憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
――夢を見た。
コレは……昔の記憶だ。
「え? 私の頬の傷ですか?」
まだ俺がナイトレイドに入ってすぐの頃。
シェーレと何気ない雑談をしていた時に、彼女の頬についた傷痕について尋ねた事があった。
彼女はおっとりとしているが、芯の部分で精神的に
訓練を見てもらった時に分かったが、身体能力も高く、精神性も極まっていて、ちょっとやそっとじゃ攻略出来ない強者だった。
そんな彼女の顔に、消せない深い傷を与えた出来事が何なのか……気にならないワケがなかった。
「うん、ソレどうしてついちゃったの?」
「……これは」
言い淀むようにして言葉を濁し、うつむいてしまうシェーレ。
――しまった。
女性の顔の傷についてなんて、軽々しく聞いてよいことではない。
そんなことに遅ればせながら気が付き、慌てて弁明の言葉が口をつく。
「あ、ゴメン! つらいことなら言わなくていいよ!!」
両手をわたわたと意味も無く動かし、なんとか話を逸らそうと努力する俺。
そんな考えの足りない俺に対して――。
「――ですか」
「……え?」
なにか、掠れるような声でシェーレが呟いた。
「アナタたちの所為じゃないですかぁ」
「ヒッ!?」
ガサガサガサ! と物凄い勢いでシェーレの四肢の付け根からナニカが噴き出した。
黒い奔流にしか見えなかったソレは、よく目を凝らして見てみると……体長10cmはあろうかという、巨大なゴキブリの群れだった。
「アナタたちが弱いから、私は
落ち窪んだ生気の無い乾いた眼で、此方を睨みつけるシェーレ
ケタケタと甲高いだみ声で嗤いながら、四肢を失った胴体でグネグネと這いずり寄る。
「な……なん……」
口から意味のない譫言を漏らして呆然自失していると、不意に強く肩を掴まれて後ろに振り返った。
見れば、其処には胸部に大きな風穴を開けた血まみれの
「俺が死んだのもこんな夜だったなァ」
「うわッ!? うわぁああああああッ!!」
全身のあらゆる箇所から赤黒い体液を垂れ流しながら、ブラートはにじり寄る。
「なんで逃げるんだタツミぃ……俺から帝具を奪っておいてよォ……」
ボトボトと徐々に肉片が削ぎ落されながら、骨と皮になりつつあるブラート
見知った仲間が、ソレも自らが死を看取った漢がこのように尊厳を殺されている姿に、正気を失いかけていた。
口をハクハクと陸に上がった魚のように意味も無く開け閉めし、顔は涙とヨダレでぐちゃぐちゃになっている。
精神的衝撃で前後不覚になり、この悍ましい光景が現実なのか悪夢なのか、過去のことなのか今のことなのかすらも判別できなくなった。
「――大丈夫か?」
「ッ!?」
腰が抜けて後ずさる事しか出来ていなかったところに、気遣うような声が投げかけられた。
思わず縋るようにその声がした方を振り向くと、其処には心配気な表情で此方を見やるラバックが居た。
「ラバ! た、助けて……助けてくれ!!」
ナニから助かりたいのか、どうしたいのかすら分からず、それでも此の狂気的な空間から逃れたい一心で
腰が抜けて立ち上がる事も出来なくなったため、腰にしがみつくようにしてラバックに助けを求める。
「――ダメだ」
「え……?」
――しかし、表情を一変させたラバックは、無理やり俺を振り払うと此方に恨み言を飛ばしてくる。
「妬ましい、憎らしい、呪わしい……何故オマエだけ……」
血の涙を流し、
絶望と嚇怒、恨み辛みに支配されたその顔は、ニンゲンが浮かべてはならない凶相をしている。
その血に塗れた獣の如き悪相からは、尽きぬ憎悪に取り憑かれている事が見える。
気が付けば、俺の周囲には肉塊になったモノ、全身が穴だらけになったモノ、五体がバラバラになったモノが取り囲んでいた。
三者三様に呪詛の如き面罵痛罵を繰り出すかつての仲間の成れの果て。
『ごめんなさい、ごめんなさい』、と何に対するものかすら理解せずに謝罪の言葉を積み重ねる俺。
ぐちゃぐちゃになった心の中に、かつての仲間だったモノたちによる悪意がじわじわと沁み込んでいく……。
――此の悍ましい光景に俺は一時的狂気に冒される。
<アイデア>ロールを振ってください。
1D10+4ラウンドの間、狂気が継続します。
安寧道本拠地、【キョロク】。
十中八九中国の地名である
項羽が楚軍を率いて章邯の秦軍と戦ったりしちゃうのかしら。
始皇帝って名前がそもそも秦の始皇帝と被るくらいだから、やっぱり高祖劉邦に対する項羽的な存在が昔は居たりしてね。
そしたら虞美人もいて、此処キョロクは数ある始皇帝の戦を彩った、一つの決戦の跡地……。歴史ロマンが擽られるわぁ。
いや、まあ実際にはそんな事もなく、普通にキョロク入りして、普通に賓客として通されたけれども。
――え? ナイトレイドはどうしたかって?
