憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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原作で違和感を覚えた部分について少し語りました。


File52:無能は罪悪

 アタシ達の任務は完遂。

 無事にボリックは教祖サマを弑逆し、その地位へと成り上がったわ。

 その後の細々とした政治闘争に関してはボリックを頂点にした教権簒奪組の連中の仕事なもので、アタシ達は事後を連中に任せて帝都に帰還する。

 

 一応アタシもエスデスも政治的圧力はかけられるし、その手のノウハウもあるわ。

 でも、態々あの色ボケを手伝ってやる心算も無かったものね。

 当然そういう個人的感情(好き嫌い)もあるけど、少なくとも威北軍と、当然だけど征南軍は厳密には大臣閥じゃあないって事情があるのよ。

 

 エスデスは原作でも大臣とズブズブだったし、此の世界でも便宜を図られて互いに合力するような関係性ではあるわ。

 ただ、大臣は何処まで行っても文官、即ち文民なのよ。

 そしてエスデスは将軍、即ち武官なの。

 コレも前に言ったけど、此の世界には文民統制(シビリアンコントロール)なんて概念すら存在しないので、大臣と将軍は絶対的に別派閥にしかならないのよね。

 

 外から見れば同じ濁流派、同じ巨悪の陣営だけど、武官と文官なんてのは、普通は同じ陣営にはならないわ。

 現代知識持ちのアタシが居る征南軍が例外中の例外なだけで。

 

 

 ともあれそういう事情があるから、大臣(文官)閥のボリックの仕事を、軍人(武官)閥のアタシ達が指揮下に入って助力……って流れは有り得ないのよ。

 如何に能力があっても、コレに関しては組織の構造的な問題である以上当たり前の話ね。

 

 まさかこの程度の仕事の為に無駄に組織と派閥の不文律を破壊してボリックに協力する謂れなんて無いし、そもそも明確な脅威であったナイトレイドはボロクソにして追い返したじゃない。

 となれば後は連中の仕事で、其処に出しゃばる意味も理由も無いのだから、まあ普通に凱旋するわよ。

 

 

 


 

 

 

 作戦終了からおよそ三か月後。

 安寧道は武力蜂起に踏み切ったわ。

 

 

 ――ふざけんなクソッタレがッ!!??

 

 

 …………落ち着いて、一つずつ、見ていこうかしら。アタシは冷静さを欠こうとしてる。

 

 前提として、原作と違って此の世界では教祖を殺害してボリックが二代目教主の座に就いていたわ。

 その為、教団を帝国の恣意で動かし、かねてよりのリスクであった『宗教組織の武装蜂起』とかいう日本人的にとんでもない某オウムを彷彿とさせる(マイナスイメージの)事態は未然に防がれた……と、誰もが思っていたのに。

 残念ながらボリックの無能さ加減は我々の想像を絶していて。

 

 蜂起が起きる事はアタシ達も、大臣も、勿論ボリックも分かりきっていた。

 だからこそ『組織の象徴にして幹部たちが強権で実力行使に出たら従うしかないような自主性の存在しない都合の良い神輿、即ち教祖サマ』を排除したのよ。

 その結果、()()()()()()()()()()()()こそあっても『教祖派が政治力を発揮するための前提』である教祖を亡き者にした以上、教祖派の連中は空中分解してボリック派に飲まれる、乃至放逐される目論見だったんだから。

 

 

 ……そう、此処に落とし穴があったのよ。

 流石に教祖を殺害しただけでは即座に瞬時に組織が変革したりなんてしないわ。

 当然だけど、ある程度時間をかける必要があり、政治的パワーゲームで教団の意思をボリック派で統一しないといけないのは、普通に考えたら()()()()()()じゃない。

 

 ――その当たり前の話すら理解出来ず。

 するべき仕事もせずに、何故か調子コイて今まで以上に酒池肉林に溺れに溺れていたボリック何某は、その事実(悪事)を鳴らして断罪され……。

 至極順当に(狂)信者たちに嬲り殺しにされたわ。

 

 

