憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
JAROに訴えるぞ。
「頼むわよぉ~……イエヤスぅ、絶対に
祈るような心持でそう呟く。
使い魔を経由した視界で眼下に見下ろす光景では、捕縛結界を作動させた際の魔力放出によって映像が一時乱れている。
……怠けて初級の使い魔を放った所為で、此の程度の魔術行使でガタが来ているようね。
こんな事ならちゃんとした使い魔を作っておけばよかったと思っても後の祭り。
後悔を心の隅に置きつつ状況を監視するが、アタシの心配事を他所にイエヤスは特大の
『――やったか!?』
あー!? ソレ負けフラグでしょう!?
言わないで欲しかったのにぃ……!
イエヤスェ……。
そんな
魔力放出が落ち着いた結界の内部には誰も囚われてはおらず、遠くに小さくなっていくタツミをお姫様抱っこしたアカメの後ろ姿が確認できる。
……男の子一人を抱えてあんだけ動けるなんて、やっぱ内面だけじゃなくて肉体もゴリラよねあの娘。
「――通達。此方本部。状況はモニターしてある。改めて帰投するように」
『――……了解。討伐組二名、此れより帰還します』
まあ過ぎた事をあんまり気にしても仕方ないわ。
ナイトレイドとの遭遇戦はあくまでも不測の事態だったんだから。
最初の作戦目標であったザンクの討伐と帝具の回収も無事に済んだのよ。
なら、あの歴戦の暗殺者であるアカメとやり合って五体満足で生き残った二人を褒める事こそあっても、叱るなんてあり得ないわよね。
『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。――話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず』
……ウンウン、五十六って超良い事言うわよね。
歴史からひも解くと実際の山本長官は結構人の好き嫌いがあったように見えるとか、陸海の確執を助長すらしていたとか、そういう野暮な事は言っちゃあダメよ。
特に海軍と陸軍の仲の悪さという観点で見たら全然「やってみせ」じゃあないじゃん……なんてのは、そりゃあアナタ、未来である今だから言える事よ。
今重要なのは、アタシが上司として帰ってきたあの子達を褒めてやるのが大事、って事ダケ。
……ふぅ……それにしても……あんまし欲張っちゃダメねぇ……。
あそこで中途半端な戦力をナイトレイドにぶつけても、碌な戦果が挙げられないのは分かり切っていた話よ。
その結果神器の詳細が露見してしまえば、目も当てられないわ。
アタシ的には原作でもあったらしい革命軍の一斉蜂起に合わせて敵戦力を全滅させたいんだから。
もし敵の戦力を減らし過ぎた結果蜂起の時期が大きく後にずれ込んだりしたら、こっちの原作知識とかが使えなくなるものね。
だから態々クソ田舎に押し込んだ革命軍の本部をまだ落としていないんだから。
その点で言えば、ぶっちゃけ居ても居なくても厄介な存在なのよ、原作生存キャラ達って。
殺し過ぎると同じ理由で革命軍が日和かねないし、かと言って放置してしまえば身内にも被害を出しかねない。
特にセリューとかもろに原作での死亡フラグが未だに屹立しているもの。
そういう意味ではシェーレとかブラートとかならいくらでも捕縛したり殺したりしていいと思うし、実際にウチの方針としては色々な理由を付けて単体戦力としての影響力を鑑みて抹殺優先順位を付けてるからね。
……うん、切り替え切り替え。
取り敢えずアタシは総指揮官として、事後処理の方を頑張らないと。
……ソレが一番の難敵だったりしてね。
「上からくるぞ、気を付けろぉ!」
「ハ? 上からってd――げふぁっ!?」
『コケコッコー!!』
「……下からじゃないですか……」
「じょーだんじゃなーいわよーぅ!!」
戦いを終えて一夜明けた翌日。
他所と違って超絶ホワイトのウチは深夜勤務があった次の日は非番になっているんだけど、社畜精神が染みついているのか二人はいつも通りに早朝鍛錬に顔を出した。
今日くらいは軽く流していいって言ったんだけど、まあ根は真面目な二人ですもの。
昨日の戦略的敗北が堪えたのか、いつも以上に気合が入っていたわ。
……ただ、そんな意気込みは買うけども、自分を追い詰め過ぎても故障の元でしょ。
ウチが現代社会に準じた労災認定を行ってるからって、だからと言って故障や事故をどんどん起こしてもいいってワケじゃあないんだから。
ちょっと頭を冷やさせる為にも、セクシーコマンドーで理不尽な一撃をお見舞いしてノックダウンしてあげたわ。
哀れ、イエヤスは『
コッコさんは無敵。緑の勇者もそう言っている。
コッコさんの波に呑まれて目を回したイエヤスを甲斐甲斐しく世話するサヨを見ていると、下世話な考えが頭に浮かぶ。
此の二人……出来てるんじゃないかしら?
