憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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大臣と会食を楽しむ系憑依主人公。


File40:腹黒朝食会

 さて、然したる苦労もなく任務達成ね。

 人生初蟲風呂の皆さん方はちょ~っとばかし精神崩壊気味らしいけど、そんなのアタシの知ったこっちゃないわ。

 これからアタシと敵対する限り、何回でも蟲を浴びることになるんだから、此処で慣れておく方が人生楽よ?

 ……ん? それとも、責め手のバリエーションを増やせ、という警句……いや、要望かしら? 欲しがりさんめ。

 ……うん。では、今後の敗残兵諸氏への拷問方法はもっと手練手管を弄しましょう。

 ――ま、未来の事は未来に考えましょ。

 

 

「――朝早くからごめんなさいね。アポイントメントの件で来たわ、大臣をお願い出来るかしら?」

 という事で後の事はうっちゃっておいて、今は作戦成果を報告に参った次第。

 宮殿の侍女に言付けして、アタシは饗応の間に向かう。

 

 別に饗応って言うほどの御大層な持て成しを受けるワケじゃあないけど、今日以外にも定期的に大臣とは会談の席を設けているのよね。

 その時はアタシも貴族の一席として接待の場にも相応の格ってのは必要だと思うし、そもそも大臣と食事を一緒にするときは相応以上の大盤振る舞いを向こうがしてくるのよ。

 何故かって、アイツは普段からそのレベルの美食に耽っているだけで、アタシであろうとなかろうと馳走を受ける場合はアイツ基準での話になるだけね。

 

 流石にあっちがコース料理食ってるのにこっちにはお茶漬けだけ、とかの舐めた真似はしないし、させないわよ。

 そんな嫌がらせをしてもお互いに利益が無いんですもの。

 当然そこには此方が過剰報復に出るという明確な共通認識があるのもあるでしょうが。

 ともあれアタシと大臣はお互いに政敵ではあるものの、利益追求をするという点ではお互いの傾向を知悉しているのよ。

 そういう間柄である以上、無駄に敵愾心を煽ったりしても得るモノが無いんですから、ある程度の外面は維持してやり取りするわね。

 

 って事で饗応の間には既にフルコースの一品目が並んでいるわ。

 地球で言うところの所謂ロシア式、つまり時間差フルコースなので、温かいモノは温かい内に、冷たいモノは冷たい内にと、つまりは順番ずつ出てくる形になっているけども。

 事前に連絡を入れたとはいえ、朝っぱらからコース料理一式を作らされる宮殿の料理人の激務たるや……。

 

 料理人の悲哀には目を背けつつ、食前酒から頂く。

 コレも大臣との宴席での不文律で、先に席に着いた方から食べ進めていいことになってるのよ。

 そもそも常人の数倍は食べるし早食いのスモウ・ファイター系暴食デブと、魔改造でいくらでも食べられるとはいえ感性は常人のアタシ(食う量は人並)とだと、同時に同じ料理を食べ始めてコースを進めたら確実に大臣側がお預けを食らうじゃないの。

 そして大臣は待てが出来るお利口なワンちゃんじゃあないのよ。

 そもそもアタシは大食いをする気が無い。

 そんなワケで、食事を一緒の席で摂るとはいえ、食べ進めるのは各自ご自由に、ってのがアタシたちの了解なの。

 ……まあ、大臣と同等のスピードで食べるようにしたら時間は合わせられるだろうけど、そこまでしてアイツと一緒の卓を囲みたいワケではないものね。

 だからアタシの量も一般人並みなんだし。

 

 という事でアタシはアタシで楽しませてもらうわ。

 本来のコースメニューでは食前酒から入るモノだけど、アタシは今日もこの後普通に仕事があるのよ。

 よって、アルコールの代わりに炭酸水を。

 ……まあメチルアルコールを飲んでも肉体に変化が訪れないようなナマモノに、アルコールを摂取したからどうにかなるだなんてことは無いけど、其処は生前から続く日本人的価値観よ。

