ここはどこなんだろう。わたし、諸事情でロイゼン姓を
肝心のお姉様の姿はここにはなく鮮やかに色付いた葉が、流れる水に舞い散るのが見えるばかり。
あぁ、お姉様。優しく麗しい愛しのお姉様。貴女は一体どこに行ってしまわれたのですか…。
離れ離れになってしまったお姉様に思いを馳せていると、何やらパチリパチリと空気の弾ける音が。これは…。
音の正体を察して慌てて水場から上がり、何度か地面を転がりながらも何とか乾いた地面へたどり着く。
バキバキと枝葉を折りながら何かがこちらへ来る音を聞き、周囲の葉を掻き集めて申し訳程度にカモフラージュして隠れる。
息を殺してじっと待っていると、現れたのは発光する羽虫を従えた美しい碧鱗を持ち、見るからに硬そうな黄色い甲殻を
やっぱりあれが音の正体だった。雷魔法を見た時と同じ音がしたんだよね…。気づけてよかった。感電したら溜まったものじゃないし。
魔物は幾度か鼻を鳴らし、わたしと反対方向に顔を向けた。
その先にはわたしと同程度の大きさの丸々とした鳥らしき生き物が。
ちょっとかわいいかも。
そう思ったのも束の間、ズンッと地響き1つを残して雷を纏う魔物が掻き消えた。
理解が追いつく前に轟音と共に先程の鳥に前脚を乗せた魔物の姿があった。
鳥の首から先はぺしゃんこに押し潰されている。
「おゎはあ…」
と気の抜けた声が漏れてしまったが、そんなことに気を使うほどの余裕は無かった。でも今の声で気づかれなかったことを心底喜んでるわたしがいる…!
食べるのに夢中な今なら動いてもバレないかな…?いや、でも鱗があっても見た目狼に近しいし危ないかな…。
よし、どっか行くの待とう!
そう決意したわたしはひたすらじっと待つことにした。魔物からすればそう量もない鳥は数分と経たず胃に消えていった。
そろそろどこかに行くだろうと考えるが目の届く距離にいる今動くのはさすがに怖いから動く心の準備だけしとこう。うん。
鳥の残骸から顔を上げた魔物が再度鼻を鳴らし始めるのが見えた。鳥さんもう居ないみたいだから他のところ探しにいっておいで?
うん?目が合った?気のせいだよね?わたし今葉っぱの山の中だよ?ゆっくりこっち来てるのも気のせいだよね?完全にわたしをロックオンしてるのって気のせいだよね?ね??
目の前で止まる太く逞しい、野性味溢れる碧鱗の前脚。片脚が上がった気配がした。
「退避ぃーーーーーーーーっ!!!」
転がり出てわたしが見たのは前脚を打ちつけられて爆発四散した枯葉達。
わぁ(白目)
まずいこれは軽く死ねるやつだ。
わたしは狼の遠吠えのような、しかし比較にならないほどの重圧を放つ咆哮を背に脇目も振らずに逃げ出した。
□ □ □
「いやぁーーーーーっ!?助けて神様お姉様ぁーーーーーーっ!!」
「アオォォオオオオオオオンッ!!!」
「ひゃわーーーーーーーーーーーッ!?」
反撃に移ろうとして魔法が一切使えないことに気付いてただただ逃げ続けているわたしです。魔法が使えないわたしとかただの野生児なんですけどどうしろと?
今ほど平民として生活してて走り回ってた自分に感謝することもないと思う。間違いない。
しばらく走ってたどり着いたのは廃屋が数軒残った広い場所だった。
廃屋の床下に滑り込み、急場を凌ぐ。
廃屋は一瞬でバラバラにされたけど、土煙やホコリで視界が悪くなった。これなら逃げられるかもしれない!
後ろでやたらめったらにバチバチと雷を使って暴れているけれど気を取られてたら殺られる!
