憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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筆が乗りました。
一話5000字を目安にしたいと言いましたが今回約2倍のボリュームです。
話は殆ど動きませんが。
暫くは原作前の仕込みをします。


File03:狂気感染

「――と、まあこんな具合ですが如何かしら大臣?」

 モニターから目を離し、組んでいた足を組み替えて丸椅子をぐるりと回転させる。

 振り向いた先では巨漢の男がクリスマスに食べるようなローストチキンにかぶりついた所だった。

 ……本当に、何時でも何処でも何かしら食ってる男ね。そういう病気かしら。やだ怖い。

 それでいて関取のようにあの巨躯は筋肉が殆どだって言うんだから、色々とオカシイわよねぇ。

 

「ヌフフ! よろしいでしょう。目の上の瘤だった私の政敵共も一掃出来た事ですし……貴方が設立具申していた“内務局”でしたか? 全て許可すると致しましょう」

 オネスト大臣は満足げにそう告げると、話す時間も惜しいとでも言うかのようにまた肉に齧りつく。

 しかし一心不乱に肉を咀嚼する大臣だが……それでいて視線は此方に寄越して離さない。まさに野獣の眼光。

 ……まだ何か言いたい事があるのかしら。(私に言いたいことは)ないです。

 

「――それじゃあ、これから手続きしたりしないといけないし、アタシは此処で失礼するわね」

 大臣はまだ此方に対し含むところがあるようだけど、そんなモノに一々関わっていたら命が幾つ有っても足りないわ。政界の闇は実際コワイ。

 だから、大臣が何か言い出す前に退散しようとしたのだけれども……。

 

「まあ、お待ちくださいドクター」

 パチン、と大臣が指を鳴らすと床下に隠れていた大臣の子飼いである『羅刹四鬼』が音もなく現れた。

 帝具無しでも武術だけで帝具使いと渡り合える皇拳寺の最上位練士共。

 其れが四人全員でアタシを取り囲んでいる……普通に考えたら絶体絶命ねぇ。

 

「フッフッフ。そう急がずともよろしいではないですか。まだまだお話したい事は幾らでもありますしねぇ」

 ホモ特有のねっとりした声音でそんな事を言ってくる大臣(熱い風評被害)

 生憎と死亡フラグが肉を着込んでいるようなスモトリ系中年と話したい事なんてアタシには無いんだけどね。

 どうしてもアタシとお喋りしたいのなら『鬼無双』を覚えてから出直しなさいな。

 エドモンド本田さんに関する話なら聞いてあげてもいいわよ。

 

「あら、デートのお誘いかしら? ……や、ゴメンなさいね。アタシ確かにオカマだけど性的にはノーマルなのよ」

 元がどうだったかは分からないんだけど、少なくとも憑依後のアタシは普通に異性愛者(ストレート)よ。

 ……此のオカマロールが外れなくてもね!!

 

「それに、アタシを殺そうと企んでる暗殺者達とお茶できる程、アタシの胆は太くないのよねぇ」

 まあ、アタシの槍は太いんだけど! なんちゃって♪

 

 そんなアタシの安い挑発に釣られたのか、取り囲んでいた内の一人が攻撃を仕掛けてきた。

 確か……イバラとかいう奴ね。

 実質的な羅刹四鬼のリーダー格で、実力も一番高いんだったかしら。

 ……その割に煽り耐性が随分低いようだけど大丈夫? イカレてんの?

