憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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寧ろ『帰ってくれ馬鹿息子』にした方が良かったかも。


File53:帰ってきた馬鹿息子

 ――さて。

 案ずるより産むが安しとはよく言ったもので、先だって行った鎮東軍との折衝は上首尾に終わったわ。

 

 考えてみれば当たり前の話だったけど、アタシ(六十代)エスデス(二十代)ノウケン(四十代)とは世代が違うからか、あまり話したこと無かったのよね。

 軍閥とは言っても明確に勢力としてではなく政治力を行使可能な派閥として自身の所属を確立しているのは、亡きナカキドも含めた四将軍制度の中ではウチとエスデスのところだけ。

 それ故、統括する地方も違うから、軍部として同格の四将軍にまで任命されていても、職務上のこと以外で関わりが無い。

 

 だから今までは没交渉になりがちだったけど、改めて今後の事について方針説明も含めて大臣を通しての会談を設けたら、拍子抜けするくらい真っ当に話がまとまったわ。

 彼は原作だとアタシの既知の範囲では出てこなかったとはいえ、最上位の将軍職の一角なんですもの。

 そりゃあまるっきりの無能って訳ではないんでしょうね。

 ……将軍だから本人の直接戦闘能力は重要視されないとはいえ、アレだと帝具持ちとサシでやったら確殺されるでしょうが……。

 

 

 ともあれ、ノウケンとは未来志向で協議を重ねた結果、東部の方へ兵力に余裕がある征南軍から援軍を送る事が決定されたわ。

 既に革命軍も最後の一手を打ってきた時分、そろそろ狩りの仕上げに入って良い段階でしょうしね。

 

 というか、帝国全土での一斉蜂起を発動した時点で、今更革命軍が何をしようとも後戻りはできないのよね。

 仮に連合が負け確になってる事に上層部の誰かが気付けても、此処まで国中に戦禍を齎しておいて連合の内の何処かの勢力がイモ引くなんて不可能だし。

 連合の幹部連中が如何に戦局を見て動こうとしても、既に意思を統一出来ない寄り合い所帯の巨躯を動かした以上、後戻りはできないのよ。

 

 異民族に宗教団体に革命主義者に裏切り者に……どう考えてもこれだけのまとまりの無さ過ぎる連合が、一致団結して一つの目的の為に邁進するなんて無理筋でしょ。

 とはいえ数だけ見れば侮れないし、民衆が各地でポツポツと呼応して反乱を起こしてるのは面倒極まり無いわ。

 帝都の高官たちは帝都の中では直接的な脅威を感じないからか、割と能天気な空気があるけど……国中を巻き込んだ戦乱が起きているってことくらいは自覚して欲しいものね。

 連中、まだ対岸の火事(地域紛争)くらいの気分でいらっしゃるのよ。

 国中で反乱が発生して周辺諸国から侵攻されてるとか、割と生きるか死ぬかの瀬戸際なんだけど……。

 

 

 まあこの手の無能共は後々間引くとして……問題は、()()よ。

 うん、大臣の馬鹿息子、帰ってきちゃったのよね。

 

 

 


 

 

 

 大臣の馬鹿息子。シュラ。

 常軌を逸したほどに屑の極みで、暴力的で残忍な性格の外道。

 

 原作では殉職により数の減った【特殊警察イェーガーズ】の代わりに【秘密警察ワイルドハント】を組織するが、肝心の仕事である『不穏分子の摘発』は一度も行っている様子が無かった。

 では何をしていたかと言えば、『秘密警察の特権と大臣の息子という立場を振りかざし、遊び気分で無関係な一般市民の凌辱や殺戮』しかしていない。

 もしかしたら描写の外でたまには真面目に仕事をしていたかもしれないが、少なくとも原作描写からはそのような殊勝な様子は伺えなかった。

 一応擁護すると、主敵である革命組織のナイトレイドとはやり合っているが……。

 