 

 ところで地球の某ナポレオン曰く、『フランスの誇り』とまで賞賛したモノが炭酸水(ペリエ)だと言うわ。

 某ソシャゲで弓兵にされてる彼の発言の真意真贋是非は兎も角、アタシも炭酸水は好きよ。

 特に起き抜けに頂く炭酸が喉を刺すように刺激して目覚めを促すあの感覚は、ちょっと病みつきよね。

 

 完全に機械化された開発生産拠点を持っているアタシにかかれば、天然水に炭酸を封じ込めて炭酸水を作るのは簡単ではあるわ。

 ……でも、いつの時代もヒトって天然モノに憧れるじゃない?

 ましてや、アタシの所以外では碌に冷蔵設備すらも完備されていない此の世界、炭酸を密閉して気が抜ける事のないように流通させるのは困難を極めるのよ。

 

 その点で言えば、此のグラスに注がれた天然炭酸水の価値たるや!

 此の一杯で一般的な平民の月収くらいは吹っ飛ぶわね。

 

「――う~ん……なんて背徳的な味かしら……♪」

 

 超高級食材を、湯水のように味わう至福……!!

 ……コレが、貧困に喘ぐ市民を顧みずに~~とか革命軍が槍玉に挙げる帝国の悪事の一つらしいのだけど、ソレは視野が狭いと思うのよ。

 別に炭酸水は市民の血から採れるワケじゃないのよ?

 炭酸水が採取できる場所から迅速に消費者まで届けられているだけ。

 そのあと冷やしたり不純物を取ったり色々してるけど、元は天然物。(しかも炭酸水はアタシが売り出すまで商品価値を認められていなかった)

 つまり、採取、流通、消費が発生している、立派な経済要素なの。

 

 其処には採取業者への報酬が支払われるし、流通させる運送業者への報酬も出るし、買い付けた帝国の財務課は普通に代金を渡しているわ。

 つまり、ちゃんと需要と供給、金銭や物品の授受が発生しているの。

 無からナニカを生み出すワケじゃないんだし、当たり前だよなぁ?

 

 コレに搾り取った税金を宛がって私腹を肥やしているんなら確かに問題だけど、元々無価値だった代物に付加価値を生み出し、ソレを率先して消費しているという部分は見逃せないでしょ。

 そして、国の高官が政務の接待で口にする代物に、ある程度の格は必要ってのは普通のこと。

 最後に、此の天然炭酸水に限っては宮殿地下から湧き出る湧水から出来ているわ。

 ……つまり、究極の地産地消ね。

 

 という事で、他所だとコレは高級品になるけど、宮殿内部で供される場合は逆にゼロ円食堂化するという驚天動地。

 寧ろ宮殿産の天然水を『歴代陛下の御力が籠った特別な~~』と美辞麗句と修飾語を付けまくって各地に販売している始末。

 虚実入り乱れた付加価値が半端ないから、まあ売れに売れているわ。

 各領主が名産特産を生み出して領地の発展に寄与していくように、まさか王家が特産品を創出して成果を上げるなんて、結構な反則行為よね。

 

 地球だと、どこぞの聖テレサ教会が有名かしら。

 教会の入り口付近にある蛇口は聖水口とか呼ばれていて、其処には【HOLY WATER】という文言の看板が。

 勿論、その教会が属する宗教の儀式的行為に用いられる、所謂聖水としての扱いをされているわね。

 当たり前だけど科学的にはただの水道水で、信者が普通に蛇口を捻って水をもらう事が出来るくらいだけど。

 しかし「鰯の頭も信心から」というように、其処に価値を認めさせたのなら、ソレはもう対外的には『価値ある清水』なの。

 そういう事情で王家産の炭酸水は実体経済からはかけ離れた価値をプロデュースされちゃっている次第。一応他所の天然炭酸水や人工炭酸水と差別化してるのよ。

 

