憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
アカメが斬る!は主人公たちを虐殺しても世界が滅ぶ、とかでないのが良いですね。
観測菌越しに状況を把握したところ、ナイトレイドの皆さんは酒盛りをしていたらしいわ。
なんでも、強敵(笑)であった近衛軍を撃退して見事生還したタツミ少年を讃えてのモノのようね。
……まあ原作でもエスデスから逃げ出すことに成功したのをみんなで生還祝いって宴をしていたものね。
革命軍幹部が個人個人でどう考えているかはさておき、皇帝の打破、ひいては弑逆する事を絶対条件に考えている、ってのが世間で通ってる革命軍の主張よ。
ソレからすれば、将来的に敵対が確定している近衛軍を削れたのは、間違いなく朗報なんでしょうね。
う~ん……色々と言いたいことはあるけれど……まあ所属が違えば主義主張も違うものね。
アタシは今更、青臭くガキ臭く、正義だの悪だの、大義だの道義だのなんて口にしないわ。
封建制度の中で貴族が担うべき責務や立場ってモノがあるんですから。
其処にアタシ個人の感情や性向が介在する余地はナイのよ。
貴族として、アタシは為すべきことを為し、より良い明日を目指して努力する。
そういう当たり前のことを当たり前にしてきたつもりだし、これからもそうすべきと信じているわ。
貴族として、自国を脅かす存在と相対するのは純然たる責務であり、其処に意思を載せる気はないし、そうしてはならないとも考えているのよ。
よって……感情や気遣い、忖度の入る隙間も無く蹂躙したいと思います、マル
それでは確認。サクッとね。
現在ナイトレイドのアジトに居るのは、アカメ、タツミ、マイン、レオーネ、ラバックの5人。
元は帝国暗殺部隊出身で最上級の戦闘技術を持ち、掠るだけでも即死する必殺帝具を持つアカメ。
メタ的な意味でアカメに並ぶ潜在能力を持ち、未だ成長途中の戦闘巧者であるタツミ。
ナジェンダが元々所有していた帝具パンプキンを継承した、ピンチになるほど威力の向上する砲撃を放てる、ジャイアントキリングを狙えるマイン。
獣化することで身体能力や各種感覚に治癒能力まで向上する、まさに近接戦闘のプロフェッショナルであるレオーネ。
非常に応用性の高い糸の帝具使いで、結界の設置から索敵・警戒・防御・攻撃などの使いこなしが出来る支援に優れたラバック。
以上、ナジェンダを除いたナイトレイドの残存戦力が集結しているわ。
アカメとマインは自室で就寝中、タツミとレオーネとラバックは広間で酔い潰れているみたいね。
……ふ~む。
折角だし、演出にも拘ってみましょうか。
具体的には、
恐怖と狂気はアタシの本懐ですものね。
――じゃあブチ込んでやるぜ。
最初に敵襲に気付いたのは、原作通りと言っていいのかはたまた必然なのか、レオーネだった。
【“百獣王化”ライオネル】。彼女が保有する帝具は獣化によって身体能力や各種感覚を強化する代物だが、その副次効果として長期間此の帝具を使い続けると、未使用時でも獣化の影響が肉体に現れるというモノがある。
早い話、帝具を展開せずとも感覚が獣並みになるのだ。
現時点ではその恩恵(または悪影響)に誰も気付いていないが、彼女はその鋭敏になった野生の獣の如き嗅覚で、吐き気のするような悪臭に気付いた。
「ッ!? ――なんだ……?」
まるで人間の臓腑を腐らせて煮込んだような、鼻が曲がるほどの酷い臭いだった。
そんな汚臭をさせているモノに心当たりが無い為、帝具を展開させて感覚を研ぎ澄ますレオーネ。
そうして獣化によって人間とは比べ物にならないほど向上した五感が捉えたのは、ナニカがアジトを完全に包囲していた事実だった。
「――不味い!!」
偶々夜更けに目が覚め、顔を洗いに風呂場へ訪れた状況。
いつの間にか得体のしれないナニカに包囲されている事実に驚愕し、急いで仲間に報せようと踵を返しかけたその瞬間。
――ぐちゃり、と。
粘り気のあるナニカが滴り落ちるような音が背後で聞こえた。
