憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
ご指摘いただいたので、タグに【屑】と【狂人】を追加してみました。何度でも言いますがドクターは外道の屑なのでガンガン虐殺とかするし人体実験とか好みます。その点をご理解ください。
また、その部分に関してご意見を募集していますので活動報告をご覧いただければ幸いです。
ふぅむ…………。
そういや軽く流しちゃったけど、あの少年――タツミが帝都に来ていたって事は、既に原作第一話が始まっているって事ね。
……エスデスは名前を聞くのを忘れていたし、何なら明日頃には顔も忘れているだろうから、タツミにとっては不幸中の幸いだと思うわ。
まあ薄幸系主人公が帝都に来たって事は、帝歴1024年が原作開始の年って事で確定していいんでしょう。
……ただ、アタシの原作知識は10巻の途中までなのよ。
だからワイルドハントがクズの世界選手権代表レベルのゴミクズ共なのは知っているけど、連中の末路がどんな物だったのかは分からないし。
……ていうか連中の大部分は既に処刑してゾンビ兵に変えてあるけどね。
他にも『至高の帝具』とやらが何なのかとか、そういうクライマックスの部分は肝心な情報が分からないわ。
……いや、【護国機神】なのか【帝都守護】なのかが良く分からないだけで、どっちも同じ巨大ロボらしいってのは知ってるケドも。
あぁ、こういう時ってまとめサイトばっか見てたのが悔やまれるわねぇ……。
ラバックが片タマ潰されたのとかは知ってるのよ。
そういう外部からの断片的な情報をチラ見してたから、半端な情報が中途半端に残っているワケで……。
むぅ……まあ、いざとなれば深淵の邪知を得る事でどうにでもなるケド。
ま、落伍者の事はもう放っておきましょう。
ソレよりも、今の内に手を出せば変えられるストーリーを変えてみたいわね。
――取り敢えずは、帝都警備隊の指揮権を預からせて貰おうかしら。
イエヤスとサヨ。
タツミと同郷の少年少女で、原作では悪徳貴族に騙されて凌辱の末に殺された、『帝都の闇の犠牲者』よ。
その悪徳貴族は見るからに田舎者な地方から上京した身元不明者を言葉巧みに騙して自宅に連れ込み、睡眠薬で眠らせる等してそのまま虐殺コースって事を常習していたそうね。
原作ではイエヤス少年は薬漬けにされて末期のルボラ病っていう病気に罹患させられて病死。
サヨ少女は「田舎者の癖にサラサラの長髪が生意気だ」とかいう手前勝手な理屈で念入りに嬲られて殺されていたわ。
正直言って、この手の貴族って数えきれない程に存在するから、今迄に駆除しきれていないのが実情よ。
そもそもアタシの手勢は【征南将軍】というアタシの役職上、外向きの仕事が多いのよね。
今迄は多少のてこ入れを施した帝都警備隊(オーガ処刑済み)とかに任せていたけど、そろそろ本格的な綱紀粛正を執り行うべきかしら。
ま、何はともあれ悪徳貴族の粛清が先ね。
折角そいつらの存在について思い出したんだし、どうせならパーフェクト且つスタイリッシュに仕事を熟してみせるわ。
目星はもうついているもの。“目星”の能力値が高いのよ、アタシ。
原作知識ではその貴族についての情報は「一人娘がアリア」って名前で、「帝都近郊に邸宅がある」ってくらいしか情報はナイわよ?
