憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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無駄に長引いた。


File31:作戦会議

 さて、不平不満は多々有れど、それでもソレを飲み込んで粛々と任務に邁進するのが軍属としてのあるべき姿よ。

 アタシも虐殺は嫌いじゃあないし。

 精々お仕事は愉しくヤるべきよね。

 

「――では、私は大河を何とかした後は直率の部隊で北方から攻め込もう」

「そうね。ならアタシは念のため南方を例のアレで鎖して東西を半包囲。両側面から圧力をかけてアナタの正面部隊へと誘導する形にしましょうか」

「………………」

 

 此処の地形は、北方にある急流の大河沿岸にバン族自治区があり、南方を峻嶮が、東西に小規模な街道が整備されているわ。

 帝都から部隊を動員して最短経路で攻め込もうとしたら、大河を渡河しないと大部隊を投入出来ないし、東西の街道は予めバン族によって封鎖されている。

 南方は天嶮に囲まれているから回り込む事も不可能という、地形的に大軍を動かし難い場所なのよ。

 

 

◆◆◆【急流の大河】◆◆◆

■■【細い街道】■■ ◇◇【バン族自治区】◇◇ ■■【細い街道】■■

◆◆◆【断崖絶壁】◆◆◆

 

 簡易的に図表で示すとこんな具合ね。

 

 

 

 大河が軍船等を使って渡河するのも困難な幅広の急流で、仮に渡河出来ても開けた場所だからいい(マト)になるわ。

 何故かって、此の世界の造船技術ではまだ蒸気機関を搭載した汽船や、発動機を搭載した機船は存在しないから、河川の航行に使われるのは帆船になるの。

 ただ、此の急流と強風が吹き溜まりになる場所では普通の船舶の航行は困難よ。

 

 原作でブラートが殉職した三獣士との決戦の舞台である竜船のように、超大型の船舶を用意すれば話は別だけど、軍船をそんな限定的な用途で用意するような必然性が無い以上はね。

 ただでさえ此の国は海禁政策をとって陸路での貿易や侵略の方針を徹底しているんだから、国内の移動とはいえ造船技術が発展する要因が無かったのよ。

 そうなれば銃砲火器等の軍事技術や各種生活レベルに比して船舶の航行技術が低すぎるのも致し方ないのよね。

 ま、そんな理由から大河は通常の手段では移動経路には使えない、と。

 

 だから普通なら進軍経路として考えられるのは東西の街道か天然の要害である南方を踏破するかになるんだけど……。

 此処が今回の作戦での要点の一つになるのよ。

 

 

 そして、当然ながら東西の街道はバン族によって封鎖されているし、地形的に大軍を一気に進軍させられる程の広さがない。

 更に南方の峻嶮と繋がる形で隘路になっており、回り込むのも無理、と。

 

 そして連中は崖上から一方的に遠距離攻撃を加える事も可能で、いざとなれば崖を崩して完全に経路を封鎖出来る。

 そうなれば崩落した岩石をどうにかする為にも工兵を取りつかせないといけないけど、当然だけど連中は上部からの攻撃を継続可能。

 

 言うなれば此の場所は、天然の城塞と言えるだけの防御力を備えているワケ。

 つまり、此処を攻略する為には野戦や掃討戦なんかの準備ではなく、ある意味で攻城戦の用意が必要って事になるわ。

 コレが要点の二つ目。

 

 

 更に、南方の峻嶮も問題になっているのよ。

 当然ながら断崖絶壁に背後を囲まれている以上は向こうも退避が難しいんだけど、元から叛乱を起こした連中が簡単に退散するハズが無いわ。

 ならば此の要害は相手の退路を塞ぐというよりも、此方の進軍経路を潰すという意味合いの方が大きくなるでしょう。

 言うなれば自ら背水の陣を敷いたようなモノで、当然だけど後が無い連中の士気は絶望的な戦力差が在りながらも依然とて軒昂よ。

 

 しかも、特殊部隊を潜入させようにも、向こうには地の利があり、狩猟も行うバン族からすればまさしくホームグラウンド。

 実際に先行させた中央軍の特殊部隊の奴らはほぼ全滅したそうよ。

 偵察や物見すらも一人残らず狩られているんだから、徹底しているわね。

 