その瞬間に頭を戦闘時の心構えに切り替え、跳躍で距離を取って背後を振り返る。
「――ッ!? なん、だ、そりゃ!?」
そんな彼女の目に映ったのは、絶えず蠕動する軟体動物の如き様相のヒトガタ。
そうとしか表現できないナマモノであった。
『テケリ・リ』
「~~ッ!?」
沼底の汚泥を纏ったようなヒトガタは、人の声とも動物の鳴き声とも、風切り音とも機械音ともとれるようなイビツな
聞くだけで肚の底まで凍り付いたような怖気を感じたが、恐怖を押し込めて目の前の
ぬらぬらと気色の悪い粘液で覆われたクリーチャーを素手で対処するのは憚られたため、咄嗟に首元に常時着込んでいたマフラーで手を覆って殴りつけた。
「――ッダァ!! どうだ!?」
『……テケリ・リ』
殴り抜いた瞬間のぬたりとした悪心をもたらす感触に努めて目を逸らし、化け物を見やる。
一般人ならば、いや、およそ大概の生物ならば余裕で殴殺できるだけの威力を込めた攻撃に、眼前の化生は碌な抵抗も見せずに殴り飛ばされた。
そして……また、あの奇妙な鳴き声のような異音を絞り出し、命が抜けたかのようにドロリと横たわった。
――最後まで悍ましい狂騒を見せられたレオーネは精神に重大なダメージを負った。
SANチェックです。
「クソッ、いきなり大量の敵!? しかもこんなに近くに……!!」
既に、アジト内部に居た構成員たちは先ほどのレオーネの会敵と同時期に敵襲に気が付いていた。
その第六感的な感覚の鋭さは、流石に熟練の暗殺者たちであると言えた。
中でも帝具により糸の結界をアジト周辺に張り巡らせ、索敵と警備、施設保全を担当していたラバックの動揺は一入だった。
糸の結界は自分が寝ていても反応するし、ソレに気が付ける程度の訓練はしてきた。
酔い潰れて寝落ちしていようとも、その程度で感知不能になるほどのヤワな精神はしていない。
ソレなのに、アジトが完全に取り囲まれるまで一切気付けなかったのだ。
ただ、あくまでも結界は物理的な糸を張り巡らせることで、ソレに触れた存在を感知するというだけのモノでしかない。
という事は、此の襲撃をしてきた存在は、少なくとも視認が困難な極細の糸をやり過ごせる程度には知恵が回る輩という事だ。
ソレは、現在周囲を続々と埋め尽くさんとしている魔物の如きナニカに、そうするだけの知能があるのか、はたまたアレらを統括して指示を出せる上位のナニカが存在するのか。
どう転んでも厄介ごとからは逃れられそうにないという事実に、我知らず頬を引き攣らせるラバック。
どう対処すべきか、支援をメインに担当している自身の立場から、まずは糸による結界を張り直すことで全体の把握を行うべきと定めた、その時。
――ぞぶり。
奇怪な雑音と共に、進行方向にナニカが現れた。
粘性生物と多様な生物を粉砕して混ぜ合わせ、ソレをヒトガタに無理やり押し固めたら
世界中のあらゆる生物の常識に合致しないと断言できる、機能性と生き物らしさを無視した只管に虫唾が走るその異形は、どうやって此方を認識しているのか、しかし確実にラバックを
『テケリ・リ』
「――ッ!?」
邪悪を音にしたらこうなった、とでも言えるような、汚らわしい響き。
「――死ねぇッ!!」
【“千変万化”クローステール】。強靭な糸を用いてあらゆる局面に対応可能な万能帝具。
今回はソレを束ねて槍のように成形し、刹那の内に撃ち込んだ。
「……やったか!?」
明確な手応え。
肉を抉る感触が糸越しに伝わり、対象を貫いたことを確信する。
それでも生死の確認が口をついて出たのは、敵対者の悪魔の如き気味の悪さからだった。
『……テケリ・リ』
断末魔と呼ぶには力の無い、それでも
――半ばまで融解した汚泥のような肉塊を残して。
――最後まで不快な光景を見せられたラバックは精神に重大なダメージを負った。
SANチェックです。
既に戦場は狭隘なアジト内部から、開けた外部へと移っていた。
敵に場所が割れた以上、此のアジトは放棄。
