憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
安西将軍であったナカキドを捕縛し処刑台送りにしてから、一週間が経過したわ。
アタシの想定よりもその件での波紋は広がらず、帝都は終始穏やかな空気が流れている状況よ。
まあ、市民にとっては顔も知らない将軍様の生死よりも、明日の糧が得られるかどうかの方が大事って事ね。
西方地域を暫定的に内務局の支配下に置いたアタシは、早速統治改革を行ったもの。
その結果、目に見えて治安や景気が回復していったんだから郁子なるかな。ショッギョムッジョ!
いや、ナカキドの統治も別に悪いモノじゃあなかったのよ?
気位と理想ばかりが肥大化している良識派にしては珍しく、武断派としての及第点はあげられる程度に内政を切り盛りしていたんですもの。
……ただ、それでもあくまでも「武断政治にしては」という但し書きが付くわ。
ナカキドは自身の政務能力が決して高くない事を自覚していたようで、統治に関してはあまり口出しせずに文官に任せる部分が多かったらしいのよ。
ソレは脳筋の武断派なら寧ろ正解と断言出来るやり様なんだけど、その結果発生したのが一部の酷吏による専横と政の壟断ね。
チェック機能を用意しなかったのが最大の失敗という奴なんだけど、ナカキドの統治下では西方地域でも相応の圧政が存在したのよ。
良識派とは何だったのか……。
ソレが目を引くけど、他にも単純に能力や人材不足で統治が上手く回ってなかったり、もっとシンプルに帝都濁流派から課された重税の支払い能力欠如から生じる混乱があったり等々……。
まあ端的に言って他とあんまり変わらないわ。
財政難から重税を課して、その結果住民の離散が発生し、悪化した政情では治安も悪くなり、ソレが悪循環となり……末期帝国の御決りな荒廃スパイラルよ。
そんな中で丁度ナカキドが革命軍へ離反する動きを見せた事だし、渡りに船と思ってぶっ潰したわ。
帝国西部には財政破綻した領地がちょっと笑えないくらいあったもの。
ソレをナカキドは「重税を課す大臣一派が悪い」と思考停止しちゃってたけどね。
確かに諸悪の根源はソレだけど、ナカキドの能力不足や部下の管理不足とか、奴の原因と呼べる要素も決して少なくないわよ。
将軍なら配下の管理くらい確りやっといて欲しいものね。
というかアタシの存在がある南部と、エスデス関連でてこ入れしてやってる北部に関しては重税が課されていても財政破綻していないのよ? ……重税を肯定するワケじゃあないケドも。
スタイリッシュ財団の進出を受け入れてくれたらソレで済むのに、ナカキドを筆頭に内政干渉を嫌った多くの権力者はウチの関与を遮断していたものねぇ。
確かに税制面や流通なんかの部分で協力を要請しているけど、それだって私利私欲の為じゃなくて進出地域を富ませる為じゃあないの。
ソレが理解出来ない阿呆共が、結局自分の首を絞めて自滅してんのよ。
馬鹿丸出しね。
まあそんな馬鹿共でも、現状の帝国の治世を回すには必要な存在だったのよ。
人員の枯渇は深刻な問題になってきているけど、現状の国体を維持するからには急過ぎる刷新は問題ばかりが噴出するわ。
革命軍の蜂起を待たずに「アタシが天に立つ」ってやってもいいんだけど、アタシって権力欲薄いし。
というかこんな不良債権の塊みたいな帝国なんか欲しくないわ。
だから現状では失格と判断したゴミを掃除していく事を既定路線に頑張っていくしかないんだけど……となれば、ナイトレイドの存在がネックよね。
連中は帝都のゴミ掃除に熱心なんだし、ウチに被害が来ない限りはどうでもいいのよ。
実際、ゴミを取り除いてくれるんなら此方としてもありがたいし。
となればアタシ的には放置推奨なんだけど、大臣に何か余計な事を言われでもしないかヒヤヒヤしてるわ。
ウチの人間はナイトレイド如きに殺られないから連中がどう足掻こうが高みの見物と洒落込みたい所よ?