 ともあれ陛下御愛飲とか陛下の御力によって聖水が云々でセールスプロモーションを強化した結果、今の帝都では空前の炭酸水ブームが起きていたりするわ。

 ソレには勿論、財団製の人工炭酸水や、炭酸水製造キットなんかも流通させて消費に一役買っているわね。お手軽に普通のワインをスパークリングワインに出来ちゃうやつ。

 当然の話だけど、少量高級品だけで市場なんて回せないんだもの。

 

 

 そういう背景はともあれ、現地で産出した特産品を頂くってのは、中々に乙なものでしょ。

 流石にアタシ由来のチートでも使わない限り、首都の真っただ中、都市部のど真ん中で特産物が生まれるなんてことは有り得ないけどね。

 まあ、そういうワケで他は普通に帝国各地から取り寄せられた各地の名品名産よ。

 

 というかコース料理って言ったけど、ソレは形式の事であって、フランス料理がどうだこうだのってのは関係ないわ。

 少なくとも此の世界ではね。

 時間差フルコースの形式だって、本場からは邪道扱いされることもあるんですもの。

 でも温かい料理、冷たい料理をそれぞれベストタイミングで食べるなら、その都度出してもらう方が美味しいわよね。

 よって、そういうスタイルの是非については気にしないし、気にさせないわ。

 

 そもそも此の世界は異世界だから元の世界のどうこうってのはナンセンスでしょ。

 そして、原作でも大臣は皇帝と同じ卓についておきながら方やコース料理、方やホールケーキ丸かじりと、まあそういう様式については端から気にしないタチだもの。

 よって、「美味ければそれでいい」というアタシの流儀が妨げられることも無いのよ。

 ……勿論、此の方式がなんらマナー違反でも無い、ってのは大前提にあるけどね。

 

 

 ともあれ、そうこうしているうちに魚料理にまで食べ進めていたわ。

 明らかにナポリ料理だろう魚介とトマトのオリーブオイル煮込み(世界観ごっちゃになるわね)に舌鼓を打っていると、おっとり刀で大臣がやって来た。

 ……小脇に抱えた寿司桶から片手で幾つも寿司を口に放り込みながら。

 食前食とでもいうのかしら……? モーニングSUSHI?

 まあ、コレが大臣のスタンダードなので、今更目くじらなんて立てたりしないわよ。

 

「おはよう、先に始めてるわよ?」

 ワイングラスを掲げて軽く挨拶。

 特に申し訳ないとも何とも思ってはいないけど、普通に社交辞令は必要よね。社会人ですもの。

 

「結構、それでは食べながら話を聞かせて頂きましょうか」

 そう言って席に着くと、寿司桶の中身を傾けて飲み込むように吸い込んでいくデブ。

 ……カレーは飲み物って言うくらいだし、米を飲むくらいは一流デブなら誰にでも可能なのかしら。

 デブってすごい。

 

 まあコイツと特別に親交を温めたいとも思わないので、アタシも他の事は言わないで業務連絡から。

 

「取り敢えず、ナイトレイド追撃の件、成果内容から話しましょうか」

 昨晩、というかついさっきまでの戦闘のリザルトを報告。

 報連相は大事。古事記にもそう書いてる。

 

 とはいえ全部を話すつもりもないわ。

 あくまでもアタシと大臣はビジネスライクな取引相手で、そもそもが現政権の二大派閥のそれぞれの領袖。基本不干渉を取り決めてはいるけど、普通に対立もする関係よ。

 その立ち位置からお互いの立場に忠節だの厚意だの忖度だのは生じるはずがない以上、此方にとって都合の悪い部分に関しては、そりゃまあ任意でボカしたり誤魔化したりしちゃうわ。

 一応帝国の不利益にならない程度の配慮はするから、そこらへんの折り合いは付けてもらいたいわね。

 

 

「――という具合で、ナイトレイド側の帝具所持者5名を討伐。帝具も回収したわ」

「ヌッフッフ! 素晴らしい、相変わらず良い仕事をしますねぇ」

 

