憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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いつの間にか味方に居た人その2。
ダイダラと違ってセリフすらありませんが。


File15:藁のように死ね

 ――報告。此方第一分隊。1号標的と遭遇。

 ――了承。第一分隊はそのまま無理せず1号を足止めせよ。

 ――了解。此れより遅滞戦闘を実行。

 ――了承。通信終了。

 ――報告。此方第二分隊。1号を確認しました。

 ――了承。第二分隊は退路を塞いで支援せよ。

 ――了解。第二分隊配置完了。神器の使用許可求。

 ――了承。奥の手は見せずにハラスメント攻撃に終始せよ。

 ――了解。第二分隊総員神器解放。此れより妨害に移ります。

 ――了承。交信終了。

 

 ――交信。准尉の部隊状況を送れ。

 ――報告。此方遊撃小隊。各員上空に配置完了。

 ――了承。小官の合図で封鎖結界の術式を起動せよ。

 ――了解。術式及び要石起動用意完了。

 ――了承。……結界起動せよ。そのまま結界内部に捕縛を。

 ――了解。結界起動。小隊員は結界の維持に注力。

 ――了承。准尉は合図に合わせて突撃準備。

 ――了解。此れより突入に備えます。

 ――了承。交信終了。

 

 

 

 ほうほうほう。

 練兵期間が一カ月程度とは思えない程に仕上がってるわねぇ。

 戦闘はまだ本格化していないものの、部隊指揮に関しては十二分に合格点をあげられるわよ。

 部下達も歴戦の改造兵達だとはいえ、帝具持ち相手に一歩も引かないのは武器の性能に頼っただけではないって事が証明されたわね。

 うんうん、此れならどんどんステップアップしてよさそうよ。

 

 

 


 

 

 

 さて、ザンクを贄にすることが決まったワケだけど、奴を捕捉するのは結構簡単だったわ。

 ウチには広範囲の索敵が可能な人員と神器が揃っているから、ある程度の情報さえ出揃っていたら後はサクッと見つけられたもの。

 

 索敵に動員されたのはニャウ軍楽少佐率いる魔術軍楽隊。

 

 

 ニャウに与えたのは水の神器【“治者楽水”メロディオブライフ】。

 此れは彼が嘗て持っていた笛型の帝具【“軍楽夢想”スクリーム】と同系統の神器で、形状はフルートタイプの魔笛。

 此の神器は演奏する事で様々な追加効果が得られる代物よ。

 道具作成系の【ホイッスルに魔力を付与する】エンチャントの系列で製造された魔楽器で、適切な手順で演奏するだけで音の範囲内部に居る全ての生物に効果を発揮するわ。

 材質としてとある異界の神話生物の骨を削り出して、其処に輝くトラペゾヘドロンを始めとした各種魔石を精製して作った塗料で着色した物。

 超級の魔術媒体として作用して、魔術の素養が無い人間でも魔術音楽が奏でられる優れものよ。

 

 演奏によって強化や賦活や治癒等のバフの他に、重圧や委縮や停止等のデバフも与えられる充実したサポート能力を完備。

 そして特別な魔術音楽の演奏を行う事で結界や封鎖領域や人払い等の【開位】相当の魔術が行使可能。

 開位ともなれば、使い魔の行使では中級相当だし、神話生物だと深き者と接触可能なレベルね。

 

 ちなみに此の【階位】という魔術の神秘段階について軽く説明。

 魔術はそれぞれ【王冠】、【色位】、【典位】、【祭位】、【開位】、【長子】、【末子】の七段階の階位に別れているの。某型月では王冠が別称で定義されているけどね。

 その階位ごとに出来る事の上限が定められており、その階梯を超える為にはより深い狂気へと身を落とす事が求められるわ。

 その中で開位指定は下から三番目。

 魔術師としては中堅どころだけど、それでも数百年は神秘を継承していかないと至れない高みではあるわね。

 ソレを何の積み重ねも無しに一代で行使可能にしてあるんだから、相当にすごい事なのよ。

 

 ちなみにセリューの神将器の拾番は此れの二段階上位である【典位】の魔術が行使可能な魔術気鳴楽器になっているわ。

 ……ああ見えてあの娘ってお嬢様だから、楽器全般の演奏をたしなむのよ。

 

 

 