小道を見つけてそこへ駆け出す。駆け出した場所から残り半分ほどの距離まで来た時、聞き慣れない音がしたのでもう1つの廃屋に隠れる。
甲高い音を発しながら激しく光を
そして数瞬の静寂の後、視界が白く染まり耳が痛みを発して麻痺してしまうほどの轟音。
目を開けるとそこには周囲に羽虫が煌々と光を放って乱舞していた。やや光が収まるとその中心には目元や腕に光を走らせ、背の甲殻を刺々しく突き出し、
あれは人類が勝てる類のものなのだろうか。もはや土地神のような存在なのではないだろうか。そんな考えが頭を過ぎる。
神々しさすら感じるそれはやがてわたしを完全に見失い、どこかへ悠然と去っていった。
明滅する視界と大きすぎる音を聞いてフラつく体で、何とか小道の中へ入る。
そこは広くはないけど数段の段差から穏やかに水が流れ、あの丸々とした鳥がのんびりと水を飲みつつ羽を休めている場所だった。
ふらふらと近寄りそっと触れると、柔らかな手触りが安心感を与えてくれた。チラッとこちらを見た丸い鳥は弱りきったわたしが脅威ではないと判断したのかはわからないがされるがままとなることにしたようだ。
顔を埋めると、暖かい太陽の香りがした。
「……お姉様を思い出すなぁ」
お姉様の柔らかな胸からも暖かい、陽だまりのような香りがするのだ。わたしはあそこに顔を埋めて、優しげに微笑むお姉様の顔を覗き込むのが大好きだ。
「お姉様…!」
今、その人は隣にいない。優しく笑って、頭を撫でてくれる人はいないのだ。
────そうだ、お姉様。お姉様も同じように飛ばされたなら、魔法が使えないはず。そうしたら生まれも育ちも高貴なお姉様はとても危険だ。
「わたしが、助けなきゃ…!」
丸い鳥に顔を埋めながらそう決意した。
「……何してんの、キミ」
声をかけられて顔を上げると、そこには笠を被った黒い髪の…男性?女性?がいた。
こちらを見て
「えっと、どちら様ですか?」
「……それこっちが聞きたいんだけど」
ムスッとした顔に思わず笑みが零れる。人と話しているという現実感と安心感が込み上げてきて仕方ない。
「ふふっ、ごめんなさい。わたしはフィオルネ。よろしく」
「……ふぅん。カズネ。よろしく」
握手を求めると握ってくれた。存外素直な性格の持ち主みたい。
キャンプに案内され、焚き火を囲みながら2人で話し合った。
気付けば水辺に立っていたこと、丸い鳥が可愛らしかったこと、碧鱗の狼に追われていたことを話した。
「うげっ、アイツいるの?今の村に向かってる最中に1度襲われてるんだよね…。あ〜、クソ。帰って村長に伝えるか…」
「あれが何か知ってるの?」
「……あぁ、アレね。『雷狼竜』ジンオウガっていうらしいよ。詳しくはボクもわかんないけど。村長が言ってた。ほんとはこの辺りじゃそれほど見かけないやつなんだってさ」
「なるほど……」
そんな珍しい生き物がなぜここに来ているのかは未だに分かっていないみたいだ。
「……まぁ、帰るついでといやぁ何だけど、一緒に来る?」
「あ、うん。ぜひ」
「ん」
小さく返事をするとスタスタと歩いて行ってしまったので慌てて追いかける。
少し進んだところで、ふとカズネが振り返ってこちらを見た。
「どうしたの?」
「……忘れてた。村長に言われてんだよね。新しく来る人にはちゃんと言えって」
頭をカリカリと掻きながら性にあわないんだよなぁ、と呟き一言。
「……ユクモ村へようこそ」
「……ありがとう」
気恥ずかしそうに再度歩き始めたカズネの後ろを歩きながら、わたしはジンオウガを打ち倒せるくらいには強くなり、お姉様を助けられるようになろう、と誓った。
「待っていてくださいね、お姉様…!」
久しぶり書くと楽しいね…。
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