憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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なんだこのオッサン!(驚愕)

SSを初めて書いてて思ったのは、あんまり主人公を強くしてしまうと話が終わってしまうんだな、と。
もうコイツ一人でいいんじゃないかな。
流石に急にナーフは出来ないからこのまま突っ走りますけど。


File20:老兵は死なず(物理)

 今でさえ凡そ好き放題をしているドクターだが、その外見年齢は30代や20代後半と言っても差し支えない程に若々しい。

 噂では自身の肉体を改造してアンチエイジングを果たしているそうだが、その見た目を見た事があるならば誰しも納得してしまうような話だ。

 

 ならば、ドクターが老化で亡くなるという未来は有り得る事なのだろうか?

 その疑問に対して答えを出せる人間は少なくとも革命軍内部にはいない。

 

 ――いくらドクターでも、アンチエイジングにも限界があるという意見。

 ――あのドクターは、遂に不老長寿を成し遂げたとする意見。

 

 程度の差は有れど、革命軍幹部たちはその問いに対して肯定派と否定派で完全に分かれている。

 そして、仮にドクターが寿命を克服していたとしても、だからといって革命軍に打つ手がある訳でもないのだ。

 

 今、革命軍はドクターに対して全面降伏状態だ。

 征南将軍府そのものが軍事的制圧を積極的に行ってこないから今の均衡は保たれているが、ソレをいいことに革命軍は抗戦の意思と気概を失っている。

 向こうが武力によって手出しをしてきたら、その時はなるべく被害を減らしながら戦線を後退させて逃げ出すという策が正式に決定されているというのだから、その逃げ腰の本気度合いが伺える。

 

 

 

 ――だが、武人たちで形成された革命軍タカ派の構成員たちはその及び腰な姿勢をよしとしていない。

 そして……暗殺を革命の一助と為すような過激な武断派であるナイトレイドでもその傾向はあった。

 

 革命軍本部からの命令で行っているとはいえ、暗殺を任務として受け入れて実行しているナイトレイドの構成員は大なり小なりタカ派の傾向が見られる。

 よく言えば尚武の精神が有ると見られるが、悪く言えば脳筋な空気が蔓延しているのが、武闘派が台頭する組織の常だ。

 そんな彼らにとって、Dr.スタイリッシュを野放しにしておく事は耐え難い愚行であり、機会があれば積極的に討ち果たすべきだという考えが現場に於ける暗黙のルールとして存在している程だ。

 

 そして、ナイトレイドの構成員たちの場合。

 帝具持ちで一騎当千の強者たちと雖も、所詮は彼らも末端の戦闘員でしかない。

 そういう人間にとって組織全体の趨勢や政治の機微などは往々にしてどうでもよく、自らの主義主張を如何にして通すかという事が何よりも貴ばれる。

 ソレを武人の矜持と言えば聞こえはいいが、その実独断専行を正当化するための身勝手な意見に過ぎない。

 

 ――そんな脳筋至上主義の連中だからこそ、首切りザンク討伐の際に特務軍と揉め事を起こしてしまった。

 

 

 

 当初の予定では、帝具を持った凶賊であるザンクを討伐する事が目的だったナイトレイド。

 帝都の治安を脅かす賊徒の退治は革命軍としても望む所だったし、敵の帝具を奪取出来れば革命軍の戦力が底上げされる。

 そういう目的でナイトレイドには首切りザンクの討伐命令が出ていた。

 

 だが、特務軍によってまんまと先を越され、剰えその後に一部の戦闘員が特務軍に対して独断専行により戦闘を挑んでしまっている。

 その切っ掛け及び下手人となったナイトレイドのアカメに対しては暫くの間謹慎処分が言い渡されたが、現場で上層部からの意思決定が徹底されていないのは甚だ問題だ。

 

 現状で特務軍が積極攻勢に出ていない以上、革命軍本部は此れ以上下手な真似をして刺激した結果、取り返しのつかない報復攻撃に出られる事を恐れている。

 革命軍の矜持や体裁を気にしないのなら、文治主義を徹底している内務局を有する征南将軍府は、放置しておけば時として利用すら可能な組織だ。

 現に、市民の通報という体を装って手出しの出来なかった領主や貴族の悪事の情報を特務軍に流し、間接的にその悪徳領主や貴族を潰す事が何度か実施されている現況がある。

 