 そんな魔笛を筆頭に魔術楽器で武装した軍楽隊を動員して行ったのは、都市内部での()()()よ。山は山でも人山ね。

 特定の人間だけを無意識のうちに侵入出来なくする【人払い】の魔術演奏を一般人向けに弱い出力で発動。

 “敵意”や“害意”を持った人間だけを素通りさせるように帝都の広範囲を限定封鎖したら、後は人殺し大好きマンのザンクがすぐに釣れるって寸法よ。

 

 夜な夜な獲物を求めて彷徨う快楽殺人鬼野郎ザンク。

 そんな精神的ハンディ具合に定評のあるゴミだったけど、のこのこと作戦領域まで誘導されたら部隊を差し向けて半包囲。

 敢えて逃げ道を残しながら追い立てて、封鎖領域まで追い込んだら結界で閉じ込める。

 

 ――という具合で、此処までスムーズに作戦行動を指揮したのは、任官から一カ月以内で此れほどの実力を手に入れた二人よ。

 ウチの教導体制が高度に整っているのもあるけど、彼らの資質も相応に優れているのが事実。

 初の対帝具戦だったけど、それでもそつなく熟した姿は大器を偲ばせるわね。

 

 ま、遠足は家に帰るまで、って言うしね。

 戦闘も帰還するまで、よ。

 それじゃあ一発かましてごらんなさい。

 

 

 

 ――此れは尋常の果し合いではない。

 獲物を仕留めるだけの、唯の狩り。

 何も考えず、何も考えさせずに殺せ。

 奴は怯えながらでも、震えながらでもない。

 唯々無為に、藁のように死ぬのだ。

 

 

 


 

 

 

 ザンクを結界内部に閉じ込める事に成功。

 他の人員も再配置につき、遅滞戦闘を行っていた部隊も転移で脱出した。

 ……つまり、今此処にはザンクと私達二人しかいない。

 此の場は既にお互いが生死を賭けて争う死闘の会場となっている。

 まるでコロシアムで相対する剣闘士達のような状況ね。

 

「――イエヤス、いけるかしら?」

「――おう、任せとけ」

 

 傍らで空に立つ同郷の少年に問いかけると、自信に満ちた返答が返ってきた。

 昔は聊か自身を過剰に強く見せる振る舞いがあったものだけど、今では名実の伴った実力を持ち合わせるようになっている。

 それに、一緒に鍛錬して呑んだ血反吐と砂泥の味は、決して忘れられるものではないわ。

 其の経験が私にも自信となって確りと身に付いており、イエヤスに対する信頼にもなっている。

 

「――では、作戦開始!」

「――応!」

 

 私の宣言により、矢のように身を引き絞ったイエヤスが高空から自身を弾丸として射出する。

 そして何が起きたかも理解せずに結界から脱出しようと足掻いていたザンク目掛けて突進。

 高度100mからの空襲は果たして――。

 

「――ガァッ!? 何だと!?」

「チィッ!!」

 

 解放前のソードルーツで斬攪を図ったイエヤスの突入は、直前に風切り音で気付かれたらしく回避された。

 それでも回避しきる寸前に空を蹴って急制動をかけ、振り下ろしの一撃を加えたのは流石といったところ。

 深くはないが、決して浅くもない裂傷がザンクの肩口から脇腹にかけて刻まれる。

 

「く、クカカカカ!! 空中から登場とは恐れ入るが、という事はキサマも帝具持ちか!!」

「……」

 

 決して軽くはない傷を負いながらも狂った喜悦を滲ませるザンク。

 狂人らしく理解出来ない享楽を感じているようで、負傷をそのままに話しかけてきました。

 しかし、此方はそんな舌戦に付き合ってやる道理はありません。

 油断なく無言のまま青眼で刀を構えるイエヤスに、ザンクは挑発の心算かベラベラと話しかけてくる。

 

「しかし、空を飛ぶ帝具と此の結界とは関連が薄い……さしずめもう一人お仲間がいるとみたが……どうかね?」

 

 洞視、遠視、透視、未来視、そして幻視。

 此の五つの能力を使って相手の動きを完璧に把握して戦うのがコイツのスタイル。

 恐らくは此の助長的な会話も心の隙を誘発させる為の代物。

 ならば、ますます乗るワケにはいかない。

 

「哀しいねぇ、俺はこんなに話しかけてるのに無視する、なん、て……いや、待て、オカシイぞ? 貴様……何故()()()()()()()()()ッ!?」

 

 此方の心の声が読めなかった事にようやく気付いたのか、僅かに愕然としてしまうザンク。

 ソレは、決して小さくない隙ですよ。

 

