憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
なお独自設定として、この作品では帝国軍を雑に『近衛大将軍』、『方面四将軍』、『常設将軍』、『特任将軍』がそれぞれ率いています。
偉さの順番にもなっていて、近衛は別として方面軍が最大戦力をそれぞれ有している最上位武官になっています。
今、此処【安西将軍部駐屯地】は騒然となっていた。
至近に自軍の5倍から6倍はあろうかという大軍が押し寄せてきたからだ。
来寇した軍勢の旗印は二階菱。
今、安西将軍部の首脳部では喧々諤々とした議論が飛び交っていた。
「――だから、兎に角使者を送って用向きを問い質すべきだ!! 弁明の機会すら与えられぬのではどうにもならんぞ!!」
「ふざけるな! ソレで手をこまねいてそのまま撫で斬りにされたらどうなさるお心算か!? 此処は殿を置いて一刻も早く退却し、本隊と合流するべきだ!!」
「それこそふざけるな! 向こうはソレが狙いかもしれんだろう!! 相手に付け入る隙を与えるべきではない!!」
「何を仰るか!! 相手はあの特務軍ですぞ!? 真っ当な理由なぞ無くとも攻め入って来ているやもしれぬではありませんか!!」
会議は踊る。されど進まず。
恐るべき敵軍を前に、留守居の鎮護兵達では碌な議論も出来ない。
主戦派も非戦派も、結局は此処に残っている戦力ではどうにもならない事を理解している。
故に彼らは戦うにしてもそうでないにしても、如何にか此の場を切り抜けて生き延びる事しか考えていない。
そもそも特務軍が此処まで恐れられているのには訳がある。
彼らは征南将軍府の麾下部隊でありながら、武名を響かせた戦闘は
そしてその味方殺しも戦場の混乱や錯綜によるモノではなく、綿密な作戦行動によって行われる“粛清”によるものばかり。
三軍十五万とも言われる大兵力を抱える事でフリーハンドが常に一定数確保出来る特務軍は、その自由度から他軍に対する内部監査を行い、実行戦力を用いた処断を苛烈なまでの勢いで行ってきた。
故に、此度の来寇もまた、安西将軍部に対する何かしらの軍規違反を咎め、場合によっては総軍を粛清する為のモノと推察された。
彼らはソレを一切の呵責無しに行うだけの実績があった。
特に第二軍は判定ではなく文字通りの全滅を必ず強いる、皆殺しが常の異常なまでに殺意の高い軍隊だ。
もし戦端を開いてしまえば、後に残るのは何方かの全滅だけ。
そんな悍ましい事態に発展する事だけは何としてでも避けなければならない。
しかし、安西将軍であるナカキド将軍こそ此の場に居るが、他の有力な将兵の大部分は任務で各地へ分散していた。
西の異民族も少し前に大攻勢に出たばかりだから大人しくなっていたし、安西将軍部の置かれている場所は地理的に帝都近郊に在り常時戦力を控えておく必要性が無かった。
故に、自身の管轄する帝国西部の治安維持に兵力を割いたのは何も間違いではなかった。
常ならばソレで良かったし、内陸奥深くにまで敵対勢力が進軍してくるなど余程の事が無ければ有り得ない。
……だが、現実として師団規模しか兵力が残っていない安西将軍部の首元には“冷酷な粛清者”と畏れられる特務軍第二軍の五万からなる大勢力が迫ってきている。
ナカキド将軍の
主戦論を唱える連中も殿を置いて逃げ出す事を提唱するなど、口では勇ましい事を言っておきながら生きて脱出したいという考えが透けて見える。
そしてその主戦派ですら圧倒的少数派で、殆どは「使者を送り用向きを尋ねる形で時間稼ぎを行い、その隙に退却する」という考えで纏まりだしていた。
……そして、
故に、ある決定を口に出す。
「――使者は、送らない」
「なんですと!?」
「ですが、それでは!!」
「いいから聞け!!」
一部のタカ派を除いて不満の声が噴出するが、ナカキドはソレを遮って尚も言い募る。
此処で下手に議論を深めてしまえば、
