憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
なお、後書きに怪魔のイラストを載せていますが、R-15Gとのご指摘を受けましたので、一応注意書きをしておきます。
――パチン。
引っ張ったゴム紐が千切れたような、気の抜けた音がした。
最初は何が起きたのか気付けなかった。
だが、連続してその拍子抜けするような軽い音が響き渡ると、やがて誰かが口にする。
『バケモノが破裂していく……?』
正体不明の歌声によって戦場で動きを停めるという大失態を侵す程の混乱にあったナイトレイドたち。
そんな彼らを更なる驚嘆に導いたのは、今迄彼らを盛んに攻め立てていたバケモノたちが連鎖するかのように次々と弾け飛んでいく有様だった。
「――なんだ……何が狙いだ……?」
全体を把握すべく上空に残っていたナジェンダをして、全く理解不能な状況。
バケモノたちの自死は加速して広がっていき、既に辺り一面が連中の血肉と臓物に塗れている。
まさか活動限界なりがあって、時間切れにでもなったのだろうか……?
――そんな希望的観測は、飛び散った肉片から新たな個体が生えてきたことで霧散した。
「なんだと!?」
「どうなってんだ!?」
「ふざけんな!」
誰が口にしたのか、意味の無い罵声の数々。
ソレはその場に居た人間の総意だったが、感情のままに喚き散らかすような余裕は無い。
バケモノ共は、即座に再起動を果たす。
その動きは、先ほどまでの
既に、一体一体が特級危険種並みの動きだ。
そして、気のせいでなければ徐々に動きが洗練されていく。
先ほどまで見せていた異常な成長能力。
ソレが失われていない限り、その運動性能は確実にいずれ手に負えなくなるだろう。
そして……そんな
現に、今こうしている此の瞬間にもバケモノは強くなり続けている。
更に、殺したはずの死体から、また同様に次の個体が発生する。
円陣を組んで全周を敵に囲まれているナイトレイドたち。
無限に増え続けるバケモノたちを前に、再びの絶望に陥っていた。
倒しても、斃しても、たおしても。
バケモノは死体を素にあっという間に増え続ける。
何より有り得ないのが、一体のバケモノの死体から、数え切れぬほどのバケモノの再生成が行われている事だ。
エネルギー保存の法則に中指を突き立てるかのようなコストの無視。
苦労して一体を倒したとしても、まるで意味が無いとでもいうように数倍になった数のバケモノが強化されて生み出される。
今は質が上回っている彼らだが、それもいつまでも持つか。
そして、この暴力的なまでに甚大な量の差は、多少の質の優越でどうにかなる問題ではない。
そうなれば、いずれは質と量で上回られ、地上に居る全員が嬲り殺しにされるのは明白だった。
――どれだけの時間が経過したのか。
闘っている帝具使いたちにとっては無間とも思えた時間。
既に質と量が完全に覆った現状。
バケモノ共がすぐには殺してくれず、嬲るかのように戦闘を長引かせている。
皮肉にも、死者が出ていないのはソレが、ソレだけが理由だ。
――だが、ソレにも限界がある。
最初に、砲撃や銃撃、特殊攻撃を能力にするが故に、肉弾戦を本職とする者たちより体力の低い連中が。
次に、支援や薬品の使用がメインで直接戦闘を不得手とした糸使いと毒使いが。
そして歯抜けとなった陣形に雪崩れ込んだバケモノ共によって、直接戦闘能力の高い者たちが。
吸収が効かなくなった簒奪者が。
必殺の呪斬が効かなくなった最強戦力が。
更には今迄見せてこなかった跳躍力で抵抗する暇もなく捕縛された元将軍が。
最後に使い手が捕らえられた事で生物型帝具が。
やられた。
ぐうの音も出ないほどに完全無欠の敗北。
あっという間に、革命軍最強の戦力を誇った部隊は増援部隊ごと壊滅した。
バケモノが変形して十字架になり、其処へ磔にされたナイトレイドたち。
疲弊し、諦観し、絶望を通り過ぎた彼らにあったのは……安堵だった。
――ようやく、此の地獄からおさらばできる。
……死ぬ事によって……。
心が折れ、諦念によって精神的に死んでいる彼ら。
そんな彼らに、死ぬ事すらゆるされないという現実が降りかかる。
「ハイハイは~い。はじめまして~。こんばんは……いやもうおはようございます、ね?」
曙の頃合い。
徹夜明けに夜空が朝日の光で覆われていく此の時間帯……嫌いじゃないわ。
久方振りに徹夜で残業なんてしちゃったけど、危険手当も深夜手当もつけないわよ、この件では。
なんせ特殊部隊のブラックオプスに近い……というかソレそのものなんですから。
予算云々が公に出来ないから、そこは別組の財政を充てるのね。
つまり当然だけどタダ働きとかじゃなく、普通に後で補填するってこと。
ソレはさておき現状確認よ。
ただいまアタシの目の前には、腐った魚の眼で十字架に貼り付けられたナイトレイド諸兄が鎮座ましましておいでよ。
その十字架の枷は蠢く肉塊によって出来ていて、非常にグロいわね。
……ヤダー、超キモーイ。
――ま、当然全部アタシがやったんですケド。
本作戦でやったことはシンプリシティ。
無限再召喚機能を持たせた学習型怪魔を呼び出し、けしかける。
コレだけ。
ね、簡単でしょ?