「疾ッ!!」

「ぐぉッ!?」

 

 驚愕に身を竦ませた間隙に呼吸を合わせ、鋭く切り込んだイエヤス。

 しかし洞視こそ封じられても、未来視は健在な為何とか防ぐ事に成功する。

 ――そして、初撃を凌いだ事で張りつめた緊張の糸がまた緩みましたね。

 其処を、突く。

 

「ギャッ!?」

 

 完全に意識から外れていた高高度より素矢を連続で射る。

 それと同時に示し合わせたイエヤスが始解を行い切り込み、剣術から槍術へとシフトチェンジして高速の突きを連続で放つ。

 意識外からの攻撃、正対していた相手の得物が突如変形する、そして今迄よりもより速くなった挙動。

 ザンクがそれらのあまりの情報量の多さに対応しきれなくなった所で次々と攻撃が命中する。

 此れで完全に左腕を潰す事に成功。

 

 奴の戦闘スタイルは両腕の仕込み剣での連撃。

 手数と連携を重視した形態から、即座に片手での戦闘スタイルへと変える程の技量は無かったようで、その後も更に連続して手傷を負いだす。

 射手の居場所を気取られぬように空を跳ねながら援護射撃を繰り返し、徐々に軽微な傷を蓄積させていく。

 傷の一つ一つは軽くとも、血が流れて痛みと疲労が積み重なればやがては致命の枷となる。

 

 私の何処からともなく放たれる隠密射撃に対応出来ていないのもあって徐々に追い込まれているザンク。

 こうなってしまえば後は何かしらの起死回生の奥の手でも持っていない限りは盤面を覆せないが、其処で奴が頼ったのが帝具の幻視能力。

 文献によると「その者の最も大切な相手を写す」というが……生憎と手札が知れていれば対策が容易だ。

 此方は精神防壁の効果がある乙矢をイエヤスに対し突入前に放ってある。

 故に、奴が必殺を期して幻覚攻撃を放った瞬間は、致命的な隙を晒す絶好の時だった。

 

「哈ッ!!」

「――ぐげぇッ!?」

 

 一閃。

 奴がイエヤスを幻覚に堕とそうと力んだ直後、帝具の力を過信したザンクの下腹をイエヤスは横一文字に切り裂いてやった。

 自慢の帝具が効かないという埒外の事実を理解出来ないようで、目を白黒とさせたまま膝から崩れ落ちるザンク。

 ハラワタがまろび出る程の致命傷を負ったザンクは自身の死を悟ったようで、抵抗を止め仰向けに地に伏せる。

 

 

「――あぁ……声が止んだじゃない、か……愉快……愉快…………」

 

 

 …………声が止む、というのが何を意味していたのかは分からない。

 狂人の頭の中など常人には理解出来得る筈もないし、する必要すら無い。

 結局狂人は最期まで狂ったまま、それでも満足そうにして死んだ。

 私に分かるのはそれだけで、そしてソレが全てだ。

 

 

 

「――此方サヨ少尉。目標の完全な死亡を確認。イエヤス准尉は帰投してください」

「――了解。イエヤス准尉、此れより帰還する」

 

 ふぅ……何とか無事に勝てたわね……。

 帝具が相手といえども、やりようによっては勝ちが拾える事が分かったのは収穫だわ。

 この調子で、今後も戦功を重ねていk――アレ?

 

 

 


 

 

 

 むむむ?

 どうしたのかしら。

 戦闘終了の報告が出た後、二人が中々帰ってこない。

 ふむ……シカタナイから、使い魔と視覚を共有してみようかしら。

 

 ――さーて、二人に何が…………ってアラアラ?

 中々に面白い状況になっているじゃあないの。

 

 

 使い魔を通して遠視している情景には、サヨとイエヤスの二人と睨み合う二名の男女が映っている。

 片方はサヨたちが色々と心配爆発中のタツミ少年。

 そしてもう一方は……なんとナイトレイドの最強格であるアカメだったわ。

 

 アカメ。

 原作ではタツミと対を為す主人公として描かれていて、原作の各話のタイトルと作品自体のタイトルに彼女の名前をもじった要素が含まれている事から、実際の主人公としての比重は彼女の方が高い事が伺えるわ。

