東方闇魂録   作:メラニズム

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第十六話

 毒々しい程の紫色の空間の中に、眼球が浮かんでいる。

 そんな嫌悪感を感じさせる空間の中に、金髪の少女……八雲紫は居た。

 上下も無い空間だが、寝そべり、仰向けになっている。

 

 彼女は、思案していた。

 

 騎士の事についてである。

 

 騎士が、手紙を渡しに行く旅に出て数年。

 紫はちょくちょく彼の元に赴き、様子を眺めていた。

 しかし、彼の事について理解を深めるどころか、謎が深まるばかりだった。

 

 妖に似た気配を持っているにも関わらず、彼自身は人間以外の何物でも無い事。

 不思議な術に依る物か、虚空から武具を取り出す事。

 その二つの謎すら、数年様子を見続けて何も解らなかった。

 

 それだけでは無い。

 妖狼を倒した事から武勇に優れている事も解ってはいたが、彼は呪文にも長けていた。

 更に言うのであれば、彼の武芸も才覚による物では無く、永い間経験を積み重ねて成ったように見える。

 

 そのような来歴ならば、大抵の場合は偏屈だったり自己中心的だったりするものだが、そういう訳でも無い。

 それどころか、人を疑う事を知らない子供のような純朴さすら垣間見える。

 

 それだけでもただならない何かを秘めているように感じるが、一つだけ分かった事が有る。

 

 彼と居ると心が緩むのだ。

 

 最初は、彼の人柄に依る物だと思っていた。

 しかし、手紙を渡しに行った妖怪が、総じて前情報よりも穏やかな対応をしていた事から分かった。

 

 彼に頼んだ仕事は、決して生易しい物では無い。

 

 偏屈で天邪鬼であり、長々と旅して来たと知っても逆に苛立つような、面倒な相手を頼んだのだ。

 優先順位は低いとはいえ、誘いを掛けなければ面倒な事になる相手。

 だからこそ、激高して襲ってきても逃げ切れるような実力を持ち、

 尚且つ殺されたとしても計画に支障の無い、部外者である彼に頼んだ。

 

 そうして、彼は想定していたよりもはるかに多い承諾の手紙を携えて来たのだ。

 

 これは最早偶然などで片付けられる物では無く、だからこそその力に気が付けた。

 

 だが、藍のあの様子を見るに、相手の心情を完全に塗り替えるような強力な物では無いようだ。

 せいぜい、少しばかり心情が好意的になる、と言った程度の力なのだろう。

 

 彼の純朴な性格を見るに、彼はその力に気がついてはいないようではある。

 

 紫は隙間を開いて身を乗り出し、ある一つの里を見下ろした。

 

 自分の夢。

 妖怪と人間が共存する里。

 

 良さそうな里も見繕い、外界と隔離する為の術式も大よそ出来た。

 

 夢の実現も、見えてきたのだ。

 だからこそ、それを脅かす要素は、出来る限り排除しなければならない。

 

 人の喜怒哀楽を、その兜の下に隠しながらも自らの事のように感じる人間ですら、疑わなければならない。

 

 だが、その人となりはさて置いても、彼には謎が多すぎる。

 

 その幾つかでも解る事が出来れば、疑う事などしなくてもいいのだが。

 

 彼の心底美味そうに茶を飲む姿を思い出して、ため息をついた。

 

 乗り出していた身を戻してから隙間を閉じ、傘の中軸に仕込んである、

錆びた刃を少しだけ抜く。

 

 この刃は、紫が生まれた……発生した、と言った方が適当ではあるが……所に、

落ちていた物だ。

 

 高度な建築技術の後が垣間見える廃墟に、薪の様に置かれた骨と、

そこに刺さっていたのであろう剣。

 

 それが、紫が初めて見た光景だった。

 

 その場所も既に廃墟は土と還り、名残は錆び付いたこの刃だけ。

 

 だが、錆び付いていてもその技術はその時代不相応の物だという事は解る。

 

 時代不相応の建築技術と鍛冶技術。

 何故そのような技術を持った町が廃墟と成り果てていたのかは解らない。

 

 だが、そこから生まれた紫という存在と、この錆びた刃。

 

 それだけは、確かにここにある。

 

 もしも。

 

 もしもこの剣の持ち主が生きていたとしたら、その人物は己の親と言えるのだろうか。

 

 そんな空想に笑みを浮かべながら、自らを柔らかく包み込む眠気に身を委ねようとして。

 

 騎士がどこからか取り出す、武具の事を思い出した。

 

 あの妖狼と戦った時に取り出した鎧一つをとっても、今の技術では作りようも無いのは明らかだ。

 

 鋼の造形にしても、あそこまで精度の要る加工など出来る所は未だ無い。

 

 無論、紫の生まれた地とその武具とを、結びつける事実など無い。

 

