憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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作中で七日経過する間に決着するってだけで、七話も使ったりはしません。

なお、狩人隊と同様に執筆コストを下げる為にワイルドハントを狂猟隊で略します。


File54:僕らの七日間戦争 上:すれ違い

 大臣は息子に対して既に愛も情も持てなくなっていたが、さりとて“執着”と呼べる感傷は捨てていなかった。

 元より外道なりの感情として持っていた息子に対しての執着心は、今では愛情の類を持ち得なくなった代わりにそれなりに介在した。

 ソレが、今回は大きく作用する。

 

 此処まで飼育した人材(息子)を、そのまま放り出すのも癪だ、という気分もある。

 よって、シュラの要望であった他派閥の協力者(ドクター)の殺害はにべもなく却下したが、その代わりに息子が帝都で好きに振舞えるだけの立場は用意してやった。

 

 【秘密警察ワイルドハント】の隊長。ソレがシュラに与えられた立場だ。

 その職責として掲げているのは『不穏分子の摘発』であり、強権を以って革命軍の協力者やスパイ、究極的にはナイトレイドのような存在と戦う為に設立された組織である。

 原作では先述したように職務放棄も甚だしく権力を濫用して虐殺と凌辱しか行っていなかったが、そもそもの設立目的は偽りなくお題目の通りだ。

 

 狂猟隊(ワイルドハント)の目的は原作では殉職により戦力評価が著しく下がった【狩人隊(イェーガーズ)】の代替として用意されたもので、おそらくは原作においてもシュラが仕事もせずにその辺をプラプラ遊び歩いていたのは想定外だったと思われる。

 大臣からすればその辺の市民をどれだけ虐殺してもどうでもいいとは思うのだろうが、ソレだって最低限の仕事をしているならの話だ。

 あくまで狂猟隊に特権を与えたのは標的(ナイトレイド)討伐の為にご褒美の前払い(権益)としてに過ぎず、まさか権利だけ貪って仕事もせずに遊び惚けているとは夢にも思わなかっただろう。

 というか原作でも大臣は『別に市民をいくら殺しても構いませんが』『目標はナイトレイドの殲滅ですよ』と苦言を呈している。

 

 

 

 さて、原作ではそういった不幸な行き違いこそあったが、此の世界では帝国側の戦力は――主に狩人隊や征南軍の存在が――依然として高い質と量を保っている為、そのような理由では狂猟隊も設立されなかった。

 此の世界における狂猟隊の設立理由は、以下の【三つ】だ。

 

 

 一つ、大臣の実子が無職のプー太郎では面子に関わる為、箔付けという側面で用意したという理由。コレが一番大きな要因である。

 原作と違って一切損耗していない特殊警察と同等の権限を有する秘密警察の設置など、陸海軍でそれぞれ別に同程度の性能の戦闘機を開発するくらい無駄な行動だ。

 態々そのような無駄をするのは、偏に大臣の立場を守る為に有名無実なお飾りの部署として()()()()()()に過ぎない。

 よって、此の世界では権限こそ認めてあるが、お飾り部隊である狂猟隊の活動そのものには大臣も一切の期待をしていなかった。

 

 

 第二に、シュラが成長することを期待してのもの。

 愛想は尽きているが、さりとて放り投げてしまう訳にもいかない。

 子育てに失敗した大臣だったが、それでも、と馬鹿息子が成長できるように役職と立場を与えた。

 お飾り部隊ではあるが実際に有する権限は帝国の二枚看板の双璧が所属する狩人隊と同等の非常に高いモノであり、やり様によっては手柄を立てて実績を積み上げることは難しくない。

 ソレには『自分から考えて行動する』という、社会人にとっては当たり前の考え方を身に着けないと無理だが。

 とはいえ、与えた権限とシュラが引っ提げてきた戦力を見れば、ナイトレイド級の強者は厳しくとも、異民族や革命軍とやり合う程度ならば十分に実績を上げられるとの判断があった。

 

 