 まさに救いようのない悪役(ヒール)であり、同情の余地も無く、シナリオ的に『倒されるべき敵』としか設定されていない存在だ。

 しかも事あるごとに『俺は大臣の息子だぞ?(原文ママ)』とまんま「パパが黙ってないぞ!」というクソガキ仕草を見せている。

 じゃあ本人は権力を笠に着たザコかと思えば、各地を漫遊することで修得した多様な武術を統合した技を使いこなしており、無手で皇拳寺の拳士たちを一方的にあしらってもいた。ウェイブとも帝具無しで決闘を行い、ある程度まで追い詰めるくらいには体術に秀でている。負けたけど。

 生憎と原作描写から判断するに『甘やかされて育った身体のデカイ糞ガキ』といった様相で、知性も知能も足りていない様子だったが。

 

 

 さて、原作ではそのような存在だったが、此の世界ではどうか。

 

 コレは原作でもそうだったのだが、シュラの部下の一人がランの教え子たちの仇であり、此の世界ではドクターの根回しによって早期にランの敵討ちは完遂されている。

 そして、ドクターの陣営はその際に障害となったシュラご一行とは敵対してしまっており、以降にヒトガタ危険種の件なども通して因縁が生まれてしまっている。

 

 シュラは大臣からの旅の宿題として『有用な人材集め』を課されており、原作でも帝都に帰還した際に5名の帝具持ち(1名は違うが)を部下として揃えていた。

 いずれもシュラと同道して凌辱や殺戮を嬉々として行えるような破綻者たちであり、それでいて相応の実力者だ。

 

 しかし、此方の世界ではメンバーの事情と人数が少々異なる。

 

 まず、此方は原作と変わりのない人員のイゾウ。

 【江雪】という刀に血を吸わせることを『食事』と称して好んでいる狂った人斬り侍であり、()()()()使()()()()()()

 本人の類まれな武技と帝具すらも切断し得る上級の業物である得物によって対帝具戦すらも可能とするが、江雪は特殊な効果や能力など一切有さないタダの切れ味鋭い名刀でしかない。

 しかし東方の倭の国とやらは村雨や桐一文字などの刀系統の帝具や臣具の製法の元らしいので、もしかしたら倭の国のサムライたちはコレが標準装備なのかもしれない……。修羅の国じゃん。

 帝具使いではないが、純粋な戦闘能力ならばワイルドハントで随一。

 その強さはシュラも認めており、帝具使いではないにも関わらず仲間にしている事からも実力者として頼りにされている事が窺える。

 

 

 そして此方も原作と同じ人員のドロテア。

 西国で――実は此の世界では帝国でも――指名手配されている外道錬金術師で、見た目は幼い少女だが、コレは何処かの漢女(オカマ)と同じく自らの肉体を改造しているが故の姿。

 他者の血液を吸うことで生命力ごと奪い取る【“血液徴収”アブゾデック】の使い手。

 その若い見目は帝具と自身の錬金術によって齎されたもので、実際はかなりの高齢。

 原作ではドクターの科学力に興味を示しており、彼が討たれていたことを悔やんでいた。

 錬金術とやらの腕前はかなりのもので、原作でも大臣に工房を与えられて改造兵士を製造するなど貢献していた。

 しかし敵の支援職は確殺する為にシナリオによって前線に出される此の原作の宿命により、ドクターと同じように現場に自分から出ていって討ち取られた。

 ガンダムで言えばフラナガン・ロムやクルスト・モーゼスがMSに乗って戦線に現れるようなものなんですがソレは……。ドゥガチお爺ちゃんじゃないんだから……。

 討伐された後に帝具が回収されたような描写が無かったが、コレはデモンズエキスと同じように使用者と同化するタイプの消耗品だったからかと推察できる。

 アブゾデックはモノとしてはドロテアの鋭く尖った吸血鬼のような犬歯として発現しており、容易に取り外しができる類のものではなさそうだ。

 

 