 その二つに繋がりなど無い、と考えながらも、心の片隅に根を張ったその考えが消える事は無かった。

 

 

 騎士は、長い石階段を見上げていた。

 

 既に空は日が暇を告げた後で、名残が微かに紫色を浮かべた空に残るのみである。

 

 太陽の代わりに月が天高く上り輝いている。

 

 その色味は白無垢のような清さで、大地を明るく照らしていた。

 

 騎士が見上げる石階段の果て、山の山頂と肩を並べる様に、月が浮かんでいる。

 

 月と石階段を順に見やった後、騎士は手に持った手紙を読む。

 

 この手紙は、妖怪勧誘の手紙では無い。

 既に月が二回ほど満ち欠けるほど前に、手紙は全て渡し終えていた。

 

 気がついた頃には、騎士の懐に差し挟まっていたのだ。

 中身を読めば、紫からの労いの言葉と、新しく出来た人間の友の話。

 そして、その友の家に遊びに来ないか、という誘いが、地図と共に書かれていた。

 

 最近、紫の態度がおかしいというのは、この迂遠な誘いからも見て取れる。

 いつもならば、何処からともなく現れて一方的に告げて帰るか、隙間を足元に開けて攫っていくというのに。

 最近は、こちらを観察するように、一歩引いた態度になってしまった。

 

 いつもならば、あの紫に対して忠実過ぎるほど忠実な従者である藍が異変に目ざとく気づき、

 お前が何かしただろうと殴りこんで来るだろうと騎士は考えていた。

 そして、その時に降りかかるであろう謂れの無い罪をどう晴らそうかとも考えていたのだ。

 

 だがしかし、いつまで経っても藍は現れる事は無く、このような態度を紫が見せるのは騎士に対してだけなのだ、という事を把握した。

 

 となれば、己が彼女に何かしたと考えるのが普通ではあるのだが……。

 

 何か彼女に対して、知らず失礼な事をしたかどうか思い返しながら、

騎士は階段を登って行った。

 

 時折、風に乗って薄桃色の花びらがやってくる。

 

 確か、この花びらは、この国では桜、という花だったはずだ。

 

 辺りを見渡しても、それらしい樹は見当たらない。

 

 ならば、この階段の先。

 山の頂上にあるのだろう、と考え、止めていた足をまた踏み出そうとする。

 

「良い花ね。

 若干雑食の気が有るみたいだけど」

 

 その聞いた事のある声に、騎士は振り返った。

 

 赤い格子柄の服に、短い緑髪の女性。

 

 幽香だ。

 

 突拍子も無いが、彼女ならば紫のように突然現れるのにも何故か納得がいく。

 それが花の有る所ならば、尚更だ。

 

 彼女が花びらを愛でているのを尻目に、騎士はまた石階段を登り始めた。

 

 すると、足音が二重に聞えてくる。

 

 どうやら、彼女も付いて来るらしい。

 

 彼女には、何を言っても無駄だろう。

 そういう性格なのだ。

 

 行く先には態度が変になった紫が待っており、

後ろからは自由奔放も甚だしい幽香が付いて来る。

 

 確かこういう物を、この国では前門の虎、後門の狼と言うのだったか。

 

 足が少し重くなった気がした。

 

 その少し重い足を引き摺りながら、階段の果てが見える所まで辿り着いた。

 

 白亜の塗壁に挟まれるように鎮座する門が見える。

 

 騎士は、ただならぬ気配を感じ取った。

 

 背筋に冷水を垂らされたようなそれを、殺気と人は呼ぶ。

 

 門の上。

 

 月明りに照らされ、黒光りする瓦の上に、一人の男が立っていた。

 

 白髪の、炯々とした眼光の男である。

 

 この国独特の余裕のある服。

 その腰には、二振りの刀が差してある。

 

 只者では無い、と一目で見て取れた。

 

 なるべくならば、このような男と敵対などしたくは無い。

 

 手紙をその男が見える様に掲げる。

 

 男はそれを見て取ると飛び降り、隙の無い振る舞いで近づいてくる。

 

 互いに腰に差した獲物が届かない程度の距離まで近づいてきて、止まった。

 

 心なしか、己よりも背後にいる幽香に厳しい視線を浴びせているように見える。

 

 手紙を風に流されない様に、そこらに落ちていた石を包んで、軽く投げ渡す。

 

 すぐさま刀を抜けるような姿勢を自然に作り、騎士を視界に入れながら男は手紙を読み始めた。

 

 読み終えた時、男は苦虫を噛み潰したような顔をし、呟いた。

 

「あの女狐めが、お嬢様が珍しく客が来ると喜んでいたかと思えば……」

 

 どうやら、紫は男から良い印象を抱かれてはいないようだ。

 

 しかしそれでも納得はしてくれたようだ。

 

 苦々しい顔を崩してこそいない物の、男は道を開けてくれた。

 

 通っても良いらしい。

 

 腰に下げていたロングソードを男に渡してから、男の前を歩く。

 

 獲物を差しだし、背を任せる。

 

 その行為の意味は、同じく剣を手繰る者である男には伝わったらしい。

 

 刺々しい殺気は、鳴りを潜めた。

 

 そして己と同じように男の前を素通りしようとした幽香だったが、男に止められる。

 

「あら?