 眠れる獅子を起こさない為にも、そして利用できる内は上手く利用する為に、Dr.スタイリッシュと彼の麾下部隊である特務軍にはなるべく不干渉でいくべきだというのが革命軍の最高意思決定機関が下した決断だ。

 とはいえ「全面降伏したいので手出しはしません」とは言えないので、表向きは特務軍の存在を革命軍にとっての不俱戴天の仇という体で扱ってはいる。

 だが、当然のことながら革命軍の勢力圏の目と鼻の先に特務軍の支部が存在する現状、下手に刺激したら一日で革命軍の本部が落とされるような事態も起こりかねない。

 

 故に特務軍を討伐対象にしているのはあくまでもポーズであり、ソレは末端に至るまでの全ての人員が理解している。

 当然だろう。ソレを理解せずに特務軍に喧嘩を売ってしまえば、目を背けたくなるような大粛清が敢行されるであろうから。

 本音と建前を使い分ける事は社会では誰でも行っている事で、ソレを蔑ろにするようでは、最悪の事態も有り得る。

 

 かなり後ろ向きな考えだが、上述した様々な理由から特務軍関連に手出しする事はタブー視されているのが現状。

 その判断の是非は兎も角、本部の決定に末端が自分の気分次第で従わないという現況は流石に不味い。

 現に、アカメの独断専行を許してしまったナジェンダには本部への一時出頭命令が出ている。

 

 生物であるならば例え帝国最強と謳われるエスデス将軍に対してでさえも必殺を期せるという破格の帝具村雨を保有するアカメを軽々に罰する事が出来ない以上、その上司の監督責任を問うしかないのは苦肉の策と言えるだろう。

 しかし、今回の問題は氷山の一角にしか過ぎない。

 現場で特務軍を、ひいてはドクターの存在を快く思わないという空気が出来ているのはナイトレイドだけではないのだ。

 

 革命軍では幾つかの実行戦力として帝都以外にも活動の場を設け、其処に複数の実働部隊のチームを派遣してある。

 そういう地方チームの幾つかでは、ドクターを討つべしという風潮は最早修正不能な程に肥大化している所もあった。

 そして、そういった過激派たちの間では、今回のナジェンダへの処罰に対して露骨に反対している所すらある。

 

 

 現場の総意がソレだとは言わないが、実働部隊はいずれも高い実力を持つ、総決起の際に頼るべき重要戦力だ。

 革命軍内部には組織を維持する為に文官仕事をする人員もいるが、成り立ちや目標からして武断政治になりがちである。

 自然、そういった武闘派の意見が尊重されやすく、結果的に革命軍は此の現場の声を無視する事が出来ない。

 

 

 

「――選ばねばなるまい。この、ルビコン川の瀬戸際で」

 思考の袋小路に嵌っていた自身の意識を覚醒させ、いつの間にか火が消えていた葉巻を灰皿に押し付けるナジェンダ。

 今は葉巻の煙よりも、格別に苦いコーヒーが飲みたい気分だった。

 

 ナジェンダ元将軍。

 彼女は今、重要な選択を迫られていた。

 本部に請求したDr.スタイリッシュのプロファイリング資料の他に、もう一通同封されていた命令書。

 其処には、こう記されていた。

 

『ナイトレイドの今回に於ける命令不徹底について査問する為、責任者であるナジェンダを革命軍本部へ召還する』

 

 

 


 

 

 

 ……さて、その後の話をしよう。

 ナジェンダは現場の暴走を咎められ責任問題に発展し本部へ召還されたが、最終的には特に御咎めナシ。

 それだけでなく、ナジェンダ本人へ帝具と、帝具持ち一名を戦力に与えて凱旋させるという驚くべき結果となった。

 相当数存在する過激派の声を抑えきれなかった為の対応だ。

 

