憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
「――さて、少年? 喜びなさい。今までの無価値な自分を脱ぎ捨てて、命令に従い命令に生き、命令を信奉する……そんな素敵人間に転生する時がやって来たわ」
「…………」(返事が無い。ただのしかばねのようね)
ゾンビのような様相で時折痙攣しつつ譫言を漏らすのは、ウェイブ少年だったモノよ。
――話は前日に遡るわ。
初任務でウェイブちゃんの能力と心根を確かめたのだけれど、生憎と彼ってば甘々の軟弱者だったことが露呈したのよね。
その場は彼に反乱者共へのトドメを刺させたことで御咎めナシにしてやったんだけど、ソレで根本的に問題が解決したワケじゃあ無いじゃない。
と、なればその問題を解決する為の指導、具体的には性根と能力を叩き直す為の
平素ウチでやってる新兵訓練とは趣向が異なり、マイルド海兵隊式の筋肉ムキムキマッチョマンのウォーマシーンを製造する方……ではなく、感情を消し個性を消し個人という性質を排して理想的な兵士へと押し固める事を目的に。
コレは、肉体と精神を兵士足る存在へと昇華させるという思惑があるのだけれど、現実世界ではこの『体と心』を作り変える事でようやく一人前扱いになるわ。
此の世界だとそこまでやれないから、あくまでも肉体だけを改造していたんだけれど……ウェイブちゃんの未熟ぶりは目に余るもの。
シカタナイから精神改造も目指して真正の兵士として生まれ変わらせてあげるわよ。
《LESSON01:違いを知ろう》
最初にすべき事。
ソレは、この甘ったれの人生舐め猫ちゃんに自分が如何に未熟で不見識で無為無能な存在であるかを自覚させる事よ。
「それじゃあ、手始めにアナタの普段のやり様を見せてもらおうかしら」
取り敢えずコイツが普段どんな鍛錬を自身に課しているのかを見せてもらうわ。
現時点での能力や方向性も見定めないといけないし、最低限のラインも知りたいしね。
「普段、どんな鍛錬メニューをこなしているか、一通り見せて頂戴」
「は、はい。それじゃ取り敢えず……」
碌に説明もせずに謎の真っ白空間に拉致されたウェイブちゃんだったけど、反論を暴力で封じ続けた事で「口に出す前に命令に従う」という素地を築くことに成功したわ。
コレも大事なステップね。
というか一兵卒に考える頭なんていらないわ。
言われたことを何も言わずに死んでもやる、っていう最低限の当たり前のことが出来ないとか、マジで兵卒としての再教育が必要じゃないの。
口答えなんて雑兵には許されるワケ無いでしょ。
ともあれ、顔を青あざで醜く腫らした少年は、普段行っているという鍛錬の様子を順繰りに見せてくれたわ。
その内容は……帝国の正規軍と比しても生ぬるいと言えるレベルでしかないわね。
まあ、海軍は散々言ったように、二線級の鎮護兵以下の存在ですもの。
其処で鬼気迫るような質の高い練兵を行っていようものなら、逆に謀反の疑いさえ出てくるわよ。
現状だと周辺に脅威が無い以上、海軍は国境巡回と賊の討伐程度しか仕事が無いんだから、寧ろ此のレベルで正解なんだけど。
――とは言っても、ソレは過去の事よ。
今は帝国でも最精鋭と言える特殊部隊に配属されたのだから、いつまでも警ら隊程度の認識でいてもらっては困るわ。
「――ハイ、やめ!」
「ッ!」
彼の帝具【“修羅化身”グランシャリオ】の副武装である大剣での型稽古をしていたウェイブちゃんは、額に汗して身体が温まってきた所かしら。
ウェイブちゃんのトレーニングメニューは、筋トレ、ジョギング、そして型稽古で占められるようね。
聞けば、各トレーニング内容の時間配分は凡そ『1:2:1』程度らしいわ。
コレに、前任地では彼の上司であった海軍幹部との組手が加わるそうだけど……。
「ハッキリ言いましょう。ぬるいわ」
「ぬ、ぬるい、ですか……?」
そんな、「思ってもない事を言われた!」みたいな顔しないで頂戴。
海軍がどんな仕事内容かまでは詳細まで把握していないけど、少なくとも中央軍よりも仕事量が多くて忙しいなんてことはないでしょ。
だったら、もう少し鍛錬に時間を割いても良さそうなものよ。
しかも、軍人なら鍛錬も仕事なんだから、職務時間にソレを配分してもいいでしょうに。
実際、ウチや北軍では職務時間上に鍛錬をやらせているし、自由時間にも自主的にやる人間がほとんどよ。