 何かしら」

 

「何かしら、では無い。

 妖など、この白玉楼に入れる訳にはいかん」

 

「あの女はもう居るみたいだけど?」

 

「……お前を追い払ったら、直ぐにあの女も追い出す」

 

「そう、じゃあ仕方ないからあの女が居るのも許容してあげるわ」

 

 やはり、というべきか。

 会話自体が噛み合っていない。

 

 このまま荒事となっては、この白玉楼という所もただでは済まないだろう。

 

 夢幻世界で見た、幽香の圧倒的な力を思い出す。

 

 ……ただで済まない、どころでは無い惨事が、容易に想像できた。

 

 言葉が話せれば、まだ説得もやりようがあるのだが。

 

 そう思いながらも、騎士は二人の間に割って入って行った。

 

 

 しばらくの間、必死に両者の間を取り持ち。

 

 騎士の右側に幽香が寄り添い、その後ろを男が歩く、と言う形に収まった。

 

 紫と幽香はそりが合わなかったはずだが、果たしてこの状態で行っていいものだろうか。

 

「あら、私って自分で言うのもなんだけど美人だと思うけれど。

 それとも、私の事が嫌いなのかしら?」

 

 そう言えば、幽香は心が読める事を忘れていた。

 

 彼女の笑みを見るに、寄り添っているのは紫をからかう為だろう。

 

 嫌いでは無いが、美人、美人では無い、という問題では無いのだが。

 

「じゃあいいじゃない」

 

 良くは無いが、この形で収まった以上、また揉めるのも面倒だ。

 

 腹を括り、白玉楼の門を潜った。

 

 なんとも、雅な庭であった。

 

 地面には白石が敷き詰められ、植えられた樹は晴れ晴れと咲き誇っている。

 

 年月を湛えた黒々とした木により出来ている屋敷は、月光を跳ね返しにわかに煌めいている。

 

 だがそれらよりも、よほど目立つ物が有った。

 

 桜の大樹だ。

 

 鮮やかに過ぎる程紅に色づいた桜の花びらは、人の血でも吸ったのだろうと思われた。

 

 と、いうのも。

 

 桜の大樹に、ぶら下がっているモノが居るからだ。

 

 風に揺られ、結ばれた縄が軋みを上げる。

 

 人だった。

 

 人が首を吊っていた。

 

 だが、叫び声は、ついぞ響かず、静寂が包むのみであった。

 

 騎士は、首吊り死体などは見慣れて居た為。

 

 幽香は、そもそも人の生き死になどどうでもよい為。

 

 そして男は……。

 

「……ついに、あいつも逝きよったか。

 これで、従者は私一人か」

 

 察するに、最早慣れていたようだ。

 

 男は慣れた手つきで死体を降ろし、根元に横たえた。

 

 死体を一瞥した後、何事も無かったように歩いて行った。

 

 付いて来い、という事だろう。

 

 首吊りが日常となった屋敷に住む、友。

 

 一体どんな人物なのか、騎士には想像もつかなかった。

 

 玄関で上級騎士の具足を脱いでから、屋敷内を幾らか歩いた後。

 

 ある障子の前で、男が止まった。

 

 障子の前に居るだけで既に、何かしらの呪いを騎士は感じる。

 

 死が、背中を撫でつけているような寒気。

 

「……この中に、お嬢様が居る。

 くれぐれも、失礼の無いように」

 

 そう言うと、男は一歩退き、騎士に前を開ける。

 だが、障子の脇から退かない所を見るに、何かあった時は踏み込んで来るのだろう。

 

 騎士は、障子を開けた。

 

 通りの良い障子が、木同士が滑る微かな音を立て、開く。

 

 花のような少女だった。

 触ってしまえば折れてしまいそうな程細く白い肢体は、幽玄な色気と儚さを醸し出す。

 ふわりと舞う髪は黒く柔らかな質感であり、宙に浮く様な軽やかさを感じさせる。

 そして何より纏う雰囲気は、およそ活力が見当たらず。

 

 その内に死ぬだろう、と予感させた。

 

「花みたいな人間ね。

 人間みたいなあの桜と入れ替われば丁度いいんじゃない?」

 

 そう言いながら、幽香も入って来た。

 

 少女よりも奥に座っていた紫が、険しい眼で見てくる。

 

 何故こいつが居るのか、と眼で批難しているのが見て取れた。

 

「あら、千客万来ね。

 彼以外にもこんなお友達が居たなんて、何で教えてくれなかったの?」

 

「こいつは友達なんて存在じゃないわ。

 そんな生易しい奴なら、開口一番こんな事は言わないでしょう?」

 

「だって、あなたは血の気は無いけど、あの桜は飲み過ぎなくらい血を飲んでるでしょ?