「……精鋭を殿に置いて残りの大半を本隊へと合流させる。……だが! 殿は私が率いる……!!」
「なんと!?」
「まことですか!?」
通常ならば最も生還率の低い殿軍の、ソレも第二軍を相手の遅滞戦だ。
当然ながら勝率は絶望的で、恐らく殿は壊滅するであろうことはその場にいた全員が理解していた。
其処に将軍を充てるという事は成功率と勝率を引き上げる策と言えるかもしれないが、同時に将軍の身を危険に晒すという危険策でもあった。
……だが、最終的に他の将兵たちはその将軍の作戦案を呑んだ。
実際、こんな所で命を賭けたくは無かったという部分では撤退組の将兵達の思惑は全員一致しており、将軍が自ら危険な役を買って出てくれるのならばと諸手を挙げて賛成した。
その結果、安西将軍部に残っていた将兵たちの内、僅かに残された有力な将兵は皆将軍の殿軍に組み込まれた。
残るは階級ばかりが高い能力の無い将兵と、命を賭ける気など無い弱腰の下級兵達。
彼らは将軍が精鋭を率いて駐屯地を発った姿を見送る事もなく、一目散に逃げだす。
目的地は帝都中心部にある宮殿。
今回の特務軍の目的が何であれ、帝都に逃げ込みさえすれば少なくとも将兵の命脈は繋がれると思っての事だった。
政治的に働きかけを行い、帝都に残した部隊と合流し、各地に散っている派遣軍を糾合。
そうする事で特務軍の矛先を止めるというのが彼らの作戦だった。
――しかし、彼らは考えていなかった。
あるいは目を逸らしていたのかもしれない。
一体
粛清隊と畏れられる特務軍が、何を根拠に軍を起こしたのかを。
――ソレを思考の外に置いてしまっていたから。
ソレ故、彼らは詰んでしまった。
「馬鹿な!? 何故第三軍まで此処に居る!?」
「いや、そもそも第二軍が何故此処に居るんだ!? ナカキド将軍はどうした!?」
「まさかもう敗れたのか!? 旅団規模とはいえ、将軍直率の最精鋭部隊だぞ!?」
将兵たちの動揺も他所に、ファランクスを組んで突撃の構えを見せる第三軍。
――このままでは為す術もなく蹂躙される。
そう思い至った一部の将兵が逃走を図るが、部隊から落伍した瞬間全員が頭部を撃ち抜かれて絶命した。
特務軍の揃いの黒い軍服に身を包み、左腕の腕章には黒地に緑で“空”の一文字。
全員が上空に滞空し、轟雷を放つ銃砲を構えて狙い定めている。
そしてそれらを率いるは目元の涼やかな美貌の青年。
「アレは……まさか飛行師団か!?」
「第一軍の連中まで出ているのか!?」
特務軍でも最精鋭であるとされる第一軍。
その中でも副将軍に率いられる最高戦力の飛行隊が現れた。
其の事実に現場の混乱は頂点に達した。
「何がどうなっている!?」
「将軍は……ナカキド将軍は一体
粛清隊の第二軍。
第二軍が味方に矛を向けるという事は、ソレを行うに足るだけの根拠がある。
其の事実に今更ながら気が付いたが、全ては遅きに失した。
精鋭を殿に置いた以上、今の彼らに真面な抵抗を行う事が可能な戦力は残されていなかったのだから。
――報告。此方混成突撃部隊。敵逃走勢力の殲滅完了。
――司令部了承。此れより資源回収部隊を送る。混成部隊は回収部隊と入れ替わりで部隊を展開し街道を抑えよ。
――了解。此れより待機陣形に移行します。
――了承。回収部隊の現着まで凡そ10分程度を想定。そのまま待機せよ。交信終了。
さてさて、コレで安西軍部も生き残りは残すところあと2000ちょっとって感じかしら?
まさか小勢で仲間を囮に逃げ出すとは思わなかったわ。
此処まで落ちぶれてしまえば、将軍と雖もアワレなモノよねぇ。
本日の特務軍のお仕事は裏切り者の粛清。
実はナカキド将軍以下複数の将兵が革命軍に離反しようとしていたのよ。
だから安西将軍部以下総員を撫で斬りにする事に相成りましたとさ。
勿論上層部の幾らかだけが叛逆しようとしていたってのは承知の上よ?
ただ、ソレを外部から判別するのは魔術でも使わないと無理じゃない?
