憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
――キョロク。
帝都の東端に位置する此の街は、豊富な地下資源の存在により潜在的な発展力に溢れている場所よ。
実際、
では『原作との相違点』とは何かといえば、まあ単純にそこまでの
原作においてはその資源的底力によって経済発展を続け、その分発生した余剰生産力を全て宗教施設等の維持開発建設に費やしていたのがこの街だもの。
好景気が消費を拡大し、宗教的な民衆の慰撫により安定的な好循環に繋げ、ソレが更なる好景気へのスパイラルとなる、と……。
実に分かりやすい好景気の循環、ソレも経済の教科書に載せたいようなお手本の如き流れがあったモノよ。
……ところが何処かの
いや何故かって、原作知識とか以前に、此の世界で生きるアタシの知見においても安寧道は危険なカルトだと判断したのよ。
というか
少なくとも此の国においては官人が皆
だったらそんな危険物、破防法に類する法律が無くとも制限して削っていこうとするのは当たり前でしょ。
……重ね重ね、破防法の設立が出来なかったのが痛いわね……。コレだからアカ共は嫌いなのよ。
ともあれ、アタシはかねてよりボリック何某の仕事とは競合しないように、宗教団体へと経済的法律的制度的に、様々な制限と圧力をかけていったわ。
此の世界だと宗教法人は非課税とかそんなことは無いし、寧ろ宗教施設を設立維持管理するのには高い税金がかかるし、宗教法人を運営するだけでギリギリまで税金で搾り取られるわよ。
勿論アタシが前面に立って法改正を行った結果ね。
一応貴族院の議員ですものアタシ。そうなるように大分前から政治的に動き続けた結果よ。
此処最近になってから「おっ、この宗教団体最近勢い良いじゃん! 革命の仲間にしてやろ♪」とか場当たり的に考えた革命軍諸氏とは根底が違うのよね。
まあこんなのは序の口で、表に出せないような手段も交えて徹底的に宗教団体を迫害していった次第。
その結果何が起きたかと言うと、早い話が『信者の宗教離れ』ね。
貧困や社会や家庭環境等々への不平不満不審、そういった『宗教へ逃げる』要素としての環境は国全体で見れば然して変化していないってのはあるわよ?
でも、ぶっちゃけ宗教に入ってない方が生活は楽になるんですもの。
アタシが弾圧してるのは宗教組織だけであって、寧ろ連中が自分から槍玉に挙がって勝手に税負担を肩代わりしてくれてるまであるのよ。
そうなると他の一般市民への負担は相対的に減らせるじゃないの。
というか宗教を弾圧している分、他の一般市民へは逆に優遇すらしているわ。
某漂流物な第六天魔王曰く、『尊厳が無くとも飯が食えれば人は生きられる。飯が無くとも尊厳があれば人は耐えられる。だが両方なくなると、もはやどうでもよくなる。何にでも頼る』――。
ウンウン、正に宗教に狂う輩の常套手段よね。
だ・か・ら、アタシも飴と鞭、パンとサーカスとばかりに市民の懐柔には気を使ったのよ?
カルトは何時の時代も何処でもどんな世界でも、追い詰め過ぎたらテロるものだから、アタシはちゃんと逃げ道を用意してあげたわ。
その解答が、『安寧道を差別弾圧搾取し、ソレによって出来た余裕で他の一般市民を優遇する』という某ちょび髭の独裁者方式のスキームよ。流石に強制収容とかはしていないけれど。
飯のタネも尊厳も、信仰以外で用意してやるって寸法ね。
特定の宗教を信仰する場合税金が掛かるし、宗教施設を利用する場合国から高い税金が掛かるし、何なら信者ってだけで各種税制が割高になるしetc……。
仮に安寧道側が信者へと税の負担額を肩代わりしてやろうにも、国が忖度しない以上は税金が発生し続けるのよね。
そうなると何処かから税金の担保を持ってこないといけないし、税金の支払い能力は必須でしょ。
此処までくれば、生産能力の無い宗教団体には、貧しい信者から活動資金を
祈りだけじゃ飯は食っていけないんだしシカタナイね。
万が一宗教法人の名で生産物や資源資本、金融資産なんかの取引に手を出したら(というか実際にやられたけども)、税回避やら着服やらの
此の世界における宗教法人には何ら特権的代物が付与されない以上、国や地方領主、生産者が受け取るべきアガリを宗教団体が掻っ攫っているっていう
信者が自主的にカルトに金を献金していようとも、その場合は贈与税とか色々あるから。此の世界でも
宗教団体への金と物のやり取りは、ガキの小遣い程度の額でも厳密に管理して、野菜の一つやコメの一粒ですら書面に残すわよ。
そして課税しまくる、と。
当たり前だけど自前の荘園なりで自給するだけの生産物とかも作れないように土地に関してはガンガン刈り取ったわ。
思想をダシに理不尽を押し付けるのは実に気持ちが良いわねぇ。
当事者以外にはどうでもよいことである以上、当事者以外には理解されないから槍玉に挙げ放題なんですもの。
