憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
――さて、特に引っ張るような話題でもないから、前回エスデスに要求した内容の3つ目について話すとしましょう。
ソレは単純明快に、『ウチから推薦する人員も一緒に参加させて欲しい』ってだけよ。
……では、何故その要求をするに至ったかについて。
コレも然して複雑な事情でも無くて、原作知識的に『このままじゃ殆どの連中が敗死するから』ってだけよ。
ウェイブ以外が完全に身内だから、そんな連中が殉職しちゃったら後味悪いじゃない。
だから此方でテコ入れして、死なないようにサポートしてやるって形ね。
一応ウェイブも死んだら可哀相だし、出来る範囲で見といてあげる心算よ。
他にも、ウチの神器等の使い手はイェーガーズ設立理由と同様の理由で向こうから転属要求が来る可能性があったから、『先んじて此方から譲歩した形を取って自発的に出向させ、相手の要求を躱す』という目的もあるわ。
どうにも、最近はオネストがウチの神器使いを人材的な意味で狙っているらしいのよね。
だったら此方から率先して戦力を提供してやり、向こうが言いがかりをし難いように協力姿勢を見せてやるってのが今回の趣旨よ。
あと、そもそも帝国で現存する攻撃能力持ちの帝具使いってもうウェイブ以外だとウチの身内しか残ってないのよね。
一応シェーレから回収したエクスタスとか、水神隊が遺した3基の帝具とか、バカ息子の馬鹿仲間の遺品とか、他にも各種帝具そのものは残っているわ。
でも、ソレを扱える担い手が今の所居ないのよ。
だったら少なくとも何名かは出向せざるを得ない状況でしょ。
……ていうか、『帝具持ちによる対ナイトレイド戦術想定の独立打撃戦闘部隊』の構想は、原作だとエスデスによる発案だったわ。
「神出鬼没な暗殺者集団」に対応する為に「少数精鋭による独立即応強襲部隊」を用意するってのは、アタシも戦術的に正しいと思うわよ。
でも残念ながら此の世界のエスデスは征服欲や戦闘欲を貪る事よりもアタシに組み敷かれる雌の悦びを感じる事の方が好きなモノだから、そんな面倒事を自分から提示する事が無かったワケ。
その結果、此の世界ではオネスト肝煎りの作戦部隊としてイェーガーズは創られたわ。
その為、とは言い難いけど、人員の集まりが悪すぎるのよ。
オネストの裁量は確かに此の国でも最上位にあるけど、だからって組織を無視して行動できるワケじゃあないわ。
其れも当然の話で、奴が権力を揮うには組織が体を為していないと意味が無いもの。
例えば仮にウェイブが海軍の副将軍とかの高級将校だった場合、さしものオネストもウェイブを引っ張る事は不可能だったりするのよ。
何でって、仮にそんな暴挙を行えば海軍が臍を曲げて反抗する危険性があるから。
常識で考えて、副将軍なんて大物を好き勝手に異動させてしまえば、その元居た組織はすぐにガタがきて崩壊するわよ。
そしてその崩壊の余波は上へ上へと広がっていき、やがては自分の首を絞めるんだから。
他にも帝国という巨大な組織を運営する上で、場当たり的な朝令暮改を繰り返してしまえば、その先に何が起きるのかは考えるまでも無いでしょ。
組織を歪める程の専横を繰り返せば、奴が頼みにしている絶大な権力すらも土台が揺らぐでしょうに。
奴さんはああ見えて、帝国という国がすぐさま滅びない程度には手心を加えているのよ。
ソレでもアレなんだから、まあ恐ろしい話よね。
……そして、その
アレがもし仮に生きたままだと、そう遠からずオネスト自身の手で手を下す羽目になっていたでしょうよ。
寄生虫は宿主を使い潰さないように、生かさず殺さずで利益を搾り取るモノなの。
ソレが出来ないと両者共倒れか、何方か片方が死ぬ事になるわ。
其処らへんの機微が理解出来ないお馬鹿さんだから、アレは生かす価値が無いのよねぇ。