……いやいや、そう合点するのはまだ早いわよ。
んー……今の所お互いに幼馴染の延長線上にあるようだけど、ふとした切っ掛けでどう転ぶか分からない……って所かしらね。
どっちかっていうとサヨの方が意識しだしているって感じかしら。
幼馴染は負けフラグとは言うけど、そんな世評を覆して欲しいものだわ。
そんな総天然色の青春グラフィティな様子をもう少し眺めていたいような気持ちもあるけど、後は若い者に任せてごゆっくりどうぞ……とばかりに道場を後にする。
二人はこのまま朝食まで組手を続けるそうよ。
一応指導役にファルを置いてきたから、存分に絞られるといいわ。
ああ見えてファルは近接格闘のプロだし、皇拳寺の錬士クラスという正真正銘の達人なのよ。
免許皆伝も義理許しや銭許しじゃあなくて、普通に実力で勝ち取ったものね。
勿論アタシの改造と投薬が大きく影響している事は否定しないんだけど……。
それでも血反吐を吐きながらも鍛錬に身を投じたのはあの子の覚悟が為せる業だったし、ソレを好ましく感じたアタシが更に強化を施したわ。
……ちなみに、三人娘は予備役扱いでウチの佐官としての籍があるのよね。
ファルが憲兵少佐。
ルナが軍医中佐。
エアが法務中佐。
と言ってもお飾りな部分が否めないわよ。
憲兵科という兵科を置いてはあるけど、ウチの軍規は『鉄血の掟』と謳われる程に厳粛に出来ているの。
その絶対遵守の度合いは、再犯率が脅威の0%というのだから驚きでしょ。
……まあ例によって違反者は洗脳してるだけなんだケド。
そもそも最近だと未遂の時点で呪印が反応して対象を一辺30cmの直方体サイズの肉塊に処理しちゃうから、違反率すらも前人未到の0%を維持しているわ。
だから憲兵隊はあくまでも外部に向けてのポーズとして置いてあるだけ。
流石に洗脳云々を大っぴらには出来ないから、「苛烈な取り締まりを行う憲兵部隊が居るから綱紀粛正が保たれている」という体でやってるの。
一応憲兵としての職権と、ソレを担うに値するだけの実行力を付けさせてあるから、一概に空手形とは言えないんだけどね。
ルナには軍医を名乗るに相応しいだけの医術を授けてはあるわ。
唯、あくまでも予備役だし、彼女を実戦に出す必要性も意味も無いから、必ずしも軍属である必要性は無いとも言えるわよ?