 人間なんて血袋かと思うほど血が大量に必要だし、あの桜くらい大食漢ならそんな風に弱る事も無いでしょう」

 

 それもそうね、と鈴のような声で少女は笑う。

 

 騎士は、障子を開いてから加速度的に身を侵す呪いに蒼褪めていた。

 

 やはり、この少女が呪いの元なのだろう。

 恐らくは自分でも制御出来ずに、周りや自分を蝕んでいるのではないだろうか。

 そう考えれば、納得がいく。

 

 兎にも角にも、この少女の前に自らの死体を見せる気は無い。

 

 騎士は、ある被り物を取り出した。

 それを見て、少女や紫すら息を呑み、幽香は興味深げにそれを見つめる。

 

 あまりにも精巧な、死者の顔の被り物だった。

 眼球が入っていた空洞の闇も、醜く変色した肌も、歯抜けになった口も。

 それは亡者の皮という名の、亡者の顔を模した作り物だった。

 

 呪いへの凄まじい程の抵抗力を、被った者に与えるそれは、見た目とは裏腹に亡くした者への 真摯な祈りを感じさせる。

 亡者の見るも悍ましい所も含めて全てを精巧に再現する程、この皮の元だった者は愛されていたのだろう。

 

 それを被ると、背中に感じていた死が消え失せる感覚がした。

 

 それが作り物だと解ったのか、恐る恐る少女たちは近づいて来て、亡者の皮を触る。

 

「うわぁ……凄いわねぇ、これ。

 愛されてたのね、この顔の人は」

 

「凄まじい程の呪いへの耐性……。

 見た目は悪いけど、逸品ね」

 

 少女は亡者の皮に込められた祈りに思いを馳せ、紫はその秘められた力に感嘆する。

 幽香は、直ぐに興味を無くしたのか一瞥しただけだった。

 どうやら、こういった力には興味が無いらしい。

 

「呪いの耐性があるの?

 そんな物も、世の中にあったのねぇ」

 

 少女は嬉しそうに頷いて、亡者の皮を撫でた。

 

「これが有ったら、皆死ななかったのかしら」

 

 二、三度亡者の皮を撫でると、少女は元いた場所へと戻った。

 

「でも、有ったとしても、結局死体の顔である事には変わりない、か」

 

 戻る時に、少女はそう呟いていた。

 

「さて、お客人をそんなところに居させる訳にはいかないわ」

 

「本日は、私、西行寺幽々子が、出来る限りのお持て成しをさせてもらいますわ」

 

 そう、少女……幽々子が言い、席へと騎士と幽香を誘った。

 

 騎士は席に着く。

 

 目の前には良い香りの料理が、所狭しと並んでいた。

 

 しかし、亡者の皮を着けていては、食べる事は出来ない。

 

 幽々子の手を見た。

 

 心配になるほど細い手に、あかぎれが見えた。

 

 そして、男の言っていた事を思い出す。

 

 男は、最早従者も己一人とも言っていた。

 

 この料理は、全て彼女が作ったのだろう。

 

 あの今にも死にそうな、細い体で。

 

 騎士は、亡者の皮を外した。

 

 驚き、止めようと手を伸ばす幽々子を尻目に、指輪を二つほど取り出し、付ける。

 

 呪い咬みの指輪と、抵抗者の指輪というその二つは、どちらも輝石という石を飾る指輪である。

 呪い咬みの指輪は文字通り蛇が石を噛みついているような意匠で、ロードランで発見した指輪であり、

 抵抗者の指輪は、四つの輝石をはめ込まれた、ドラングレイグで手に入れた指輪だ。

 

 出来た場所も時代も違うが、どちらも呪いへの耐性を上げる効果が有る。

 

 そして、更に騎士は一つの盾を取り出し、背負った。

 

 それは血の盾と言い、ロードランの時代ですら失われるほど古い伝承に語られた盾である。

 血のような赤で彩られているが、それには弱い魔力が込められており、抵抗者の指輪と同じように呪いへの耐性をもたらす。

 

 盾を背負い、亡者の皮を外してからすぐ襲ってきた凄まじい呪いの気配が、ようやく消え失せる。

 

 そして、目の前の料理を食べ始めた。

 

 どれも味こそ感じる事が出来なくても旨いと解る程、良い香りが鼻を抜けていく。

 