別の拠点に移るのは必定であり、それゆえに全員が動きにくい建物室内の破壊に気を配らずに戦いやすい外へと強行突破を図ったが故だった。
襲来した敵は、その忌まわしい在り方とは裏腹に、然して苦労せずに打破することが可能だった。
斬り、殴り、刺し、潰し、折り、撃ち、焼き……およそ考えつくありとあらゆる攻撃がそのまま通用し、碌な抵抗もせずに素直に食らうのだ。
見目の邪悪さに反し、此の化生は非常に弱かった。
――だが、楽観視は出来ない。
まず、数が多い。
アジトはそれなりの敷地面積で、郊外にあるが故に外延部も含めれば相当な広さを誇る。
だが、此の怪奇生物は隙間なくビッチリとアジトを包囲している。
ソレも、文字通りの
ラバックの帝具ならば周囲の木々に糸を繋ぎ足場とし、壁を飛び越えることも考えられた。
しかし、中継地点となるべき糸を掛ける場所が存在しない。
完全に外周を肉によって切り開かれ、占有されていた。
つまり、現状では空でも飛べなければ退避できないし、真っ当に逃げ出す為には此の夥しい量の肉塊を押しのけていかねばならなかった。
そして、精神的疲弊。
此の魑魅魍魎が如き存在は、唯々醜い。
臭いが、鳴き声が、感触が、外見が、そして試すなど有り得ないがきっと味すらも。
五感に直接攻撃をするような、相対するだけで正気が削れるほどの気持ちの悪さ。
コレと敵対し打ち倒すというのは、殊更に精神的苦痛を感じるモノだった。
特に、攻撃手段が徒手空拳しかないレオーネとタツミは消耗も大きい。
タツミはまだ全身鎧で身を覆っていて申し訳程度の隔たりもあるが、レオーネは精々急ごしらえの衣服を使った布の
そんな彼らは直接此の異形と闘う事に、本人でも気付けないほどに精神的ダメージを重ねていた。
此のストレスが極まった際にどうなってしまうのか。
簡単に敵を打ち滅ぼしているかのように見えるナイトレイドは、予想もつかない精神的綱渡りの状況にあった。
最後に、怪魔そのものの危険性。
最初は棒立ちで這いずる程度にしか動かなかった。
次にカメのように鈍重ではあるが向かってくるようになった。
次第に低位の危険種程度の動きは出来るようになっていた。
そして、今ではある程度の運動能力を獲得しているようにしか見えない。
此処までくると断言出来た。
此のフリークスは、今この瞬間にも成長を続けている。
現状では防御力と耐久力が低劣な為になんとかなっているが、コレに肉体強度まで強化されるようになれば為す術も無い。
完全に包囲されて逃走が不可能な状況、早く何とかしなければ確実に詰む。
その事実に総員が気付きつつあるため、徐々に絶望感が漂い始めていた……。
此の閉塞した状況を打破するためには、何か外部からの一石を投じる必要があるだろう。
それも、劣勢に陥った彼らを纏めて救い出すような、
――果たして、ソレはやって来た。
徐々に疲弊しつつあったナイトレイドの皆が待ち望んでいた、盤面をひっくり返す存在。
すなわち、
――此処で、史実と異なる展開が訪れていた。
原作では此の時に救援にやって来たのは生物型の帝具【“電光石火”スサノオ】と、非戦闘タイプの帝具使いであるが故に此の時点で戦闘に参加はしなかったチェルシーの2名。
そしてボスのナジェンダだけだった。
しかし、此の世界では何の因果か。
増援に現れた帝具使いは、彼ら以外に合計5名もの人員が追加されていた。
生物型帝具は帝具に認められた使い手が存在しなければ自律稼働などが出来ないが、隻腕であるナジェンダはその使い手として認定されたことで、本人の戦闘力以上に戦力として勘案可能に。
彼女本人も元将軍という経歴にあるように、単体での白兵戦能力は義手が機械腕であることを加味しても平均以上はある。
どうしても帝具使いなどと比べたら劣りはするが、戦術眼も相応に備えているため、現場に直接身を置いて指揮する前線指揮官としては優秀と言えた。
チェルシーの持つ帝具は【“変身自在”ガイアファンデーション】。