それでも軍医としての体裁を整えたのは、偶にアタシの仕事を自宅や出先で手伝って貰う為に形式的に軍属扱いにしてあるからなの。
アタシの手伝いをさせるのに軍属じゃないのは色々と問題だったから、其の為ね。
一応魔眼込みでの戦闘技能と治療技術は相応に高いけど、彼女を戦力として期待しているわけではないわよ。
アレはあくまで自衛手段として与えた心算だったんだけどね。
本人としては主人であるアタシの為に使いたいらしく、その気持ちは尊重しているわ。
ちなみに魔眼による透視で診察が非常に捗るから、健診は彼女に任せる事もあるわね。
ガンマナイフのように魔術で直接患部を処理する事で、患者を切開したりせずに治療が出来るという妙技も持っているわよ。
そしてエアが三人の中で一番実的な経験を持っている事になるわね。
法務部は内政面での役割が大きい特務軍を運営する上で欠かせない部署よ。
流石に此の中世風世界でコンプライアンス云々とまでは言わないけど、契約や取引、機関法務に軍規関連、紛争対応には法務部の存在が必要不可欠。
だから相応の権限を持たせた部署として法務部を置いて、文治主義で組織を運営しているの。
他所がどうだか知らないけど、ウチは設立当初からコレでやってきたわ。
最善はアタシが居なくても組織が回る事だから、そのレベルを目指して内部の人員を鍛えてきたの。
そのおかげで大分組織運営にかかる手間は削減されていると自負しているわ。
まあそれでも仕事量は相応に多いのが現状だけどね。
そしてアタシが持ち帰り残業をするのは大抵法務確認の決裁だから、ソレを手伝って貰う事が多いエアは一番実務経験があるし、ウチの法務部に顔パスで入れるくらいには仕事を手伝って貰ってるわよ。
まあ最近は流石に部下も育ってきているから、アタシが残業する事も減ってきているわ。
木人形は文武百官品揃え豊富に用意してあるもの。
単純に生身の人間を洗脳するだけじゃなく、死刑囚を流用する試みもやっているんだから。
何なら死体でもパーツに分けて組み直せばすぐに一級戦力として利用出来るわよ。
そういった廃材の再利用が利く事で、他所と比べて組織の規模が大幅に拡大しても何とかやっていけてるのよね。
……と言っても最近は死体ですら再利用しまくった所為で、新たに第四軍を設立しなきゃならないくらいに人員が増えてきちゃってるんだけど。
でも、将来的に革命軍との抗争では百万単位の敵味方が入り乱れて戦争になるっぽいし、欲を言えば第五軍まで整備したい所ではあるわ。
……其の為にもまずは、手頃な人材を
「……あ? なんだありゃあ?」
「どうした?」
駐屯地で歩哨をしていた兵の内の一人が訝し気な声を上げる。
……歩哨と言っても此処は帝国内部でも帝都寄りの内地だ。
所詮は留守居の鎮護兵。
練度も低ければ士気などあってないようなもの。
その証拠に少し離れた場所ではトランプを使った賭け事に興ずる者たちすらいる。
「いや……なんか、土煙が見えねえか?」
「ああん?」
こんな内地の奥で特に何か事件の類がある筈もなく、当番制の見張りの仕事は下級兵達にとってのやりたくない仕事筆頭だ。
此処は帝都近郊の居住区からもそれ程離れていない駐屯地。
まさか敵襲が起きるなどあり得ないし、仮にあったとしたらそれは異民族や革命軍が大挙して押し寄せる末期的段階になってからだろう。
そんな安全地で訓練に精を出す訳でも無い殆どの兵士たちは後方の安全を噛み締め、ぬくぬくと仮初の平和を甘受している。
当然この日歩哨として立っていた兵もやる気などある訳が無く、相方が変な事を言いだした時も自分をからかっているとしか思わなかった。
する事が無さ過ぎて、狂言を吐いて焦らせようとしているんだろう、と。
「なんだよ、何が見えるって?」
「いや……アレは……まさか……」
双眼鏡を取り出して遠方を確認する兵士。
次第にその表情は焦りと恐怖に歪んでいく。
「ひっ、ひぇえええええええッ!?」
「あ、オイ!! ……何だってんだ?」
しまいには双眼鏡を取り落とし悲鳴を上げて持ち場を離れてしまった。
流石に不審に感じた事で相方が落としていった双眼鏡を拾い、土煙の上がっている方向を確認する。
……そして、ソレを視認してしまった。
「――ッ!? 馬鹿な……特務軍だと!?」
悪名高き特務軍。
黒衣を纏った獄卒衆。
異界の神に仕えし悪鬼羅刹の軍勢が、軍靴の音を響かせやって来る。
再利用(リクルート)。
なお生死は問わない。