憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
さて、引っ張る話でもないので新型について話しましょうか。
ヒトガタの新型危険種。コイツはどうも何某かが製造して帝都近郊へ大量に放流しやがった存在で、現在進行形で民間人に被害が出ている案件よ。
――と言っても、原作と違って本件の製造者はアタシではないわ。
というか伏線とか要らないので言っちゃうと、原作でワイルドハントに所属していたドロテア女史が製造者ね。
で、外にバラ撒いて遊んでるのが馬鹿息子ことシュラ。
原作だとアタシの遺作で、殺戮や暴虐を愉しむ性癖のゴミクソ野郎であるシュラが遊び感覚で民間人を殺しまわる為に使っていたヤツよ。
ドクター亡き後、ドクターと友人関係(利用しあう関係とも言う)だった馬鹿息子は管理者不在だった人型危険種を体のいいオモチャとして悪用。
封印されていた研究施設から解放して外に放ち、市民が殺されるのを見て楽しんでいた……ってのが原作の流れ。
ところが此の世界だとアタシと馬鹿息子は友人関係でもなんでもないし、そもそもアホが勝手に侵入出来るような場所に危険物なんて放置してない。
そして最大の違いとして、アタシは死んでないわ。
よって、原作と違って本件に関しては起こらないのかと思っていたけど……。
悲しいかな、以前のランの敵討ちの際に因縁が出来たものね。
ソレでどうも逆恨みしているらしい馬鹿息子は、アホなりに考えてアタシをハメようとして今回の事件を引き起こしてるようなのよ。
人造危険種なんて代物、帝国内だと作るのも作れるのもアタシくらいだと思うのは、まあ自然な話ではあるわ。
ソレを撒き散らし、アタシを犯人だと断じて弾劾しようってのが魂胆らしいんだけど……。
残念だけど、全部知られていればお話にならないわ。
何で直接見聞きしてもいないのにそういった情報が抜けるかって言うと、普通に感知しているからね。
アタシの感知能力の射程は、普段は帝都全域を覆う程度に抑えているのよ。
本気を出せば外惑星系まで知悉出来るアタシにかかれば、基本的に隠し事とか出来ないってワケ。
普段は何もかも知り尽くしていれば面白くないから、能力に制限をかけているのよ。
でも近所で予想外の不発弾が元気に起爆準備してたら調べるでしょ。
その結果、馬鹿息子の存在と企みを検知。
このままでも特に問題は無いけど、社会人の一員として報連相を怠らずに根回しをしたわ。
現物を即行で確保し、大臣に報告。
全容を完全に解明し、使われている技術体系が西国で盛んな【錬金術】の系譜であることを証明。
流石に実行犯に繋がる情報はソレからは見つけられないけど、西国で外法を働いて指名手配されている『外道錬金術師ドロテア』の名を挙げたわ。
其処から先は状況証拠だけだったけど、帝国でもナイトレイドとかと同様にドロテアを指名手配に加えさせ、一連の犯行をドロテアの仕業と断定。
徐々に民間人だけでなく軍人や武芸者なんかにも被害が出ていたことが後押しして、普通に討伐対象として号令をかけたわ。
――ま、帝国側としては未だに姿も掴めない女史については体面上のモノよ。
犯人が誰かわかりません、ってのは面子が傷つくでしょ。
だから未確定情報でも犯人と断じて手配したけど、本気で討伐する気は、少なくとも大臣には無いわ。
よって、優先すべきは所在不明(アタシは知ってるけど)の女史ではなく、頻繁に目撃されて国に被害を出す危険種の方。
腐りに腐った此の帝国だと、下手すると女史は適当な賊をソイツって事にして処刑して話を終えることも有りうるけど、現状では別に追い詰められていないから。
女史も開発者ってだけで、クライアントである馬鹿息子の依頼で危険種を製造したに過ぎないし。
今の段階では納品されたオモチャをその辺に放って遊んでる馬鹿が問題なだけで、現状だと女史は馬鹿息子の招集を受けていない状態よ。要はまだビジネスの関係しか無いのね。
原作でも最初に登場した時の馬鹿息子はしばらくの間単独行動していたし、色々あって原作主人公たちにちょっかいを掛けた後、改めて仲間にしていた連中を召喚して帝都に凱旋(笑)したワケだし。
現在女史が何をしているかって言うと、馬鹿息子の誘いに乗って帝都行きを受諾したので、研究資料や物資を帝都に向けて配送させている所ね。
つまり荷造りの最中で、既に完成させて納品した製造物に関しては一切関わっていない状況よ。
まあ製造物責任法のようなニュアンスの法律なんて無いし、生体兵器に関する国際条約なんてのも無い此の世界。