 

 最速の攻撃であるが故に、フェイントの無い真っ直ぐな貫手。

 唯の非戦闘員である科学者には到底回避不能な一撃ね。

 

 

 


 

 

 

◇◇◇第4小会議室◇◇◇

 

 

 

 ドスッ!! と鈍い音を立てて貫手がDr.スタイリッシュの左胸を貫く。

「へっへっ。あんまり大きな口をききやがるモンだから、つい殺しちまったよぉ」

 イバラは貫いた心臓の感触を味わうかのようにしてゆっくりと腕を引き抜いた。

 興奮を鎮める為か、長い舌で唇をベロリと舐めて眼をギョロつかせる。

 

「……イバラ、大臣は技術を引き出させようとしておられたのだぞ」

 しかしソレを咎めるのは禿頭の大男シュテンだ。

 筋肉ゴリラのような見た目に反して理知的な部分があるようで、指示から逸脱した仲間の行為に難色を示した。

 

「そんなにすぐに殺しちゃったら不味いんじゃない?」

「あ~あ、アタシ知らないわよ」

 そしてソレは残りの女性陣二名も同感のようで、スズカとメズもイバラを非難するような素振りを見せる。

 

 実際、『何らかの稀有な技術を開発したらしいDr.スタイリッシュにソレを供出させる』という大臣の目的は予め伝えられているので、逸って対象を害してしまったのは明らかにイバラの失態だった。

 如何にDr.スタイリッシュが挑発的な振る舞いをしていようとも、金の卵を産むガチョウを殺していい理由にはならない。

 ……だが、どうしてか大臣はソレを咎める事はなく、事態の推移を見守って無言でターキーを貪っていた。

 

 

 間抜けにも対象の死亡を確認もせずに四人は談笑に興じている。

 ソレは、強者の奢りだ。

 此の程度の相手に、自分達が敗れる筈も無い……そんな迷妄に囚われている。

 

 勿論、普通は心臓をくり貫かれて生きていられる人間……どころかそんな生物なんて存在する筈がないのだが……。

 ――彼らの不幸は、リアルタイムでモニターに中継されていた大会議室での惨劇を、床下からでは角度の関係でよく把握出来なかった事だ。

 少しでもモニターの内容を確認、それも視認出来ていれば、Dr.スタイリッシュにとって()()()()()()()()()()()()()という埒外の事実を窺い知る事が出来た筈だ。

 

「――ちょっと気を抜き過ぎじゃあないかしら?」

「「「「ッ!?」」」」

 

 

 命が消えた筈の骸から、何故か声が発された。

 確実に殺害した筈のソレから命の鼓動が感じられた事に驚愕した四人だったが、即座に切り替えて戦闘態勢に移行。

 驚きこそすれどもすぐに対処しようと出来たのは、流石に歴戦の猛者揃いだと言える。

 死体が動くという常識外れの事態に即応出来たのは、帝具使いと戦闘を行う経験の有った彼らにとって、擬死を行うような輩程度は想定の範囲内に在ったからだ。

 

 ――しかし、その程度の心構えはすぐに崩されてしまう。

 

「あぁんッ!?」

「ヌゥ!?」

「な、何よアレ!?」

「何で死んでないの!?」

 

 愕然とする四人の前で、風穴の空いた胸に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ドクター。

 向こう側の景色がくっきり視認出来る程の大きな裂け目が空いたその胸からは、潰れて最早脈動していない心臓と、おびただしい量の出血が確認出来る。

 

「はぁ……いきなり殺しにかかるだなんて……野蛮ねぇホントに」

 心底呆れたような声音で軽く言い放つドクター。

 しかし、言葉とは裏腹に猟奇的な行動を止めない。

 徐に自身の心臓を掴んだかと思えば――ブチブチと音を立てて抉り取った。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 そのあまりにも狂気的な行動に、さしもの羅刹四鬼も血の気を失くす。

 一体何処の世界に自身の心臓を自分の手で摘出する人間がいるというのか。

 

 羅刹四鬼の四人は危険種の煮汁を食らって育った所為で、まるで仙人の如き緻密で激烈なまでの肉体操作を会得している。

 斬撃を回避する為に胴体を極限まで捻り、上体と下体がコルセットで絞られたかのような極端な形状に出来るような。

 または、体毛を針鼠のように鋭く尖った刺突として繰り出すような。

 そういった身体操法の類を会得しているような彼らであっても、心臓を取り除いて生きていられる訳がない。

 当然だが、そんな猟奇的な自傷行為を行ったドクターを見て少なくない恐怖を感じている。

 