そもそも革命軍の幹部には無自覚なのも含めて洗脳したのや転向したのや元からアタシの配下だったのとかがスパイしまくってるんですもの。殺ろうと思えば即日で首脳部を斬首戦術で刈り取るくらい出来ちゃうのよね。
そして、帝都の一部領域に職務で携わる内務局の存在がある以上、上に「帝都の賊を討て」とか言われでもしたらやらないと職務怠慢になっちゃうわ。
……そうなったら、シェーレとかブラートとかの原作死亡キャラを討伐したらいいでしょ。
原作でも退場してるんだから、此処で死んでも大差ないわよね、の精神って感じ。丁度革命軍には無自覚な洗脳済みの連中も含めて、幾らかの情報源があることだし……まあやろうとすればいつでも実行可能なのよね。
仮にソレで何か致命的問題が発生しても、ウチの人間が不利益を被らないならスルー推奨よ。
……うん、そうなったらそうなったってな心意気で。
よし、じゃあそういう方向でいきましょう。
「ごめんなさいっ。お待たせしました」
「いい。時間通り」
小走りに待ち合わせ場所まで行くと、既にクロメさんが手持無沙汰に待っていた。
此方も刻限の10分前には到着したのだけど、少し待たせてしまいましたか。
申し訳なく思い謝るが、特に気にした風もなくゆるゆると首を振るクロメさん。
とはいえまだ寒さの抜けない季節です。
どれくらい待っていたのか分かりませんが、お待たせしたのは事実です。
現に頬に薄らと朱が差していて、寒い中を結構な時間立ちっぱなしだった事が伺えます。
コレは何かでお詫びをしたい所ですが……。
「んー……どうしても気になるなら、今日のセリューの“順番”を――「イヤ☆です」……だよね」
危ない危ない。
私が引け目を感じたとみるや、今日のドクターとの夜伽番を代わって欲しいとか言い出すだなんて……。クロメさん、恐ろしい子……ッ!!
ソレは例えエスデスさんが相手でも譲れない一線ですよ?
……まあ、流石に順番を譲るのはイヤですが……。
「……じゃあ、今日は“二人で”にしましょう。それでいいなら――「やる!!」……ではそのように」
食い気味で乗ってきましたね。
まあいいでしょう。
私もたまには人を増やしてヤらないと、快楽で溺れてしまいます。
ソレもソレで素敵ですが、まだ淫蕩に耽る贅沢は早いでしょう。
ドクターにいぢめられるのも嫌いじゃないですが、全力のドクターを相手にするには一人では難しいモノがあります。
だったら人を増やすのも不思議な話ではありません。
今日は二人でドクターにご奉仕しましょうか。
「何か特に見たいものってあります?」
「んー、春物のカーディガンとか欲しいかな」
さて、夜の話もそこそこにクロメさんと連れ立って帝都の商店街へ向かう。
今日は私とクロメさんの有休が重なったから、折角だしお買い物に行こうという事になったんです。
征南将軍府関連の各部署は、所属員に対して月に一度は有給を取る事を徹底させています。
あんまりみんなが有給を消化しないものだから、結構な問題になってしまったそうですよ。
その結果、強制的に月に一回は有給を取らないと逆に処罰されるという不可思議な取り決めが出来てしまう程。
最初はただの規則でしかなかったんです。
有休消化率が悪いから、有給を取る事を奨励する程度の、特に罰則も無いゆるい規則。
一応木人形たちに関してはその規則の適応範囲外にするなどしてありますが、ところが肝心の生身の人間たちが言っても休もうとしない。
その結果、ドクターからの命令で有給消化が義務付けられた次第です。
破った場合は……≪黒棺≫の部屋行きです。
ドクター以外にあの部屋から生還した生物っていないんですからね。
……流石に私も生きたまま全身の穴という穴に真っ黒で脂ぎった例のアレが入り込んできて貪り食われるのはイヤですから……。
そりゃあもう全員が一も二も無く命令を絶対遵守しましたよ。ギアス要らずですね。
まあ私から見ても技術部の方々や内務局の方々は働き過ぎでしたしね。
いくらドクターの賦活魔術で無限に起きていられるとはいえ、人間なんだから少しは睡眠をとらないと精神が先に参ってしまいます。
というか、既に大量の木人形も相応に成長しているし、死体や賊徒ですら洗脳木人形にリクルート出来るウチで、生身の人間がそうまでして過労状態にある必要性って無いんですよ。
他所と違ってウチって人材が有り余っているんですし。
技術部も内務局もその他の全ての部署も、結局は「仕事が楽しい」から過剰労働状態を止めない。
「仕事に遣り甲斐を感じる」って普通なら良い事かもしれないですよ?
こんな末期の斜陽国家で、自分の仕事を楽しくやれて、そして仕事内容に誇りを持てる……ええ、それってとっても素敵な事でしょうね。
でも度を越してしまえば指導も止む無しでしょう。
指導の結果、征南将軍府関連の部署では年次有給休暇の消化率が悪ければ処罰という規則が新たに制定されました。
月毎に最低消化目標数を定めて、ソレから逸脱してしまえば……最悪は恐怖公の待つ暗室でまる一日過ごす羽目になります。
まあ業務状況によりけりですから、あくまでも目安ですが。
それでも意図的に無視してしまえば……“恐怖”を冠する蟲たちの主が誠心誠意歓待してくれますよ。
さて、そういう経緯で私は今月の有給を消化する為に休日調整をしていたんですが、偶々暗殺部隊のクロメさんと休日が合いまして。
だったらショッピングにでも行こうってお話になったんです。
クロメさんはドクターのハーレム同盟の中でも所属と派閥の関係で中々ウチに来る事が出来ませんから。
……確か、暗殺部隊はサイキュウ主席内政官の派閥でしたっけ?