 ……思わず在りもしない歴史の修正力って存在を幻視しちゃったわよ。

 原作で既に死んでるハズのアタシを筆頭にセリューやボルス達が生きているし、何ならどっちかって言えば帝国の敵側だったスピアとかがウチに居るくらいなんですもの。

 どう悲観的に見ても、「原作でこうだったから辻褄を合わせる為にこうする」っていうような見えないナニカの力なんて、まあ信じられないわ。

 

 ……つまりどういうことかって言えば、()()は唯々ボリックの無能が齎した悲劇(コメディ)よ。

 定められた悪因悪果(トラジェディ)なんて御大層な代物じゃあないわ。

 三流演出家によるクソみてぇな脚本に、カスみたいな演者がゴミのような演技をブチ上げた。

 それだけよ。

 

 

 


 

 

 

 話を戻すけど、安寧道の武力蜂起について。

 教義である『善行を為す』、というお題目。

 『民を苦しめる国と戦うことこそが善行である』として、安寧道の皆さんは重税を強いてきた官庁や()()()()()()を襲っていったわ。

 

 

 ――話の途中だけど、一個突っ込ませてもらうわね。

 

 原作でもそう表記されていたけど、今迄に【悪徳領主】やら【悪徳貴族】やらと出てきた中で、態々【()()()()】って分けてお出ししてきたわね?

 つまりソレは、公権力によって認められた領主や貴族という封建的特権階級ではなく、日本で言えば座や土倉みたいな高利貸しや文字通りの土地持ちくらいの塩梅の存在って認識でいいのよね?

 っていうか少なくとも此の世界では()()だし。

 

 何が言いたいかって言うと、『どんな暴利で金を毟り取っていようが、法に則って運営している金融業者を、【こんな重い借金なんて悪徳商法だ!】とか抜かして襲撃する』ようなことよ。

 現代で考えると『多重債務者がグレーゾーン金利のサラ金を暴力で襲う』のと何ら変わりないわね。

 武富士弘前支店強盗殺人・放火事件かしら?

 

 ……中世の高利貸しが割と現代から考えると法外な金利を課していたのには、徳政令の発令(公権力によるデフォルトの強要)取り立て回収(キリトリ)が不能になるような状況が当たり前に在ったからで、実際には全体で見た回収率ってのは低いのよ。

 そもそも法に従っていても最低限の権利の保障(リスクヘッジ)なんて考え方が存在しないし、場合によっては身の安全も自助努力で守らないといけないわ。

 だから狭く深く回収を試みるし、そうでなくとも此の国の法律に従って適正に運用しているのよ?

 

 っていうか何度でも繰り返し言うけど、暴力に頼って変革を強いる存在とか大嫌いなのよねアタシ。

 世界の北野武の映画でも観なさい。

 『暴力に縋る存在は、ソレが客観的に善性の行いになったとしても最期には破滅する』っていう一本の芯を、どの作品でも最初から最後までブレることなく続けてきてるから。

 

 

 ――ともあれ話を戻して。

 原作では流されて幹部の意見に諾々と従っていた教祖だけど、その時の幹部たちの言い分にまた突っ込ませてもらうわね。

 

 『膨大な数の信者たちを養っていく為にも、土地と食料は必要である』という幹部たちの説得を聞き入れる形となって、安寧道は武装蜂起を追認した――。

 まあコレが原作での流れね。

 

 ――ウン、見え見えの地雷があるわね。

 でも敢えて踏み抜くわ。

 

 こいつら……土地と食料を目的に武装蜂起したって明言してるわね!?

 

 議論の余地なくクズの所業じゃないの。

 本音と建前でのお為ごかしすらしなくなったのよ?

 

 仮の話になるだろうけど、人を疑うことを知らない善性の馬鹿である教祖なら、馬鹿正直に『革命軍に助力したいです』って正面から説得した方が好印象だったハズよ。

 ところが信者には『善行=武装蜂起』で洗脳(オルグ)して、教主にすら『略奪で土地と食料を手にするのが組織の為』って誤魔化す。

 しかしてその真意は『実は幹部の生き残りは全員真っ赤な仲間(革命軍の連中)の一派であり、革命の為に信者たちを使わせてもらう』って腹の中を隠している始末。

 

 ……原作で教祖が言っていた『深い闇を抱えた幹部もいる』ってのは、大臣側だけでなく革命軍側の幹部も同様だったんでしょうね……。

 

 

 というかそもそもの話するけど、『国家に反逆する事が善行』って論法は、どこかのオウムと何ら変わりないじゃないの。

 ヒトを殺しても『現世の苦しみから解放(ポア)してやった』、って感じかしら?