 

「痛いわぁ……痛くて痛くて……気が狂いそうよ

 

 

 ブチュ!! と派手な音を立てて心臓は握りつぶされた。

 自らの掌中で四散した臓器は、最早修復不能な程に原型を留めていない。

 

 

「へ、へへ……」

「な、なんと……」

「うっ……」

「ひ、ひぇ……」

 

 

 

◇◇◇◆◇◆◇◆◇◇◇

 

 

 

 今迄相応に他者の死に触れて、自らの手でソレを為してきた羅刹四鬼であったが……狂った男によるあまりにも悍ましい自傷行為には流石の彼らですら言葉を失った。

 ――そんな心の隙間を狙ったかのように、ドクターは自身を囲む()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 四方向からドクターを取り囲んでいた四人は、()()1()2()()()()()()()()()()()身を竦めた。

 たった今自身の心臓を抉り取って握り潰した彼は、3()()()()()()()4()()()()()で四者をじっと見詰めている。

 その不気味な姿にどうしようもない怖気を感じた四人だが、緊張感に耐えられなかった一人が堰を切ったように動き出してしまう。

 

 

「――ぁ、あああああああああああッ!!」

 

 やはりというか、真っ先に動きを見せたのはイバラだった。

 見た目と言動に違わず、彼は沸点が低いし手も早い。

 そして強者故の考え無しな部分も相応に有り、防御よりも攻撃に比重が傾いた男だ。

 そんな彼がこのような悍ましい空気に耐えられないとなれば、思わず攻撃を選択するのも順当な話だった。

 

「死ぃいいねぇええええええッ!!」

 

 後の事など考えぬとばかりに激しい攻めを行うイバラ。

 残像から腕が分身したかのように見える程の苛烈な拳撃の連続。

 皇拳寺百裂拳。

 割と色々な作品に存在する『北斗〇拳奥義 北斗百裂拳』のオマージュである『○○百裂拳』の一種だが、此の世界に於いては最強の武術である皇拳寺拳法の、その奥義である此の技は当然ながら圧倒的な攻撃力を秘めている。

 そして皇拳寺の中でも最強クラスに位置するイバラの放つ此の奥義は、他の凡百な拳法家が扱うソレとは雲泥の差が在った。

 

「ヒャハハハハハっ!! 死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええええ!!」

 鉄をも貫く剛拳の連撃により、ドクターは徐々に原型を残さぬ肉塊へと変形させられていく。

 あまりにも強烈な攻撃の連続によって、遂には所々が千切れてバラの肉片へと変貌するドクター。

 しかし、其処まで蹂躙しても興奮の収まらないイバラは大きな肉塊へ馬乗りになって連撃を継続する。

 

「ヒャハっ! ヒハハハハハハっ!! どうよ! オイ! コレが! 羅刹四鬼だ!! 俺の力だぁ!!」

 

 狂ったように笑い叫びながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()イバラ。

 自身の拳が痛んで血が滲んで肉が抉れても、それでも攻撃の手を緩めない。

 終いには骨が露出して拳が徐々に削れていっても、彼に憑りついた狂気は治まる気配が無かった。

 

 

 

 ――どれだけ時間が経過したのか。

 狂奔に呑まれ笑い転げるイバラには、最早自分が何者で、何をしていたのかすら理解出来なくなっていた。

 それでも尚狂ったように両腕を振り回す。

 ()()()()()()()()()()()()を。

 

 既に全身の感覚が消失した彼には、胸の辺りまでが肉の大地に呑まれている事が理解出来ていなかった。

 ……ソレは、少なくとも今の彼にとっては幸福だった。

 マイマイカブリがカタツムリを啜り喰らうかのように、包まれた肉壁に擦り潰されて溶かされていく悍ましい感覚を知覚する事が無かったのだから。

 