 人は同じだが事情が異なるエンシン。

 彼は原作では【“月光麗舞”シャムシール】の使い手だったが、此の世界ではシャムシールには前任者が、というか前の持主がいた。

 ソイツは普通にランの敵討ちに巻き込まれて処刑済みだが、回収された帝具は案の定大臣経由でシュラにリリースされている。

 そして、敵討ち以降に仲間になった彼に適合したため、そのままシャムシールを預かっている状況だ。

 そんなエンシンだが、シュラと同じくらいにドクターを憎悪していた。

 何故かと言うと、彼は元々南方諸島で暴れ回っていた海賊だったが、何処かの漢女(オカマ)避暑地(リゾート地)を整備する為に海賊を刈り尽くした際に勢力を全滅させられ、命からがら逃げ伸びた過去があるからだ。

 『当時は帝具も無かったが、今ならば……!』とドリーム気分でいらっしゃるので、いつか夢を覚ましてあげようね。『“人”の“夢”と書いて“儚い”』……愉しみですね。

 シャムシールは真空の衝撃波を放つというシンプル()な帝具。

 月齢によってポテンシャルが変化し、満月の時に最高の性能になるらしい。

 

 

 コスミナとチャンプ(故人)。

 コスミナは巻き込まれた側だが、チャンプはランの仇の連続児童殺人鬼だったので処された。

 まあシュラと一緒に暴虐の限りを尽くしていたんだし残念でもなく当然の報いではある。

 両名とも帝具所持者で、それぞれ【“大地鳴動”ヘヴィプレッシャー】と【“快投乱麻” ダイリーガー】を所有していた。

 ヘヴィプレッシャーは怪音波を増幅して放つマイク型の帝具で、使用にはその形状の通りにある程度の声量を自前で放つ必要があり、カロリー消費が激しい帝具とされている。

 ダイリーガーは既出だが……まあ、つまりそういうことだ。

 

 

 

 ――以上、原作でのメンバーからは2名欠員の3名しか部下が集まっていない。

 一応ドロテアの製造する改造兵で嵩増しを考えてはいるようだが……そもそもの大臣からの指示が『将来のシュラに仕える側近候補』という意味合いだった。

 本人も知性と知能がよろしくない以上、ブレイン役をもう少し強化するべきだと思うが。

 

 

 


 

 

 

「オヤジッ!!」

 

 宮殿内部饗応の間。

 基本的に大臣が普段使い(ダイニング扱い)にしているくらいに彼の根城である此の場に、荒々しい足音を響かせて誰かが乗り込んできた。

 大臣(デブ)美食(食事)の時間を邪魔するなど、普通はそのまま殺されても文句は言えない。

 ……まあ、今回入ってきたのは普通の相手ではなかったが。

 

「――シュラですか。帰ってきたのなら連絡くらい寄越しなさい」

 

 唐突に食事の邪魔をされて少し苛ついたが、その相手が「成長の為に」と国外へと旅に出して久しく会っていなかった一人息子(身内)だった為、その憤りも努めて鎮めた。

 ――もっとも、つい最近とんでもない大失態を犯した(協力派閥のドクターに喧嘩を吹っ掛けた)姿が記憶に新しい為、少しばかり棘のある受け答えになってしまったが。

 残念ながらそういった機微に気付けないよわよわお頭のシュラくんは、自分の言いたいことだけ口にする。

 

「オヤジ、あのオカマ野郎を殺させろ」

「――――」

 

 帰還の挨拶や成果の報告などの諸々の()()()()()()()()()()すらせずに、真っ先に突きつけたのは自分の要望。

 コレは、仮に相当に仲の良い家族でも大分アレだが、自分の実子だろうと()()()()()()()()()()()を最重要視する大臣にとって、中々に度し難い振る舞いだ。

 

 しかし、業務報告だけを行いたい、というのであれば、応えてやるのもやぶさかではない。

 そもそも仲良しこよしで家族ごっこをするような間柄でもないのだから。

 

 

「――要望の前に、私からの宿題の成果をお聞きしましょうか?」

 

 そう、シュラ側から人情味のある(家族的な)やり取りを排して仕事(ビジネス)の話を優先したい、と言うのであればソレもまたヨシ。

 しかし、その場合シュラは大臣の息子としての立場より、贔屓されている後継者候補としての立場が先に立つ。

 私的な立ち位置よりも、あくまでも公的な立ち位置。

 