 第三に、狩人隊が行うには難しくなった職権について担わせること。

 表の看板が狩人隊なら、裏の位置づけが狂猟隊と、そういう期待込みの想定をしている。

 此の世界では狩人隊が賊退治や不正摘発、要人警護に災害救助などの陽に当たる仕事が多かった為、あまり大っぴらに汚れ仕事を割り振れない状況になっていた。

 折角おキレイな外面が仕上がった以上、態々ソレを捨てるのも勿体なく、また今までは特に狩人隊が手を汚さないと解決出来ない事態にもなっていなかった。

 その為、強引な捜査や拷問、恫喝に脅迫などの非合法手段を厭わない裏の部隊として、その名の通り秘密警察としての役割を期待して狂猟隊は設立された。

 

 

 以上の理由から、原作とは違って此の世界の【狂猟隊(ワイルドハント)】は真っ当な秘密警察としての働きを期待されていた。

 とはいえ捜査関係では相変わらず精度の可笑しい魔術(チート)によって簡単に摘発出来る為、狂猟隊が主体的に捜査活動を行うことは想定されていない。

 そもそもシュラ以下隊員の全てがその手の捜査能力を備えている訳もなく、やはりお飾りとしての役割が最も大きいくらいだった。

 ソレでも実績を積もうとするならば、自主的に行動して帝国に貢献することが求められるし、大臣としてはその手の『自発的な気付き』を促した心算だ。

 

 

 ――流石に、何の実績も経歴も無いシュラに、いきなりポンと好き放題する権利なんて与える訳がない。

 その程度の事は、言わずとも分かる筈。

 ……能力が多少なりとも有れば――。

 

 

 大臣としてはそう判断したが……今回に限っては色々と明言しておくべきだった。

 アレをしなさいコレをしなさい、アレをするなコレをするなと……初めてお使いを任される幼子でもないのだから、此の程度の事は分かる筈……。

 なまじ大臣が文武に秀でているが為に『本当に無能な馬鹿』の考えが理解不能だったが故の判断だった。

 しかし……アホはお墨付きを得たと勘違いしてしまった。

 

 ――馬鹿息子の破滅の一週間が始まった。

 

 

 


 

 

 

 革命軍としての構想では、事前に内応させた各地の太守の領地を線で結び、無血開城を繰り返して電撃的な速さで首都に直行するという作戦が大前提として在ったわ。

 ソレはそろそろ完全なネタ切れになる原作知識からもそうだったし、此の世界で革命軍に仕込んだスパイからの報告でもそうなっているわ。

 

 しかし、アタシはその寝返りを打つ太守たちに一切の働きかけを行わなかったのよね。

 何故って、そんなの後で合法的に潰す為でしかないわよ。

 

 内応を取り付けられる以上はある程度革命主義に近い立場で、実際に現状で裏切っているように、此の土壇場で寝返るような連中を庇護する意味も無いでしょ。

 そもそも何度も言うけど、ゴミ掃除はまとめてサッパリやるのが一番だって考えなのよ、アタシ。

 よって、使えない無能や利益に転ぶクズとかは、早いところ裏切ってもらいたいまであるわ。

 

 

「――革命軍の進軍だが、既にエンまで無血降伏させられたそうだ」

「ふぅん? 想定通りとはいえ、よくそれだけ寝返りを成功させられるわね」

「流石にこうも快進撃が続けば、元は靡く心算が無かった連中も勢力に磨り潰されるのを恐れてどうとでも転がるのだろうさ」

「つっても、事前の想定は通知してあるし、再三に渡って釘を刺してあるってのに……」

 

 現在、帝都に帰還してしばらく経過した狩人隊は開店休業状態。

 ポツポツと革命軍のスパイや他国の密偵とかが帝都に入り込むけど、速攻で捕縛して洗脳、欺瞞情報を垂れ流すスピーカーにするとかのお仕事はしてるわよ?