極論すれば、女史は捕まって裁判を受けても無罪に成り得るのよね。
とは言え、態々名指しで手配したんですもの。
此処は一つ、遠大な伏線ってブツを仕込んでみましょうか。
作戦名は……【
其処から先はスピード解決ね。
原作のように密林や鉱山などの郊外から人里へ降りてきた人型危険種だったけど、アタシも含めて感知に優れた人員を揃えた狩人隊は、方々で大立ち回りの捕り物劇を演じたわ。
狩人隊が総出で出動し、存分に能力を発揮して危険種を刈り尽くす。
エスデスが氷漬けにして、アタシが呪殺し、ランが雷撃し、ボルスは燃やし尽くす。
セリューは伍番で飛んで陸番で姿を消して漆番で痺れさせる。
スピアは四種の槍型神器を使いこなし、イエヤスもそろそろ卍解を使いこなす頃合いで、サヨは安定して射撃能力の向上を確認出来た。
クロメは他の骸人形を遣うまでもなく普段使いのヒトガタ2体を強化した代物の性能を確認する程度。
ウェイブは戦闘スタイルとしては完成していたのを、更に地力を上げたことでどっしりと安定した戦力としての評価を得た。
派手に帝具使い達が活躍する様相は、市民の眼にも分かりやすく「軍人さんが危険に対処してくれている」と感じられたことでしょう。
……そして、ソレを狙ったが故のデモンストレーションなのよ。
市井の目に付く場所で派手に
実際、新型危険種は雑兵では太刀打ちできない程度には強靭なのよ。
ソレを苦も無く蹴散らすさまは、狩人隊の、ひいては帝国の精強ぶりを誇示することに繋がることでしょう。
ところが、そんな帝具使い達による狩りはあくまでも宣伝目的の示威行動で、本命は別にあるのよね。
既に幾つも確保してある危険種だけど……ソレを素に魔術で呪詛を仕掛ける。
ソレも、同型に対して距離を無視して伝播する死呪を。
触媒にその危険種自体を使っているから、逃れようも無い約束された死。
当然だけど呪詛への対抗策なんて施されていなかった危険種は、草の根も残さず殺し尽くされた次第ね。
――一応補足しておくと、タツミとエスデスが南の島でイチャラブバカンス、なんて展開は無かったわ。
色々前提が違うってのもあるけど、そもそも「帝国はアテにならないから暗殺組織に依頼しよう」なんて空気感が此の世界にはそもそも存在しないのよ。
何のために特務が日々、民心慰撫に努めていると思ってるのかしら。
某ゲームのように『民忠』ってパラメータが存在したら、今の帝国臣民はソレ、低くないわよ。
あくまでも政治的不信感や忌避感は大臣とソレに操られる無能で害悪な傀儡皇帝、そして彼らの派閥である濁流派に向けられているのであって、派閥単位で見れば中道派への信頼感は否応なく高い状態にあるの。
まあ、搾取圧政支配しかしない濁流派と、その真逆のことをし続けた中道派ですもの。
其処に善良で良識があると自他ともに認められている元大臣のチョウリとかの本物の良識派が合流している以上、中道派の言う
一応我々が右派左派どちらも名乗らずに中道を気取っているのは、それなりに信念があってのことではあるけど……まあ民衆には関係ないことだわ。
……清流派? そんなモノ、ウチには無いよ。
話を戻すと、中道派からの各種リカバリーのおかげで、帝国内部に限れば革命軍って根っからのアカ共にしか好かれていないのよ。
そうなると、連中がお為ごかしで掲げていた『民衆からの依頼・要望・懇願』を錦の御旗に出来ないってワケ。
なんせ革命軍の支援者なんてのはエリート気取りの
そいつらは安全な場所でご高説を垂れるか、日々を信仰に縋っていっぱいいっぱいで生活するかのどちらか。
そんな連中が「民の為、国の為、皆の為」なんて本気で考えるワケないし、考えたとしても現実からかけ離れた絵空事しか描けないわ。
そういう背景があったことで、原作では存在した、「ナイトレイドへの新型危険種討伐依頼」ってのが発生しなかったのね。
我々がパフォーマンスを除けば即断即決で始末したのもあるけど、実際に被害を受けた人たちは狩人隊が急行して助けているんだから、喉元を過ぎた“熱”を態々暗殺集団に移す意識のある連中なんていなかったの。
此の世界には『当事者適格』って法律的概念は無いけど、そもそもアカ共は基本富裕層だから都市部にしか居ないので、新型危険種について知らないか、知ってても「だから?」としか思わない。まさしく対岸の火事としか思わないワケね。
信者は
その結果、本件にはナイトレイドが絡んでこなかった次第。
というかソレでタツミとかがフラフラ外に出てたら、普通に達磨にして刑場の露と消えるだけよ?