 ……四凶のシュテンと気が合いそうね。

 

 まあ、まあ、まあ、アタシ個人の考えとしては、信教の自由ってのは認めるわよ?

 ただし、前提として夜警国家である帝国においてあらゆる権利を侵害されないようにするには、何らかの“力”がいるのよね。

 財力だったり権力だったり政治力だったりと。

 

 そして仮に現代日本であっても『信教の自由が保障してくれるのは、非違行為を行わない存在のみに限られる』って前提を御覧じろって感じ。

 内心の自由に限定すればどんな犯罪的思考思想理念信念信条を懐いていようと制限なんてされないけど、外に出したら違うでしょ。

 人権ってのは最低限『他者の権利を侵害しない』っていう共通理解のもとで成り立っているんだから。

 

 

 ――ともあれ。

 現実の日本ならともかく、此の帝国において『一度武装蜂起したカルト団体』なんて代物を、生かして残すワケが無いのよ。

 というか現実世界でもオウムは解散させられてんだから、いわんやこのマッポー世界だとどうなると思ってんのかしら。

 

 話を戻すと――帝国東部から安寧道の蜂起が起きたワケで。

 そうなると、西部の異民族、南部の革命軍、北部の橋頭保からの飛び地の戦力、そして帝国内部に点在する反動勢力たち。

 コイツらが一斉に呼応して、反乱は帝国全土に波及しちゃった始末。

 

 何気に原作よりも情勢が悪化しているのは、本来エスデスの指揮下にある北軍によって蓋をされていたハズの帝国北部の戦線が、此の世界だと入念な下準備によって飛び地が生まれてしまっているところが原因ね。

 革命主義者の大貴族によって政治的空白地帯を物理的に囲われた結果、エスデスの威北軍が張り付いている北部国境線に、直通路が築かれてしまっているのよ。

 しかも其方には革命軍の分派された戦力が堂々と構えており、完全に此方を舐め腐った態度で挑発を繰り返している状況。

 

 客観的に見れば北部の革命軍分派戦力は、帝国の最強戦力の片割れを対陣するだけで誘引出来ているんですもの。そりゃ挑発でもなんでもするわよ。

 そしてどれだけ相手側から挑発的に軍事行動を繰り返されても、威北軍が布陣出来るのはあくまで国内に限定されるわ。

 一将軍に過ぎないエスデスでは勝手に外国と戦端を開けないワケで、当たり前の話ではあるのよね。

 

 

 まあ、其方に関しては追々やっていきましょう。此方も最低限の仕込みはしてあるんだし。

 どのみちこれ以降は派閥云々の前に、帝国としての国体を維持できるか否かの瀬戸際に来ているんですから。

 そんな国家存亡の危急において、無駄に派閥争いに終始する無能は……どうかしら。普通に居そうだけれども……特にこの国には……。

 

 旧日本軍の陸海不仲を指して『陸海軍相争い、余力をもって米英と戦う』なんて言ったりしたわ。

 ところが旧日本軍程露骨に致命的なやらかしをしてなくても、国家総動員状態にまで陥っておきながら政治的に対立して馬鹿な真似をしでかす、ってのは古今東西で珍しくはないのよね。……枢軸国とかマジノ線の時のフランスとか。

 流石に国が焦土に変えられている真っただ中でやらかした日本を超えるのは珍しいけど。

 

 

 

 さて、近い未来の事よりも、目の前の今について考えましょうか。

 結論から口にすると、端的に言って『ボリックの不始末は挽回できない』わ。

 

 

 奴さんがどれだけ無能で無価値で害悪だったかって文句は腹の中にしまっておいて、現状を整理しましょう。

 まず、教祖とボリックが既に死んでいる中で、それでも残った教団幹部によって蜂起は扇動され続けているわ。

 そして、これが一番大事なんだけど……宗教テロってのは、扇動者を始末しても根絶出来ないのよね。

 