誰が革命派で誰がそうでないかだなんて、心の中を視れる帝具とかでも無いと判別不可能でしょ。
だから一罰百戒という意味で全員皆殺しにしてくれる事にしたのよね。
そもそも安西将軍部の連中ってナカキド将軍以下の有能且つ革命派な将兵か、それ以外の毒にも薬にもならぬゴミクズしかいないのよ。
そんなの残しておいても意味ないから、これ幸いと死体に
その後はウチで死体を引き取って屍鬼兵とかに再雇用してあげるから。
一切無駄の無い完璧な人材コンサルティングね。
そんな段取りで
自分で殿を引き受けておきながら、実際は他の仲間を囮に駐屯地から脱出しちゃってたんだからお笑いよね。
安西将軍部にはもしもの時の為に脱出用の地下通路が備えられていて、上層部の将軍直属の連中しかソレを知らなかったようよ。
そのおかげで将軍一派はまんまと脱出に成功した……かに見えたけど、こっちは第二軍と第三軍、そして第一軍の精鋭部隊も動員してんのよ。
ソレだけの物量で周辺を虱潰しに当たれば、特殊な隠形でも身に付けていない限り簡単に発見出来るわ。
ウチには探知系の神器もある事だし。
というか特定の対象を手掛かり無しで探知するのってまさしく魔術の専売特許よね。
居場所を探知したら結界で周辺を隔離。
そのまま【門】を開いて第一軍の一部と第二軍第三軍の併せて12万の大軍を、ナカキド将軍を包囲する形で転移させる。
突如として目の前に視界を覆い尽くす程の敵軍が出現した将軍の心境とは如何程のモノだったんでしょうね?
「ねえどんな気持ち? 味方を囮に使って逃げ延びたと思ったら万端準備を整えた敵軍に包囲された時って、どんな気持ち?」
「Dr.スタイリッシュ……ッ!!」
ちょっとそこの所が気になったので実際に聞いてみる事にしましょう。
四方を完全に包囲されて得物を向けられている状況。
素人目に見ても“詰み”だって誰にでも理解出来るわ。
そんな中でも将軍閣下は抗戦の意思を崩さない。
ソレは武人としては貴ぶべき気概なんでしょうが……軍人としては失格ね。
「貴様……こんな事をしてタダで済むと思っているのか!? コレは重大な越権行為だ!!」
「ハァ……言うに事を欠いてそんな事言っちゃうんだ……?」
既に“終わっている”事に気付けないなんて……コレは問題よ。
ナカキドが今此の場ですべき事は、無様に惨めにみっともなく命乞いをする事。
当然ながらナカキド将軍以下の将官たちの助命は不可能よ?
精々処刑方法が穏当なモノに変わるくらいで。キリングミーソフトリーって感じ。
でも、流石に下級兵達まで皆殺しにする必要性はナイもの。
アタシも泣き喚いて部下の命乞いをしながら自裁してくれるんなら、残った下級兵達くらいは助けてやる可能性が無きにしも非ずといったところだったのかもしれないのに。
ソレすらしないなんて…………。
「本当に残念だわ……。将軍殿には悪いけど。アナタ、此処でオシマイなのよ」
「なんだと!?」
「でもその前に、オイタの事謝って貰わないと。……ねぇ将軍殿。取り敢えず其処に跪きなさいな?」
「~~ッ!! 何を馬鹿な事言っt――」
「跪け」
瞬間。数100m上空から放たれた不可視の弾丸が、正確に敵軍全員の両膝を撃ち抜く。
獲物を瞬時に撃ち抜いたのは純粋エーテルを薄い魔力塊の被膜で覆った魔術弾丸。
『
通称【MATO弾】。
純粋エーテルの弾頭は生物に着弾すると魔力塊が破裂して突き刺さり、盲管銃創のように傷口を押し広げるのよ。
それだけでなく貫通せず体内に残留した他者の魔力反応は激烈な魔力中毒を引き起こし、並の魔術師では治療不可能で重篤な致命傷となるわ。
云わば魔術式ダムダム弾と呼べる代物であり、ハーグ条約なんぞ無い異世界では使いたい放題ね。ステキ!!