使用すれば姿形、大きさや質感すらも自由自在に変化が出来る、文字通り自在に変身することが可能な帝具で、当然ながら攻撃能力は存在しない。
その性質上、単体での潜入暗殺に特化しており、帝具だけでは対応できない立ち振る舞いの模倣や観察眼、急所を一撃で仕留める暗殺技術などの技術も修得している、まさに暗殺の専門家と言える熟練のアサシンだった。
……だが、それゆえに単純戦闘能力は然して高いとはいえず、現状のような斬った張ったの鉄火場では正面戦力としては数えられない。
しかも、此処に展開されているのは搦め手など通用しないとしか思えない、異相の怪生物の軍勢。
よって、此の場においてはチェルシーを戦力に数えることは出来ないと見たナジェンダの判断で、今回は参戦を見送った。
そして、彼女たちが搭乗してきた特級危険種のエアマンタ。
革命軍本部に所属する危険種すらも馴致可能な調教用の帝具によって飼い馴らされたソレは、一般に飛行機械が存在しない此の世界において空中戦力として三次元的戦略視点を得られる、非常に有意な代物だ。
単純に『空を飛べる乗り物』という程度の存在では決してないが、少なくとも今回は単に移動の足として使用したため、攻撃手段の類は用意していない。
それでも、空を征くことが可能なコレが有れば肉壁の囲みを抜け出すのも不可能ではないし、やろうと思えば立体的機動戦闘の援けにもなるだろう。
ともあれ、其処までの細かい指示は急場では難しく、今回に限っては移動手段としてしか使用できない。
そして、そのエアマンタが此処には2体。
もう一体のエアマンタの背には、
そう、原作との相違点。
此処に革命軍の別部隊が追加で派遣されていた。
と言っても、何かしらの遠大なバタフライエフェクトの結果などではない。
単純に色々とやり過ぎていたDr.スタイリッシュを危険視した革命軍本部の一部が、何か起きても対応できるようにと、超攻撃的な部隊の派遣を決定しただけだ。
本来ならば革命軍はドクターに対する対応を統一出来ておらず、前回もナイトレイドが現場の独断で特務軍との突発的戦闘に及んだことを問題視された。
そして今でも触れず触らずの考えが大方の方針だ。
しかし、『人が集まれば政治が出来る』と言われるのが人間という生物のサガ。
そもそも革命軍は反乱勢力の寄り合い所帯であり、合議制を名乗ってこそいるが……その意思決定は色々とイビツに過ぎる。
そんな革命軍が一枚岩でない以上、幹部の中の過激派が全体の意思とは別の思惑で動き出すことは特別に不思議な話でも無かった。
――そう、今回派遣された帝具使いたち。
彼らは正にドクターを殺害することを至上命題として帝都にやって来た。
その為に攻撃力の高い稀有で強力な帝具使いを揃え、帝都の被害を度外視して作戦を強行する計画を立てていた。
大事の前の小事、必要な犠牲、コラテラルダメージと断じ、無関係な帝国臣民すらも道連れに、悍ましい計画が発動しようとしている……。
そんな一大作戦の前の肩慣らしと考えたのか、それとも味方を救出する程度の仲間意識はあるのか。
彼らは各々の自慢の得物を手にグロテスクな生物に向けて空から躍りかかった。
「――挨拶代わりだッ!! 痺れちまいな!!」
髪を逆立てた金髪でガラの悪い男がそう言うと、両手に装備したナックルガードから紫電が迸る。
帝国近衛軍のブドー大将軍と同系統の雷撃能力を持った帝具。
大将軍との明確な違いは、雷撃を放出するよりも特殊効果として活用することに長けている点だ。
自身や味方に付与すれば生体電流を強化して圧倒的な身体能力を簡単に得られる。
そして敵に浴びせると物理的なダメージ以上に麻痺と身体機能への電気信号の途絶をもたらすことが可能。
「一人でドンパチするのだけが能のどこかの老害とは違う」、というのが担い手の弁であるほどに汎用性に優れている。
「さぁ……大地の抱擁を受けなさい……」
うっそりと呟くように口にした黒衣の女性が地に手を付けると、地面が湧きたち次々と岩盤の槍衾が直上に突き出されていく。