 ――さておき、此の夜警国家にして貴族主義国家である帝国においては、帝国の高官が恣意で身内に便宜を図ってもある程度は問題ない。

 何故なら、現実世界の中世でもそうだが、私人と公人の境目が曖昧な世界だから。

 それ故、大臣の実子に『経験を積ませる為に公費で国外を巡らせ、将来の部下候補を獲得させてくる』という相当に私的な目的も、極論すれば法的に摘発出来るものではない。

 ……限度はあるが。

 そも、あくまでもシュラが手に負えないのは、権力を笠に着ることで揉み消しきれないほどの凄惨な悪事を重ねている部分だ。

 

 ともあれ大臣としてはあくまで公費を費やしたこともあり、公的な職務として息子に“宿題”を課していた。仕事と言い換えても良い。

 そうである以上、大臣も息子から公的立場としての振る舞いを求められた以上は公人として問いかける。

 要は、『進捗どうですか?』という奴だ。

 

 

「ア゙ァッ!? 集めた人材はあのオカマに殺されたんじゃねぇか!!」

 ――しかし、そんな軽い問いかけは激高で返された。

 

 

 ただ、残念ながらシュラの言い分は此処では、というか世界中の何処でも通らない。

 仮に馬鹿息子の過去のやらかしの全てについてなあなあで済ませるとして、大臣からシュラへ与えたタスクは『人材確保』の一点に尽きる。

 その場合、事前に外的要因(ドクターとの衝突)によって数が減ったのなら、追加で用意しておく、最低限進捗の報告をするのは当たり前の話ではなかろうか。

 

 ドクター側が大臣に配慮してアレコレ言ってこないだけで、衝突の件は十割シュラが悪い。

 政治的にも濁流派と同規模の最大派閥の一角であるドクターとは、さしもの大臣ですら不用意な衝突は避けている。

 そもそも時として対立こそするが、中道派の目的は濁流派の上層部とは大筋では反しないので、ドクターは『時に助力を得られる強大な戦力にして優秀な政務官』という扱いだ。

 よって、その件に関して蒸し返すと困るのはシュラの方だ。

 

 だが、アレからある程度の時間が在ったにも関わらず、シュラは人材の追加を用意出来ていない。少なくともその後一切の報連相が無かったのは物事の成否以前の問題だ。

 無理は嘘吐きの言葉な(できませんなんて許されない)ので、大臣からは『関係ない、やれ』としか言うことは無いのだが……。

 

 しかし無情にもシュラは『アイツの所為で出来なかったからアイツやっつけてよパパ!』とか言い出している。

 自分で仕事の話を持ち出しておきながら、親に権力による援助をおねだりしている……。

 少なくとも大臣は息子の発言をそう受け止めた。

 

 

 というか前提として、此の世界の大臣はストーリー後半でキャラ崩壊や作画崩壊しないし、政治能力や執務能力は普通に高いし、品性人格はさておき物事の道理は知っている。

 道理は守る気が無いだけで、どこぞのハゲ達磨(シュテン)と違ってポアしてやることが善行などとは考えていない。悪行と知ったうえでやっているのだ。

 そもそも馬鹿息子と違って彼の権力は自らの力で勝ち得た長年の『不断の努力』の末のモノであり、それ故にその力の使い方も維持の仕方も労力も知っている。

 そして、考えなしの馬鹿でもない為、ある程度の身の程も知っている。

 

 大臣は自らを『国を蝕む寄生虫』である、と自認しているし、ソレは客観的な視座から見ても正しいものの観方だ。

 その上で自分の欲望を優先する外道なのだが、大臣の性情はさておき馬鹿息子について。

 

 寄生虫は宿主の栄養を奪い肥え太る生き物だが、そのまま宿主を殺すまで栄養を搾り取るタイプとそうでないタイプがいる。

 寄生先が食物連鎖などに助けられて生態ピラミッドの上へ上へと寄生先を変えていく中で、寄生している宿主が中間宿主と言われる腰掛の宿主か、食物連鎖によってソレ以上先を見込めない宿主かの違いだ。