 でも、既に革命軍との抗争は最終局面目前で、そうなると現状では大軍同士がバチバチにやり合う以外の動きは無いじゃない。

 よって、嵐の前の静けさではあるけど、特殊警察という立場ではほぼすることが無いのよね。

 

 帝都の屯所で宮殿の会議内容をエスデスから聞き取りをしているアタシも、本来なら宮殿に出仕して対革命軍の話し合いに参加しないといけないのだけれど……。

 ここぞとばかりに今の立場を利用させてもらったわ。

 

 『今の自分は狩人隊に出向している身分であり、指揮権の一元化の為にエスデス隊長に全面的に従っている』という旨を強調。

 その事実を以って面倒な会議や折衝の類は全部ぶっちぎった次第。

 

 

 ――そうして面倒ごとの悉くをスルーする毎日だったけど、馬鹿息子がついに動き出したわ。

 

「――隊長!」

 

 いつぞやの反省を生かしたのか、ちゃんとノックしてから部屋に入ってきたウェイブ。学習能力ヨシ!

 何やら急ぎの要件を持ってきたらしいわね。

 どうしたのよ、西と南で無血開城と反乱が相次いでいるって情報はもう仕入れたところよ?

 

「どうした? 流石に威北軍の指揮もあるから、狩人隊としては西には出れないぞ?」

「北も向こうさんがハラスメントに徹底してるから、此方からは動けないしね」

 

 原作では西方の異民族の侵攻を防いでいたエスデスだけど、此の世界だと北方の統治も含めた職権を任されているわ。

 よって、職責としてもそうだけど、統治するにあたって一定数の戦力は常に北に貼り付けておかなければならない為、威北軍は動けないのよ。

 そもそも西方はアタシの管轄だから。

 そっちは普通に大規模催眠で生き腐れに落として接戦を演じているけど、合図一つでヒトガタ危険種に転生させられるわよ?

 だから心配いらないんだけど……。

 

「いえ、そちらではなく! とにかく此方を御覧ください!」

 

 そう言って急ぎで仕上げたらしい報告書を提出するウェイブ。

 ソレを受け取ってエスデスと二人で目を通すと――。

 

 

「――フム」

「ああ、例の馬鹿息子ね……」

 

 書面には、シュラくんと愉快な仲間たちのハシャギっぷりが克明に記されていた。

 原作よりも人数が減っているが、普通に原作と同じことをしているらしい。

 今日は早速劇場を襲撃して無関係で無実の民衆に凌辱の限りを尽くして殺戮を楽しんでいるそうね。

 

 …………何で?

 

 原作との差異として、此の世界の狂猟隊って設立理由も目的もまるで違うのに。

 大臣からは事前に「どうぞ良しなに」とは言われてるけど、ソレだってこんな「明らかに無意味で無益な暴虐を黙認しろ」って意味じゃないわよ。

 というか「もしもの場合は其方の判断で処分しても良い」という言質も貰ってるし。

 

 

「……流石に判断が付かんな」

「そうね……ウェイブ!」

「ハッ!」

 

 十中八九このまま出向いて殴り殺せばソレでも良いだろうけど、一応お伺いは立てましょうか。

 報連相は大事ですもの。

 

「アタシとエスデスは大臣にアポを取って働きかけるから、アナタは現場に急行してアホ共を止めなさい」

「その場合、私と狩人隊の名前を使っても良い」

「勿論、アタシと特務の名前もね」

「かしこまりました!!」

 

 

 ――こうして、原作とは大分様相の異なる狂猟隊の暴走が始まり。

 そして、終わりが訪れるまでの初日が過ぎて行った――。

 

 

 


 

 

 

「――あら、サイキュウじゃないの」

「お久しぶりです、ドクター」

 

 大臣とのアポを取り付けて翌日に会議室まで出向いたら、其処には先客としてサイキュウ主席内政官が席についていたわ。

 

 

 サイキュウ。原作では彼が登場する所(其処)まで読んでいないからよく分かんないんだけど、此の世界で見知った情報としては、クロメの古巣である暗殺部隊の設立者ってのがあるわね。あと、大臣の信任が篤い政務方面での腹心でもある、と。