その辺のこと、アイツらちゃんと理解出来てるのかしら……?
ナイトレイドの連中が殺されてないのは、唯々アタシが政治的思惑から見逃してあげているだけってこと。
そこらへん、理解してないと普通に死ぬわよ。
……まあ、今は原作だとマーグ高地だったかしら?
危険種渦巻く秘境で全員が隠遁を兼ねて修行中の時期ね。
原作ではドクターの襲撃を受けてのことだし、此の世界でもアタシが増員5名を討ち取る戦果を出しての襲撃を成功させたわ。
となると、同じ場所かはさておき、アジトの再選定と一時的隠遁、そして総員のレベルアップの為に秘境なり未開地なりに隠れて修行ってのは同じ流れの筈よ。
ソレでどうにかなると思わされてるのは可哀そうだけど……悲しいけど、コレって戦争なのよね。
精々自尊心と矜持を育てて欲しいものだわ。
ついでに、多少の成長もして欲しいわね。
――潰さないように蟻を踏むのは、力の加減が難しいんだから。
「――クソがッ!! どうなってやがるッ!?」
某所、岩山の山頂で一人悪態を吐くのは、馬鹿息子ことシュラ。
馬鹿は馬鹿なりに色々考えて謀り事をしていたようだけど、格言というかなんと言うか、こう言うじゃない?
『馬鹿の考え休むに似たり』って。
そんな馬鹿の予定では、人型危険種を放流して帝国に被害を出し、其処でDr.スタイリッシュの仕業と断定して始末する、という……ガバ穴過ぎて何処から突っ込めばいいのかコレもうわかんねぇな、って考えがあったのよ。
その為の第一手として「新型危険種が相応に帝国に被害を与える」という第一段階が想定されていたのだケド……。
「アレだけいた危険種が全滅だァ!? 大型も、離れた場所に居たのも全部か!? 何がどうなってんだッ!!」
そう、悲しいかな、馬鹿なりに沢山頭を使ってしてきた準備は、初手の段階でとん挫した。
自身の帝具を用いて帝国全周へと一度の内に危険種をけしかけるという、普通に考えたら手が足りなくなる奇手が、何故か
……まあ、アタシが魔術を使えるのを知らないのは当然としても、錬金術では似たようなこと出来るじゃない。
その辺を考慮していなかったのは明確に馬鹿息子の落ち度よ。
「チクショウがッ!! 俺様の考えた完璧な計画が……ッ!!」
完璧(笑)。
頭の中の世界なら、そりゃあ完璧でしょうよ。
でも頭の外に出したら現実ですもの。
いい年なんだから、現実見て生活しましょうね、坊や。
「クソッタレがッ!! このままでは終わらせねぇぞ……ッ!! 俺は
うーん、この馬鹿っぷり(正論)
世の為人の為って奴に従うと、コレは此処で駆除すべきではあるわ。
でも……アタシって別に正義の味方とかじゃあないんですもの。
殺すにしたって、最大限有効活用してから殺すわ。
アホはね、内に引き入れても外に放置しても害が出るものよ。
そういうとき、アホは単体で見るんじゃないの。
アホの所属する組織の一員として見るべきなのね。
幸い、馬鹿息子はアタシの政敵である大臣の継嗣よ。
そりゃあもう、骨の髄までしゃぶりつくしてから嬲り殺しにしてあげましょう。
彼は復讐を誓って帝都に舞い戻りたくて仕方ないみたいだけど……アナタとの相対を待っているのはアタシもよ?
フフフ……早くお会いしたいものね?
証拠は掴まれてるけど帝都で人型危険種について騒がれる前に事件が終息したので、もしかしたらワンチャン馬鹿息子が生き残れる可能性が残った。
なおドクターの殺意は考えないものとする。
今回使った神将器。
伍番【未の将器“
形状は頭上に浮かぶ法輪。能力は慣性制御的な飛行能力。
飛行術式が完成する以前に征南軍で採用されていた飛行機構。現在は廉価版の飛行術式が完成している為其方に主流は切り替わっているが、純粋な飛行能力としては神将器の方が性能は高い。
陸番【午の将器“
形状は如意宝珠。能力は存在の隠匿――つまり石ころ帽子のように『そこにいるのに認識出来ない』状態にするというもの。
漆番【巳の将器“
形状は金剛杵(ヴァジュラ)。能力は電撃系。攻撃にも防御にも支援にも使える魔術雷電を放つヴァジュラを操る。奥の手として自身をイカズチに変ずる能力がある。