憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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やめろ! 勝てるわけない! あいつは伝説の超アサシンなんだぞ!


File37:キミに決めた!

 まあ残念ながら当然という奴で、追撃隊の近衛軍所属エリート諸兄は全員討ち死によ。

 流石にそのまま遺体を打ち捨てて野犬や危険種の餌にしちゃうのは、同じ国の軍属として道義に悖るというモノで、遺品や遺髪なんかは回収しておいてやったわ。

 全部回収してやれないこともないんだけど、流石に其処まで余裕があるのを見せちゃうと色々と下種の勘繰りをされちゃうでしょ。

 

 「遺体を回収出来る余裕があったのなら協力すべきだった~~」みたいに、手前らでこっちの参戦を拒んでおきながらダブスタなこと言い出しかねないもの。

 貴族ってそういう言いがかりのプロですから。

 讒言や暗躍って貴族の嗜みよねぇ。

 

 ま、そういう訳で回収しきれない遺体はこっちでリサイクルに回すわ。

 影を伸ばして包み込めばあっという間に四次元空間へ。

 死体は此の後改造兵へと再利用よ。

 実にエコ、実にSDGsね。ワンガリ・マータイもきっと草葉の陰でサムズアップしているに違いないわ。

 

 

 

「――以上、近衛軍臨時追撃部隊51名は自分の使命を全うし……壮絶な戦死を遂げました……」

「「「…………」」」

 

 ソレはさておき現在は宮殿で報告を上げている所よ。

 玉座に傀儡が居て、横に大臣、脇に宮廷スズメ諸君がずらりと。

 報告そのものはウチの頼れる事務方、ランに任せてるけど。

 

 本来ならこういうのは隊長のエスデスか、副隊長のアタシがやるべきではあるわ。

 でもアタシたちが揃いも揃ってこういう雑務がキライなもので。

 しかし部隊の運用が滞るのは問題で、そういうのを見ると放っておけない苦労人気質のラン。

 あとはもう分かるわね?

 

 言い訳させてもらうと、アタシもエスデスもこの手の事務作業が面倒くさいだけで、寧ろ能力はあるのよ。

 エスデスは兎も角、アタシの場合ランより得意なまであるわ。

 でも、自分から率先してやってくれる優秀な部下がいると……ねぇ?

 

 

 閑話休題

 

 ウチからすれば当たり前の話だったけど、現場を知らない宮廷スズメたちからすれば「精鋭(笑)である近衛軍の兵士が賊軍に敗れるとは……!?」って状態よ。

 ……何故か近衛軍のトップもその認識なもので、奴さんの無能を天下に轟かせているんだけども。

 

 そういう認識は兎も角、現在はその責任について役人どもがガーガー言ってるところ。

 皇帝の直近まで賊軍を近づかせた失態は勿論、事前にその所在を掴んでおきながらまんまと取り逃した切腹モノの大失態も。

 その他大小様々な失点を積み重ねると、流石に処罰者を出さないわけにはいかないでしょ。

 

 本件では明らかに全面的に近衛軍の能力不足と采配ミスよ。

 ……しかし、近衛を罰するのって皇帝の権威云々であまりやりたくない手段なのよね。

 近衛軍以外に被害が出ていないから、殉職者たちの遺族に補填を出さないとかで実質的な罰とする形に持っていく、というのが既定路線かしら。

 ……それでも今回は失点が多すぎるものだから、誰かしらスケープゴートは必要でしょうねぇ。

 

 勿論、ウチにお鉢が回ってこようものなら抵抗するわよ。拳で。

 今回は何度も上に伺いを取ったけど、「近衛軍が勅令を盾に指揮権を強奪していった」事が原因なんだから。

 寧ろアタシたちは当時の時点で上に何度も抗議していたのよ。

 此処でソレを無視してウチに貧乏くじを引かせようとか、ちょっと本気で抵抗しないといけなくなるわ。

 

 もしかしたら政治力の不足でそういう未来もあったかもしれないけど、少なくとも此の世界におけるDr.スタイリッシュは貴族籍、ソレも王家の傍系(公爵家)を除けば最高位である侯爵家なの。

 そして軍部においても将軍職を担っていて、同格のエスデス将軍も、責も無いのに割を食うなんてゴメンだから明確に協力してくれるわ。

 よって、政治的にも軍事的にもイェーガーズや、アタシやエスデス個人なんかに責任転嫁なんて出来ないのよ。

 

 

 実務者たちに責を問えない。

 諸悪の根源も権威で守られていて手出しが出来ない。

 それでも誰か明確な処罰者が出ないと収まらない。

 

 Q.ならばどうするか?