でも、アタシは此の世界に根を張って生きる一個の人間なの。
そして何の因果か貴族の端くれもやっているワケ。
其処迄くれば、後は生の情報から探れば一発よ。
貴族の社交界での情報を洗ってみると、どうでもいいから忘れていた記憶をサルベージしたら思い出せたわ。
記憶の管理も魔術で楽ちんなのよね。
アリアって一人娘がいる貴族様と、そいつらの邸宅が何処かってのは確定情報で思い出せるわよ。
それで、アリア嬢の事から連鎖的に情報を集めて、昼前には証拠が出そろったわ。
気配遮断からの密偵行為は反則級よねぇ。
実働部隊も指揮権の関係で警備隊を加えた、大部分がウチのフリーハンドで構成された通称【山狗部隊】を招集。
此の山狗部隊は内部監査や粛清の為に動く強制監査部隊ね。
以前ランに預けていた部隊の本隊で、ランの復讐が完遂された事でアタシの手駒に戻った子達よ。
職権から実効権限まで全てを縦割りで一括にして揃えたから、独立した権限で自由に監査が出来るフットワークの軽い部隊になっているわ。
今回のように特定の権限が強い、(例えば帝都だと警備隊のような)、そういう部隊から出向した人間を形式的に迎え入れて実働部隊として運用する形態も実現してあるのよ。
ここら辺は縦割りに権力を一本化しつつも、尚且つ自由度の高さと即応性を高めたかったから拘った部分ね。
「――ドクター、突入準備整いました」
副官のランが最終確認を行う。
よしよし、これなら全部終わらせた後にランチするだけの時間はあるわね。
「よろしい――征くぞ諸君」
倉庫内に入って真っ先に感じたのは、噎せ返るような濃密な血の臭いだった。
戦場でもこれほどに濃い臭いはしない。
此れは、意図的に大量出血が為された場合に起きやすい状況だ。
つまり、甚振る事を目的に、態と出血させる場合。
目の前には、凄惨な拷問の物的証拠が揃っている。
天井の梁から吊るされた死体の数々には四肢や眼球等の欠損や全身に走る傷痕等の長時間嬲られた形跡が見て取れる。
そして広い倉庫内には無数の拷問器具が血を滴らせて鎮座している。
コレが自宅の敷地内にあるだけで、一発で有罪になる事は間違い無いだろう。
山狗部隊を率いるのは一度や二度ではないが、こうした悪趣味な貴族を粛清する時にはこういった胸糞の悪くなる光景に出会う事も少なくない。
……しかし、誰かがやらねば此の帝国の闇をのさばらせてしまう。
間に合わなかった事に心の中で謝罪しながら、手遅れになってしまった方達の死体を外に運ぶよう指示する。
調査によれば、此の犠牲者たちは薬漬けにされて複数の病毒に侵されて殺されたらしい。
ならばその死体をそのまま処理する事は出来ない。
適切な処置を施し、汚染薬品が拡散しないように処理しなくてはならない。
……複雑だが、焼却戦隊の本領発揮というべき所だろう。
死体は焼かねばならない。
そうする事が、一番他への犠牲が少なく済むのだから。
「――ボルス少佐! 生存者を複数名発見しました!」
「っ! 本当かい?」
「ハッ! 支給された【
「そうか、よかった……」
生存者がいたか……。
エリクシールでは心の傷までは治せないが、少なくとも末期のルボラ病であっても完治は可能だ。
四肢の欠損レベルになると流石に別の秘薬を処方しないといけないけど、現場ではこれ以上の事は出来ない、か。
「通信兵! 将軍へ連絡! 生存者複数名、収容求、以上!」
「了解!!」
ふむふむふむ。
やっぱり一日スケジュール調整するだけでも大分違うようね。
アタシの目論見通り、無事にイエヤスとサヨを手中に収めたわ。
ついでに複数名のモブも収容したようだけど。
まあ、成功すれば僥倖くらいの意図だったけど、ちゃんと無事に回収出来てよかったわね。
イエヤスは末期のルボラ病だったけど、其処はアタシお手製の秘薬で完治。
サヨは右足を失って出血多量の半死半生だったけど、適切な処置で延命して此方も秘薬で治療は完了。
他にもモブたちがそれぞれ致命傷で放置されていたので、此方も治療を施しアタシの経営している病院に収容したわ。