 まあ、一度の戦闘で帝具所持者5名を倒してその帝具も回収、ってのは確かに破格の大戦果ではあるわ。

 実態はさておき、だけどね。

 その回収した帝具も献上致すんですから、精々有効活用して頂戴な。

 

 アタシは別に帝具なんて欲しくないわ。

 必要なら似たようなの作れるもの。

 少し病毒系の帝具には興味があったけど、ソレも解析済みだから既に量産すら可能。

 よって、あれらは献上の形をとっても委細問題無し。

 

 ……そもそも、例の大会警備の責任や追撃隊壊滅の諸問題を腰巾着くんに押し付けた事の、いわば補填として本件は贖った形ですもの。

 その部分に関しては此方から何かを求める心算も無いわ。

 

「……ああ、ところで件の帝具使いたちは使うかしら? 一応、精神壊して大監獄の地下牢に転がしておいたけど」

 いや、ガワは怪魔だから、もう煮るなり焼くなりって事にしか使えないけどね。

 中身と人格記憶はデータとしてコピーしてあるから、マジでガワは要らないからって話でしかないわ。

 

「ほう、生け捕りまで? ……そうですねぇ、出来れば大々的に処刑するのに使いたいところですが」

「了解、何か注文とかあるかしら? マジで中身ぶっ壊れてるから適当な人格でも植え付けないと、処刑(ショー)が面白くないわよ?」

 

 みっともなく泣き喚くでも、痛みと恐怖に叫び散らすでも、命乞いを繰り返すでも。

 処刑ショーの演者としてはそういうのをして欲しいじゃない。

 生きてるのか死んでるのか分かんないような、半死半生の生き腐れをぶっ殺しても楽しくないでしょ。

 観客を楽しませるのがエンターテイナーの前提よ?

 やりたいからやる、なんてのはショービジネスではやめなさい。

 

「人格の植え付けですか……ちなみに、ソレはどの程度の自由度が?」

「あー、まぁ、処刑の時間だけ動かすなら大抵の事はさせられるわ。……詳しい仕様の要望は書面にでもまとめて後で内務局の方に回しておいて頂戴」

 

 何かしらのストーリー性を演出したいなら、ソレはそっちで考えて欲しいわ。

 アタシとしてはさっき例に挙げたような、喚いて叫んで命乞いをさせるくらいの演出しか思いつかないもの。

 ゲロの臭いがプンプンする吐き気を催す邪悪な極悪人にしか思いつかないような、冒涜的シナリオが思い浮かぶとしたら……アタシよりも大臣の方が得意でしょ。

 純なアタシじゃあちょっと性悪なストーリーとか思いつかないわー(迫真)

 

 

 

 報告すべき内容も話し終えて、後はお互いに社交辞令込みで雑談をしながら食事の時間。

 社交性と人間性というモノは相関しないようで、薄汚い悪事は置いておいて、他愛もない四方山話をする程度のコミュ力はあるようね。……まあソレはお互い様でしょうけど。

 

 食事の合間に会話をしているとはいえ、些細な内容でも何かしらの言質を与えないように、ある程度の気配りは必要なのが面倒な所。

 尤も、万魔殿である宮廷のマナーとしては何も珍しい話でもないんだけどね。

 こういうのも貴族に生まれた定めという奴で、場の格式には相応しい振る舞いを求められるものよ。

 

「――っと、そういえば聞いておきたいことがあったわ」

 食後の紅茶を嗜んでいたら、連絡事項があったのを思い出したわ。

 あくまでも未確定情報だから、現状では話の流れでついでに言っておく、程度の事でしかないんだけどね。

 

「ふむ? なんでしょう、何か面倒ごとでも?」

 大臣は豪快に切り分けていないナポレオンパイにかぶりついている……今日の料理のテーマがよく分からないわね。和洋折衷が過ぎるわ。

 ――ソレはさておき。

 

「新型のヒトガタ危険種……聞いたことあるかしら?」

 ちょっとしたイレギュラーに対応しないといけないのよね。




ドクター「アタシは悪くないわ」
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