 此のまるで()()()()()()()()()かのような結果。

 過激派たちは此の決定を褒めそやして喜んだが、逆に慎重派の連中の心証は最悪になった。

 当然だろう。

 どんな経緯と事情があったにせよ、現場の暴走で上層部の決定と通達に違反したのは明確な事実なのだ。

 ソレに対する処罰を不鮮明にしてしまった以上、綱紀粛正が保たれず、ともすれば今後も現場での暴走は起こり得るという土壌が出来上がってしまった。

 

 此の結果に対して一番焦ったのは、他ならないナジェンダだった。

 彼女は元将軍という武断派筆頭にも思える経歴でありながら、聡明で理知的な知将ともいうべき存在だ。

 立ち位置を明確にしろと言われたら、慎重派に属するという判断を下す心算でいた程である。

 それ故、本部での査問で如何なる決定が為されようとも甘んじて受け入れ、場合によってはアカメの分の泥まで被る気概でいた。

 ソレが上に立つ者の責務だと信じていたからだ。

 

 ――だが、その決意は他ならぬ上層部達によって蔑ろにされた。

 現場の声云々とは言うが、ソレに右往左往していては意思決定が徹底されない。

 上に立つ者の責務とは、自らの判断に責任を持つ事だ。

 断じて下の者に(おもね)る事ではない。

 そんな憤りも空しく、彼女は()()を称えられて帝具戦力を二つも得る事となる。

 

 

 こうして褒美に等しいモノを得ての帰還となれば、ナイトレイドに於ける空気感は最早ナジェンダ個人の力ではどうしようもない状況に陥った。

 アカメの独断専行は美談と崇められ、今後も過激な行動に傾倒していく事だろう。

 ナジェンダとしては罰を受ける事で内外に示しを付け、自身の部下達を諫める気でいた。

 だが、ソレも不可能になった以上、彼女は新しい舵取りを迫られる。

 

 即ち、特務軍との対決姿勢を強いられるという状況。

 

 彼女個人の意思としてはそのような旨味の無い無駄な積極策は採りたくなかったが、上からの通達と現場の空気がソレを許さない。

 一度特務軍と戦端を開いて、ソレを称賛されてしまった以上は今後も同じ路線で行動せねば組織の体裁が成り立たない。

 それ故、彼女は自分の戦略構想とは逸脱した作戦行動を行っていかねばならない。

 

 ソレが何を齎すのかはまだ分からないが……。

 だが、下手を打つと革命軍は草の根も残さぬ徹底的な殲滅の憂き目に遭う事だろう。

 いや、もしかすれば既にその運命に膝まで浸かっているのかもしれない。

 特務軍が今回の事でどう行動するのかは判断出来ないが、以降の特務軍に対する対応を少しでも誤れば、皆殺しにされても不思議はない。

 

 

 


 

 

 

 ナジェンダは自問する。

『今のナイトレイドの戦力で、ドクターを討てるのか?』

 

 感情論や身内の贔屓目を抜きにして客観的に考えると、この答えが出る。

『そんな事は不可能だ』

 

 

 

 彼女の脳裏にはトラウマとも呼ぶべき恐ろしい光景がこびりついている。

 帝国最強と称され、ナジェンダ自身もその性根は兎も角、一時期はその世評に偽り無しと強さを認めていたエスデス将軍。

 彼女が、帝具の能力を全開に使いながらも、()()()()()()()()()()()()()()()衝撃的なシーンが。

 

 一度殴り殺されると、即座に何らかの薬液を振りかけられて即座に()()()()エスデス。

 腕が潰れ脚が引き千切られ、首が粉砕されるという致命の重傷を負っていた筈のエスデスが、まるで時間を巻き戻すかのような再生を経て、そのまま嗤いながらドクターに挑み続ける姿。

 そんな恐るべき光景が、帝国から離反すると決め、自身の奮闘敵わず彼女に敗れて片目と片腕を失った後も脳内から消えてくれない。

 

 腕と眼を失うという絶望的な敗北の苦い記憶よりも、自身よりも強いと痛感したその化物を嬲るように殴殺していたドクター(化物)の記憶。

 そんな、『化物よりも強い化物』の事が、ナジェンダは怖くて怖くてたまらなかった。

 

 

 

 ドクターは将軍相当官として扱われているが、真実その役職に相応しいだけの戦闘能力が実存すると判断された上での任官であるとは、大多数の人間が知らない。

 将軍任官は技術士官としての功績による部分が大きいという認識が為されているが、実際には帝国最強と呼び声高い将軍すらも赤子の手をひねるように嬲り殺しに出来てしまうのがドクターの正体だ。

 

 そんな武神と呼んでも差し支えが無いと思えるような化物を相手に、果たして帝具が幾らか有るだけで挑んでいいものだろうか?