たったコレだけで、帝都を騒がす凶悪な暗殺者たちを一網打尽に出来た次第。
……コレが何も考えていないどっかの大将軍(笑)とかなら、このまま彼らを殺処分いたすんでしょうが……。
生憎とアタシもアタシで色々考えているのよね。
伊達や酔狂で此の腐敗帝国で派閥なんか形成して、あの大臣とシノギを削りあっているワケじゃあないの。
つきましては、今回は順当に
幸いというか怪我の功名というか、アタシの存在によって呼び寄せられちゃった、原作には出てこない連中が居るものですから。
余分な彼らをターゲットにしちゃいましょ。
原作では最終戦で出ていたのかもしれないケド、此の世界でそんな未来は永遠に来ないので考慮に値しないわ。
よって、これから援軍諸氏を縊り殺しましょう。
「まずは、そうね……アナタ」
「……あぁ?」
最初に目を付けたのは、吸収系の帝具を持っていた彼!
残念ながら帝具は既に奪っちゃったから、この子はもう何も出来ないわ。
そんな彼にはナイトレイドのみなさんの結束を示す、
見とけよ見とけよ~。
「――笑いなさい」
「……ハァ?」
生意気にも、「いきなり何を言っている?」と言わんばかりの呆れ顔の彼。
でもダメ。
アタシは命じたわよ?
「何を――ギャ!?」
アタシの意思一つで自在に動くバケモノの枷は、即座にアタシの意を汲んで吸収くんの足先を食い千切ったわ。
……コレで、アタシが何を言わんとするのか分かってもらえるでしょうね。
「――笑いなさい」
「ヒッ、ヒァッ、ヒヘ、フヘヘ……っ!!」
機械的に此方の要求を突きつけ続け、拒んだり黙秘したりしたら無言で身体を刻んでいく。
そうして出来上がるのが、誇りも矜持も意地も何もかもを剝がされた、唯々諾々と従うしか能の無い無力な木偶ってスンポーよ!
見て! 吸収くんが笑っているよ。
かわいいね。
――ソレはさておき。
「――圧壊」
「ヒ――ぎゅぷッ!?」
誇りを捨てて媚び諂っていたので、吸収くんは
お前のせいです。
あ~あ。
「――帝国軍において笑顔は死出の旅路を意味するわ」
いや勿論ウソだけど……(ウソ吐いたら)いかんのか?
ま、いいわ。次にいきましょ。
「んじゃ、お次は……アナタ」
「ヒィっ!?」
なんだっけ、能力は忘れたけど黒っぽい女の子。
「笑え」
「ぇ、い、嘘、その――あぐぅ!?」
……今では悲鳴も力なく。
勿論この子も寸刻み。
何故なら彼女もまた
「――笑え! 笑ってみろ!!」
「ひぐ、ぅぐ……フヒ、ゥヘヘ……っ!!」
泣き笑いの様相で、無理やりに顔を歪ませる黒子ちゃん。
そうするしかないとはいえ、実に憐れ、実に不憫、実に可哀そう。
こんな不条理が許されていいのでしょうか。
おお、ブッダよ、寝ているのですか!!