ちなみにサヨちゃんには失った右足の代わりに【精霊の脚】を
ファルに施した施術と同じで、空間を踏みしめる事で飛行が可能な代物。
左脚は健常だったけど、【同化の秘法】で時間をかけるといずれは両脚が精霊化するようにしておいたわよ。
これくらいはサービスよサービス。
……まあ、此れでタツミが何処に居てナイトレイドにどう関わるのかが不明瞭になっちゃったんだけどね。
原作だとアリアお嬢様に拾われたタツミは何も知らずに呑気にお嬢様の護衛を頑張っていたけど、翌日の深夜にナイトレイドの夜襲に遭遇。
其処で紆余曲折の末にアリア達の所業を知り、自らの手で彼女を誅殺。
そしてその思い切りの良さ(非情さとも言える)を気に入ったレオーネに半ば強引な形でナイトレイドへと誘われるんだけど……。
だけども、見ての通りアリア家は潰したし、今頃タツミがどうしてるかは分からないけど此の家に関わる形でナイトレイドと遭遇する道は途絶えたわ。
つまり、原作主人公というジョーカーの行方が分からなくなったって事で、それはかなりのディスアドバンテージになっちゃうわね。
そうまでして此の二人を助ける意味はあるかと聞かれたら……そりゃあそんなモン無いケド。
……でもまあ、この二人を上手い事すればタツミに対してのワイルドカード、スペードのエースになり得るかもだし。
抑々アタシのモットーとして、『やれるべき事は今やる』、ってのがあるの。
だから折角原作キャラについて思い出せたワケだから、首尾よく彼らを救出してあげたのよ。
言ってしまえば其処はアタシの趣味かしら。
趣味の為なんだから、多少は横道に逸れるのもシカタナイね。
最悪は原作主人公サマだろうが途中退場も止む無しよ。
という事で此の二人をウチに迎え入れるようにしたいわね。
こっちは無償で死病死傷の治療をしてあげてるんだし、その代わりにウチで働くようにさせるのも有りでしょ。
最善は特務軍第一軍に配属させる事だけど、最悪は系列店舗や病院とかで下働きでも問題は無いのよ?
……でも、エリクシールとかってタダじゃあないから。
そりゃあねぇ?
末期のルボラ病の即時完治や欠損した四肢を再生させるとか、そんな奇跡に等しい御業を実現可能なモンが実用化されていた場合のお値段って如何程かって話よ。
当然だけど他所の一兵卒程度の生涯賃金では賄えないわよ?
……悪質な人身売買と言われても仕方ないけど、こういう経緯で一命を取り留めた連中ってほぼ100%そのままウチの関連施設に就職が決定するわ。
一応ウチの関連施設での平均賃金なら定年まで勤めあげたら完済出来る程度には給与水準が高いんだもの。
まあ、実際に返済を要求したら色々と差し障りがあるから、「こういう非常に高価で希少な秘薬で貴方を治療しました」という事実を伝えてから……後は自己判断でお願いしているわね。
当然だけど此方からはびた一文も要求しないわよ。
淡々と「治療費を要求したとすれば如何程の料金が発生していたのか」を説明して、「君たちは出稼ぎの為に上京したんだろう? 一応ウチの方で職を紹介出来るけど、どうかな?」ってな感じで締めるだけね。
勿論錬金術師系オカマ男子のアタシに金銭の存在なんて何の意味も無い代物なんで、あくまでも良心に訴えかけて判断を委ねているだけ。
――だから、アタシは悪くないわ。
「――って事でお邪魔するわよぉ」
「「……はい?」」
やーやーやー。何なのその鳩がアルマゲドンを食ったような顔は。
折角御多忙な院長先生がアナタたちの健診に来て上げたってのに。
アナタたちのような地方から来た身元不明者相手にこうやって手厚く治療を施してあげるだなんて、ソレがどれだけ恵まれた話か理解してないのね。
まあ色々とお話して理解させてあげるケド。
「……どちら様でしょう?」
サヨちゃんがおずおずと尋ねてきたわね。
まあ地方出身者なら知らなくても無理はないわ。
此れが都会人だったらアタシの存在を知らないとか、ソレはもうソレだけでモグリ扱いされるんだけども。