 

 此の例えでいけば、あくまでも大臣は宿主を殺さないように振舞っている寄生虫だ。

 寄生生物と違って大臣には帝国以外でより滋養のある人生を送れる寄生先が無いのだから。

 だが肝心のシュラの方は、宿主ごと死ぬタイプの寄生虫である。

 

 凡そ我が世の春を謳歌している大臣の姿からは判別が難しいだろうが、大臣は彼なりに『此の国を存続させる』だけの手心を加えて暴虐を愉しんでいる。

 彼の腰巾着共や他の濁流派幹部たちがその辺の理解が足らないだけで、宿主を殺し(帝国を崩壊させ)てしまわないだけの注意はしているのだ。

 原作においても盲目的に信頼させた状態の皇帝を指して『ゆくゆくは美食と肉欲の贅沢を覚えさせて都合の良い女を宛がい次なる後継者を引き続き確保。その後は死ぬまで甘やかしてやる』という旨の発言をしている。

 

 つまり、少なくとも傀儡を操るという前提こそあっても、次代までは帝国を存続させることに否やは無いのだ。

 ……まあ、最悪は大臣が天寿を全うするまでの、長くとも残り半世紀も持てばいい、という考えかもしれないが……。

 しかし、継嗣として期待を寄せているシュラに今の権力者の座を引き継がせる構想を持っている為、最低でもシュラが普通に人生を終える程度の年月は国体の維持を想定しているのだろう。

 ……シュラのやり方だと一年以内に国は滅ぶが。

 

 

 そうして話を戻すと、大臣が息子を旅に出したのは、真実【後継者】として成長して欲しいが為の、所謂親の愛という考えからだ。

 実際に『可愛い子には旅をさせよ』という慣用句を口に出す程度にはその思惑を内外に隠していない。

 此処に関しては疑う余地も無く、おそらくは大臣が皇拳寺で学んだ過去などから見て、大臣も若いころはそうやって知見を得たのだろう。

 

 ……しかし、大臣とシュラとでは明確な認識の隔たりがある。

 

 大臣が考える『人材確保』というのは、シュラが用意したような帝具使いの強者(ブルーワーカー)だけを指すのではなく、大臣にとってのサイキュウ主席内政官(腹心の部下)のような、頭脳労働者(ホワイトワーカー)も含めてのモノだ。

 当たり前だがシュラが大臣の地位を引き継いだのだとしたら、その立場は大臣職となるだろう。

 少なくとも大臣職はこの国では内政官としての立場であり、武辺など必要とされない。大臣の前任者であったチョウリ元大臣がいい例だ。

 ならば、将来的にシュラにとっての譜代の部下、股肱の家臣となる人間に、一番必要な存在は知恵者だろう。

 

 あくまでも武辺者は1人か2人もいれば充分で、ソレにしたって「人品には頓着せずに強さだけを求めました」なんて人選は有り得ない。

 例えば大臣の懐刀である厄神四凶は少なくとも好き勝手に暴れ回って上司に尻拭いをさせることなど無いし、あるいは「扱いづらい部下」としてもワイルドハントのようなメンバーはマトモな知性が有れば考慮に値しない。

 だというのに、シュラが用意出来たのは「人格は上司(シュラ)と同様に破綻している、権力に飽かせて暴虐の限りを尽くすことを楽しむ」ようなのしかいない。

 

 一応ドロテアが技術職で知恵者でもあるが、彼女は原作でも最初の頃は兎も角として一貫してシュラに従うような立ち位置にはいなかった。

 原作での流れでは個人的に錬金術師として大臣に取り入り、自らの技術を以って工房を得るなどの評価を受けている。

 原作においてシュラが失態により大臣から見放された際にも我関せずと大臣と会食(蟹パ)を続けていた。

 そして、シュラが討ち取られた後も平然と大臣に直接雇われる形で帝国での活動を続けた。

 ――以上の事から、ドロテア側からすればシュラは帝国で立場を造るための切っ掛けとして取り入ったに過ぎず、それ故にシュラが見限られた時も放置したのかもしれない。

 