――せめて痛みを知らずに安らかに死ぬがよい。
「ァハ――チニャッ!?」
無事、テーレッテーしたわね。
武士の情けよ。アタシ別に先祖が士族とかじゃないケド。明治前後に開拓民やってたんだったかしら。
「意思を放棄した人間は人間にあらず!! ただ笑いと媚びに生きてなにが人間だ」
一度は言ってみたい拳王様のセリフ。
フフフ、やはり暴力は全てを解決するわ。此の拳王に無抵抗は武器にならぬのよ。
――よし、次。
「ん~……では、アナタ」
「ッ!? て、テメェ……!!」
ネクストチャレンジャーはアナタで決まりよ金髪ボーイ。
目が合っちゃったものね、シカタナイネ。
「そうね……」
「わ、笑えばいいんだろ!?」
「そんなことしなくていいから(良心)」
「え――」
あらヤダ、つい天邪鬼が出ちゃったわね。
でも許すとかそういうのではないのよ。
「ゥグッ!! ――ギッ!? ギャアァアアアアアアッ!?」
「――そろそろ趣向を変えようかと思ったのよね」
拘束した手足に硬化させた怪魔の棘皮を差し込み、そこから神経と接続して直接痛覚を励起させたわ。
コレなら感度3000倍も思うがままよ。
「フフフ……気持ちよさそうね?」
「ざ、ざけんなッ!! ガッ!! ゥガァアアアアア!?」
勿論アタシも痛みを快感に思う
ただただ彼の尊厳を凌辱したいダケよ。
「気持ち良いでしょ? 気持ち良いと言いなさい」
「ァアアアアアアッ!! ギ、ギァアアアアアアッ!!」
なんだお前根性なしだな(棒読み)
聞かれたらちゃんと返事しなさいよ。
「
「ギィイイイイイイ! ギモヂイイデスゥウウウウウウウウ!!」
ウフフ、白目を剥いて痙攣しちゃって……まるで本当に気持ち良いみたいじゃあないの。
「気持ちよかったのね……よかった。じゃあ、死にましょうか(無慈悲)」
「あべし!!」
気持ちよく死ねたのならそれでヨシ!
慈悲の心を忘れない寛容な
――そろそろ飽きてきたわ。巻きでいきましょ。
「よし、次はアナタ」
「ヒィイイイ!?」
うん、良い悲鳴ね。
インテリ風の優男、確か薬物系の帝具使いだったわね。
「ゆ、許してください! なんでもしますから!!」
「ん? 今なんでもするって言ったわよね?」
ホモ
生き残りたいからって誇りを捨てるとか、今さっき死んでいった仲間たちに顔向けできないわねぇ?
そもそも生かすワケ無いんだけど……まあその心意気を汲んで試練を与えちゃいましょう。
「そのクッソ汚い命根性、寧ろ敬服に値するわね♡ オラァ! 喰らえェ!!」
「おげぇ!?」
早速奪った帝具で
愛という名のもとに各種病魔をフルコース。
化学式だけじゃなく病原体もイケたのはうれしい誤算ね。
……正確には、危険種由来の万能微生物と呼べる代物に、指向性を持たせてあらゆる化学式を再現させていた――ってのが此の帝具の本質らしいわ。
「痛ぇえええええええええッ!?」
「入れる瞬間が痛いのよ(解説)」
ともあれ体内にブチ込んだ病魔の数々、耐えきったらアナタの勝ち。
耐えられたら普通に解放するわよ? 出来たらな。
「――うげッ!! オボロロロロロッ!?」
「(病気)怖いねぇ……(同情)」
青白い肌にポツポツと黒い染みが浮かび上がり、嘔吐と米のとぎ汁のような水っぽい便を噴出するが如き勢いで垂れ流す優男。
リンパ節は拳大に膨れ上がり、血痰を伴う肺炎により掠れたような空咳を繰り返す。
呼吸が難しくなるほどの喘鳴、チアノーゼ、意識の混濁、失禁脱糞。
七孔噴血の見本と言わんばかりに全身の穴という穴からの出血。
目は充血し、黄変も進んでいる。肌も黒と黄色、赤と青のコントラストが実に病的。
アクセントでピンク色の斑点と膿疱が浮かぶ肌色は、もはやアングロサクソン系の面影が無い。
――うん、開発中の各種BC兵器の再現も可能、と。
優秀な帝具ねぇ。使用者に扱う代物の知識は必要みたいだけど。
ペスト、コレラ、チフス、炭疽菌、エボラやマールブルグ等の出血熱混合型、天然痘……。
取り敢えず現在アタシが開発中のモノの中で、特に完成度が高いのを再現してみたわ。
元々帝具が持っている特性で、感染力を任意で即座に弄れるのはアタシが開発中の病原体より優越しているわね。
今此処でブチ込んだのは感染力をゼロにしてあるから、他の生き残りの皆さんには
ん~……頑張れば寄生虫病系も再現できそうね。
「声出してみなさいよ(健康観察)」
「――ぜひ……ぜひ……ぜひ……っ」
まるでゾナハ病患者みたいね。
でもアレと違って普通に全く呼吸出来ないから、このままだと酸欠で死ぬわ。
勿論チアノーゼでも死ぬし、出血でも死ぬし、脱水でも死ぬし、その他諸々合併症祭りで、最長で30分くらいで死ぬわよ。
だから死ぬ前に色々聞いておきたいんだケド……。
「ハーーーッ……(クソデカタメ息)」
つっかえ。ホンマ使えん。
病状を本人から聞いておきたかったのに……この分じゃもう使えないわね。
でも約束は守るわよ? もし万が一、億が一、那由他の果てに奇跡が起きて即座に完治したとしましょう。
その場合は生かして帰すわ。惑星直列が起きるくらいの可能性になるけれども。
だから取り敢えずこのまま手出しせずn――
「――アラ?」
「………………」
……死亡確認。
普通に死んじゃったじゃないの。
歴戦の帝具使いなんだし、もうちょっと根性見せて欲しかったわねぇ。
――ま、いいわ。
「お ま た せ」
「あ……あぁ……」
う~ん、良い絶望顔。
コレはイジメ甲斐があるってモノだけど……。
「――ごめんなさいね」
「え――うわらば!!」
しめやかに爆発四散! サヨナラ!!