 

 

◇◇◇◆◇◆◇◆◇◇◇

 

 

 


 

 

 

「――ジャスト1分。いい悪夢(ゆめ)は見れたかしら?」

「――グヌッ!?」

 

 パチン、と掌を合わせて柏手を打つと、汚染度合いが低い大臣だけが正気に返ったわ。

 他の四人は皆棒立ちになって白痴のように茫然自失に陥っているわね。

 半開きにした口からはよだれが垂れて、眼の焦点は何処にも合わずに忙しなく眼球が動き続けている。……ヤダー、超キモーイ。

 正気度ロールに致命的失敗(ファンブル)しちゃったのね、可哀相に。

 

「……さて、いきなり殺されかかったワケで……コレは反撃しても仕方ないんじゃあないかしらぁ?」

「ぐっ……!!」

 

 未だに感染した狂気の残滓によって満足に動けない大臣へと、一歩一歩近づいていく。

 両手を肉体操作で鋭い爪のある状態に変え、熊手に構えたままにじり寄っていく。

 大臣は僅かに身動ぎするが、椅子の上から移動する事すら出来ていない。

 

「アナタ……覚悟している人、よね……人を殺そうとするって事は……自分も殺されるかもしれないって、覚悟している人……よねぇ?」

「き、貴様……!!」

 

 大臣にとっては絶体絶命の危機。

 頼みの綱である羅刹四鬼は機能不全。

 私兵の類はまだいくらでもいるのだろうけど、今から呼びつけてこの部屋に来れるワケないしね。

 という事で、大臣ってばマジで殺される5秒前よ。

 

「――馬鹿めッ!!」

――キュイン!!――

「あら?」

「………………?」

「……………………??」

「「…………………………???」」

 

 

 ………………????

 何やら大臣が唐突に額の黒い装飾をパカっと開いて勝ち誇ったんだけど……アタシは何ともないわよ?

 

「「……………………」」

 気まずい沈黙が流れる。多分何かしらの帝具だったんでしょうけど……。

 ……まあいいわ。仕切り直しましょう。

 

「――覚悟無き者が、命を弄んだ報いよ」

「ヒッ!?」

 

 ――引き絞った剛爪が、鋭く突き出される。

 

 

――ドスッ!!

 ナニカを貫いた音だけが、無音の室内に響く。

 

 

 


 

 

 

 Oh my God! You killed Honest!(大臣が死んだ!) You bastard!!(此の人でなし!!)

「――いや普通に殺ってないんだけどね」

 別にオネスト大臣が『黒魔術の儀式で無限に産まれ直す宿業を背負った』訳じゃないわよ? 何処のケニー君よソレ。設定的にはアタシの方がソレっぽいし。

 普通に狂気付与で擬死感覚を味わって頂いただけ。……いや、一回殺したのは事実なんだけどね。

 

 ……そもそも、よりにもよって()殺ったら不味いでしょうに。

 先程の状況を思い出して若干の陰鬱さを滲ませつつ、宮仕えの辛さを噛み締める。

 ふつーに殺せたし、殺せるのに殺せないってのは、思った以上にストレスよねぇ……。

 

 

 

 アタシは大臣の下を辞して今は溜息混じりに帝都の街並みを歩いていた。

 あの時は脅しで一回殺した後に蘇生したけど、流石に大臣をあの場で始末するような短絡的な軽挙妄動には移れなかったわ。

 本心では何時でもぶっ殺してやってもいいとは思っているけど、そんな非文明的暴走はアタシの美学(イズム)に反するの。

 

 

 

 ――そもそも、アタシの立ち位置について。

 