 よって、基本的には南方には少数の部隊すら回せない。

 そもそも大軍の展開が地形的に不可能だし、仮に他の特殊部隊なんかを寄越しても狩られるだけだって分かった以上は無駄な兵卒の浪費はするべきではないでしょ。

 そうなれば南方は進軍や封じ込めや偵察も難しいんだけど……最悪は其方を放置してしまえば、仮に敵部隊を壊滅させても峻嶮を踏破して生き残りが相当数逃げ延びる可能性が残るわ。

 

 しかしそうは言っても狩られるだけだって分かってるのに部隊を展開なんて出来ないわよね。

 よって、此処が三つ目の要点になるわ。

 

 

 

 他にも細かい注意点や連中の戦闘方法なんかを確認する必要があるけど、戦略的には此の三項目の要点を理解して、どれか一つでも解決策を用意しないと今回の作戦には無意味なのよ。

 前任者が討伐に失敗したのには他にも危険種や猛獣、疫病や害虫なんかの自然的要素も原因に挙げられているけど、ソレは厳密には違うわ。

 

 確かにそういった要因が進軍の妨げになっているのは事実だけど、ソレは決定的な理由とはならないわよ。

 大前提として、真っ直ぐ行って一気に攻め落とす事が出来る場所に敵陣があるなら、弱兵の混成軍でも多少の犠牲の上で作戦は完遂出来たでしょうね。

 危険種や疫病等々で兵員が削られても、12万対1万の戦いはその程度の要因で戦況が即座に覆る程の差ではないもの。

 

 決定的な一打を放つ事が出来ていない要因が、此の三要点なのよ。

 要はこれらをどうにかすれば、先行軍でも何とか出来るだけの戦力差はあるわ。

 逆に言えば此の要点を解決しない限りは100万の軍勢を送り込もうがキルレートは悲惨なモノになってしまうケド。

 

 

「――という感じで、正面部隊へもアタシの手勢を配置するわ。指揮権はアナタに預けるから、精々こき使ってやって」

「うむ、心得た。…………ところで、ナジェンダ将軍?」

「っ! なんだ?」

 

 移動時間中に軍議を行っていたけど、不意にエスデスがナジェンダに水を向けたわ。

 今迄居ない者のように扱っていたのに。

 

「作戦内容は以上の通りだが…………お前は何しに来たんだ?」

「……ハ?」

 

 ナジェンダ的には思わぬ発言を受けて、ポカンと間抜け面を晒しているわね。

 でも実際その通りなのよねぇ。

 

「いや、今迄の軍議聞いてたでしょ? アナタのする事無いじゃない。アナタ何しに来たのよ?」

 

 今の今迄軍議で何も主張してこなかったじゃあないのよ、アナタ。

 まあウチとエスデスの北軍の練度的にもナジェンダの弱兵の師団なんかとは連携なんか取れないから、端から彼女達を度外視して作戦を立案していたのは悪いっちゃ悪いわよ?

 先任のアタシ達に対して若輩のナジェンダから献策や提案以外で発言権なんか無かったから、寧ろ黙っているのが正解ってのもあるわよ?

 でも、それとこれとは別じゃないの。

 

「今迄の作戦内容を聞いていて、アナタの出る幕が無かったのには気付いていたかしら?」

「そ、それは、ハイ。ですが、てっきり私は抑えの後方に回されるのかと」

 

 まあ、動員している兵数的にもソレは不思議な話ではないわ。

 ただ、言ってるコイツが一瞬不快げに顔を顰めたのを見逃してないわよ。

 どうせ『濁流派が功績争いで清流派を除外した!』とでも思ってるんでしょうね。(中道派は清流派(笑)には濁流派と同一視されているし)

 

「いや、兵数的に態々アナタの手を借りるまでもなくウチらだけで包囲網を敷く事は出来るわよ」

「そもそも掃討戦にしかならない以上、お前の兵を態々抑えに回す意味が無いだろう」

 

 ……此の程度の事も理解出来ていないってヤバくないかしら?

 もしかして……。

 

「……まさか、アナタ今回の作戦の要訣を理解していないの?」

 

 もしそうなら……然るべき対処をしないといけないわよ。

 

「……要訣、ですか? 環境的不利を考慮しての進軍になるかとは思いますが……」

 

 あっ(察し)

 ふーん(侮蔑)

 

 

 


 

 

 

 最初に聞いておきたいんだけど、環境的不利を考慮って、考慮してどうすんのよ?