そんなモン、普通に蹂躙して普通に洗脳してそのまま放逐したわ。
多少の記憶の齟齬や矛盾を認識できないようにして、連中の頭の中では「激戦を潜り抜け、相手にも相応に被害を出したが
流石に細かい部分までは責任持てないけど。
とりま、ラバックくんは解剖して首は晒して残りはゾンビ兵の素材として生まれ変わったわ。
原作だとまだ死んでない時期だけど、その代わりチェルシーが生存してるからヘーキヘーキ。
……そのチェルシーはアタシのスパイなんだけども。
今頃ナイトレイド諸君はボリックの屋敷を遠巻きに監視してる頃合いかしらねぇ。
獅子身中の虫、ってほどに動かすつもりもないけど、内部にスパイを抱えてる以上は動向なんて丸裸なのよ。
精々無駄な足掻きを頑張っちゃって頂戴な。
――さて、時系列の把握はこんな感じで。
現在、アタシ達狩人隊は、ボリックの開いた歓迎会にご招待された次第ね。
原作だと衣装チェンジによる絵的な見せ場だったから、エスデス以下全員が礼服に着替えていたわ。
……ただ、ソレだと何のために態々イェーガーズの礼服を作ったのかって話じゃない?
作画の見せ場だからシカタナイけど、此の世界でまでソレをなぞる必要も無し。
よって、以前の皇帝との謁見の時に着用した第一種軍装で普通にパーティー会場入りしたわ。
そしたら会場には所謂ボリック派の人間だけが詰めていて、ボリックも堂々と女を侍らせて待ち構えていたわね。
……いや可笑しいでしょ。
コイツがどんなバックボーンを抱えてるのか知らんけど、四将軍の内の2強を前にして椅子に座ったまま出迎えて、あまつさえ女を両手いっぱいに抱きかかえながらご挨拶?
一応アタシとエスデスは軍部の官職としては近衛大将軍に次ぐ四将軍で、つまりは武官のナンバー2の同位。
アタシに至っては侯爵で各種権益に携わる関係で、文官としても大臣に次ぐ位置づけなのよ。
その結果、臣民の中では文武双方の立場でこの国で2番目に偉いのがアタシなの(皇帝は別として、大臣を1番目と見た場合ね)。
大臣の手駒風情が舐めた態度で相対していい存在じゃあない心算なんだけど……。
「――よし、殺しましょう」
「「「!?」」」
あら、何やら会場に動揺が見られるわ。
なぜだろう?
「アタシ何かおかしなこと言ったかしら?」
「いえ、至極当たり前のことしか仰ってないかと思われますが?」
ランと二人して頭をひねるけど、答えは出てこない。
ウチのブレイン担当の二名ですら答えが分からないならシカタナイね。
ご本人様にお聞きしましょう。聞かぬは一生の恥ですもの。
「ミスターボリック。これからこの会場に居られる皆様を皆殺しに致しますが、ナニカ問題がございましたら仰ってください」
「!!!???」
渉外担当は
見目麗しい美男子と言えるランなら、相手が余程偏屈じゃない限りは老若男女問わず受けが良いから、あまり波風立たせずに交渉事が出来るのよね。
よって、この手の面倒ごとを放るのがウチだけでなく狩人隊でもスタンダードになりつつある状況。
頑張りなさいな。その分の手当は弾むわよ。
「な、なにを言っておられます!? あなた方は私の護衛の為に大臣から派遣されたのではなかったのですか!?」
「? 情報の伝達に齟齬があるようですね……」
あらやだ可哀そう。
確かに郵便くらいしか情報のやり取りする手段がないとはいえ、コレは頂けないわね。
って事でエスデスが
「ボリック。私たちイェーガーズが大臣から依頼されたのは、『安寧道の蜂起を阻止すること。そのために現地に潜り込ませた配下のボリックに協力して安寧道を掌握、教主を排除すること』だ」
「そ、それg――「頭が高い」ヒギャっ!?」
指を鳴らすと会場に集まっていたボリック派の連中とボリック自身が一斉に跪いたわ。
まあ四肢に氷の槍が生えてたら誰でも物理的にそうなるんでしょうけど。
「我々の仕事はソレだが。……断じてキサマに阿る事でも、媚び諂う事でもないぞ?」
言いつつ恐怖を煽るかのように敢えてゆっくりと歩み寄るエスデス。
当然他のみんなも手に武器を呼び出して無様に地に這い蹲った勘違いヤロウに近づいているわ。
「大臣からはこうも言われている……『
額に青筋を浮かべて静かにブチ切れるエスデスだけど、その思いはアタシ達全員に共通する所よ。
態々こんな帝国の辺境くんだりまでやって来たのは、大臣の顔を立てての話であって、無能害悪な此のクズの為じゃあないの。
コイツ、今まで何してきたのよ、マジで。
大臣から金銭や人や物など、あらゆる面で少なくない支援を受けながら、10年近くかかっても教団を掌握しきれていない。……コレは、カルト教祖のカリスマが人並外れているってことかもしれないから、其処は置いときましょう。
だけど、教団を掌握する為に受けた援助を、私腹を肥やして
此のパーティー会場だって正にそうで、贅沢三昧に美食と酒精を世界中から取り揃えているけど、そんな見栄と贅沢を張るよりも仕事をしなさい、と言いたいわね。
そして最大の問題点は、コイツが抱えてる娼婦と男娼たちよ。何で大臣からの仕事用の予算を、コイツや部下たちの個人的性欲を満たす為につぎ込んでんのよ?