音もなく飛来した非人道弾頭により両脚を使いものにならなくされた敵軍は、激痛に絶叫しながらのたうち回る。
イイわぁ。その無様な散り様は十分にアタシの無聊を慰めてくれるわよぉ。
「お見通しなのよ、全部。革命軍に渡りを付けただとか、離反する際に軍資金をちょろまかしていこうとしただとか、アタシの侵攻をこれ幸いと無能で有害な将兵共の間引きに使っただとか……もう、全部知っているんだから」
「ギャアアアアアッ!! 痛いイタイいたいィイイイイイイッ!?」
アタシは愉悦全開のマジキチスマイルで将軍閣下に語り掛けるんだけど、閣下は経験した事のない痛みに喘いでいてそれどころじゃないみたいね。
まあ魔力中毒って精神と魂魄の両方に甚大なダメージを与えるもの。
そういう系統の帝具でも使われた経験がない限り、未経験の痛みよ。
当然エーテルを使ってる以上は肉体にもダムダム弾を使ったのと同じような損傷を与えていて、感じる痛みはともすれば発狂しかねない程。
でもギャアギャア騒いでるだけまだ余裕がありそうね。
「騒ぐ元気があって大変結構。それでは第二射、やっちゃいなさいな」
ほぼ無音で飛来した弾丸に、為す術もなく今度は両腕を貫かれた敵軍。
魔術式によって射出される弾丸は、ベクトルの指向性を弄る事によって炸薬の類を一切必要とせずに射撃を可能とするの。
その結果、魔力エーテルを弾頭にしてある事もあり銃撃の消音性能は破格の一言に尽きるわ。
第二射によって四肢を完全に破壊された連中だけど、構えていた得物ごと撃砕されてる輩が将軍を筆頭にちらほらと。
どうやら気が狂いそうな激痛の中でもアタシに一矢報いようと頑張っちゃってたみたいね。…………無駄なのに(笑)
「将軍殿ぉ? 此の倭刀借りるわねぇ?」
ちょっと連中の悪足掻きがみっともないから、彼らがみっともなく縋り付いている希望を粉砕してあげましょう。
芋虫状態になった将軍から奪い取ったポン刀は……なるほど将軍級の人物が扱うに相応しい業物ね。
生憎と此の世界の刀剣類には詳しくないから詳細は知れないけど、現実世界に在れば国宝級の代物でしょう。
……幾人もの人を斬った刀は、匂い立つまでの妖しい色気を放つわ。
将軍サマの得物らしく相応に人を斬った実績があるらしい此の刀も、染みついた人血の薫りが烟るように漂う。
それでいて刀本来の機能美は一切損なわれていないのが見て取れるわ。
手入れを怠っていないらしい此の刀、人体なんて軽く両断出来てしまうわね。
「――よし、イタダキマス」
『――ハ?』
パチンと両手を合わせて食材への祈りを捧ぐ。
ソレが食事には大切な作法よ。
突然刀を咥えて常識外れな事を言いだしたアタシに呆ける連中を尻目に、アタシはボリボリと刀を刀身から鍔、柄まで咀嚼していく。
ソレを呆気に取られて呆然と眺めるしかない連中。
頭の部分までしっかり完食したところで漸く事態が飲み込めたのか、此方を怯えた目で見てくるわ。
「ば、バケモノ……ッ!?」
「アラ? 今更気付いたの?」
遅いのよ、何もかもが。
まあちょっと理解力の足らな過ぎる連中だけど、此奴らは謀反の主犯ですもの。
此処で処理しちゃうのは政治的によろしくないわ。
よって、こうしちゃう。
「喜びなさい。アナタ達は此れから帝都に出荷されて、其処で拷問官の皆さんからたっぷり可愛がられる事になるわよ――おっと!」
アタシの発言で絶望しちゃったのか、舌を噛んで自害しようとしやがった阿呆がいたので指先から放つ魔術で麻痺させる。
ガンドは咄嗟に使える魔術として便利よねぇ。
危ない危ない。
危うく商品が一個ダメになる所だったわ。
安心なさい。
絶対に楽に死なせるようなことはしないから。
この世のありとあらゆる艱難辛苦(物理)を味わってから死なせてあげるから。
「苦しんで死ね、敗北者共」
死刑宣告と共に控えていた回収部隊が殺到し、一匹一匹魔術で昏倒させていく。
そのままズタ袋に放り込んで魔術で固定化。
そうすれば後は新鮮な状態で帝都まで搬入が可能って寸法よ。
――さて、彼らには帝都で惨たらしく処刑されるという最後のご奉公が待っているわ。
せめてその死出の花道を残酷なまでに美麗に彩るくらいはしてあげましょう。
死にゆく彼らには、ソレが何よりの手向けになったりならなかったりするんじゃない?
知らないけど。
フライフェイスムーブが出来てご満悦なドクター。
『
通称【MATO弾】。
純粋エーテルを薄い魔力塊の被膜で覆った魔術弾丸。
純粋エーテルの弾頭は生物に着弾すると魔力塊が破裂して突き刺さり、盲管銃創のように傷口を押し広げる。
それだけでなく貫通せず体内に残留した他者の魔力反応は激烈な魔力中毒を引き起こし、並の魔術師では治療不可能で重篤な致命傷となる。
云わば魔術式ダムダム弾と呼べる代物であり、ハーグ条約なんぞ無い異世界では使いたい放題。
魔術による霊障なので物理的には決して癒せず、魔術による治療が無ければ傷が絶対に治らない。当然だが他に魔術師が存在しないのでドクター陣営以外には誰にも治療出来ない。