憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
でも話が助長になってしまう…。
アンチ小説なので独自設定・独自展開、加えて独自解釈もしています。
「――前方に何かありますね。【認識同期】」
「……ん?」
「案山子?」
「本当だ。これ以上ないってくらい怪しいね」
最初に気付いたのは、ランだった。
空戦を得意とするが故に高高度から地上を認識する為の視野が必要だった彼は、ドクターの改造で特に視力を強化されている。
裸眼で数キロ先の人物の表情や口の動きをも認識可能な驚異的な視力を持つため、開けた場所でポツンと突き立てられたソレに気付くのは容易な事であった。
荒野に案山子が突っ立っているという怪しすぎる状況に、敵の存在を確信していたランは罠があるであろうことも念頭に置いていたことで、即座に仲間と【認識同期】を行う。
コレは限定的に術者が感じている内容を共有する魔術で、今回は視覚情報をシェアリングする。
その結果、かなり早い段階で全員が罠の存在を察知出来た。
全員が感覚強化を改造によって施されており、普段は生活に支障が無いよう人並に絞ったソレを解放すれば、周囲を取り囲む敵の存在は丸裸になる。
離れた高台にはマインがパンプキンで狙撃体勢を取っている。
不審な案山子は内部に帝具人間が。
そして遮蔽物の影には残りの戦闘要員4名が隠れていた。
更に遠くの位置にはサポート担当の糸使いと、直接戦闘能力を有しない変身能力者が控えている。
事前情報通り、ナイトレイドは残存戦力を丸ごと投入するという賭けに出たらしい。
東側にナジェンダが向かったという目撃情報は欺瞞であった。
此処でフェイク情報により欺いてまで
実際は圧倒的な戦力によって多少の障害は踏み越え、あまつさえ転移による長距離移動を一瞬で行えるので意味はないのだが……。
しかし、イェーガーズは大臣によって設立させられた部隊だが、実質的に特務軍の人員で運営されている。
人員は10名いるうちの実に7名が特務からの出向で、残り3名の内、隊長の将軍と暗殺部隊の人員はドクターと男女の仲、そして追加でねじ込まれた海軍所属の人間は苛烈な練兵教育によって上下の違いを叩き込まれて
そうなれば特務の、ひいてはドクターの意向が確実に通るのは想像に難くない。
そもそも大臣は「帝都の賊、ナイトレイドを倒す」ことしか考えてないのに対し、戦略的に「すぐに全滅させると面倒だから徐々に削っていく」という思惑で動く特務軍。
その内容の実現性と是非はさておき、その場の盤面でしか状況を考えていない大臣と、最終決戦に向けて道筋を立てている戦略構想を持つ特務。
手の長さと策の通しやすさで見れば、事前に絵図を描いているドクターたちの思惑に沿って場が動くよう整えられるのは自明の理だった。
さて、そういった思惑が浸透しているが故に、ランたちは此処でナイトレイドを全滅させるつもりなど無かった。
ソレが有れば最後の一人になっても蜂起を取り止めず、無駄に雲隠れしたり勢力が分裂したりせず、一塊になって暴れてくれるという想定があった。
その方が潰しやすい為、敢えて前回全滅させず残りを生かしておいたのだが……しかし、ソレが今回は悪影響を与えたようで、無関係の民間人すら巻き込んで策の為に放火を行うという暴挙に出ている。
そういった傾向は元からあったが、やはり追い詰められた影響か、なりふり構わず攻めてくる状態にあるようだ。
元からナイトレイドの他の部隊や革命軍全体は、そういう「自らの掲げる大義の為にはいかなる所業も肯定される」という思想を共有している。
ナイトレイドの人員は原作だと主人公の所属組織という事もあってか、人間性の汚い部分はあまり描写されていない。
しかし穿った見方をすれば言動が破綻し自身の目的の為にお為ごかしを使い、快楽や思想の為に民間人を食い物にするような側面もあった。(最初は『暗殺は大義の為』と言い『自分たちは正義ではない』と言いつつ、『民の味方』や最後には『正義の為』とまで言い放っている。第一話でタツミから金を騙し取ったレオーネ。革命という大義の為に蜂起によって発生する無関係な民衆の被害を無視するメンバー。阻止する方法があるにも関わらず直接関係の無い宗教を蜂起に巻き込む戦略等々……)
そんな危険人物たちが精神的に壊れて暴走を始めている。
これ以上連中の精神を壊さないように、今回はあまり削らないように注意することになっている。
そういった事情から――