 A.トカゲの尻尾切りである。

 

 

「――ときに、オネスト大臣閣下? 本作戦において連絡員を務めたのは、ヨウカン政務官であったと記憶しているのだけど?」

 

 勅の授受とか名誉あるし資格もいる結構な仕事ですもの。所謂勅使って奴よ。

 普段から名誉と実績を欲する無能な文官サマなんて大喜びで飛びついた仕事よね。

 

「む? ……ああ、そうですね。確かにその通りですねぇ」

 此方からの含みを持たせた視線に、果たして大臣は気付いたようね。

 

「いやはや、残念な事です。まさか『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』とは……」

「えぇ、まったくもってその通りね。実に由々しき事態だわ」

 

 示し合わせたかのように阿吽の呼吸で会話を続けるアタシと大臣。

 事前に共謀なんてしていないけど、此処は政治に携わるモノならではの能力よ。

 

「本作戦が成果を上げられなかった主因は、まさにコレにあると思うのだけれど……?」

「えぇ、えぇ、その通り。いやはや、嘆かわしい……。勅をほしいままに曲解したこともそうですが、陛下をお守りすべき近衛に被害を強いた事は許されざる暴挙です」

 

 此処でアタシたちがヨウカン殿をスケープゴートにすると決めた事に周りも気付きだしたようで、次第に周囲が福本化(ざわつく)。アゴが尖りだしたわ。

 しかし悲しいかな、無能なコバンザメくんはまだ自分が断頭台に揚げられたことに気付けていない。

 

「ヨウカン政務官」

「は、ハッ!」

 

 いっそ優しさすら感じられる哀れみの眼で自身の腰巾着に話しかける大臣。

 しかし無能過ぎて自分が槍玉にあげられていることに気付けないヨウカンくん。

 「何故わしに声を?」とか思ってそうな間抜け面がアワレだわ。

 

「勅の私的利用は極刑です。そうですね?」

「ハッ! その通りです!」

「……近衛にこれほどの被害を出した本件、責任者は極刑です。そうですね?」

「勿論であります!」

 

 オイ、此処までされて気付けないって逆にすごいわね。

 こんな無能は今のうちに予防説に従ってぶっ殺しておくべきだったわね。

 

「よろしい、よろしい。……それでは、判決を言い渡す」

 うん、自分で自分の死刑執行命令に判を押したようなものだわ。

 コレにはさすがの大臣も「コイツやべぇな……」って感じの顔しているわよ。

 

「ヨウカン政務官。勅令を私的に曲解し皇帝陛下をお守りする近衛軍に甚大な被害を出した不忠と増上慢は度し難し。……よって、貴官を鋸挽き刑にて処刑する」

「…………ハイ?」

「連れて行きなさい」

 

 最期まで無能過ぎて自分が吊るし上げられている事に気付けなかったヨウカン殿。

 聞こえていたら、キミの生まれ持っての能力の低さを呪うがいい。

 キミは良い腰巾着であったが、キミのクソ無能が悪いのだよ。

 

 ……いや、流石に今回の一連の流れを目にしていた他の宮廷スズメたちも、コレばかりは同情していない様子よ。

 明らかに矛先を向けられている真っ最中なのに、弁明も責任逃れもせずに全肯定botよろしく大臣のいう事に頷いてたんですもの。

 元が無能な腰巾着だった、ってのを差し引いても、アホ過ぎて庇う気にもならないでしょ。

 

 

 


 

 

 

 ヨウカン殿は最期までギャーギャー言っていたけど、イケニエの無能くんを庇うような無意味なアホはガチの清流派にもいなかったので、恙なく刑は執行される運びに。

 流石にそんなアホの末路まで一々観察するほど暇ではないので、アタシたちはすぐに普段の職務に戻ったわ。

 

 目下の最優先事項は、まんまと逃げ仰せて帝国軍の威信に泥を塗ってくれた賊軍を捜索すること。

 ……まあ普通にステルス状態の観測班を派遣してナイトレイドの現在のアジトは掴んでいるんだけど。

 というか、エスデスが勧誘した時にタツミ少年に某死神漫画の技術的な『観測用の菌』を感染させておいたから、彼に限っては常時何処にいるのか把握しているわ。

 勿論、先だっての追撃部隊壊滅の際に現場に出ていたナイトレイドの連中にも感染させてあるから、基本アジトに居て前線に出てこないナジェンダ元将軍を除けばほぼ完全に所在を掴んでいる状態ね。

 

 ――そして、これから残りの所属員たちに菌を仕込みにいくわよ。

 丁度良く本部に行っていたナジェンダがアジトに帰還するらしく、タイミングを見計らえば原作のDr.スタイリッシュ襲撃みたいなシーンを演出できそうね。

 当然、此の世界と原作では前提条件が違い過ぎるから、罷り間違ってもアタシが討ち死にすることは有り得ないわ。

 そして、極論すれば現状でナイトレイドに消耗を強いる心算が無いので、此の襲撃はしてもしなくても良い……寧ろ、無駄に警戒させることになるからしない方が良い。

 でも、やる。

 

 何故か?