 中国史だと黄巾の乱、日本だと一向一揆や叡山とかの僧兵の挙兵とかで考えると分かりやすいけど……戦国時代で例えると長島一向一揆とか加賀一向一揆って指導者層が討ち死にしても一揆参加者がほぼ全滅するまで続いたじゃない。

 というか加賀に至っては末端の民衆が暴走して、一向宗に対する一揆すら起こされてるのよね。

 まあ加賀に限っては『百姓一揆と宗教一揆と地侍やら土豪やら他所の大名に追われた牢人やらの蜂起』がごった煮になった結果のカオスなので、あまりサンプルには相応しくないかもだけど。

 

 ともあれこういう故事に倣うまでもなく、宗教蜂起って上を消しても末端を削っても、少しでも余力が有れば全滅するまで暴れ回る存在なのは明白なのよ。

 ソレで安寧道の話に戻るけど、此の宗教テロ。

 残りの革命軍のひも付きの幹部連中を始末したからって、ソレで停まるかしら?

 

 答えは考えるまでもない、『停まらない』のよ。

 洗脳されてる狂信者連中は上からの指示を受けてラジコンされてるけど、それこそ洗脳を上書きでもしないと意思を変えるなんて不可能でしょ。

 仮に教祖か、もしくは此方で演出を工夫さえ出来ればボリックでも良かったのだけど、連中が生きていればね……。

 カリスマ的指導者によって運営されていた組織は、ソレに類する存在に依らねば方針変更すら覚束ない状況になるわ。

 

 そして、暴走の背を押したのは幹部連中でも、そいつらにテロをコントロールすることは出来てないのよ。

 ……もしかしたら【悪徳地主】とやらを襲ったのは幹部共の思惑ではなかったのかもしれないわね。

 完全に現場は暴走していて、眼につく人、モノ、金を略奪して周る飢えたイナゴの群れみたいな存在になっている。

 

 此処までの暴走状態は革命軍の思惑を超えているかもしれないけど、そもそも暴動を支配しようなんて考えが思い上がりも甚だしいのよ。

 そして上の連中がどんな考えだったか知らないけど、今の餓狼のような信者たちの集団は、命を顧みずに命懸けで暴れる狂信者の軍勢よ。

 マジで幹部連中なんかの言葉じゃ止められないし、もしかしたら止めることが出来たかもしれない教祖とボリックは既に死体も残ってないわ。

 

 

 ――とはいえ、我々特務軍が本気で事に当たれば、然して苦労せずに事態を収束させることも可能ではあるのよ。

 それこそ傀儡人形で教祖の黄泉返りを演出してもいいし、適当に信者共を洗脳して周ってもいいし、対軍能力で吹っ飛ばしてやってもいい。

 

 ……しかし、ソレが出来ない理由があるのよ。

 何故かって、帝国東部は【鎮東将軍】であるノウケンの縄張りだから。

 ソレ以上でもソレ以下でもないけど、軍部のナワバリってのは結構シャレにならないくらいデリケートな領域ですもの。

 

 そしてアタシ的にも『ノウケンは派閥として敵対していないから刺激したくない』と。

 ノウケンは『取り立てて優秀という訳でもなければ無能という訳でも無い』程度の能力をしているけど、濁流派という大きな括りでごくごく自然に大臣寄りのスタンスでいる彼は、中道派としても敵対的存在でもない。

 女の奴隷を代わる代わる使い捨てにしている外道ではあるけど、四将軍の一角として大軍を過不足なく指揮できる程度の能力はあるのよ。

 

 そして、安西軍がウチに吸収合併された以上、あまりウチの一強体制ってのは不健全だし、ある程度の対立候補は残す方針なのよ、アタシとしては。

 だから東部の支配と鎮圧は、ウチが出しゃばるのは控えたいってのが本音。

 

 ……まあ、あまりにもヤバかったら本気出してテコ入れするけどね。




次回、ある意味待ちに待った馬鹿息子編の始まりです。
当然殺ります。
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