そして……肝心の中身もね。
警ら隊にとってのトレーニングと、軍人の特殊部隊にとってのトレーニングは違うからシカタナイネ。
でも、時間も少ないし中身も薄いしで、そんなのを此処でもやられたらコイツは練度不足で遅かれ早かれ死ぬわよ。確実に。
そして、部隊に足並みを揃えられない弱者が紛れ込むと、他の仲間も死ぬから。
よって、そんな甘ったれベイビーな坊やには練兵を徹底的に施すしか道が無いわ。
「そもそも、アナタがやっているのは“訓練”で、アタシたちが求めているのは“鍛錬”なんだケド。……このむつかしいはなしりかいできる?」
「は、はい? 鍛錬と訓練って……言葉が違うだけじゃn「ショーグンクロー!」かばっ!?」
理解出来てなかったので教育的指導。
相手を持ちあげる程の剛力でアイアンクローよ。
爪を生やしていないんだから手心を加えているんで安心して欲しいわ。
「痛でででっ!?」
「鍛錬と訓練は違うわ。勿論、言葉の違いだけじゃなく、中身も違うわよ?」
「は、放して! コレ放して!!」
「その違いをアナタには充分に理解して貰いたいんだケド……」
「痛いって! マジでシャレになってな――」
「か ら の !! 地獄の超特急!!」
「グワーッ!!?」
五月蠅かったからそのままワンハンド・スラムで脳天から地面に叩きつけてあげたわ。
これから違いの分かる男になりましょうね。
首から上がミンチよりひでぇスプラッターになったウェイブちゃんを再生させながら、脳に直接訓示を刻み込む事にしたわ。
一々感情や個性を見せられるとか面倒だもの。
そういうのを削ぎ落す事で全自動キリングマシーンになってもらうのが今回の本旨なんだから。
兵士に個我なんて必要無いのよ
そもそも、アタシが考える“鍛錬”と“訓練”の違い。
辞書的な言葉の意味で言えば、『訓練:あることを教え、継続的に練習させ、体得させること』に対して『鍛錬:きびしい訓練や修養を積んで、技芸や心身を強くきたえること』ってのが示されるように、字面の感覚だけでも『鍛錬>訓練』って感じが分かってもらえないかしらね。
そして武の道では『訓練は一定の目標に到達させるための実践的な教育活動』であり、『鍛錬は厳しい訓練や修養を積む事で、技芸や心身を強靭に鍛えること』なのよ。
「命懸けで訓練する」とは言わないし、「流す程度に鍛錬する」とも言わないわ。
流派によって違いはあるだろうケド、ウチの流儀としては『命に危険がある程度で止めるなら鍛錬とは言わない』、逆説的に『身命を賭して何かを極めんとする事を鍛錬と為す』ってところよ。
ってワケで、命の危険なんて無視して、此岸と彼岸を反復横跳びしながら徹底的に心身を鍛え上げましょうね。
死んでも生き返せば殺したことにならないのよ。
さしあたっては、ウチの鍛錬風景を見てもらって、自分との違いを感じてもらいましょうか。
お手本くらいは見せてあげないと不親切だものね。
「見て覚えろ」とか、指導力が欠如した無能の現れですもの。
令和の時代だとそんなオールドタイプなんて……まあ普通に生き残ってるけれども。
ともあれ、ウチの実戦組手を見せましょうか。
「起きなさい」
「へぶぁっ!?」
バケツいっぱいの水を浴びせた事で目覚めたウェイブちゃん。
脳みそに直接書き込んだ訓示に従って、心身を極めるという崇高な行いをこれから施す事を説明よ。
ホントはコイツの同意や確認なんて必要ないけども、最低限のマナーというか配慮という奴ね。
他所様からの預かり者ですもの。
出来るだけ壊さないように注意するわ。
まあ壊しても直すから其処は気にしないんだケド。
「――という事で、アタシたちが実戦的な組手を行うから、ソレをアナタは観ておきなさい」
「は、はぁ」
実技に必要のない筋肉を付けないようにするため、筋トレを最小限に組手を限界まで行う、ってのが一般的な古武術の流儀なのよね。
そして、肉体を錬磨するにあたってその方策は非常に有意よ。
特に、時間が限られている場合にはね。
長所は実戦に即した理想的な身体を作れる所。
短所は故障する割合が圧倒的に高いという所。
細々とした部分にはもっと色々と長短あるけれど、最大の美点と欠点は此の二つに対比されるわ。
――そして、死すらも超越したアタシにとって、怪我や故障なんてのは障害にすらならないのよね。