 ……まあ、コレはアタシなりの拘りね。

 感傷と言い換えても良いかもしれないわ。

 ――原作でのドクターは、此処で死んでいた。

 よって、此処を乗り切ることが、生き延びることが、アタシが真に自分という個我を認めて此の世界で生きていくことに繋がる……そんなところかしら?

 

 やってみせましょう。

 この程度、苦境とすら呼べないのよ。

 アタシが真の自由を得る為、此処で奴らには屈辱を飲んでもらうわ。

 弱肉強食。シンプルな自然の摂理ですもの。

 

 

 


 

 

 

 ところで、原作の話だけど、ドクターは人型危険種という代物を製造していたのよね。

 ヒトをベースにしているらしく、知能がそれなりに残っていて、手先も器用で道具を使えて、そしてドクター謹製故にそこそこ高性能。

 本来ならば秘匿してオモチャにしていただけの存在だったようだけど、管理者であるドクターが(死んで)居なくなったことで封印が解かれ、帝都周辺に放流される。

 そして、帝国臣民に大きな被害を出し、事態を重く見たイェーガーズ()ナイトレイド(味方)双方の標的とされる……。

 

 まあそんな流れが原作でのお話よ。

 アタシも人型の改造兵なら数十万単位で保持しているわ。

 ただ、能力を解放しなければ凡そ人間の範疇にある形状にしてあるのが殆どなのよね。

 後ろ暗い特務軍の中でも特に汚れ仕事をするような第二軍は違うけど、改造兵は大体が見た目にも気を使っているのよ。

 ……逆説的に第二軍はそういうヤベーのしか所属していないケド。

 

 そして、人型危険種は人道的にダメな事くらいアタシでも知ってるわ。アタシは詳しいんだ。

 原作での二の舞を演じるのは避けたかったんですもの。

 もし作るなら、原作そのままの人型危険種は作らないようにすべきと判断したワケ。

 だから同じ遺伝子配列にした蛸とか鮫とか蟷螂とかの危険種を配合したキメラ人間を作ったの。

 見た目が完全に人外だし、是非も無いネ。

 

 というかコレはもうお手製科学産の深き者どもね。

 ディープワンは出さないと言ったのに……スマンありゃウソだった。

 一応遺伝子的には人間の範疇なので、仮に詳細を調べられても「いや突然変異です」と言い逃れしましょう(提案)

 いや、する(不退転の決意)

 

 

 

 ――なんでその話をしたかって?

 今回の作戦にはソレを投入するから、ね。

 

 

 そもそもの話をすると、今回の作戦、仮に『再追撃作戦』とでもしましょう。

 本件で成果を上げようにも、前述した通り向こうさんに被害を出すのは好ましくないのよ。

 原作で脱落者が主人公側に出ていないんだし、此処で流れを変えてしまうと、折角の原作知識という奴が使い物にならなくなるじゃない。

 

 原作死亡キャラが生存する場合と、逆に生存キャラが死ぬ場合。

 どっちが不確実性を高めるかって言えば、話は簡単よ。

 可能だけどしないのと、出来ないからやれないのは全然違う話でしょ。

 

 

 まあそんな感じで、此処で連中に、厳密には原作メンバーに脱落者を出す気はないの。

 よって、襲撃する人員にネームドキャラとか入れる気が無いのよ。

 だから無限に製造出来て使い捨てに出来る、人型キメラを投入する心算。

 寧ろ投入要員はコレのみよ。

 

 この子には色々とステキな仕掛けを施してあるから、ナイトレイドの皆さんには是非とも堪能してもらいたいものだわ。

 折角こうして手間暇をかけて仕上げたんですもの。

 どうせなら何処かでお披露目したいってのが、クリエイターのサガって奴よねぇ。

 

 さてさて、夜討ち朝駆けって言うけど、実際に黎明直前くらいに仕掛けるのって軍事的に効果が有るって証明されているのよ。

 ……殺しはしないわ。

 だからって、手加減をしてもらえるなんて思わないことね。




次回、戦闘開始。
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