 そして、そんな関係性であると看破されていたのかは定かではないが、少なくとも此の世界で大臣はドロテアを息子の部下候補からは除外して考えている。

 ソレを踏まえてシュラが持ってきた人材とやらは、たった2名の肉体労働者(戦闘員)だけ――。

 

 

 

「――ハァ~………………」

 

 深い深い溜息を吐き出す大臣。

 親馬鹿という訳ではないが、息子に対して身内贔屓も甚だしいという自認のある彼としても許容しかねるほどの愚かな振る舞い(指示の不履行)

 シュラが自分の意図するところを何一つ理解出来ておらず、そして現在進行形で何やら愚かしい要望(協力者の殺害要求)を突き上げてきている。

 コレには溜息の一つも出る。

 

 

 ――【損切り】という単語が脳裏に浮かんだ。

 突き放すでも見限るでもなんでもよいが、此処まで愚劣に育った実子を見て、どうしようもないやるせなさが去来した。

 

 お世辞にも『子育て』と呼べるだけのマトモな教育を、自ら行ったと嘯くことは出来ない。その程度の自覚はあった。

 放任主義で欲しいモノはなんでも与えてきたが、ソレで育つのは目の前の大きな赤ちゃん人間だけだった。

 自分の人生訓を元にした放任主義的扱いをしてきたが、此処に来てその愚昧な姿が目に付いてしまう。

 帝国全土において反乱や侵攻が頻発している国難の時期だからこそ、我知らず懐いていた『成長した息子が自分の仕事を手伝ってくれれば……』という幻想を裏切られたのもある。

 

 脳筋は救い難い。

 武辺に限ればまるっきりの無能でもないのだろうが、今更そんなモノを求めてはいない。

 それ故、息子がドヤ顔で成果を主張するのを見ていても、心が冷めていく……。

 

 正に【損切り】が必要になってくる瀬戸際にあった。

 これ以上手間をかけて(力を入れて)も碌な見返り(利益)が無い。

 其処まで追い込まれたのならば、これ以上損をしない為にも此の不良債権(馬鹿息子)なかったことに(処分)する……。

 本当に其処までの段階に来ていた。

 

 ……だが、外道なりに少なからず在った親の愛情と呼べる代物は既にストップ安だが、同時に此処までコストを費やして飼育し(育て)人材(資産)を手放す行為に、尻込みをしている。

 正にバブルが弾けている時の後追い投資家のような心境で、文字通りの損切りが出来ないでいる訳だ。

 客観的に見ればこれ以上は損を拡大するだけの負債は手放すべきだが、心情的に「まだ価値が在る(上がってくれる)……()()()()()()」という幻想に縋ってしまっている。

 

 コレが金融資産や不動産などの純粋な物品ならまだしも、相手は自らの血を分けた実子だ。

 非情な判断を即座に下せないのも無理はなかった。

 

 

 ――が、損切りは難しくとも、コレ以上の追加投資(手を加えること)が愚かな選択だということくらいは流石に分かるし、ソレをしないだけの分別もある。

 故に、現状維持という――金融用語では【塩漬け】と呼ばれる愚策――選択を決めた。

 

 ソレに、ダメなら叩いて直せばよいとも思い直す。

 人材とは資産ではあるが、同時に生きた人間でもある。

 これからは自身が直接監督をして、此の甘ったれた我儘糞餓鬼(ファッキン)赤ちゃん大人(ビッグベイビー)を成長させてやろう。

 そう、決心した。自分を誤魔化した、とも言える。

 

 ――最悪の場合、ドクターに人格の改造を依頼することになるかもしれないが。

 折角自分の実子として此処まで飼ってきたのだから、他者に頼るの(ソレ)は本当に最後の手段にしたいと、苦々しく思う。

 外道の屑である大臣は、外道なりにそう考えていた。




馬鹿息子、帰還初日に既に馬鹿デカイ死亡フラグを背負っている。
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