コレが『仕事が順調で、余裕綽綽だから脇道に逸れて遊んでるだけのゆとりがある』……ってんなら良いのよ。アタシ的には
でも実際はそんなことなくて、アタシ達に支援を依頼するくらいに切羽詰まった、それこそ命の危機がある状況。
……そして、コイツがソレに気付いていない!
いや、ナイトレイドにタマ狙われてんのよ?
なんで余裕ぶっこいて女抱いて酒飲んで美味い飯食らって良い気分でいらっしゃるのかしら?
まあ、最悪そこらへんはコイツの無能が理由ってことで致し方ないかもしれないわよ?
――でも、どういう思考回路で大臣の手駒その1に過ぎないコイツがアタシ達よりも上の立場かのように振舞ってんのかしら。
無能は許せても不敬は許せないわよ。
権威の否定は、ともすれば権力の否定に繋がるわ。
そうなれば大臣が絶対強者として振舞うための
――って事でコイツは一度地獄を見るべきだと判断したわ。
『馬鹿は死ななきゃ治らない』……つまり死ねば直せるでしょ。
寧ろ直るまで殺し続けるので悪しからず。
「――最期に言い残すことはあるか?」
「ヒッ!? お、お前ら! 出番だ出てこい!! コイツらを殺せ!!」
ボリックが泡を食って天井裏に潜んでいた手勢を呼び寄せる。
……だからこの時点でアウトなのよねぇ。
何で上位者との、少なくとも別の派閥の人間との会談場所に手勢を忍ばせておくのかしら。
普通に反逆の意思有りと見て無礼討ちしても仕方ない状況になるんだけど。
そんな我々の冷めた視線をものともせずに降りてきたのは、いつぞやの羅刹四鬼さんたちじゃないの。
お久しぶりだけど、ご挨拶はまたの機会でね。
「フ、フフフ……! こやつらこそ教団を牛耳る為に帝国から預かった暴力の極致! 破壊の権化!! 【皇拳寺厄神四凶】!!」
……ん? 何やらアタシの知らない単語が飛び出したわね。
いつの間にチーム名変えたのかしら。
……メンバーに変更はないみたいだけど。
「フフフフフ!! 危険種を取り込んで不死身の肉体を得たこやつらに勝てるモノなどおらん!
あー……なるほどなるほど。
了解、そういうことね。完全に理解したわ。
どうもこのお馬鹿さんは「私は武官でしかないこいつらよりも偉い」と信じておられるようね。
……でも文官としてのコイツは僻地で
裏の立場としても、文武双方で特権を有する特殊部隊である我々と比べたら、ただの政治将校未満で謀略家気取りの無能だと比較にならないわよ。
コイツはただの現場代理人として派遣された(しかも帝国の端と言える辺境へ)下っ端に過ぎなくて、役職的立場から教団の副教主として収まっているだけの存在でしょうに。
仕事が終わって帝都に凱旋したら、公的な立場は下手するとその辺の部隊指揮官とか文官主幹以下。
功績から昇進が得られたとしても、精々が箱物の館長とかにねじ込まれて天下り生活を送る事になるんじゃないかしら。
その場合の官職って下から数えた方が早いでしょ。
そして、コイツには現状功績よりも失態の方が多い。
死ぬ気で挽回しないと普通に後ろから撃って挿げ替えるわよ?
「――まあいいわ。【自爆しなさい】」
「「「「ひでぶっ!?」」」」
「なぁッ!?」
アタシの命令に従って、リニューアルしていたらしい四凶の皆さんはしめやかに爆発四散! ナムサン!!
「悪いわね……そいつら改造したのって、アタシなのよ」
どこかのお歯黒ドーランメイクのマッドサイエンティストな死神も言っていたじゃない。
一度手を加えた改造品に、ナニカ仕込まない訳がないって。
あと余談だけど、一度発狂したら普通直らないから。
だからまあ、【四凶】ってか【四狂】って感じなのよね。
「残念ね……とっても残念よ。せめて苦しまずに済ませてあげようという、アタシの仏心が踏み躙られてしまうなんて……」
私は悲しいポロロン
コレは【発狂激痛拷問祭り:大往生】コースの出番かしら。
大往生コースはキツイわよぉ?
「ぬ、ぬわぁーーっっ!!」
ア……ユアストーリーの悪夢が想起されるセリフ……。
【悲報】再登場した羅刹何某、セリフほぼ無し。