ああ、一応オネスト閥に属する帝具持ちの実力者集団って括りなら、そのバカ息子と愉快な仲間達がいるっちゃあいるわ。
……どうも、アレからアタシ達への復讐を胸に新しい仲間を集めてるらしいのよ。
でもまさか、そのバカ息子を呼び戻して徴兵するなんて悪手どころではない愚策は採れない以上、大臣も多少強引な手管を使ってでもイェーガーズは設立しないといけないもの。
ナイトレイドが脅威なのは事実だものね。
コボレ兄弟とかの、大臣派の人間は結構暗殺されているのよ。
帝都の治安管理責任も当然問われるけど、一番の問題点は大臣派閥の連中が良いように削られ続けているって事だわ。
一応ウチの派閥の人間は一人も殺されていないけど、ナイトレイドの暗躍が目に余るのは誰の目にも明らかな事実なんですもの。
その存在が疎ましいのは派閥を問わない上層部の総意だし、最終的には革命勢力であるナイトレイドを好き勝手にさせられないってのも当然の話ね。
というか正真正銘に真面な清流派の連中の一部も、革命軍を否定しているけども。
内政官なんて此の世界におけるインテリの最上位なんだから、そりゃあ少しは真っ当な倫理観を持っていれば革命なんて肯定しないわよ。
赤くて左巻きな考えの持ち主なら分からないでも無いケド、生憎と此の世界のインテリは結構な保守派よ。
千年単位も王国制で運営された国家の官僚なんですもの。
それも致し方ないわ。
ともあれ、少なくとも表向きに革命軍を肯定するような内政官は存在しないわ。
隠れ“主義者”であっても、公にソレを表せば断頭台行きなんですもの。
当然のお話ね。
そしてアタシも多少は連中の内の何匹かを間引いてやりたいと思っているし、隠れてコソコソやられると鬱陶しいのも事実なの。
だったら自分から協力してやって、快適な勤務環境を用意してやる方がまだ健全よ。
これらの理由から、ウチからはまずアタシとランとセリューとボルスという主軸が丸ごとイェーガーズに出向する事に。
いや、普通に原作メンバーだし、放っておいても強引に引っ張っていかれただろうけどね。
まあ残した特務としてもTシリーズを使えば少なくとも単純戦力としてはそこそこ使えるし、将軍府全体が豊富な人材(リサイクル)のお陰で首脳部が丸ごと不在でも回るように出来ているもの。
だから首脳陣がごっそり抜けたとしても将軍府以下は問題なく運営可能。
故に、アタシ達としてはちょっとした休暇感覚なのよね。
そもそもイェーガーズが対ナイトレイド戦の為の部隊なんだから、メタ的な意味を除いてもその活動期間はド短期で限定的よ。
だったらそれにかこつけて暫くの間羽休めをしても罰は当たらないでしょ。
正直言って、アタシ達って今迄働き過ぎな部分が否めないし。
まあそんなアタシ達のスタンスは兎も角、他にもウチから出向させる人員がいるわ。
お次は地味に賊の討伐なんかで実績を上げていたサヨとイエヤスの二人よ。
二人は帝具じゃなくて神器の使い手なんだけど、大臣の要求である「帝具使いと相対可能な強者」という括りには入っているわ。
実績に応じて階級が僅かに上がって二人とも大尉になっているわね。
残念ながら他所だと此の階級は関係無いんだけど。
いや、他所の軍だと部隊長とか連隊長とかのザックリした階級しか設定してないんだけど、ウチは近代軍に倣って下士官まできっちり階級を設定してるのよ。
だから尉官や佐官なんかの階級が明確に区別されているんだけど。
まあ、他所と連携する事もそうそうないから、然して問題にはなっていないわ。
何かあっても隊長級の士官達で対処させればいいんだもの。
ともあれ、ルーキーの殻はとっくに外れたくらいの練度の二人と、一応もう一人を用意したわよ。
……ソレが誰かって、何を隠そうスピアちゃんよ。
就活に失敗してずっと家で飲んだくれてたから、発破をかけて何処かの部署で無理矢理使ってやろうと思ったの。