「ガァアアアアアッ!!」
「遅い」
「ゲァッ!?」
自らの血飛沫に紛れて得物を突き立てようとしたスピアは、左胸を強打されて血反吐をブチ撒けた。
そして白目を剥いてピクリとも動かなくなってしまう。
「隙あr「無いわ」ガッハッ!?」
ドクターが利き腕を振り抜いた瞬間を狙って背後から炎熱を纏った三叉戟を振り下ろすように叩き込もうとしたセリューは、大きくバックステップしてそのまま鉄山靠を繰り出され、臓腑から体液と共にハラワタを吐き出し吹き飛ばされる。
「疾ッ!」
「哈ッ!」
休む暇もなく、息の合ったコンビネーションでサヨとイエヤスが左後方と右上方から槍と弓矢での連撃を加える。
人体構造上の眼球の死角から曲射も交えての速射を撃ち込むサヨと、ミドルレンジで得物の頑強さに任せた剛撃を無呼吸で放ち続けるイエヤス。
サヨの放つ矢は本来ならば猛毒によって一撃必殺を為す代物だが、こと耐性においてドクターに優る生物は存在しない。
よって、その毒矢も効力を発揮出来ず、ただ普通の素矢のみを使っている。
常ならば必殺を期せる強力な猛毒攻撃だったが、いささかソレに頼り過ぎていた部分が此処で見えてきた。
ソレは、劇毒による圧倒的な殺傷力に胡坐をかいて、攻撃の繋ぎが疎かになるという未熟として表れてしまっていた。
一方のイエヤスも、卍解まで会得したことで因果逆転による必殺攻撃を身に着けたが、大抵の相手はコレで文字通り必ず死ぬ為、槍での連携技のレパートリーが少ないという欠点として未熟さが浮き彫りになっていた。
始解の時点で自動追尾能力が発現していた為、ソレに頼り続けた彼には攻撃を当てる為の技量が不足していた。
因果の遡及だろうが自動追尾だろうが、その能力が通じない相手にはたちまち未熟さが露呈する。
其処を突かれる。
「返すわ」
「ギッ!?」
「サヨ!?「よそ見する暇ある?」グァッ!?」
いつの間にか掴み取られていた素矢を投げ返し、弓兵の目を潰したドクター。
相方の苦鳴に思わず視線が逸れたが、無呼吸での連撃によって酸素を求めた身体で意識を逸らすのは間違いなく致命的ミスだった。
意識が散漫になった状態で視野を広く保つにも限度があり、その認識の狭間に溶けるように入り込んだドクターは肚に響くほどの震脚と共に密着するほど近くに踏み込み、絡み付くような滑らかな拳撃の動きで正面からイエヤスの後頭部を刈る。
スポーツ武術では間違いなく反則行為とされる急所狙いの攻撃は、酸欠により処理落ち気味だったイエヤスの意識を即座に落とした。
「なっ!?」
そして、眼が潰されてもまだ攻撃を続けようとしたサヨだったが、視覚に頼らずともドクターが取った行動が把握出来た為に驚愕から動きを硬直させてしまった。
「この程度で動きを停めない」
「ギャッ!!」
気絶して崩れ落ちそうになったイエヤスをそのまま盾にして突撃してきたドクターに、一瞬思考に空白が入り込んだサヨ。
そんな明確な隙を逃すはずもなく、ドクターはイエヤスを投擲すると受け止めようとしたサヨごとまとめて蹴り殺す。
ニチアサヒーローよろしく宙高く跳躍し、そのまま二人の肚を突き破ってキックを叩き込んだ。
「――シャアアアアアアアアアッ!!」
「ォラァアアアアアアアアアアッ!!」
二人の遺骸を突き破った瞬間を狙い、エスデスが氷剣で上段を、クロメが八房で下段を狙って両翼から斬りかかる。
生来の怪力を持つエスデスと、改造によって剛力を得たクロメ。
その二人は怪物の膂力で達人の技量を持つ。
そして、遺骸が邪魔をして後退が出来ない状態。
加えて着地の瞬間を狙った為、動きが阻害された状況での返しは限られる。
――だが、限られるだけで存在しない訳ではない。
「フッ!」
「なっ!?」
「チッ!!」
ドクターが地に足を付ける寸前、宙を舞う砂礫を踏んで再び飛翔してしまう。
飛散する粉塵すらも足場に変える、軽身功の妙技だ。
空振りとなった剣を即座に引き戻し、上空から飛来するドクターに向けて踊りかかる両者。
――しかし、空戦での機動力の差が徐々に表れる。
舞い散る砂粒すらも足場とするドクターに対し、二人は精々高く跳躍するしか上方への到達手段が無い。
一方的に上空を占有されると、対空攻撃の手段が無ければ嬲られるしかなくなる。
エスデスの方は氷を生み出す能力で氷塊による砲撃程度ならば出来るが、ソレは溜めが必要になる事から、高速機動戦闘の最中に行う事は難しい。