「じょーだんじゃなーいわよーぅ! アタシが院長先生だって知らないのアナタ?」
「ふぇっ!? す、すみません……」
会話の主導権を握る為にも、此処は強気でいくべきよね。
決してイジメ甲斐のある娘だ、なんて思っちゃいないわよ。
縮こまった少女は尊いわぁ。
「お、オイオイ院長? さんよ。それで一体何の用なんです?」
イエヤス君は何やら野良犬のような好戦的な顔で噛みついてきたわね。
アレだけの目に遭っても心が折れていないってのは、ソレはポイント高いわよ。
「まーまーまー、そんなツンケンしなさんな。今日は
エリクシールを使った以上は心配ないんだけど、使われた方にしてみればよく分からない薬物だもの。
特にサヨちゃんにしてみれば、失った筈の脚が再生しているだなんて埒外の出来事が起きているのよ。
「経過観察が必要」だってのは、寧ろ患者側を安心させる為のポーズとしてやっているワケね。
まあソレはさておき説得ロールでダイスを振るわよ。
「単刀直入に聞いちゃうケド。――アナタたち、治療費払える?」
「「ゔっ!?」」
まあ払えるワケ無いわよね。
他のモブたちは基本的に秘薬を使うまでも無い人が殆どで、薬漬けで致命傷だった数人にエリクシールよりも低ランクの秘薬を使ったくらいよ。
ただ、此の二人は最上級秘薬のエリクシールを使ったもの。
ちょっと地方から出稼ぎにやって来た少年少女には荷が重いわよ。
一応全額負担を要求する訳じゃなくて、あくまでも一般的な治療費レベルで収めるケド……それでも入院が必要なレベルの治療費って無一文の彼らには弁済能力が無いのよね。
「……あのクソ貴族が言っていた事が本当なら、オレは死病のルボラ病に侵されていた筈で、ソレがすっかりキレイに完治しているんだ。……その治療費かぁ……ちょっと払える気がしねぇ…………です」
「……私も、切り落とされた筈の脚が……再生治療でしたか? 元通りになっていますし……すみません、そんな高額医療にお支払いするお金はありません…………」
しょぼくれた顔でそう述懐するお二人。
何処かシワシワピカチュウを彷彿とさせる渋面ね。
当然その程度は想定しているので、此方からも選択肢をくれてやる。
……あくまでも、当人が自らの意思で選んだ、という状況が大切なの。
人生において大切な選択を行った時に、自分の意思で行う事で、(ソレが実際には他者からの恣意によるものだとしても)、そうする事で自らを納得させる事が出来るのだから。
『「納得」は全てに優先される』と何処かの鉄球使いも言っていたわ。
得てして人間という生き物は、ソレが傍目に見て非常に理不尽な決定であったとしても、自身を納得させる事ができれば許容してしまうという哀しい習性を持っているのよ。
社畜が自らの
神秘の欠片も持ち合わせない一般人の手によって、人間性すらも売り渡し、隷属する事すらよしとさせる事が可能なのよ?
偏に人間心理を上手く突く事がそうさせるのだけれど、唯の話術ですら
なら、其処に神秘を交えれば、後は簡単ね。
――という感じで、アタシからの言い包めロールによって二人はアタシの部下となる事になったわ。
やったぜ。
ちなみに他のモブ共もウチに就職が決定しているわ。
こいつらは特筆すべき点も無いモブたちだから、普通に軍属もあれば商店に配属もあるし、あるいは病院で看護師目指すとか色々ね。
ただ、イエヤスとサヨの二人には、当面は経過観察という名のニート生活を満喫してもらうわね。
ぶっちゃけ体調に関しては快癒しているんだけど、二人とも自分が死にかけた事を痛いほどに理解しているから。
そんな状況が薬一つで治るとは思えないのが常人のサガよ。
故に病室で心穏やかに過ごして貰うんだけど……コレも一種の心療治療とも言えるかもしれないわね。
ま、束の間の休息って感じで心ゆくまで休んで頂戴な。
どの道今後は多忙を極める事になるんだし。
無駄飯喰らいは断じて許さないから、アタシ。
というわけでサヨとイエヤスが帝国側に入りました。
タツミと戦う事になるかもしれませんね(暗黒微笑)