 アタシはついさっきに無所属の文武官僚をほぼ一掃した事で、“中道派”としての最大派閥に躍り出た。

 良識派もそうでないのも纏めて虐殺されたから、外野にはその真意を読み取れないかもしれないわ。

 しかし、アタシは実にシンプルな基準で連中を間引いたに過ぎない。

 

 アタシが駆除した連中は、()()()()()()()()()というただ一点で括られた奴らよ。

 ソレは革命軍に接触したような重大な背信は勿論、横領や賄賂等の狡い小悪党等も皆纏めて同罪にしてやったわ。

 その結果、連中は唯の一人の例外も無くミンチより酷い肉片に変えられたってワケ。

 

 

 

 ――というか大臣のやり方は手緩いのよ。

 革命軍に靡いたロクゴウ将軍とかを、あのデブってば泳がしてたものね。

 原作でも尤もらしい感じで言っていたけど、確かに『烏合の衆でしかない革命軍を纏めてから叩く』のは費用対効果からしたら妙手に見えるわ。

 

 でもねぇ……普通に見敵必殺の方が分かりやすいと思うのだけど。

 そもそもヘミ将軍やナカキド将軍とかの、原作で革命軍に渡った連中を指して上述の『纏めて叩く作戦』を提唱していたけれど……アレは普通に言い訳でしかなかったんでしょうね。

 原作でロクゴウは始末出来て、ヘミやナカキドは逃したのは……複雑な考察を挟む余地など無く、唯々逃げられてしまっただけ、という事かしら。

 

 まあ、オネストが如何に皇拳寺の免許皆伝者とは言っても、だからといって武官ではないものね。

 文官と武官との埋め難い認識の差異が隔たっているんでしょう。

 

 普通の上級官吏としての文官は戦略単位で、武官は戦術単位で思考すればいいものよ。

 此れが一般的な下級官吏としての武官なら『作戦単位の戦闘行動で最後に勝ち残る』事を目的に動けばいいでしょうし、究極的には武官のドクトリンはソレに尽きるわ。

 でも、軍略上は『戦う事そのものが政治的な敗北になる』事もあるのよね。

 

 極論を言えば、部隊指揮官程度の武官は戦術単位で物事を考えてもいいのよ。

 そもそも軍政なら兎も角、帝国軍の意思決定は内政官が行っているわ。

 故に、オネストが長期戦略で将軍の離反をおざなりに見逃したのも、『政略上は間違いではない』と思うわよ。

 ……でも、軍略で考えたらソレって悪手でしょ。

 

 政略と軍略は同一の問題に対して、時として相反する意思決定を見せるの。

 なんせ、非生産的でマイナスな存在の最たるモノが軍隊なんですから。

 生産を向上させていくプラスの概念である政治とは、どうしたって根底にある部分で相容れないでしょう。

 

 まあ其処はあんまり掘り下げないでおくけど……。

 ともあれそういう視点で見るとね、政略上は『逃がしてから叩く』のはアリでも、軍略上はアウトなの。

 

 軍隊なんてのは、所詮暴力装置の集合体なのよ。

 そんな存在が、ぬけぬけと身中の虫を見逃して、討つべき賊を取りこぼす真似をしてみなさい。

 暴力で成り立つ軍隊が、その能力を疑われかねないじゃあないの。

 能力の欠如した軍隊……そんなモノの存在する意義は何処にあるというの?

 そして……存在意義を見失った軍隊なんて、危険過ぎると思わないのかしら。

 

 政治的に、というか政略として『敵戦力を集中させてから攻撃に移る』、というのは間違いではないの。

 其の為に『敢えて戦術的敗北を繰り返す』のは有りっちゃあ有りよ? 完全な文民統制が出来るならね。

 でもね……軍略上は『軍隊は負け続けてはいけない』のよ。

 

 オネストがなまじ能力があって政務能力も優れているから分からないんでしょうけど……『軍隊』は『大臣の手駒』じゃあないの。

 帝国を構成する政治的要因の一つなのよ。内政や外交も熟すべき、政治要素なの。

 そこんところがあのデブには今一理解出来ていないようなのよねぇ……。

 