 心配そうな顔でこちらを眺めていた幽々子だが、騎士が取り出した物全てが呪いに対して効果を持つ事を紫から聞かされると、嬉しそうな顔で、料理を食べるこちらを見ていた。

 

 尻目に見える紫は、何も喋らない。

 相も変わらず、こちらを観察するように見つめている。

 しかし、どこか優しい目つきにも思えた。

 

 幽香は我関せずと、料理を食べ、酒を飲んでいた。

 

 幽々子からあの男……幽々子は、彼の事を妖忌と呼んでいた……も呼ばれ、料理を食べ始めていた。

 

 宴は、それほど長く続きはしなかった。

 

 体の弱い幽々子を慮り、妖忌や紫が締めたのだ。

 

 散々に酒を飲んだ幽香は満足したのか、少しだけ頬を赤く染めて、一瞬のうちに消えた。

 

 もう夜も遅いから、と、紫と騎士はそれぞれ別の寝室へと案内される。

 

 案内された頃には、夜も大分更けて来ていた。

 

 来た時には天頂に上っていた月は、大分傾いている。

 

 障子の和紙を通して、月明りが畳を照らしていた。

 

 騎士は障子を開け、軒下へと出た。

 

 眠る気は無い為、夜が明けるまで月と桜でも眺めていようと思ったのだ。

 

 桜の木の下。

 

 そこで、妖忌があの死体を背負おうとしていた。

 

 軒先へ出て、死体へ手を添え、背負うのを手伝う。

 

「……貴殿か」

 

 騎士を一瞥してそう言うと、礼を言う様に頭を下げ、妖忌は歩き出した。

 

 騎士も、その後を付いて行く。

 

 地面の白石を踏み締める音だけが、響く。

 

 妖忌が、おもむろに口を開いた。

 

「幽々子お嬢様は、生まれた時からあのような力を持っていた」

 

「幼少の頃は、さほど強くも無かった。

 だが、成長するに従って、力はどんどんと強くなっていった」

 

「櫛の歯が欠ける様に、従者は一人一人死んでいった」

 

 妖忌が、ずり落ちかけた死体を背負い直す。

 

「惨い事に、お嬢様は早々に自らの力に気が付いていた。

 嘆く事も無く、ただ淡々と、自らの招いた死を見続けて来た」

 

「いつしか、お嬢様の力は従者たちにも知れる事となり、お嬢様は孤立した。

 先代とその奥様の死も、お嬢様が招いたのだと噂されるようになった

 事実そうだったのだろう、お二方とも若かったのだから」

 

 妖忌が足を止めた。

 そこには、十では利かない数の墓が有った。

 一つだけ、墓穴の空いた墓がある。

 

「無論、それでも付き従う者は居た。

 だが、どちらにしろお嬢様の力で死ぬか、恐れて逃げだすかのどちらかだった」

 

 妖忌は開いた墓穴に、背負っていた死体を放り込んだ。

 

「この墓穴は、彼自身が掘った物だ」

 

 妖忌の体から、白い半透明な何か……霊魂が出て来た。

 霊魂は妖忌に寄り添う。

 

「私は、半人半霊と言う奴だ。

 純粋な人では無い」

 

「結局、お嬢様の近くに居れるのは、人外だけだった。

 これまでは」

 

 妖忌は墓穴を埋めると、騎士に向き直った。

 

「頼みたい事が有る」

 

「お嬢様は、直に死ぬ。

 もうどうにもならないほど、弱っている」

 

「だから、お嬢様が死ぬまで、傍に居てやってくれないだろうか。

 貴殿だけが、お嬢様がその力を気にする事無く居られる、唯一の人間なのだ」

 

「生まれてから死ぬまで、ついぞ人の陰に死を見続けるなど、余りにも御可哀相でならぬのだ」

 

「どうか、どうかお頼み申す。

 お嬢様に、ほんの刹那でも死を忘れさせてやって下さらぬか。

 死など、生とは真逆の物。

 それが寄り添い続けていたお嬢様は、生と言う物を本当に感じた事など無いのだ」

 

「種族の壁も気にせず。

 死も気にせず。

 それで、ようやく普通の人らしくなれるはずなのだ。

 ほんの一刹那でも、人らしくお嬢様には生きて欲しいのだ」

 

「お頼み申す、お頼み申す」

 

 そう言い続けながら、妖忌は土下座した。

 

 騎士は、すぐに土下座を止めさせる。

 

 見上げた妖忌に、騎士は深く頷いた。

 

 妖忌は、頭を下げ直し、涙を流し続けた。

 

 あれほど毅然としていた妖忌が、小さく見えた。

 

 騎士は妖忌が泣き止むまで待ち、屋敷の奥へと消えるのを見届けてから、自らの寝室へと戻ろうとしていた。

 