 言っておくけど、本件では環境よりも三つの地形的課題を覆す必要があるわよ。

 其処を何とかしないと他の要素はどれだけ手を尽くしても無意味だし、逆説的には其処さえ何とかしてしまえば後は特に考慮しなくてもいいわ。

 

 ………………危険種や猛獣、害虫なんかは絶対に対処が必要? ソレを疎かにすると兵に無駄な犠牲が出る? だから環境に適応させるのは必要不可欠? 地形はその後でいい?

 

 ……アナタがクッソ役に立たない無能だって事は分かったわ。

 いや、黙って聞け。

 

 じゃあアナタの言うように、それらの課題をクリアして敵陣の近傍まで被害軽微で進軍出来たとしましょう。

 で、どうすんの?

 

 大河も街道も天嶮も、対処しないと踏破出来ないわよ。

 アナタの言う犠牲の少ない状態の軍隊なら、河を渡れるし隘路を抜けられるし峻嶮を突破出来るとでも言う心算?

 そんなワケねぇだろ。

 

 これらの地形的要因は、どれか一つでも事前に用意をしておかないと対処は不可能なのは理解出来るかしら?

 そして仮に常道を用いて対処するなら、北方は船戦の、東西は攻城戦の、南方は山岳戦の用意が必要になるのよ。

 

 ……此処には城など無いって?

 はぁ……(クソデカ溜息)

 

 まあ馬鹿に無条件で教えを授ける程アタシって慈愛の精神に満ち溢れているワケじゃあないんで。

 あと、言っておくけど先ほどからのコレは唯のお説教や解説とかじゃあなくて、アナタの人事考査に関わる内容だから。

 馬鹿丸出しの発言してたらどんどんアナタの立場は悪くなっていくからその心算で。

 

 ……で?

 当然アナタの中では敵陣に攻め込む為にこれらの要害を突破する為の方策が整えられてあるんでしょうね?

 まさか肝心要の部分を他人に丸投げとか言わないわよね?

 

 …………大臣からの指示は『帝具を使用し速やかに反乱を鎮圧せよ』だから、考える必要は無い?

 帝具を用いて攻略すればいいのだから細かい問題点は無視して構わない?

 

 テメェ舐め腐んのも大概にしろや。

 

 アンタが主張している「進軍の段階での犠牲の削減」は、戦略目標を達成する上では無視しても大過ない部分よ。

 そもそも今回後続部隊の進軍で犠牲が出ているのはアンタの所の弱兵だけじゃあないの。

 その上で犠牲がどうこうとか、そんなアンタの個人的感傷に拘泥する為に全軍の足並みを揃えるのにどれだけ無駄な労力を払っているか理解してないようね。

 

 まさかアンタの所の部隊はアンタの私兵だとでも勘違いしてんじゃないかしら?

 そうでないのなら将帥としての自覚が欠如しているか、兵士を運用する能力が欠けているかのどちらかね。

 どっちにしろアンタが無能なのは確定だけど。

 

 

 

 ――国軍の兵士を私物化し、感情を優先して作戦目標を放棄するその姿は軍人として言語道断。

 ましてや戦術構想も戦略構想も理解せず、部隊運用能力が欠如している事は明白。

 その上作戦遂行の為の努力を放棄し、武装に頼って作戦立案を放棄する姿勢は将兵として不相応。

 将帥としてどころか部隊指揮官としての資格すら無し。

 よってキサマは今一度兵卒としての教育を受け直すべきだと判断する。

 略式命令とはなるが、現時点を以って将軍職を解任、軍権を剥奪。

 部隊は解散し、身代は中央軍に帰属するモノとする。

 

 ――以上、征南将軍府直属非公開特殊任務遂行軍隷下中央管理機関統括内部業務局局長の名を以って辞令を発布する。

 

 

 


 

 

 

 まあこういう具合でナジェンダは降格人事を下されたわ。

 何が不満なのかニャーニャー喚いていたけど、実際にコイツに将帥としての資質が欠如していたのは明白なんですもの。

 コレは別に派閥がどうこうではなく、無能な働き者の味方は害悪にしかならないから予め排除したってだけよ。

 

 

 ネットロアとして有名な、「無能な働き者」ってタイトルの組織論が分かりやすいかしら。

 

 ――軍人は4つのタイプに分類される。

 有能な怠け者は司令官にせよ。

 有能な働き者は参謀に向いている。

 無能な怠け者も連絡将校か下級兵士くらいは務まる。

 無能な働き者は銃殺するしかない――。

 