 いや、其処は追々やっていくしかないんでしょうけど。

 此の世界の帝国で役人として生きる以上は、大臣とも幾らかの折り合いを付けないとやっていけないもの。

 アレが如何に真正の外道で下衆で屑でも、国政を一手に担う傑物である事実は変えられないんだし。

 デブをいきなり排してしまえば、国政が立ちいかなくなってしまっているものねぇ。

 必然、大臣とある程度の和合は得ないとでしょ。

 

 

 

 ――しかし、アタシは()()()ではないのよね。

 

 あんな虐殺行為を主導したのだから、其方側なのかと勘繰られるかもしれないわ。

 でも、アタシとしては大臣に与する心算はナイのよ。

 極論を言えば最終的には『オネスト大臣を排して真っ当な国政に舵取りをする』のに異存はないわよ?

 其の為に誰かに助力を請われたら共闘も吝かではないわ。

 でも、()()()()()()()()()()()()()ってだけね。

 

 ぶっちゃけアタシの寿命って死なない限り不死って感じなんで、長い目で帝国を善政に戻すようにしていく心算だもの。

 将来的には現皇帝の世継ぎの内の一人を此方で確保して真っ当な教育を施し、王位継承争いで勝利して王権を取り戻す。

 ソレが今の所アタシが考えているベストな選択よ。

 多分、コレが最も犠牲が少なく済むし、王位継承の争いならあの思考停止老害の大将軍も動かせるでしょうし。

 

 次点では革命派ではない良識派の官僚や武官を取り込んでいき、徐々にオネスト閥の影響力を削いでいく……まあコレがベターなアイディアかしら。

 此の場合も最後には王権を傀儡皇帝から奪還するのを目指すから、割と長期的な計画になるわね。

 最悪は共和制も辞さないわよ。

 

 

 革命? 罪もない民衆に出血を強いるなんてナンセンスよ。

 軍人の武力蜂起による革命で国家の行く末が長期的に好転した事例なんて、少なくとも地球の歴史上では唯の一度たりとも存在しなかったわ。

 クーデターの良し悪しなんて、現代社会の歴史を学べば誰だって判別出来るでしょうに。

 インテリや夢想家に限って理想を周りに押し付けて犠牲を強要するモノだけど、そんなの関係ない人からしたら厄介さでは圧政者と変わりないわ。スパルタクスさん呼ぶわよ。

 

 ま、マクロとミクロの違いになるんだけど、そういう観点でアタシは『革命反対派』ってワケね。

 でも一応は良識派に属した政策推進を行っていく予定だし、仮に今回の件でナイトレイドの標的にされても、アタシは恥じる事なんてないわ。

 

 

 

 ただ……やっぱり人間も動物なのよね。

 人間だって刹那的に()を欲しがる生物よ。

 だから、『今すぐ悪政を排せ』と全土で要望ばかりが噴出しているの。

 そんなの無理でしょ?

 

 千年間の積み重ねが、今の帝国の腐敗なの。

 此の悪政は、何もオネスト一人の手で形成された代物じゃあないのよ。

 というかオネストという悪政派の首魁にして領袖が居る現状、寧ろ帝国の闇は奴の下で一本化されているまであるし。

 そして、仮にオネストだけが居なくなってしまえば、統率を失った帝国は群雄割拠の軍閥国家群に早変わりよ。

 

 オネストが居なくても悪政は元から在ったんだから。

 千年もの長期間を周辺諸国よりも優位な強国として君臨した結果、帝国は最早取り返しがつかないような末期状態になっている……ソレは事実よ。

 そんな政の巨悪を、一人二人の力で、短期間に如何にか出来るワケが無いのも事実。

 ソレを一代で如何にかしようってんなら……成程、革命が一番手っ取り早くて分かりやすいわね。

 ……でも、そんな馬鹿丸出しの軽挙妄動に頼るだなんて、文明人としてはやりたくないわねぇ。

 

 

 アタシの方法だとオネストを除する、乃至善政を取り戻すまでに少なくない無辜の民草の犠牲が生まれる……ソレは否定しないわよ?