 すると、屋敷の一角。

 

 一部屋だけが、灯りを灯している。

 

 軒先から軒下へと上がり、その部屋へと歩みを進めた。

 

 単に好奇心に依る物だが、こういうのはばれてしまっては面白くない。

 

 騎士は、眠る竜が彫り込まれている指輪を取り出し、付けた。

 

 この指輪は静かに眠る竜印の指輪と呼び、装備者の出す音を全て消す。

 

 そして、騎士はその部屋へと近づいて行った。

 

 その部屋は灯りが灯っている為、影となって映り込まない様に気を付けて聞き耳を立てる。

 

 すると、うら若い少女たちの声が聞こえてきた。

 

 幽々子と紫だ。

 

「……ごめんなさいね、あなたを出汁にするような事をして」

 

「いいのよ、私も嬉しかったわ……。

 呪いを気にしなくてもいい人が、居るとは思わなかった。

 紫から見て、彼はどうだったの?

 まだ彼を信頼しきれない?」

 

「まだ、解らないわ。

 彼が見た目通りの善人かどうかは、まだ判別がつかない。

 解ったのは彼の持つ物が凄い物ばかりってだけ」

 

「……違うわね。

 あなたは彼が善人かどうか、判別出来てないんじゃないわ。

 ただ、怖いだけ」

 

「怖い?

 妖怪が怖がっているだなんて、笑えない冗談ね」

 

「あなたは頭が良いもの。

 もう全部解ってるはずよ、彼が根からの善人である事も、ね。

 あなたが話していたように、あなたの夢を根本から覆そうだなんて考えちゃいないわ、彼は。

 そう、あなたが怖がっているのは、彼が、あなたの……」

 

「それ以上は言わないで!」

 

 紫の叫び声が響いた。

 しばしの間、二人は沈黙した。

 

「……ごめんなさい。

 私、もう寝るわ」

 

「そう。

 お休みなさい、紫」

 

 そして、人が立ち、歩いていく音が聞こえ、そして屋敷は沈黙を取り戻した。

 

 おもむろに立ち上がり、歩く音がする。

 

 そして障子が開き、幽々子が顔を出した。

 

 幽々子は騎士を見ると、驚いたような顔をしてから、微笑んだ。

 

「あら、盗み聞きとは、いけない人ね。

 何で音が出なかったのかしら?」

 

 返す言葉も無く、騎士が頭を掻いた。

 そして、指にはめた眠る竜印の指輪を見せる。

 

 それを興味深げに見ていた。

 

 騎士は、眠る竜印の指輪を外し、幽々子に渡した。

 

 盗み聞きしていたのは事実であり、この指輪は予備が有る。

 詫びという訳では無いが、どうにも決まりが悪かったのだ。

 

「あら、今日初めて会った人に指輪を贈るだなんて、大胆ね」

 

 そう言い、彼女はころころと笑いながら指輪を受け取った。

 

 そして、幽々子は軒下に腰を下ろし、その隣を手で叩く。

 

 座れ、という事らしい。

 

 騎士が腰を下ろしてから、幽々子は話し始めた。

 

「紫を許してあげてね、あなたに悪気が有った訳じゃないのだから。

 逆に、あなたを信じたくて疑ってたのよ?」

 

「あなたが余りにも善人で、得体の知れない力を持ってるから、疑わざるを得なかったんですって。

 私、善人過ぎて疑われる人なんて初めて見たわ」

 

 そしてまた、幽々子は笑う。

 最初に抱いた印象とは違い、彼女は良く笑う。

 あるいはこれが、妖忌の言っていた、普通の人としての幽々子なのだろうか。

 

 ひとしきり笑うと、幽々子はこちらをじっと見つめてきた。

 こちらの瞳を見ているらしい。

 

 どうにも落ち着かないひと時が過ぎ、幽々子は見つめるのを止め、口を開いた。

 

「あなたは、篝火のような人ね。

 暖かくて、あなたの周りに人は集まるけど、あなた自身を触ろうとする人は居ない。

 火傷してしまうもの」

 

「そう言う意味では、あなたと私は似ているわね。

 本当の意味で、温もりを感じた事は無い」

 

「だからかしらね」

 

「妖忌、あなたに何か頼み事をしたでしょう?」

 

「隠さなくてもいいわ。

 どうせ、人としての幸せとか、能力を気にしないでとか、そう言う事を言っていたんでしょう?