そして程よく練兵していた所にイェーガーズ招聘のお報せよ。
コレは使える、と思ってね。
同じ部署に居るんなら護衛の手間が省けるし、名目上はエスデスの下のアタシの更に下よ。
これなら何かあってもフォローしやすいし、色々と便利な立場なのも事実だしね。
ワイルドハントとかいう頭のオカシイ気違い共とは別にしても、特殊警察の権限は相応に高いわ。
なら、ソレを積極的に拡大解釈して使って、濁流派共の摘発でもやってみたいものね。
で、今の彼女は軍曹の階級を与えられているわ。
実力的には入隊当初のイエヤス達よりも高かったんだけど、お酒で鈍り過ぎてたからね。
あと部隊指揮能力がそれほど高くなかったから。
ホントなら伍長辺りでもよかったんだけど、伸びしろを期待してって所よ。
正直言って、今のスピアに小隊指揮官の真似なんて無理なんだけど……まあ其処は配属状況を此方で調整してやればいいだけね。
ま、そんな感じで「ぶっちゃけ特殊警察というよりリスト侯爵家の皆さん+α」的な団体になるイェーガーズが無事に設立決定されたわ。
既に辞令も出ていて、各種手続きも終わってる。
帝国海軍に所属している関係上帝国外周部の沿岸基地に居るウェイブが帝都に召集されるまでは時間がかかるけど、アタシ達は帝都に普通に居るものね。
引継ぎもそんなに煩雑なモノにならないから、今のアタシ達は唯の暇人よ。
……よって、本日より束の間のバカンスを頂きたいと思います。
……ひいてる! ひいてる!
「――っと、コレは……大物ね……ッ!!」
手にした竿がエグイくらいにしなる。
しかぁし、外宇宙の技術で製造されたコレは本来【星釣り】用のロッドよ。
よって、仮に深き者共がヒットしていたとしても問題ない程度には丈夫なの。
「手伝いましょうか、ドクター?」
「ノーサンキューよっ。自分だけの力でヤるのが愉しいんじゃない」
「そういうモノですか?」
「そういうモノよっ」
ランの申し出は有難いけど断るわ。
やっぱ釣りってのは『人と魚の真剣勝負』って所があると思うのよ。
だったらタイマンでやるべきってのがアタシの持論ね。
「――くっ……そろそろ……見えたぁッ!!」
リールを只管回して格闘する事数分。
漸く魚影が鮮明に浮かび上がった。
その体長は目測でも数十mは固いわね!!
「大っきいサカナねぇ。今日のお夕飯は豪華になるわぁ」
「…………(アレはサカナじゃなくて危険種なんですが……)」
何やら物言いたげなランを尻目に激しく暴れるサカナを【幽体の剃刀】で直接神経〆。
一瞬で仮死状態になったソレをワイヤーで船の後尾に吊るして血抜きも同時に行うという無駄の無い行動よ。
――さて、無事に大物が釣れた事でクルーザーを沿岸に戻す。
クルージングを楽しむ為にも転移なんて無粋な真似はしないわ。
完全にオーバーテクノロジーな船舶だから、小型でも安定して速度を出せるのよ。
――ん~……それにしても、海風が気持ちいいわねぇ。
船上で潮風に吹かれているとギャングダンスを踊りたくなる不思議。
後任への引継ぎ業務も終わった事で、アタシ達出向組は暇な時間にバカンスを過ごす事になったわ。
場所は帝国辺境の南洋諸島群。
リスト家の別荘が在った場所ね。
其処で南国リゾートを楽しんでいる所よ。
ちょっと前までは海賊共が我が物顔でのさばっていた地域だったんだけど、別荘の整備のついでに周辺の海賊共を根こそぎ駆除しておいたわ。
海賊の首一つに銀貨一枚の懸賞金が付いていたのが原因ね。
勿論掃除しただけでは地球のソマリア沖みたいに問題が解決しないので、財団の方で手を回して周辺地域に職業訓練校や財団関連施設等々を多数設立したわ。
他にも恒常的な炊き出しとか無償の青空学校とか、兎に角福祉手当を手厚く行った次第ね。
そもそも辺境海域で海賊業が盛んなのは、漁業等の第一次産業だけでは食っていけないのが主因よ。