 でもねぇ……ソレって革命でも一緒でしょ?

 

 というか原作で処刑されてたのって大概が『オネストに何の策も無く無謀に突っかかった馬鹿』ってのが殆どじゃない。

 ワイルドハントみたいな頭のおかしいキチガイ共は兎も角として、帝国の構図って『搾取される下層階級と搾取する上位階級』ってだけよ。

 ソレは前世で民主主義社会にして資本主義社会に生きていたアタシからすれば何も可笑しな事ではないのよねぇ……。

 

 オーガみたいに無実の罪を擦り付けてくる輩もいるでしょうけど……殆どは『既存の権力構造に無策で投石を行う馬鹿』が処されてるだけ。

 原作でのショウイ内政官だったかしら? あの大臣に対して何の考えも無しに罪を糾弾していたけど……アレはもうアホにしか見えなかったわね。

 まさか、『私の言葉なら皇帝陛下にもきっと届くに違いない(キリッ』とでも思い上がっちゃってたのかしら?

 だとしたら間抜けと言う他ないし、そうでないのなら考え無しのお馬鹿さんね。

 アタシ、馬鹿は嫌いなのよ。

 

 原作のあの場面で彼が行うべきだったのは『皇帝への諫言(讒言扱い)』ではなく『潔白の主張』じゃあないかしら?

 理想ばっかが先行してる頭でっかちの官僚クンにありがちな感じよねぇ。

 

 

 

 ――此れは完全にフィクションの話になるんだけどね?

 某国の首相に関する疑獄事件未満の騒動が起きたのよ。アタシからすれば『うん、で?』っていう程度のどうでもいい話だったんだけど。

 その際に野党はやんややんや言いまくっていたんだけど……まあブーメラン部の精鋭共ばっかだったわ。

 例えば、あいつらの秘書とかって合算で何十人も不審死してるのよねぇ。

 ソレも、政治とカネに関する官憲の動きが出た瞬間に、蜥蜴の尻尾切りみたいなテンプレを幾度となく積み重ねた結果があるワケ。

 何故ソレを責められないか?

 ……マスコミが『知っているけど触れない』から、民衆も気付けないのよ。

 だってテレビと新聞だけ見てれば政治について熟知した気になるメディアリテラシーの欠如した輩ばっかりなお国柄だし。

 『報道しない権利・自由』ってのはスバラシイわねー。

 

 某野党に限らず民間団体にも理想に燃えて与党を糾合する動きを行う輩ってのは存在するわよ。

 でも、その理想の根幹である前提条件とかがアレだとどうしようもないじゃない?

 何処かの誰かに論点先取をされてしまうと、感情論ありきなのに全てが論理的に回っているかのように錯覚しちゃうからねぇ。

 その絵図を描いてるのは、何方様なのか……そんな事考えもしないなんて不健全よ。

 

 妄信は時として悪徳で、犯罪的ですらあるわ。

 其の主体が権力者であるならば猶の事ね。

 民主主義を手放しに迷妄してしまうのは、危険だと思うの。

 だってソレって、紀元前には存在した考え方なんだから。

 自由だ平等だ権利だなんてのが持て囃されるようになったのが近代と呼べる時代になってからだけど、ソレを補完しているのはカビの生えたポリティカルロジックよ。

 今一度、ソコを疑ってみたいものね。

 

 

 

 ――で、話を戻しましょう。

 ショウイ内政官とかセイギ内政官とか、ちょっと現実が見えていないんじゃあないの?

