ナーロッパ系お嬢様、狩人になる   作:興梠 すずむし

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筆が乗る乗るですわ!


緊急事態→令嬢保護

起き抜けに鼻先数センチだったから驚いたものの、この程度の魔物であれば打ち倒したことは幾度かありますわ。

火魔法でパパっと片付けてしまいましょう。……。

 

???

 

あ、あら?魔法が使えませんわ?どういうことかしら?いやいや、まぁ問題はございませんわ!

団員時代に元冒険者の方から剣術指南を受けておりますし、小型の剣なら大腿部に隠してますわ!このくらいのサイズ一匹程度ならば倒せましてよ!

剣を構えると、青い肉食竜は姿勢を低くして唸り声をあげましたわ。

 

「ギャア!ギャア!」

 

「ふふっ、その程度の威嚇に動じる(わたくし)では───えぇ〜…?」

 

一声鳴き声をあげる小さき竜に勝ち誇ったように笑いかけようとした私の周囲の茂みから同じ竜が、3、4、5…いや多いですわよ!!

まずいですわ。非常にまずいですわ。

じわりじわりと後ずさりを始め、いざ逃げに転じようとしたところで一際(ひときわ)大きな鼻息が私の頭を撫で付けました。

 

ここで最初に戻りますわ。

 

くるっと振り返ると、そこには私よりも大きく青い鱗はより鮮やかに、そして赤く存在感を発揮する立派なトサカ。

間違いなくこの群れの(おさ)であると直感しましたわ。

 

「アッ。ッスゥーーーーーーーー…ご、ご機嫌よぉ〜…?」

 

なんとはなしに挨拶した瞬間目を剥いて吠えかけられましたわ。

 

「ギァア!ギァアアッ!」

 

「アーーッゴメンナサイ!?」

 

謝っても何が変わるわけでもございませんが、とりあえず他に思いつくことも無かったので全力で頭を地面に叩き付けましたわ。様子を伺うことも出来ないのでここでとるべき行動では無かったのは確実ですわ。

わかってますわよパニックなんですのよ!!

 

よりにもよって社交界用の飾りの多いドレスで、スカート丈も長いこの服では俊敏(しゅんびん)に動くこともままなりません。

ばくばくと早打つ心臓をそのままに必死に頭を回転させますが何の策も浮かびませんわ!

 

不動の姿勢を取りながら、周りから鼻先でつつかれたりニオイを嗅がれたりしながら固まっていると、ガサガサと茂みを掻き分けて何かが近づいてくる音がしましたわ。

 

息遣いに、少しばかり呟くような声を聞く限り男性のようですわね。

 

「お、ドスランポス…と、なんだ…?」

 

何とは失礼ですわね。誰と言って欲しいものですわ。

 

「とりあえず狩猟開始、だな」

 

そこから男性と青い鱗の肉食竜、ランポス達との戦闘が始まりました。

 

男性を見て、周りのとは比較にならないほど猛々(たけだけ)しい鳴き声をあげた直後、私を囲んでいたランポス達が散開し、2匹程が男声を牽制(けんせい)、残りは茂みに隠れて周囲を回りつつ隙を伺っているようですわね。

 

牽制についたランポスの一匹が男声に飛びかかり、爪による一撃を加えようとしますが裂帛(れっぱく)の声を1つあげると男性は1歩動いて右手の小盾で横腹を殴り、時間差で飛びかかったもう1匹を剣で切り捨てました。

 

学院で見るような見栄え重視の剣術とは違い実戦の中で磨かれている、まだまだ未熟さを感じながらも生命の美しさを感じる剣技ですわ。思わず見惚れてしまうほど。

このまま全て倒してしまうのかと思っておりましたが、少しずつ劣勢となり稀に小さな攻撃を貰うようになってきましたわ。

大きな個体に集中力が分散されて、上手く対応出来ていないようですわね。

 

先ほどドスランポスと呼ばれていた大きな個体は、その姿を身をかがめて油断なく見ていますわ。

 

その目線は真っ直ぐに男性を向いております。

 

ドスランポスの注意が男性からこちらに向けば、まだ勝機はありますわッ!!

 

まずは長いスカートを膝上で裂き、動きやすくしますわ。それを左腕に巻き、最低限の防御とします。髪もバッサリと切り落とし、トレードマークだった巻き髪は側頭部にひと(ふさ)残る程度となりました。

 

取り落とした剣を拾い正面に構えるとドスランポスは顔を上げ、こちらを見据えます。

頭が回るらしく、脆弱な獲物の抵抗を嘲笑(あざわら)うようにカカカと喉を鳴らしましたわ。

 

「その小憎たらしい態度、改めさせて差し上げましてよッ!!」

 

□ □ □

 

「セァッ!」

 

飛びかかられるのを警戒し正面からではなく、少し横にズレてから上段から斬り降ろします。

振る時の力は最低限。速さを重視し、斬りつける時に一気に力を込める、ですわッ!!