だったら職場を用意して、手に職付けて、子供たちにも無償で教育を施して、色々と支援してやれば誰しも真面目に働こうと思うわよ。そうでないのは殺したし。
今では財団関連施設で多くの地域住民が働いているから、ここらの治安も生産力も著しく向上したわ。
周辺も一気に整備されて、今はちょっとした建設ラッシュが過ぎた辺りよ。
そのお陰で南洋諸島は一躍リゾート地として脚光を浴びた次第でね。
何とも現金なものだケド、観光客が来てお金を落としていってくれるのは地域住民からしても有難い事に変わりはないわ。
よって、現在では此の南洋諸島地域は順調にリゾート地としての整備が拡充されているの。
そんな大人気リゾート地だけど、元から別荘が在ったウチは宿泊施設を確保したりする必要性が無いから、簡単に遊びに行けるわ。
そもそも此処を整備したのはアタシの財団なんだし、此処の連中はみんなアタシの部下みたいなモノなのよね。
だから色々と便宜を図ってもらえるし、周辺施設の何処に何があるのかも熟知しているの。
ってワケで大分過ごしやすい場所なのよね。
そんな快適リゾート地に我々はバカンスに来た次第だけど、現在アタシとランで夕飯の食材確保に出ていた所よ。
他の連中は沿岸と山中に別れてそれぞれ他の食材確保に動いているわね。
此処の沿岸だと貝類が豊富だし、蟹とかもイケるわ。
山間部の中では豊富な山の幸が採れるし、素人でも簡単に採り放題なくらいには自然が豊かね。
勿論鳥獣もそれなりにいるわ。
そもそもここら一帯はウチの私有地だから、大自然がほぼ手付かずで残っているのよ。
となれば、狩猟採集はやり放題でしょ。
もしアタシ達の釣果がボウズだったら困っただろうけど、こうして特大サイズの超級危険種が釣れた事だし良い塩梅ね。
一応いざとなれば近場の漁港にでも行って食糧を買い込めばいいんだし、それ以前に影の倉庫に大量の食糧が保管されてあるから問題無かったんだけども。
ちなみに沿岸での採集班にはボルス一家とサヨとイエヤスが。
山中での狩猟採集班にはセリュー、スピア、クロメが。
此方の沖合での漁獲班にはアタシとランの二人がそれぞれ配置されたわ。
エスデスも来たがっていたけど流石に帝都での雑務が残っていたから無理で、一応夕飯の時とかは転移で送り迎えする予定よ。
沿岸部だと特に危険も無いし、貝類や蟹とかを獲るだけだから、比較的に安全に作業できるという理由から此の班分けになったわ。
ローグちゃんとかマリアさんとかが安全に貝採りとかが出来るようにボルスも目を光らせるだろうし、若い衆の二人は採集能力が他の連中よりも高くなかったからこっちへ。
ぶっちゃけ此の班はそこまで採集能力が重視されないから、安心安全に作業できる環境という事で選んだわ。
山中狩猟採集班は、軍属経験のある娘達が居る事から分かるように、鳥獣の狩猟や山野草の採集等、知識や技術が求められる班ね。
軍人は遠征先で食糧確保や野外炊飯の必要性から一兵卒に至るまでそういった手管を教え込まれるのが世の常よ。
当然、彼女達はその手の技術知識をしっかりと身に付けているので、特に瑕疵無く作業を遂行してくれるでしょうね。
そしてアタシ達の班は、ぶっちゃけクルーザーの操縦が出来るのはアタシとランの二人しかいなかったっていうのが理由ね。
更に二人とも飛行能力を完備しているので、万が一事故とかが起きても安全に帰還出来るから。
まあ、億が一にも故障したり沈没したりとかは有り得ないんだけども。
ちなみにランも結構な量を釣れていたようよ。
アタシは何故か危険種ばっかり釣れたけど。
大漁旗を掲げながらの帰還に、港で待ち構えていたみんなが湧き立ったわ。
一部ボルスとかイエヤス達とかがアタシの釣果を見て顔を引きつらせていたようだけど気のせいよね!!
無邪気に喜んでるローグちゃんとかを見習いなさいな。
南の島でバカンスとかしてぇなぁ俺もなぁ。