微妙にオネスト閥に組み込まれてないんですよね。
クロメさんはあくまでもオネスト大臣の配下の配下。陪臣の陪臣って奴です。
サイキュウは濁流派としては当然ながらオネスト閥に従っていますが、かと言ってオネスト大臣が自由自在に采配出来る部下でもない。
ウチはオネスト閥とは可もなく不可もなくな関係ですが、帝具を献上したり大臣の政敵を排除してやったりと、決して険悪な関係ではありません。
便宜を図ってやっている、という事もあって大臣も此方へ一定の配慮を見せるくらいです。
しかし、サイキュウ派閥と
寧ろクロメさんを頻繁にウチの仕事に駆り出したり、暗殺部隊の再調整を独自に行ったりしている関係で少しいざこざがありました。
そういう複雑な所属の関係で、クロメさんってあんまり自由にウチに来られないんですよ。
だからこういう時くらいじゃないとご一緒出来ません。
今日の夜の予定にクロメさんも入れてあげたのも、そういう部分を少なからず考えての事です。
「タピオカドリンク……? マルメタピオカガエルの卵を使ってるの?」
「違います」
その理屈だとスベスベマンジュウガニやアメンボからは甘味が精製出来てしまいますよ。
というか順序が逆です。タピオカに似てるからタピオカガエルなんだし、
――なんで南方地域の両生類の生態について語らないといけないんですかねぇ……。
さて、気を取り直して、今はウィンドウショッピングを楽しみましょう。
私達は何年か周期で流行るタピオカミルクティーを嗜むタピオカ女子です。
ブームが去ったとはいえ、いまだに人気ですしお値段も相応。
でもこう見えて私達って高給取りなので、ちょっとお高いお店にも余裕で通えますから。
……高いお店って大概はスタイリッシュ財団の系列店なんですがね。
それはさておき帝都の目抜き通りをぶらぶらする事暫し。
お化粧品とか春物衣料なんかをチェックします。
クロメさんってドクターに抱かれるようになってからオシャレとかお化粧とかにも気を使うようになったんですが、それまでそういうのには疎かったらしくて。
だから私がお教えしているんです。
まあ、私もボルスさんの奥さんのマリアさんや、後はドクターに教わっているのをそのまま教えているだけなんですが。
マリアさんは淑女の見本と言ってもいいくらいの素敵な方で、お化粧やオシャレの作法にも詳しいです。
そして、ドクターは……あの人って出来ない事ってあるんでしょうか?
なんでもできるドクターですから、お化粧などのやり方も熟知していました。
綺麗になった姿を見せたい人に教えを乞うというのは中々に複雑な心境でしたが、私もドクターの御世話になるようになってから早十年近く。
少なくともお化粧に関してはドクターから免許皆伝を頂いて独り立ちを勝ち得ています。
最近は自分でオリジナルのやり方を模索したり、ファッション誌をチェックして流行りを取り入れたりと自身を磨く事に余念が有りません。
「おお、此のニット帽可愛い」
「あ、いいですねソレ。イロチお揃いで買っちゃいますか?」
お化粧品も新作をチェックして試したし、春物は新作から古着まで入念にチェックします。
欲しいモノが有れば迷わず購入。
高所得者の定めとして、資源の再配分を加速させる為にもお金は溜め込まないのが吉ですし。
そんな感じで結構散財しましたが、買い込んだ商品は【影】の中に次々放り込むので手透きのままです。
私が【影】を自由に使えるようになったのは本当に最近になってからなんですよね。
コレって五大属性に含まれない特殊な素養が必要で、通常ならその適性が無い人間には絶対に扱えない超高難易度魔術なんです。
ただ、ドクターお手製の魔道具を使う事で最近になってから一般兵でも修練次第で使用可能になって、そのおかげでウチの物資関連に関しての融通はかなりの大改革が起きました。
今では幹部全員が【影】を扱えるようになっている程ですよ。
戦略的にもそうなんですが、コレって日常でもかなり便利なんですよね。
今みたいに大荷物を簡単に仕舞う事は勿論、上級の使い手になれば転移も出来るようになります。
勿論攻撃や防御にも転用出来ますし、本来なら虚数魔術ってそっちがメインらしいですが。
「ねえねえセリュー。コウガマグロだ」
「ああ、ドクターが好きなヤツですね」
そういう具合にお買い物を続け、今は個人的な買い物も終わって夕食の食材を買っている所です。
折角の休日ですし、ドクターにお料理を振る舞いたかったんですよ。
クロメさんもある程度の料理は出来ますし、私もドクターに十分に仕込まれたので。
本日はシンプルに煮込みハンバーグでも作ろうと思います。
ソースはトマトの酸味が効いたデミグラスソース。
肉は合い挽き肉ではなくまじりっけのない牛挽肉。
そして隠し味は東方の万能調味料ミソ・ペースト!