そして、二人掛かりで斬りかかる事でようやく足止め出来ている現状、少しでも均衡を失えばたちまちの内に切り崩される事だろう。
よって、此の場で執るべき手段は――。
「――ッ」
「!!」
特殊な呼気で口に出さず、ハンドサインすらも用いずに次の行動を指示するエスデス。
未だドクターにも見せていない方法であり、事前に取り決めた発気とサインの符号の組み合わせを知らなければ、流石に見抜いたとしても次の行動を予測する事は出来ない。
その為、タイミングとしては狙った通りの瞬間に次の連携を行えた。
「――シャアッ!!」
弓のようにしならせた全身へ爆発させるように力を籠め、そのままの勢いで引き絞った嚆矢の如き疾さで一本突きを放つクロメ。
ドクターの出足をエスデスの連撃が押しとどめた事で直撃するかに見えた渾身の一撃は、
――しかし、ソレを敢えて反撃せずに肩で受けたクロメは被弾を無視してそのまま突っ込んだ。
「此処だッ!!」
被害度外視での無茶な攻勢により強引に機会を作り上げたクロメに合わせ、エスデスが現時点での最大攻撃力を誇る一撃を放つ。
空を覆わんばかりの超巨大な氷塊。
隕石もかくやという莫大な質量を誇る圧殺攻撃は、クロメの決死の特攻、そして力を振り絞ったエスデスの突貫によって足止めされたドクターには躱せない。
このままでは二人も巻き添えで死ぬが、ドクターと相打ちならばお釣りが出る。
そう判断した二人だったが――。
「噴ッ!!」
「なっ!?」
「嘘っ!?」
両足に組み付いた二人を無視したドクターは、両手を突き出すように天に掲げると、手のひらから発勁を放つ。
視認出来る程の甚大な勁が込められたソレは、上空から降り注ぐ小島程の大きさはあろうかという氷塊を粉々に砕いた。
「――終わりかしら?」
そして、そのまま両の手に先ほどと同じだけの氣を籠めると、手刀の形に変えて振り下ろそうとする。
隕石を砕くほどの勁が籠った打撃。
そんなモノを受けては、人体など容易く爆発四散する事だろう。
「「――まだだッ!!」」
しかし、目と鼻の先に迫る明確な死を前に、二人が選んだのは攻撃でも防御でも、ましてや回避でも無かった。
「ぐぁッ!!」
「ギャッ!!」
クロメが自らドクターの攻撃に飛び込むことで、ドクターの企図したタイミングよりほんの一瞬早く手刀が直撃。
想像を絶する威力が込められた一撃は、瞬時に肉塊を粉微塵に爆砕し、一瞬だけ視界を覆った。
その一瞬でエスデスは残る余力を全て込めて能力を発動。
粉塵と化した相方諸共自らとドクターを氷漬けにしようとした。
――しかし、最大威力の攻撃の直後であったため、氷漬けにするほどの効力は出なかった。
精々腰から下が凍り付いただけだ。
そして――その程度では上半身の動きを停められず、そのまま腰骨から上が剛撃により飛散する。
――だが、確かに此処にチャンスは訪れた。
「“叫べ”ジェネシス!!」
「“堕ちろ”奈落!!」
今の今迄気配と姿を消して機会を待っていた特務軍の最古参二名。
ほんの刹那の時間とはいえ、下半身が氷結して足を止めたドクター。
仲間たちの全てが討ち死にするまで息を潜めて神器をチャージしていた二人は、絶好の機会に挟み撃ちの恰好でお互いの神器の奥の手を放った。
メギドシューターの奥の手【ジェネシス】。バルバリシアの奥の手【奈落】。
どちらもオーバーロードによって射点から先をコーン状に消し飛ばす攻撃だ。
一度放てば炉心の疲弊により長時間のクールタイムを必要とする上、発動までに少なくない溜めが必要な一対一では使いづらい技。
更に、本来使用者の体力を必要としない神器において例外的に代償を求める此の機能は、一度撃つだけで全身からエネルギーを吸い上げ、肉体にも重篤な負荷を与える代物だ。
しかし、仲間たちの献身により、両者が攻撃を放つまでの道筋が得られた。
ならば、一発逆転を狙うため、此処で躊躇する謂れなど無かった。
射出地点から円錐状に破壊の波が迫る。
魔術の使用禁止と肉体強度を人間の基準に下げたレギュレーション上、コレが決まればさしものドクターにも打つ手はない。
跳んで避けようにも、直径2000mで迫る面攻撃を完全に躱す事など不可能だ。
そして、各種の制限が課された組手の取り決め上、無傷で防ぐことなど出来るはずがない。
此の状況は、詰んでいるか?