 ま、大臣に真っ向から対立したのはご立派よ。スゴイナー。

 でも、勝算が無いのにそんな事したなら唯の愚か者じゃないの。

 連座制って帝国にも有るんだから、アレのとばっちりで割を食った人もいるでしょうし。

 

 というか、原作に於けるショウイ内政官の場合は奥さんが完全に“大臣の見せしめ”で慰み物にされた事実があるのよね。

 生死は不明だけど、態々生かしておく必要性なんて皆無だし、普通にぶっ殺されたでしょうよ。

 完全に馬鹿旦那の所為で何の罪もない女性が一人凌辱されてるじゃあないの。

 コイツは100%唯のアホよ、アホ。

 

 それに、オーガみたいなのを断罪したいのなら、それこそナイトレイドみたいな裏稼業(但し革命軍と関係無い)か、もしくは帝都警備隊みたいな警察権を持つ表の公権力に属すればいいだけじゃあない?

 暗殺組織を飛び越えて革命軍に加入しないと如何にもならないってワケではないでしょうに。

 

 

 そして周辺諸国の少数部族のように帝国からの侵略に怯えているならまだしも、アタシは生粋の帝国人なの。それも特権階級の貴族サマ。

 だから、少なくとも能力さえあれば普通に暮らしていく分には問題無いわよ。

 帝都で暮らすなら安全を買う為に幾らかの出費をする必要はあるけど……端金で安全保障が確約されるんだから寧ろお手軽なくらいね。

 

 安心安全って確保するにはお金が必要なのよ。

 夜警国家じゃあないけど、今の帝国ならソレが常識なんだし、抑々中世風の社会だしね。

 必要経費が税金じゃなくて賄賂の類ってだけで、社会福祉が死んでるのも世界観的にはシカタナイね。

 ソレを知らない、気付けない間抜けが下手こいて勝手におっ死んでいるだけじゃあないかしら?

 そんなの勝手にくたばってろって話よね。

 

 

 兎も角纏めると、アタシは革命には断固反対の立場よ。

 其の為ならば自称良識派の革命主義者諸君を鏖殺する事に些かの迷いも無いわ。

 アタシ、基本的にアカ共って嫌いだし。

 敵対するのなら、ソレが例え主人公様だろうと容赦なく粉砕してやる心構え。

 

 ……まあ、アタシも色々準備はしてるからね。

 最終的な目標はアタシの生存、コレに尽きるわ。

 其の為なら、敵対者を何兆人殺そうが構わないと思っているのよ。

 人間誰しも自分が一番大事でしょ?

 

 しかし、うざったい革命主義者共が蛆虫のように湧きまくる現状、ソレらを全滅させなければアタシの生存圏が脅かされる有様。……一応ドクターって貴族階級だったのよ。

 そういう意味では、最終的に連中を決起させてから叩かないと大本が消せない、というのも一理あるわ。

 という事は、例の『敵戦力を集結させてから潰す』という作戦目標が価値を帯びてきちゃうわね。

 つまり、帝国としてはナシだけど、アタシ個人からすればアリってワケ。

 そうなると、帝国に幾ら損害が出ようとも、アタシ的には身の安全が確保されやすい『纏めて皆殺しコース』が現実的な策になってしまうわ。

 

 

 ――ま、其処らへんも臨機応変に対応していきましょうか。

 全てはアタシの欲望の赴くままに、よ。




念のため言っておきますが、ドクターは善人ではないですし外道の屑です。
自らの欲望の為になんでもする倫理観の壊れた狂人です。
破壊や殺戮が趣味ではないので、表向き篤志家として振舞う程度の人間性はありますが。


今回使用した魔術。

・【恐怖の移植】。標的に魂も凍るような恐怖心を植え付ける。

・【悪夢】。標的へ恐ろしい狂気的な悪夢を見せる。名前さえ知っていれば標的との距離は関係無く発動可能。基本的にこれ等と魔眼を組み合わせて即座に発狂させた結果がコレ。
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