 敢えて組織の二番手に甘んじることでヘイトコントロールを行い革命軍のような組織からの注意を逸らし、それでいてそこそこに好きに生きることを人生哲学に据えている男。

 その『吉良とディアボロを足して2で割ったら1余った』みたいな生き方も含めて、アタシ個人からすればそんなに嫌いじゃないわね。

 いつぞやにスケープゴートにされたヨウカン何某と違って仕事が出来るって部分も好ポイントよ。

 

 そんな彼だけど、クロメを引き抜いた形になった事と、それ以前から暗殺部隊の子たちを世話していた関係で少し関係が悪化したことがあったのよね。

 勿論その分の補填は十二分に手当てしてやったからそこで話はついたけど、流石に腹の内までは分からないでしょ。

 自身の手駒――と思っている――に手出しされたんだし、感情の部分では面白くないところもあって当然でしょうし。

 

 まあ、金銭での()()を始めに、ウチでしか運用していない改造兵をレンドリースするなどして兵力でも借りた分以上の見返りをくれてやったんで、表面上は友好的に接してくれる状態にはなっているわ。

 彼の人生哲学的にも、あくまで「人生の絶頂に至りたい」なんて考え方でも無いから、他派閥であるアタシに積極的な敵対姿勢をとる要因も無いことだし。

 

 ともあれ、そんな彼は一見すれば大臣の腹心であることから大臣閥のように見えるけど、実際の職権的に厳密には大臣の派閥ではないのよね。

 その辺は貴族籍にあるサイキュウと、実は叩き上げだったオネストとで根っこの部分に政治力学的な差異がある訳で。

 と言っても流石に貴族出身じゃないからって正面から大臣を貶せるようなアホはもうこの国に生き残ってなんかいないので、其処の部分は無視していいわ。

 重要なのは『大臣とサイキュウは大きく見れば濁流派だが、細分すれば別の派閥』という事実だけだし。

 

 

「ふむ……? もしかして同じ案件かしら?」

「ああ、どうもそのようですね」

 

 呼ばれてもないのに勝手にやって来た訳でないのなら、アタシの要件と一緒っぽい。

 そう判断して問いかけると、隠すでもなく素直に首肯するサイキュウ。

 

 なるほど、馬鹿息子の件ね。

 

「……今回の件、どれだけ窺っていますか?」

「アタシ? 事前に『最終的な判断』を下すくらいは許可を得ているけど、実際にやるんならその辺折衝しとこうと思ってね」

 

 最終的に殺すのはもう確定なんだけど、殺すにしても『いつ、どこで、誰が、何を、何故、どうやって』っていう詳細を詰めるのは必要だもの。

 そのあたりの相談を此処にしに来た訳なのよ。

 

「私の方は……武官も含めて幾らか派閥に被害が出ていまして。流石に此の情勢で手足を悪戯に削られるのは、いくら大臣の身内が相手でもとてもとても……」

 

 そう言って苦み走った顔で首を振るサイキュウ。

 笑えないわね、完全に馬鹿息子のとばっちり食らってるじゃあないの。

 

「なるほど、それで今回の会談なのね」

「ええ。まさか『頭を下げろ』などとは申しませんが、手勢をあちらの不手際で物理的に減らされているのです。その分の斟酌くらいはしていただかねば、与えられた仕事も滞りましょう」

 

 うん、当たり前の話ね。

 無能故のダブスタでパワハラを食らうならまだしも、そうでないのだから抗議くらいはするぞ、と。

 「そちらの馬鹿息子の所為で仕事が滞ってるんだから、少なくともその辺の事情は知ってくれよ」って所かしら。

 あっちが「お前の邪魔をするけど仕事は関係なくやれよ」とかブラック上司みたいなこと言い出さない限り、流石の大臣が相手でも此の陳情は普通に通るわね。

 

 

「――ヌッフッフ……お待たせしてしまったようですね」

 しばらく情報交換をしていると、大臣が幾分か消沈してやって来たわ。




次回、アオリを付けるなら『炸裂! ノース・スリー・ウージィ!!』とでもしましょうか。
実は名前を出してないですが既にソレはこれまでの話で出てきてます。
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