着弾。
高速で飛来した精神エネルギーで出来た弾丸は、狙い違わずクロメに向かって飛来した……しかし。
「――ん。この程度なら問題ない」
その存在を感知済みであったクロメは、飛翔してきた実体の無い弾丸を八房で
「んなッ!? 弾丸を切られた! そんなこと可能なの!?」
遠く離れた岩場の上で驚愕するマイン。
ソレも無理からぬ話だ。
帝具パンプキンは使用者の状態に応じて威力が増減するピーキーな代物だが、ソレを押してでも強力な武装としている要素が「射出されるのは精神エネルギーの弾丸」という点にある。
つまり、実体が存在しないその弾丸は、当たると物質を物理的に破壊するにも関わらず、威力と貫通力が持続する限り物体を透過する性質があった。
最高威力で放つ砲撃がビームのような性質を得るように、基本的にパンプキンの攻撃は「防御不能な
ソレを帝具とはいえ刀で切り落とされたのだ。
自身の射撃能力への自負と帝具への信頼もあり、その驚きは暫し呆然とするほどの大きなものだった。
――ソレは、致命的な隙だ。
「こんにちは、死ね」
「なッ!? ぐぅッ!!」
魔術で透明化して上空に待機していたランが、飛翔から急降下を仕掛けた。
意識していない上方からの雷撃は、過たずマインを絡めとった。
「ギィっ!! 身体が……痺れて……ッ!!」
雷電が持つ効果は、簡単に生物を麻痺させる。
雷が体内を暴れまわり、熱傷に等しい爪痕を残す。
神経が傷つき、火傷と高熱で朦朧とする意識。
……もはや精密動作が必要な援護射撃など不可能だった。
実質的にマインは戦線離脱を余儀なくされた。
たった一撃。
奇襲を受けたとはいえ、銃使いが銃撃で倒されたことは、彼女のプライドを著しく傷つける事だろう。
もっとも――
「今は眠りなさい。無力なお嬢さん」
「ガァッ!?」
容赦などしない。
敵を前に悠長にお喋りなどしない。
殺さないとはいえ、敵として前に立ったのなら、手加減などする筈も無かった。
麻痺により動きが鈍ったマインを、手心を加えずにそのまま追撃して気絶させる。
後々記憶の整合性を取らせるのが面倒だが、ひとまずコレでランの受け持ちは終了。
用意していたアンプルを気絶したマインに注射する。
後は適度に接戦を演じさせるように味方に援護を加えるだけだ。
一応全体を俯瞰してサポートするが、この分だと他の相手も問題なく対処できることだろう。
「マイン!?」
「気付かれたのか!!」
待ち伏せからの先制奇襲を仕掛けようとしたナイトレイドだったが、初撃は容易く対処され、その上でマインが隠れていた岩場の方角から晴天の日中でありながら雷撃の閃光と轟音が響いてきた。
間違いなく敵の攻撃。
情報にある飛行と雷撃の能力を持った特務軍副将軍の仕業だとすぐに判断出来た。
――しかし、今から距離のあるあちらへ援護に向かう事は難しい。
ならばと瞬時に思考を切り替えたのは、生物型帝具のスサノオだった。
彼は千年前に製造されて以降、間に担い手不在による幾つかの休眠期間を挟むとはいえ、現在生きているどんな人間よりも戦闘の経験値が莫大なのは明白。
それ故、咄嗟の判断力はナイトレイドの中で最も鋭敏だ。
「――押し通るッ!!」
奇襲がバレたのなら、いつまでも隠れていても仕方が無い。
その為、すぐに身を隠していた案山子の内部から飛び出し、自らの副武装である棘が伸縮する狼牙棒のような巨大な得物を突き込む。
目標は標的ではないスピア。
革命軍にとって優先的に始末するべき存在とされている標的は、クロメとボルスだ。
クロメは暗殺部隊の現有最強戦力であったことから数多くの要人暗殺を成功させてきた危険な実績により。
ボルスは命令によって如何なる存在をも燃やし尽くしてきたその危険性とヘイトから。
どちらも革命軍にしてみれば非常に危険で忌まわしい存在であり、特に優先して打ち倒すべき対象として定められていた。
そんな危険な敵を前にして、しかし初手で簡単に倒せるとも思っていないスサノオは、まずは優先対象を始末する為に優先度の低い相手を戦闘不能にしようと試みた。
コレは事前情報が少なかったことから、スピアの能力を他よりも低く見積もったのも理由としてある。
「――へぇ、丁度いいですね」
「な――ぐぅッ!?」
しかし、華奢な令嬢にも見えるスピアは、並大抵の力自慢では持ちあげることすら難しいと思える巨大な狼牙棒の攻撃を、何処からともなく取り出した槍の穂先で絡めとるとそのまま流れるように連撃で切り返してくる。