為す術もなく、蹂躙されるだけか?
――答えは、否。
「おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
踏み込みで自らを戒める氷像を砕くと、宙に舞う砂塵を足場に、次々と跳躍を重ねるドクター。
当然、その程度で逃げ切れるはずもなく、前後からの劫火と極光に挟み込まれた。
だが全身を尋常ならざる密度の硬気功で覆い、炎の煌めきと荷電の奔流をも足場に速く、早く、疾く、只管に上空へと突き進む。
両腕で急所だけを守り、脇目も振らずに唯々直上へと向かい続けたドクター。
その身に纏った錬氣による防御も殆ど剥がされ、プラズマの奔流に全身をくまなく炙られること暫し。
一分、数秒、それとも刹那の間か。
決死の突撃が始まり、両者の神器に稼働限界が訪れた頃。
炉心の崩壊によってプラズマの波濤が途切れた時、果たしてドクターは生きていた。
「なっ!?」
「まさか!!」
死の激流を生き延びたが、ドクターの状況は酷い有様だった。
全身は余すところなく高熱で焼け爛れ、防御に回した両腕は炭化して使い物にならないだろう。
眼球は熱で白濁化し視覚機能は失われ、火傷で糜爛したことで鼻孔は塞がっている。
熱波が全身の体腔から流れ込んだことで内側から焼かれた口腔は、閉じていたにも関わらず肺腑を焼き尽くし歯を溶かし唇を周囲の皮膚諸共消し炭に変えた。
熱傷で全身の至る所が意思に反して痙攣を続けており、全身を侵す高熱と激痛は思考を遮る。
――だが、まだ生きている。
そして、此の一撃で雌雄を決する心算だった両者と、此の一撃を生き延びて反撃をする心算だったドクター。
三者とも限界まで疲弊していたが、瞬時に行動に移れたのはドクターの方だった。
「ク……クハッ……ゲェハハハハハハッ!!!」
焼け爛れた口から漏れ出た狂笑と呼ぶべき叫喚。
耳にした者の心胆を寒からしめる掠れた憫笑を我知らず吐き出しながら、トドメを刺すための行動に移る。
落下のエネルギーに軽身功により空を蹴る事で得た加速が合わさり、上昇した速度に倍する勢いで地へと突き立ったドクター。
その衝撃は、回避も防御も出来なかったボルスを鎧袖一触で肉の飛沫へと変じ、反動を殺さずほぼ平行に跳躍する事で連撃した勢いを減ずるものではなかった。
あまりにも疾い反撃により断末魔を上げることも出来ずに床の染みへと仲間入りしたラン。
――コレで、特殊警察イェーガーズは二人を残して全滅した。
「――さて」
「ヒッ!?」
今迄の組手の内容を呆然と眺めているだけだったウェイブちゃんを白く濁った眼球で見やる。
徐々に再生する肉体からは急速な代謝によって高熱と蒸気が発生しているけど、一応まだ縛りに従って魔術は使っていないわよ。
超速再生と呼ぶに相応しい異常な再生能力だけど、内養功を極めるとこの程度は可能なのよね。
段々と回復し始めた視界で改めてウェイブちゃんを眺めるけど、どうにも腰が引けてる感じ。
まだ覚悟が出来ていないのかしら。
本当に反吐が出るくらい甘ったれでイヤになるわぁ。
でも、そんな赤ちゃん人間でも一人前のソルジャーに転生させてあげるわよ?
その為にまず、今迄の無価値な人生を捨て去って貰わないといけないケド。
「お分かりいただけたかしら? ――コレが特殊警察イェーガーズのやり方よ」
多分に怯えと混乱を宿したその瞳は、キョトキョトと視線をさ迷わせ此方を見ることが出来ていない。
陸に揚げられた魚のように何を言うでもなく口を開閉する様子からは、何を言うべきか分かっていないことが窺える。
「さあ……次はアナタの番ね」
「――ッ!!」
このあとめちゃくちゃ修行した。
泣いたり笑ったりできなくする。
ちゃんと復元するので殺しても問題無い理論が発動しています。