 ドイツの軍人ハンス・フォン・ゼークトの言葉とされているけど、実際には正確な出典が判明していないし、何なら別人の言葉説があるし、もっと言えばそれよりも古い時代の格言として詠み人知らずで既に広まっていたらしいわ。

 所謂コピペや都市伝説の類で、いつの間にか広まっていた文言というのが実態よ。

 ただ、元ネタが何であろうと一定の真理であると思わせるような説得力のある話なのは事実だし、どこぞの半島じゃあるまいし起源説を唱える恥知らずが居ないなら然したる問題でもないでしょ。

 

 此の組織論の意味する所は、「無能な味方は有能な敵より恐ろしい」「地獄への道は善意で舗装されている」などといった言い回しと同義と考えていいでしょうね。

 此の世界に限らず、「頑張ってやったこと、善意に基づいて行われたこと」は結果がどうあれ無条件で尊いものと扱われがちよ。

 善いサマリア人の法則とかその最たるものよね。

 でも、それを否定し、行動には思慮が伴うべき、さもなくば何もしないほうが被害は出ないぶんマシ、といった類の主旨が此の文言の意味するところになるわ。

 

 

 思慮分別のない傍迷惑な努力・善行の実例としては、「天災を被災した直後の被災地に大量の千羽鶴を送りつける」とかあったわね。

 色々賛否はあるでしょうし、下手人にもアタシには想像もつかないような崇高な理念があるのかもしれないわ。

 でも、一番大切な要素にだけ注目して批判すると、「支援物資を輸送するリソースを大きく削ってまで被災直後に千羽鶴なんかを送る意味が無い」という結論で締められると思うの。

 

 コレが被災してから幾分か経過して心のケアだとかを考えての行動だってんなら少しは価値を考えてやってもいいけど、例の千羽鶴騒動が起きたのは災害の直後だったわ。

 しかも、アタシが知る限りで千羽鶴騒動が初めて大きく取沙汰されたのは東南アジアの某国での地震災害の時よ。

 実際は昔からこういうスラックティビズム的自己満足は在ったのかもしれないけれど、少なくともアタシが「みんなで被災地に千羽鶴を贈ろう!」とかSNS上でほざいていたのを見かけたのは此の時が初めてね。

 

 それは兎も角、千羽鶴の文化どころか折り紙すら知らない外国に、自分の価値観を押し付けているという点にも考慮しないといけないわ。

 というか一神教を信仰している人々に向けて『祈り』だとか『願い』だとかを込めた物品を送り付ける行為がどれだけ侮辱的な行いか分かってないのが一番クソね。

 まあそういう部分にまで目を向けると収拾がつかなくなるから当初の観点に立ち返るけど、被災直後に千羽鶴なんか押し付けられて嬉しいかしら?

 食料や医療品や毛布なんかの、生命に関わる重要物資を最も必要とする災害直後の話よ?

 

 当然だけど輸送リソースなんてのは物理的に限られているんだから、千羽鶴なんて嵩張る代物を一つ送るだけのリソースが在れば、何百人分の食料やビタミン剤なんかの支援物資が送れる事やら。

 ソレを押して迄外国人に馴染みの無い紙屑を送り付けて自己満足に浸るんだから、まあハッキリ言ってクソね。

 言っておくけど有限なリソースを食って紙屑を送り付けた場合、他の重要支援物資が送れなくなる可能性があるんだから。

 そうでなくても紙屑には物的価値が一切無い以上、他の支援物資の割を食ってしまえばそれだけでマイナスでしょうに。

 

 

 まあ偽善活動はさておき、無能な働き者についてよ。

 此の例でいくとナジェンダは正に「無能な働き者」に相当するわ。

 

 軍なんてのは行動の結果には敵味方の命が係わるんだから、特に失敗が許されない分野なのよ。

 無能が頑張っちゃっても、結果として味方に犠牲を強いてしまう可能性がある以上は予防説に従って予め排除しとかないと危険でしょ。

 ……本当なら駆除しときたいくらいだケド。

 

 ただ、仮にも正式な任官を受けて将軍職に在った人間を現場判断で粛清したら政治的に面倒事になるし、そもそも「原作知識を活かして立ち回る」という転生者にとって当たり前のスキームを崩してしまうのは勿体無いわ。

 よって、今は緊急解任が精々よ。

 ……こんな馬鹿を放置してもアタシ達には何ら痛痒を与えられないと確信したってのもあるけどね。




次回で決着。
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