて、湿った声で耳打ちされる。
「“星野アイ”は欲張りなんだよ。“アイ”と同じぐらいにね。」
そのまま抵抗できることもなく押し倒され、アイが馬乗りになる。
声は出ない。眼の星の輝きが増していくだけだ。
それは、彼女も同じように。
夕日に照らされながら、彼女は言葉を紡ぐ。終わりは近づいている。
「全部、ぶっ壊しちゃおっか。」
シャッターは切られた。もう外側からは、彼女たちの姿は見えない。
THE END
NEXT STAGE:熱愛発覚中
無事ばら撒いた伏線を回収できましたね。伏線とも言えない気がしますけど。
評価をしてくれと頼んだその時に主の価値がだだ下がりになるのは分かってます。
評価してくれ。
次回は多分暫く後に投稿します。ネタがないので。暫くって言っても24時間後かもしれないですけどね。