「飽きちゃったわ」
飽き性なのがアタシの欠点ね。
拷問とか苦手なのよ、アタシ。
面倒は殺すに限るって考えですもの。
チマチマ嬲るのがかったるいのよねぇ……。
「――ヨシ、良いデータが取れたわね」
最後は兎も角、結構良い実験結果になったものだわ。
帝具使いとの戦闘という、レアなデータのサンプリングが出来たのは間違いなく良好な結果よ。
今回は魔術オンリーだったけど、ソレでも十二分に対応可能ってのが知れたことだし。
「って事で、早速実験結果を反映よ」
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~。
唱えた呪文(適当)のあと、さっきまで死んでた連中(肉片込み)が再生を始めたわ。
ただし、首から下は怪魔仕様だけど。
まあ怪魔ってか、ぶっちゃけショゴス的な代物ね。
危険種のキメラに異界の神の因子(アタシの)を植え付けた量産型ディープワン。
形状は割と自由自在で、今は省エネモードである肉団子状態よ。
ソレに人間の首が生えているモノだから、まあSANチェック案件でしょうね。
「うんうん、それで、意識の方はどうかしら?」
「「「テケリ・リ」」」
肉塊が各々の首で返事をしたわ。
ちゃんと生前の声のままよ。
勿論記憶とか人格とか能力とかも引き継いでいるけど、一番重要なのは記憶の保持ね。
……まだやらないけど、普通に革命軍のヤサがコレで割れるわ。
他にも幹部人員の名前や支援者の詳細など。
流石に実働部隊に過ぎないコイツらだと其処まで深い情報はないでしょうが、情報がゼロよりマシでしょ。
少なくとも現場組の最高戦力に位置づけられているのが帝具使いなんだから、
ふぅむ……取り敢えず後は持って帰ってから検証しようかしら。
色々試したいけど、ソレは此処でやる必要もないものね。
「実験に協力してくれてありがとね。今日はこの辺でおいとまさせてもらうわ」
撤収作業開始。
アタシの影の中へ、増やしに増やした怪魔も含めて次々と飲み込んでいくわ。
今回の実験で結構頭数を増やせたし、後で編成を考えないとねぇ。
一応他の生存者諸君は五体満足で返却しときましょう。
流石に無傷はアレだから……。
「--よし、此処は恐怖公の出番ね」
「ッ!!!???」
おっと、マインちゃんは前に見たから気付いたようね……でも残念、逃がさないわ。
「裏破道の九十≪黒棺≫」
「「「ギ゙ャ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!?」」」
這い寄る黒き絶望に蹂躙されるナイトレイドの諸君。
――じゃ、今日はこの辺で。お疲れ様でした。
――ナイトレイド、残り8人?
感想で怪魔がグロいとご指摘を受けましたので、一応注意書きをしておきます。
怪魔の元ネタのショゴスがファンタジーにおけるスライムというモンスターの元ネタなんですが、その外見は肉塊で出来た粘性生物といった様相です。目や口、牙などが散りばめられた醜悪な不定形生物。拙作の怪魔もそのように描写しています。
見た目は真っ赤な肉塊で出来た腐汁が滴るスライムといったところ。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
【挿絵表示】
怪魔省エネモード。
不死身である、という以外に取柄が無いタダの肉塊。
無限に増殖が可能なので質量で圧殺するくらいは出来る。
ヒトを取り込めば生前の全ての能力と記憶を奪える。