接触している地面を操作する、極めて効果範囲の大きい帝具だ。
最大出力で繰り出せば小さい町くらいならば沈没させて生き埋めにも出来るその強烈な能力。
およそ暗殺には向かないが、条件を整えることが出来ればその効力範囲の広大さから、最強と名高いエスデス将軍やブドー大将軍すらも打破せしめると見做されている。
「フフフ、実に奇妙な生態ですが……イキモノだというのならワタシの能力が効かないハズがありません」
落ち着いた雰囲気の優男がそう言うと、次々と敵たちが崩れ落ちていく。
自然界に存在しないあらゆる効果の薬品を創造する帝具によって、毒素を振りまいた結果だ。
此の創られた毒物は、恐ろしい事に『敵にだけ効果をもたらし、味方には無害』という性質を付与することが出来た。
放たれた後の薬品を、使い手の匙加減一つで自在に効果を変ずることが出来る。
そのご都合主義のような能力により、味方が密集した状況から囲んでいる敵方にだけ被害を強いるという事が可能になっている。
「アッハハハ! みぃんなアタイのオモチャにしてあげるよ!!」
躁気味に興奮した少女が拳銃から放った銃弾は、次々と直撃した敵を支配して操っていく。
生成した弾丸を放ち、当たった相手を操り人形にするリボルバー型の帝具。
同時に操作可能な数は装弾数の6体が限界だが、裏技として操作を放棄してバーサーカーの如く敵陣で暴走させることで、より多くの相手に効果を及ぼすことが出来た。
その結果、敵が密集する地点へ射出された支配の弾丸は過たず効果を発揮。
敵の数の多さを逆手に取り、どんどん相手を暴走させて脱落させていく。
「ギャハハハハ!! 選り取り見取りじゃねェか!!」
何故か、無防備に敵が密集した地点へと飛び降りた最後の一人。
そのままでは無惨に数の暴力でやられてしまう……そう思われたが、しかし彼は生きている。
それどころか、空間ごと抉り取るかのように周囲に展開していた敵が一瞬で消失していた。
いや、消えたように見えた敵たちは、猛烈なスピードで此の男の身体へと吸い込まれている。
彼の帝具、その本質は……簒奪。
触れた相手を取り込んで吸収し、其の総てを我が物としてしまう超越的能力。
すなわち、彼と接触した相手は問答無用で取り込まれ、その身の糧とされてしまう。
その吸い尽くされたイノチは、使い手の生命力と身体能力の強化に回される。
そして、彼はこれまでにおよそ1万もの命を食らい尽くしてきた。
つまり――彼は単体で1万の軍勢に等しい力を持ち、彼を殺しきるには1万回殺害することが必要である。
いわば一人の軍隊。
此処に集う数えきれないほどの敵を吸収しきった時、彼は一体如何ほどの存在に成り果ててしまうのか……。
突如投入された強力な増援。
その圧倒的な武威に、明確な勝ち筋が見えたナイトレイド。
アリを踏み散らすように奇形の生命体を打ち倒していく様子に、誰もが勝利を確信した。
安堵した。安心した。ほっとした。気が緩んだ。一息ついた。
言葉は違えど、その場にいたナイトレイド達に共通していたのは、窮地を乗り越えたという感覚。
――そんな時だった。
唄が、聞こえる。
化外が垂れ流す怨嗟の呪詛のようなノイズではなく。
まるで
荘厳と雑然。堂々たる猥雑さ。醜美、優劣、功罪、吉凶、善悪、生死……。
相反する概念が至高の芸術品のように完璧に同居する矛盾。
魂に直接訴えかける畏怖の感情と恐慌の衝撃。
耳にしただけで、思わず動きを停めてしまう圧倒的な存在感。
今まで倒してきた魔獣たちが可愛く思えるような、格の違うナニカ。
来る、繰る、くる、クル。
悍ましいという言葉すら生ぬるい、人知を超えた狂気。
やって来る。何処からか。何処かへか。
いっそ神聖さすら感じてしまう程の、振り切った負の存在感。
言葉でも身体でも精神でもなく、魂魄が認めている。
コレが、コレこそが。
深淵より滲み出る冒涜的な叡智。
異界の狂気によって、外なる神々の邪智が此処に顕現した。
絶望が降臨する。
最後が気持ちよかった(小並感)