 解るわよ、同じ家に居たんだもの」

 

 ……幽々子は、聡明だった。

 聡明すぎる程、聡明だった。

 

 これほど察しがよく、物事を深く見れる子が、常に死を垣間見ていたら。

 

 そう思うと、彼女が生きている事が、奇跡のように思えてきた。

 

「妖忌が、あなたにどんな頼みごとをしたのかは、知らないけれど。

 でも、あなたはその頼みを聞く必要は無いわ」

 

「だって、私はもう十分ですもの。

 妖忌も居て、紫が居て。

 そして今日はあなたと幽香さんも居たわ」

 

「それに、私、凄く嬉しかったのよ。

 あなたがあの被り物を外して、私の料理を食べてくれたの。

 あの指輪とか、盾とかのお蔭だったのでしょうけど。

 これまで、作った料理を食べてくれる人も、一緒にいて死なない人も居なかったんだから」

 

 ああ、妖忌は数に入れないわよ?

 だってあの人は半人半霊だから、人間とは言えないわ。

 

 そういい、また彼女は笑った。

 だが、その瞳は深い感情を湛えていた。

 それは、深い悲しみのようであり、諦観のようにも見えた。

 どちらにしても、十分には見えなかった。

 

 幽々子の頭を撫でる。

 

 今度は、上手く撫でれているだろうか。

 

 不安だが、これしか慰める方法を思いつかない。

 

 幽々子は驚いた顔をしたが、すぐに顔をしかめた。

 

「……痛いわ。

 自分から撫でておいて下手なんじゃ、男として格好がつかないでしょう?」

 

「もっと優しく、そう、そう。

 頭を撫でるのに力は要らないわ。

 髪は女性の命なのだから、どれだけ丁寧に扱っても足りないのよ……」

 

 慰めるはずが、頭の撫で方を教授してもらう事となってしまった。

 何とも格好がつかないが、幽々子の瞳の中の陰りは消えていた。

 

 良かった、と思いながら撫で続けていたら、幽々子から寝息が聞こえる。

 

 眠ってしまったようだ。

 

 幽々子を抱え、部屋の中へと入れ、布団の中に眠らせる。

 

 彼女の寝顔を一瞥してから、自分の寝室へと騎士は歩く。

 

 そして、思う。

 

 幽々子は、夢の中でも死を忘れていられるのだろうか。

 

 そうであればいい、と願う。

 

 彼女は騎士と自分が似た物同士だと言っていたが、そこは違っていて欲しい。

 

 騎士は振り返り、幽々子の部屋の方を見る。

 

 そして、良い夢を、と言おうとした。

 

 しかし、やはり声は出ず、舌から熱い物が流れ出る。

 

 血だ。

 

 やはり言葉を話せないのは不便だ、と思いながら、自らの寝室へと足を向けた。

 

 そして、屋敷は今度こそ静まり返り、朝となった。

 

 夜の月が照っているのが嘘だったように、雨が降っていた。

 

 そして、あの桜の大樹の下で、幽々子は冷たくなっていた。

 

 短刀を片手に持ち、首から垂れる血が、白装束を染めている。

 

 彼女の左手の親指には、眠る竜印の指輪が嵌められていた。

 

 それを最初に見つけたのは、紫だった。

 

 彼女が白石を踏む音に気が付き、騎士も障子を開け、彼女の死を目撃した。

 

「あら、思っていたより早く枯れてしまったわ」

 

 そう言う声が聞こえたかと思うと、幽香が騎士の隣に立っていた。

 

 妖忌も騒ぎを聞きつけたのか出て来て、幽々子の亡骸を見る。

 

「お嬢様!?

 ……そうですか、あなたは自ら」

 

 騎士と妖忌が、幽々子の死体に近づこうとする。

 

「来ないで!」

 

 紫の声が木霊した。

 

 紫は幽々子の死体を抱えている。

 

「大丈夫、大丈夫よ。

 私の力なら、幽々子を生き返らせる事だって出来る。

 亡霊として蘇る事になるけど、もう人である事で寂しく感じたりもしなくなる。

 もう一人じゃなくなるから」

 

「ふざけるな!」

 

 妖忌の怒号が木霊した。

 

「幽々子様は、自ら命を絶ったのだ!

 幽々子様の選択を、愚弄するのか! 妖!」

 

「そんな選択をしなければならなかったのは、誰のせいよ!」

 

 そう叫び返す紫の声は、悲痛に歪んでいた。

 

「ずっと、一人だったのよ!

 幽々子は、ずっと!

 幽々子は知らないのよ!?

 この屋敷の外にある事全て!」

 

「独りぼっちで、屋敷の外すら見た事が無くて、それで死を選んだ!?