例を挙げると、現代日本人にとって江戸時代のキリシタン廃教令は「信仰を捨てれば助かるじゃん」程度のモノに思われがちらしいわ。実際に日本の教科書でそんな記述があったってネットで軽く炎上してたわねそういえば。
でも、思想信条、特に信教の権利ってのは信心者にとっては命よりも大事にしたい尊い存在なのよ。
宗教観ゆるゆるの日本人だと真に理解出来る一般人はいない(理解出来たらソイツはパンピーではない)けれども、信心ってのは古今東西、
ともあれそういう経緯なもので、どんだけ理不尽に重税を強いても、文句を言うのは当事者、即ち信者だけなのよね。
大多数の一般市民にとっては、カルト連中が勝手に好き好んで税を負担してくれるものだから、多少の贅沢が出来る程度には生活が楽になっている状況。
つまり、
そうなれば、宗教に転ぶよりも無信心で居ることを選択するって人間が過半を占めていても、何もおかしな話ではないわ。
――その結果、此の世界の安寧道って現状では其処まで大した勢力じゃあないのよね。
とはいえどんな環境でも宗教にイカレる信者は一定数存在するものだし、実際に無策で放置して良いとは言えない程度には信者が在籍してるのよ。
というかこんな悪環境でも尚カルトに傾倒する輩とか、普通に狂信者だからヤバイのよね。
宗教の走狗って古今東西【死を恐れぬ死兵】って奴になるモノだし。
『殺しが善行で、死ねば極楽浄土へ行ける』、つまり【彼我の死を忌避しない文字通りの死兵】になれる、ソレも誰でも簡単に……コレが宗教のイヤなところよ。
簡単に死兵の軍勢を構築出来てしまう。
そういった事情を踏まえると、無能のボリック何某はさておき、此のカルト団体をどうにかする――ってのは賛成出来るわ。
ともあれ、そういった経緯で態々キョロクくんだりまで遠征に来た狩人隊のアタシ達。
今後のことを考えると普通に革命軍の戦力は削っておきたいわ。革命軍密偵班とかの非戦闘員なら湯水の如く
原作だとボリック何某の警護に手を割かないといけなかった為、一定数の戦力が常に拘束されていたものだけど……。
生憎とこっちでは此の無能に酒池肉林の贅沢なんてさせる気が(意味も)無いので、普通に気絶させて折り畳んで梱包して仕舞ってあるわ。オジサンをしまっちゃおうね。
マジで失態ばかりのコイツに原作のように接待してやる理由が無いので。
原作だとナイトレイドが現地入りしていて、しかも明確に名指しで命を狙われていて、尚且つ上位者である大臣からの借り物の手勢である羅刹四鬼が狩られ始めていた――そんな時期にコイツが何をしていたかと言うと、普通に今まで通り権力に飽かせて女性信者を食ってたわ。
……まあ、メタ的な視点で見れば『同情する余地の無いクズ』って扱いにして華々しく
実際、原作では無能が過ぎて鉄火場に遊び気分で入り込んでまんまとサツガイ(暗殺ではない)されてるもの。
エスデスが奥の手を発動してナイトレイドの戦力の内の一つを潰した、つまり盤面が決まった、その直後によ?
状況的には他の連中は大体満身創痍でズタボロになって身動きすら取れず、後はトドメを刺して回るだけ――そんな状況だったのにね。
「敵の女が死にかけてる。ヨシ、死ぬ前に味わっておこう!」からの反撃食らっての死ですもの。
ちょっと何言ってるかわかんないわ。ちゃぶ台返しにも程があるでしょ。
作中最強キャラであり続けたエスデスの“格”を落とさない為に「相撲に勝って勝負に負けた」って扱いにしたかったんでしょうけど……そういうのは此の世界に生きるアタシには関係無いのよね。
よって、不確定要素は事前に徹底的に潰し、万端の準備を整えて
当方に迎撃の用意有り。
宗教の所為で鬱々とした信者たちの悲痛な空気と、信者以外が我が世の春を謳歌する空気が蔓延する此の街で、原作とは違った流れで起こる戦闘……実に楽しみね。
とはいえ、現状だとナイトレイド諸兄も下手に火遊びとかしないで拠点に籠ってるみたいよ。
だからか、原作であった羅刹四鬼との遭遇戦も今のところ起こってないわ。
原作での流れだと、キョロク入りした連中は先んじて現地入りしていた革命軍密偵組と協力して突入経路の啓開を行っていたわね。
要は決行日に
事前準備に熱心なのは結構なんだけど……何のために此の世界に特務軍隊が存在していると思っているのかしら。
普通に密偵組の皆さんは一人残らず捕捉して改造寄生魔蟲を仕込んであるので、合図一つで全滅させられるのよ。言っておくけど、仕込んだ魔蟲は兎も角、連中の捕捉と蟲投与に関しては一般兵を使ったから。
そして四凶の皆さんはボリックの指揮下ではなく狩人隊の指揮下に入れ直したので、無駄に遭遇戦なんか起こさないし。
そういう裏事情から、適当な敵拠点をハラスメント攻撃で潰し回る以外で此方からの攻勢が無いので、ナイトレイドは原作と同じくボリックの座す聖堂や屋敷からは距離のある拠点から必死こいて地下坑道を掘削してるみたいね。
確かに「コレだけ離れていれば見つかるまい……」っていう向こうさんの意見にも納得しかないような遠距離から頑張って地下経路を啓いているのは感心しきりよ?