 元帝国暗殺部隊の選抜組というエリート暗殺者で、所有している帝具は【“一斬必殺”村雨】。

 此の帝具は刀身が掠りでもしたら一瞬で呪毒が心臓に回って相手を呪殺するという凶悪な代物で、対人殺傷能力に関しては帝具の中でも最強格と見做される逸品よ。

 そんな凶悪な帝具を使いこなす彼女もそれに見合った強者で、暗殺部隊の中でも更に優れた者が選ばれた選抜組で、仲間たちが次々と殉職する中で最後まで生き残った歴戦の戦士。

 

 任務を熟す内に帝国の闇に直面して、それで帝国から離反したそうだけど……実際に敵対されている身としては厄介極まりないわね。

 アタシくらいになるともう呪毒とか効かないんだけど、流石にサヨやイエヤス程度だと一回死んじゃうでしょうし。

 ――まあ生き返るし耐性付くんですけど。

 

 

 

『タツミ……お前、なんでそんな奴と一緒に居る!?』

『そうよ! ソイツはナイトレイド……帝都を騒がす凶賊よ!!』

 

 あー、聴覚の同期は良好ね。

 さて、二人はどうやら説得ロールでダイスを振る気らしいわ。

 一応二人も「ナイトレイドが革命軍所属の組織で、革命の為に帝国の人間を殺っている隠れ蓑で暗殺集団を掲げている」事くらいは知っているし、ソレ以上も当然熟知しているわ。

 勿論帝国の闇についても、貴族に拉致られて殺されかけた以上は色々な情報を開示してあげたし。

 要はナイトレイドの連中の主義主張も存在意義もその評価も全て知っている状態。

 その上で二人は『暴力的な手段に頼って武力で政権を脅かす行為は許容しない』って結論に至ったんだし。

 

 んー……でもどうなるかしら?

 まだ序盤も序盤だから、タツミもナイトレイドに大して思い入れは無い筈よ。

 でも……だからって「暗殺者辞めて♡」「ハイ喜んで!」って離反するかしら?

 

 そもそも、此の世界でのタツミ少年がナイトレイドに所属した経緯が今一つ分からないのよね。

 あくまでも部下達が目撃した情報から推察するに、原作の流れをサヨとイエヤス抜きでやった感じっぽいのよ。

 ただ、細部がどう違うのかまでは流石に推察する以上の情報は無いわ。

 千里眼で過去視とか使えばいいだけかもしれないけど、そういうのってアタシ好きじゃあないし。

 

 ふむ……まあアレね。

 流れに身を任せる。

 コレに尽きるわ。

 “激流に身を任せて如何かしている”境地こそがアタシの望むものなんだから。

 

 

『い、いや、コレは違うんだ!』

『何が違う!?』

『タツミ、貴方騙されているのよ!!』

 

 そしてタツミ少年は説得ロールでダイスを振るも致命的失敗(ファンブル)

 まあそんな浮気がバレた亭主みたいな言い訳で騙される馬鹿はいないでしょうけど。

 

『標的ではない……だが、邪魔立てするなら……葬る……ッ!!』

『ちょ!? ちょーっと待ってくださいませんかねアカメさん!?』

 

 おやおや、随分マッポーめいた思考ねアカメちゃんって。





【挿絵表示】

水の神器【“治者楽水”メロディオブライフ】。
笛型の帝具【“軍楽夢想”スクリーム】と同系統の神器で、形状はフルートタイプの魔笛。
此の神器は演奏する事で様々な追加効果が得られる代物。
道具作成系の【ホイッスルに魔力を付与する】エンチャントの系列で製造された魔楽器で、適切な手順で演奏するだけで音の範囲内部に居る全ての生物に効果を発揮する。
材質としてとある異界の神話生物の骨を削り出して、其処に輝くトラペゾヘドロンを始めとした各種魔石を精製して作った塗料で着色した物。
超級の魔術媒体として作用して、魔術の素養が無い人間でも魔術音楽が奏でられる優れもの。
演奏によって強化や賦活や治癒等のバフの他に、重圧や委縮や停止等のデバフも与えられる充実したサポート能力を完備。
そして特別な魔術音楽の演奏を行う事で結界や封鎖領域や人払い等の【開位】相当の魔術が行使可能。


今回話に出ただけの神将器。

拾番【寅の将器“詩歌管弦(エコーオブソウル)”-緊那羅(キンナラ)-】。
形状は五鈷杵のような笛。能力は音による多種多様な魔術の行使。
特にレーダーとして千里眼のように扱える為、名前さえわかれば顔すら知らないでも世界中何処に居ようと対象を認識して呪いを掛けられる。
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