その一撃はとても脅威には見なされず、避けることもないままに首元に吸い込まれるように近づき、衝撃。

剣はその鱗を数枚砕くだけに終わってしまいましたわ。

 

「その体躯(たいく)にしては固すぎではありませんこと…!?」

 

しかし、鱗を砕かれ、後ろに飛び退()いたドスランポスの目には警戒の色。注意を引くには十分だったようですわね。

 

「おいアンタ!無茶するな、死ぬぞ!」

 

あがる声に目を向けずに言葉を返しますわ。目を()らせば確実にあの世行きですからお許しくださいまし。

 

「どの道あなた1人でも限界だったでしょうに!やるだけやってやりますわよッ!」

凄まじい速さで駆け寄って来るドスランポスを見据え、タイミングを測ります。

(わたくし)の歩幅で十数歩先まで来るその瞬間、身を(たわ)めて飛びかかることを察しました。

 

ランポス達の飛びかかりを思い返し、先制しますわよ!

 

「ッアアァ!!」

 

飛びかかった姿勢のドスランポス、そのすぐ(わき)へ踏み出し、気合いを入れて下段から一気に首へ。

接触した瞬間手にかかる負荷に歯を食いしばり、何としても振り抜こうと更に力を込めて思い切りよく剣を押しました。

腕からブチブチと嫌な音を聞きながらも、公爵家根性で無理を押し通しましたわ。

 

剣は(なか)ばから折れ、ドスランポスの一際長い爪が横腹を(かす)めて少々深めの傷を付けられましたが、死んではいませんわ。

素早く振り返り、ドスランポスの様子を見ました。

 

「ウッソでございますわよね……?」

 

喉に少し切り傷ができ、少々血を流してはいるもののドスランポスは健在でしたわ。

 

舐めてかかっていた私は、自分の命に手をかける生き物である。それを理解したとこちらを睨みつける目が語っているかのようでした。

 

しばらくこちらを睨み、じっと見つめるドスランポス。

 

ここで引けば死ですわッ!

 

「さぁ、かかってくるといいですわッ!!」

 

いえ全然よくございませんけども。お願いどっか行ってくださいまし。

 

最大限気を張って睨み返し、どれだけの時間が経ったでしょう。緊張と疲労で手足はガクガクと震えていますし、折れた剣を握る手は汗にまみれていますわ。

 

やがてドスランポスは視線を切り、2度ほど声をあげてランポスを引かせると自らも茂みの中へ走り去っていきました。

 

周囲から生き物の気配が無くなると共に、一気に緊張が解けてへたりこんでしまいましたわ。

気を張っていたおかげで気が付かなかった腕と、爪で切られた痛みがジクジクと訴えかけてきます。

 

「いやぁ、ハッハッハ!どこのお姫さんかはわからないが頑張ったなぁ。ハンター向いてるんじゃないか?」

 

何やらゴソゴソと作業していた男性がヒラヒラと手を振りながらこちらに寄ってきました。

 

「ご機嫌よう。あなたは大丈夫なんですの?」

 

「おう、見ての通りだ」

 

笑う男性が、何やら緑色の液体の入った瓶を手渡してきました。

 

「これは?」

 

「え、回復薬だが?」

 

「…ポーションみたいなものかしら」

 

「……ポ、え、何?」

 

ポーションと聞いた男性は困惑したように聞き返してきますがどうやら聞き覚えのない様子。

 

とりあえず回復薬という名のとおり回復できるようなのでありがたく頂くことにしますわ。

飲んでみると爽やかな味が口の中に広がり、少々蒸し暑いこの森の中でも飲みやすいものでしたわ。

 

「ごちそうさまでした。ありがとうございますわ」

 

「はいよ」

 

飲み終わった瓶を手渡してお礼を言いました。受け取った瓶をポーチの中へしまい、男性が話し始めます。

 

「俺はオルヴァ。新米ハンターだ。よろしく」

 

(わたくし)は…、シアですわ。よろしく」

 

出会ったばかりの男性に本名を名乗るべきか迷い、折衷案(せっちゅうあん)であだ名を名乗ることにしましたわ。

その後、この場所は「森丘」と呼ばれていること、雪に覆われた村、ポッケ村を拠点に先程のような魔物、モンスターを狩って生活をしていることなどを聞きましたわ。

 

危機から脱し、落ち着いて考えられる今、最も大事なことを思い出しましたわ!!

 

「あ、あの!白金の髪に、綺麗な蒼色の目をした私より少し小さめな女の子は見ませんでした!?」

 

そう、目を覚ましてからフィオを見ていないのですわ!

 

「妹さんか?」

 

「そのようなものですわ!」

 

「すまん、見てない」

 

あぁ、なんということでしょう…。

私と同じようにこのどことも知れない場所に放り出されていたら、ランポス達に襲われていたらどうしましょう。きっと不安で震えているに違いありませんわ!?

 

「すまんが、今日はもう帰らないとな。お前さんをポッケ村まで送らにゃならん」

 

「ですが!」

 

「もしかしたらドスランポスが戻ってくるかもしれないし、村の誰かがその子を見つけて保護してるかもしれない。そうなったらここで無理して探して死んでしまっては意味が無いだろう」

 

「……そう、ですわね」

 

一縷(いちる)の望みを胸に、私はポッケ村へと連れられて行くのでした。




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