味がまろやかで深みのあるものになるんですよねー。
スープは此方もシンプルにオニオンスープ。
丁度新玉ねぎの時期ですし、玉ねぎを存分に活用したメニューにします。
副菜も玉ねぎ尽くしでいきますよ。
玉ねぎのベーコン炒めに、玉ねぎと季節の鮮魚の東方風カルパッチョに、オニオンフライ。
この日の為にちょっと前から仕込んでおいた玉ねぎのピクルスもあります。
そして使用する玉ねぎはユビキタス荘園の朝採れ新鮮野菜。
市場での買い物のメインはやっぱり鮮魚でしょうか。
四級危険種のコウガマグロの良いモノが出荷していたので、ソレをカルパッチョにする事にしました。
一匹丸ごと売っていて結構大きなサイズだったので、今日食べきれない分は醤油漬けにして翌日以降に食べましょう。
それでも食べきれなくても、【影】の設定を弄れば時間停止状態で超長期保存が可能ですしね。
本音を言えばもう少しあっさりしたお魚が良かったんですが、コウガマグロもコレはコレで良い食材です。
脂もたっぷり乗っているようですし、此処はいっそのことガツンとした味付けの前菜と副菜の中間くらいのオードブルにします。
というかドクターがお酒のアテにするだろうから少々食べ合わせが悪くても買っただけですが。
私もマグロの漬け茶漬けは好きですから、明日の朝食も楽しみですね。
そんな風に楽しくお買い物を済ませて、帰宅途中の時。
近道にと人気の無かった広場を通り抜けようとしたら、招かれざる客と遭遇してしまいました。
『――キュっ!?』
「あ、すみません!」
裏通りから慌ただしく飛び出してきた女性二人組。
私達の少し後ろを歩いていたコロがその二人組に蹴飛ばされてしまい、女性たちは謝りながらコロを抱きかかえて渡そうとしてきた。
だが…………。
「……? なによ、アタシ達の顔に何かついてる?」
「いえ……」
えぇ……(困惑)
何で此の方は平然としているんでしょうか……。
今勝気な発言をしたツインテールの女の子は明らかに(革命軍に渡ったナジェンダ元将軍が持ち出した)【“浪漫砲台”パンプキン】の帝具を持っているし、もう一人は手配書の人相書きからナイトレイドのシェーレと断定出来てしまいます。
【“万物両断”エクスタス】も見せびらかすように背中に背負ってますし。
一瞬で身バレするようなアホ共が、何故こんなにも堂々と大通りを爆走してきたんでしょうか?
……いくら今日が非番だとはいえ、目の前に凶悪指名手配犯が居たら流石にお仕事しますよ?
明らかに此の二人はナイトレイドの人達じゃないですか。
コレは、流石に……。
「――手配書に記されている特徴と一致、ナイトレイドのシェーレと断定。その同行者も帝具パンプキンを所持しているからナイトレイドと断定」
『ッ!?』
クロメさんが得物を抜きながら淡々と事実を告げるように宣言する。
私がどう対応しようか悩んでいた間に抹殺する事に決めてしまったようだ。
その宣告に驚愕した二人は抱えていたコロを放り投げてお互いの得物を構えた。
「セリュー、片方お願い」
「……しょうがないにゃぁ」
まあ殺るのは殺るんですよ。
こんなアホアホな賊を相手取るのは気が進まないだけで。
……とはいえ私も宮仕えの身。
武人の矜持だとか心意気だとか、そういう贅沢が許される身分ではありません。
そうと決まれば後腐れなくブチ殺し確定です。
……そういえば、革命軍を追い詰め過ぎないように殺していい標的は決まってたんでしたっけ?
近接オンリーのシェーレは確か殺ってよかった筈。
遠距離専門っぽい……桃色何某は一応除外しときましょう。
「クロメさん、シェーレをまずは仕留めます」
「ん、了解」
ま、パパっと殺っちゃいましょう。
お夕飯の時間に遅れちゃいます。
朝飯前というか夕飯前の感覚でナイトレイドと戦闘を始めた二人。
頑張れナイトレイド。原作主人公陣営の底力を見せてくれ。
さもなくば地獄を見るぞ。
オバロ履修者には常識、ナザリック名物蟲風呂が待っている。
人間の生命力の輝きを今此処に。