 本当に今の戦力でドクターに勝てるのか?

 果たして幾つ帝具を揃えたらドクターに勝てるのだろうか?

 ナジェンダの脳裏にはその疑念が染み付いて離れない。

 

 抑々、帝国最強と謳われたエスデスに対しては、決起の際に師団規模の部隊を当てて物量で消耗させるという作戦が制定されている。

 エスデスが広域を一度に攻撃可能な帝具を保有しているといった事情も勘案してだが、現場に近い指揮官の認識は少し異なった。

 彼女は単体での戦闘力が恐ろしく高く、帝具持ちを総動員し、尚且つ一般兵も多量にぶつけなければ勝機は見えないという認識が、指揮官層に於いては厳然と存在した。

 

 ソレは彼女の戦闘を一度でも目にした人間ならば誰しもが納得する意見だったが、此処に来てソレ以上の化物の存在が浮上してしまう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ソレを真に理解している人間は少ない。

 偶々エスデスとドクターの手合わせを目撃した事の有る人間くらいしか知らない話だ。

 ナジェンダ自身も人伝に聞いたとしても決して信じなかったであろうと断言できる程に荒唐無稽な話である。

 そして残念ながら、『技術士官風情何するもの』という風潮が存在し、ドクターの強さについては与太話扱いされて現場では殆ど信じられていない。

 

 ……コレは、非常に不味い状況だ。

 ドクターは個人での戦闘能力がエスデスを凌駕し、神器と呼称される武具の生産や再生治療の存在にも見られるように、製造や治療や整備などの後方支援にも秀でた人間である。

 その上、三軍を指揮下に置いて瑕疵無く運営出来ている以上、彼自身の統率能力も疑いの余地なく高い。

 そんな正真正銘の怪物を、多くの構成員は侮っている。

 ドクターを討つべしという空気があるのも、その侮りの存在が大きい。

 

 ……そして、そんな空気感に支配されているのがナイトレイドの現状である。

 ナジェンダが幾ら言葉を重ねた所で、戦闘員たるナイトレイドの実行部隊員たちはその言葉を歯牙にもかけないだろう。

 寧ろ、上司が臆病風に吹かれたと認識してしまう危険性すらあった。

 

 

 

 ――さて、此処でまた選択だ。

 

 ナジェンダは此度の選択を誤った。

 本部に出向いて褒美を受け取るという事態は、何としても避けるべき状況だったのだ。

 ソレを失敗したから、こうして絶望的な状況に向けて真っ直ぐに突き進むハメに陥っている。

 今更ソレを覆すウルトラCは繰り出せないし、そんな鬼札はそもそも存在しない。

 

 ――故に、選択だ。

 

 ナジェンダは再び選択の機会を得た。

 即ち……特務軍との戦闘を回避すべきか、否か。

 過去の決定はどうしようも出来ないが、これからの状況は努力次第でどうにでも出来る。

 

 

 

 革命軍の保守派は押されている。

 本部の意思決定は崩れかけている。

 撤回は不可能だ。

 状況は最高……これより如何する?

 

 

 彼女の選択を尊重しよう……ソレが彼女自身の意思から生まれたモノである以上は。




設定をこねくり回す回は此処で終了。
次回からちゃんと話を進めます。
ヒロイン二名の日常回の予定です。


関係無いけど今までのROM専から投稿勢になったことで、お気に入り登録してた先輩投稿者の方々の小説で誤字報告をするのが気が引けるようになってしまいました。
なんか自分も書いてるから他所様の誤字を指摘するのがおこがましい真似をしているような気分になりまして…。自意識過剰とは思いますが、一般通過読者と他所の作者とでは自分のメンタルが違いますね。
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