でもゴメンなさいね……アタシって
普通に向こうが出口にしようとしている場所に
『ハガレン式の錬金術』ってコンセプトのモノで、変換方式は【紅蓮の錬金術師】タイプ。
要は『ありとあらゆる物質を爆発物に変える程度の
元からクトゥルフにも錬金術は存在したし、邪神式のチート持ちのアタシにはプリセットされてるのよ。
その辺をちょいとアレンジした次第ね。勿論此の世界に存在する錬金術とも別系統の技術よ。
あっちは純粋に此の世界に存在する科学技術の別側面(要は地球の中世期で科学に進化しなかった顕学みたいな代物)でしかなく、普通に異能的な力は無いもの。
原作のドクターや後に出てくるドロテアってのが使ってた科学技術や錬金術は、あくまで此の世界に存在する法則に従ったサイエンスでしかないのよ。
で、色々経緯を省くと、「一見すれば、というか徹底的に科学的に検査しても何の変哲も無いが、連中が出てきた瞬間に坑道そのものが爆弾に変化する」というかなりの初見殺しを仕込んだわ。
原作主人公様ご一行なんだし、この程度は乗り越えてくれるでしょ。
というか乗り越えてくれないと困るわ。
何のために苦手な手加減を苦心してやってあげてると思ってるのかしら。
そういった理不尽と言われたらアタシも否定できないような心持で待つことしばらく。
原作ではどの程度の時間があったのかまでは流石に覚えていないけれど、アタシ達がキョロク入りしてから二か月弱。
教団の設立記念日の二週間程前に、ボリックが毎月一度行う夜通しの祈祷を行う日があるわ。
実際はソレも外向けのポーズで、本当は施設内部で酒池肉林に耽ってらっしゃるんだけど、まあ名目を付けている以上はその日に限ってはボリックも一日中聖堂に詰めてなきゃいけないのよね。
地下坑道も開削済みの現状、如何に此方がボリックの屋敷を外から見ても分かるほどに罠満載にしていても、連中は此の日に賭けるしかないのよ。
なにせ、件の『設立記念日までに教主を暗殺する』、っていう帝国側の方針が何故か革命軍に筒抜けなんですもの。
まあ(10年かけたとはいえ)教団のナンバーツーに帝国の工作員が潜り込めるようなザルな組織なんだし、そこらへんはボリック側というよりも教団側の責任かしら。
ともあれ、教団を一斉蜂起の際の重要戦力の一つとして使いたい革命軍としては、何が何でもボリックを排除しておきたい所でしょうよ。
それこそ、多少の危険と犠牲の上でも、ね。
でも、ない袖は振れぬ以上は
となると危険を冒してでも聖堂にターゲットが居る時に奇襲するしかないんだけど、おあつらえ向きにボリックが月一の御勤めで聖堂に丸一日籠る日があるもの。
先月の祈祷の日はまだ地下坑道が完成してなかったけど、今は開通済み。
そして二週間後の設立記念日に合わせて教主サマを昇天させてあげる方針が両陣営で周知の事実である以上、内外で『ナイトレイドはこの日に攻め寄せてくる』とバレバレでも、連中は愚直に攻め寄せてくるしかないワケ。
……原作を見る限りだと、ナイトレイドは「まさか我々の作戦が全て判明している訳が無い」という楽観に縋って作戦を起こしていたけど、其処はシナリオの都合だろうし考えないでおくわ。
――飛行能力持ちが複数居るのが周知の事実である此の世界の狩人隊を前にして、まさか奇襲の本命を空から寄越す、なんて……そんなアホ丸出しの作戦は打たないでしょうし。
……やらないわよね? 流石に
――ともあれ。
此方の方針は何も変わらないわよ。
本陣で敵を待ち構え、正々堂々と正面戦力で捻り潰す。
策や搦め手なぞ不要よ。
圧倒的に質と量で上回る以上、ソレを常道でぶつけてやるのが一番なんだから。
という訳で羅刹四鬼との戦闘が無い以外はそのまま聖堂突撃までの流れは一緒です。