明らかにパワーファイターであるスサノオの突撃に、流水の如き槍技の冴えでもって反撃したスピア。
まさに柔よく剛を制すの体現と言えた。
「ふむ……取り敢えずコレは私が受け持ちますか?」
片手で槍をもてあそびながら視線を切ると、前もって現場指揮を任されたボルスに問いかける。
敵から目を離すなんて、と言えるような状況でもなかった。
スピアにとって、此の帝具人間は“敵”とすら呼べない存在だからだ。
何なら五感を封じてでも勝てる相手に、無駄に警戒するなど馬鹿馬鹿しいというものだ。
「うん、お願いできるかな? 他は……クロメちゃん、金星と地星、あとは火星をお願い」
「オッケー」
まるで食事中に「お醤油とって」くらいの軽さで言われたことに、同じ程度の軽さで返したクロメ。
一切の気負いの無いまま交わされたやり取りの後、ナイトレイドにとっての地獄が顕現する。
地響き。地鳴り。衝撃。重圧。
八房によって地を割って召喚される、いずれ劣らぬ災厄の化身達、その死骸。
溶岩流を纏う獄炎の魔竜。
ヒトガタの名残すら失い始めた四腕の怪人達。
堅牢強靭な肉体を持つ二脚の怪獣。
怪獣大決戦の如き様相に、ナイトレイド達も状況を悟った。
「危険種だと!?」
「こんな数を……」
「なるほど、八房がこれほど規格外ならば、人数を分けても問題無いという判断か……!!」
数の有利は、骸人形の召喚によってあっという間にイーブンに戻された。
しかし情報では『八房は最大で8体の死体を操る』というが、現状で出現したのは同型に見える黒い怪人の存在を含めて4体。
まだ余力があるのか、出し惜しみをしているのか、今は手持ちに無いのか……。
判断は付けられないが、見た事も無いあれほどの巨大生物達。
加えて死体人形にも関わらず感じる威圧と存在感。
決して侮っていい存在ではない、それくらい理解出来た。
「――さて、待ちに待った帝具戦だ。……誰が死ぬかなぁ?」
クロメは金色の怪獣に飛び乗り、スピアは吶喊の勢いでスサノオを吹っ飛ばして場所を変更し、ボルスはなんとマグマを垂れ流す魔竜の背に乗り込んだ。
「はぁッ!? マグマだろ!? なんで平気なんだ!!」
あらゆる環境に適応可能な能力を持つ全身鎧に身を包むタツミですら、溶岩が噴き出す此の環境で全身から汗を噴き出しているのに、ボルスは一切躊躇せずにあのマグマのドラゴンの背に騎乗した。
彼らは知り得ないことだが、原作でも言及された『耐火儀式』なる存在の効果だ。
あくまでも此の世界に元から存在したその技術は、ドクターによって洗練され昇華し、最大効果を発揮すればその身を炎と化すことすら実現出来た。
ドクターは「俺自身がマグマになる事だ」とかなんとか言っていたが、まあつまりはそういう事だ。
「クロメちゃん、開幕雷撃お願い!」
「りょーかい!!」
此処で殺戮をする心算が無かったラン班の人員は、敢えて作戦を声に出しながら実行に移す。
ソレでも死んでしまうならソレはソレだが、そうでないのなら精々生き延びて欲しい。
彼らにとってナイトレイドとはその程度の存在だった。
しかし、軽い調子で頼まれたお願いに対し、クロメが骸人形に下した命令は非情なモノだ。
開幕雷撃、即ちデスタグールとマグマカイザーによる口腔から放つ熱線砲撃。
「アハハ! 吹っ飛んじゃえ!!」
命令に従い、巨躯の魔獣たちは即座に砲撃を行う。
「――っぶねぇ!!」
「チッ!!」
「ムチャクチャしやがる!!」
十字に交差したソレは、そのまま地平の彼方までを大きく抉り取って消し去ってしまった。
その絶大な威力は、マトモに食らえば再生能力を持つスサノオすらコアごと蒸発させてしまう事だろう。
幸い予備動作が大きかったことで何とか躱せたが、あんなものを連発されては堪ったものではない。
「みんな! まずはクロメを全員で仕留めるぞ!! 骸人形は術者が死ねば死体に還る!!」
あれほどの攻撃力、放置など出来ないし、悠長に他の人間同士が戦っている所を観戦してくれるわけもない。
それならば混戦になるのを承知で、敵の物量の要であるクロメを止める。
そうなれば一気に数を覆し、逆転の目が出てくるハズ。
アカメとは革命軍に参加する条件としてクロメとの始末は彼女に着けさせるという契約を結んでいたため、トドメを彼女に譲れるように工夫しなければならないだろうが……。
だが、そんなモノは生き残る事が出来なければ議論も出来ない。
いざとなればナジェンダはスサノオの“奥の手”を使う事も視野に入れ、全員でクロメに仕掛けることを宣言した。
長くなったので区切ります。