 そんなの、選んだなんて認めないわ!」

 

「貴様ァ!」

 

 妖忌が軒先へと躍り出た。

 

 騎士も、続こうとする。

 

 自分と違って、死は人にとっての安らぎなのだ。

 幽々子は、これまで気を張って生きてきたのだろう。

 もう、休ませてやるべきだ。

 

「藍!」

 

 紫がそう叫び、藍が隙間から出てくる。

 

 そして、幽香がその隣に立った。

 

「私も手伝うわ」

 

「……貴様の事は、紫様から話は聞いている。

 幽香、と言ったか。

 何故紫様の味方をする?」

 

「あなた、接ぎ木って知ってる?」

 

「は?」

 

「二つの植物を切った所で繋げて、一つの植物にするのよ。

 植物としては別物になるけど……」

 

 其処まで言うと、幽香は幽々子の死体と桜の大樹を見る。

 

「ちょうどよくなりそうね。

 まあ、接ぎ木を邪魔しようなんて無粋な真似はさせないってだけよ。

 あなたのご主人様は気に入らないままだから安心なさい」

 

「……そうか」

 

 そう言うと、藍は妖忌の方へ、幽香はこちらに向かってきた。

 

 幽々子の所へと向かうのを、邪魔してくる。

 

 騎士はロングソードを取り出し、幽香へ切りつける。

 

 それを、幽香は手に持った傘で受け止める。

 

 傘は、速度の載った直剣を当然の様に受け止めた。

 

 それどころか、全力で押しているにも拘らず、押し負けている。

 

 ロングソードの鍔が緩み、震えてきた。

 

 堪らず、騎士は一歩退く。

 

 その時、幽々子の死体から光が放たれた。

 

 そして、騎士は自らが間に合わなかった事を悟る。

 

 桜の大樹は、その身につけた桜の花びらを全て散らした。

 

 桜吹雪の中、光が収まってくる。

 

 幽々子が立っていた。

 

 その髪を桜の花びらのように桃色に染め。

 

 人ならざる者の気配を纏い。

 

 そして桜を散らせた大樹は、人間であった時の幽々子のように、幹の色が黒々としていた。

 

「ほら、やっぱりちょうど良いわ」

 

 そう言い、幽香は消えた。

 

 妖忌は項垂れたように膝を付いている。

 

 藍は仕事が終わったと見て、隙間に消えて行った。

 

 幽々子は騎士を見て、近づいてくる。

 

「初めまして、あなた誰?」

 

 騎士は、それを聞いて安心した。

 

 彼女は、死ねたのだ。

 

 目の前にいるのは、あの今にも死んでしまいそうな儚げな少女では無い。

 

 それによく似た、亡霊だ。

 

「……彼は、舌が無いから。

 言葉を話せないのよ」

 

「あら、あなたは誰?」

 

「私は……私は、八雲紫。

 あなたの、友達よ」

 

「あら、そうだったの。

 でもごめんなさい紫、今は私とてもお腹が空いて仕方がないの。

 台所に行かせて貰える?」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 そして、幽々子は去って行った。

 

 紫は騎士に近づいてくると、過ぎ去り、軒下に座る。

 

 ちょうど、昨日少女が座っていたように。

 

「……何で、止めようとしたの?」

 

「あなたが、私の…だったなら、止めないんじゃないの?

 だって、私がこれまで見てきた……というのは、友達を大切にする子を褒めていたのに」

 

 突然強風が吹き、紫の言っている事が幾つか聞えなかった。

 風に乗り、桜が舞う。

 

 紫もこちらに聞えていなかったのは解っているだろうが、言い直しはしなかった。

 

「やっぱり、あなたはそうじゃないのね。

 そう言う事だと、思う事にするわ。

 そうすれば、元通りだもの。

 いつもみたいにあなたに顔を出して、ちょっかいを出して難題を押し付ける妖怪。

 ……それで、いいのよ」

 

 そう言うと、紫は隙間を開け、消えて行った。

 

 妖忌がよろよろと立ち上がり、門の方へと歩いていく。

 

 その途中で、騎士に話しかけてきた。

 

「……私は、今日限りでここに……西行寺家に暇を告げる。

 私が使えていたのは、幽々子様だ。

 あの亡霊では無い」

 

「これから私は野に下り、普通に暮らす。

 生まれた子か孫を育てて、あの亡霊に仕えさせる事で、西行寺家への義理立てとする。

 そう、あの亡霊に伝えておいてくれ」

 

 そう言うと、妖忌は腰につけた刀を軒下に置き、門へと歩いて行った。

 

 騎士は妖忌の差していた二振りの刀を携え、妖忌の言っていた事を文字に表わし、幽々子に伝えると同時に刀を渡した。

 

 そして、桜の大樹の前に立つ。

 

 エスト瓶を取り出し、幹にかける。

 

 そして、口を開き、言葉を発しようとした。

 

 さよなら。

 

 やはり、言葉は出て来ず、血ばかりが流れ出る。

 

 桜の大樹は、血を吸う事は無い。

 

 そして、騎士もまた去って行った。

 

 桜の木の下には、少女が眠っている。

 

 覚める事の無い、眠りを。


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