憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
色々細かい取り決めを行い、派閥として大臣の方からの補填も確約されるなど、スムーズに話し合いを終えた翌日。劇場襲撃を初日とすると三日目の話ね。
久しぶりに狩人隊を全員招集して屯所に詰めていると、情報班の方から急報が入ったわ。
「――ボルスさん!」
「え、私?」
今まさに出撃して馬鹿息子ご一行を捕縛に向かおうとしていたら、何故かボルス個人に急ぎの連絡が来た模様。
……有り得ないだろ、とは思ってたけど、一応の保険がまさか的中しちゃった感じかしら。
でも昨日の今日よ……?
そんな風に馬鹿息子の馬鹿さ加減を推し量っていると、隠すことでもないからか情報班からの報告が上がる。
「報告いたします! 目標がボルス少佐のご家族であるマリア夫人たちを襲撃しました!!」
『ッ!?』
――馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、此処までなのね……。
内心でげんなりしていると、詳細が告げられる。
というかマリアさんとローグちゃんが保護されて此処に現れた。
「マリア! ローグ!!」
「あなた!」
「パパ!!」
ボルス一家が無事の再開を心から喜んでいるので、取り敢えず彼らはそっとしておいて詳細を改めて聞く。
――ソレによると、狂猟隊設立初日にウェイブに素手で全員ぶっ飛ばされたことから話は始まったそうよ。
アタシとエスデス、そして大臣の許可のもとでぶん殴られた馬鹿共だったけど、当然というか赤ちゃん人間である彼らにはそんな仕打ちは受け入れがたかった。
よって、アタシ個人への復讐という当初の方針を拡大して、
それこそ、性欲や嗜虐心を満たすことを一時保留にしてまで。
そんな逆恨みの馬鹿さ加減には今更失笑すら出てこない程だけど、其処から先の行動にまた理解が追い付かない。
なんでも、帝都で強い権限を持つ狩人隊を誘き寄せる心算だったらしいけど、まあ当然だけど帝都の騒動に真っ先に対応するのは帝都警備隊よね。
――アタシが掌握済みの警備隊は既に改革を終えているので、権限も含めて馬鹿共に尻込みなんてしないのだけれど。
その結果――モブ隊員にぶっ飛ばされて囲んで棒で叩かれて放置されたとのこと。
隊員は総員が最大強化済みだからね、仕方ないね。
そのまま狂猟隊設立2日目は終了。
明けて3日目、つまり今日。
無駄に暴れてマトを大きくするのはやめて馬鹿共が選んだのは、狩人隊の無力な身内を襲うという選択。
つまり、ボルスの家族であるマリアさんとローグちゃんを襲撃しようとしたワケね。
闘う力なんてある筈が無い非戦闘員を、身勝手な逆恨みから来る悪意で襲う……。
実にふざけた話だけど、まあそうは問屋が卸さない。
前世で此の漫画を読むのを諦めた最大の原因でもあった此の
どういうことかと言えば、まあ馬鹿共の一件が無くとも最初からマリアさん達は鉄壁の守備が敷かれている訳で。
それで尚、今回彼女たちを助けたモノはある
「ドクターさん」
「――っと、どうしたかしら?」
何事もなく安全に家族と再会できた喜びを分かち合っていたボルス一家だったけど、思い出したかのように夫人がアタシの方にやって来る。
「――ノース・スリー・ウージィでしたっけ? 確かに役に立ちました、ありがとうございます」
「うん、
何やら間違って名前を憶えられていたけど、ともあれ彼女たちを救った一番の要素はソレだったわ。
――ノース・スリー・ウージィ、もとい【
読んで字のごとくの存在で、植え付けた対象の脳に寄生してあらゆる効果を呈する改造寄生魔蟲よ。
コンセプトはジョジョの肉の芽かしら。
普通に初日にウェイブがぶっ飛ばした時にアンプルを使って打たせておいたモノで、口腔や鼻孔、露出した粘膜なんかから体内に侵入して根を張ったソイツは、既に馬鹿共の脳髄に深く入り込んで癒着しており、物理的な手段では取り外せない状態にあるわ。
コイツは合図一つで遠隔から様々な効果を発揮できる実に便利な性能を持った自信作なんだけど、今回使った効果は此方。
事前にマリア夫人に持たせておいた防犯ブザーに連動させて発動する、『特定の
コイツを食らった馬鹿共は
勿論気絶したからって痛みからは解放されず、今も異常なまでの激痛を感じながら
まあそういう事情で狩人隊が出動する前にターゲットさんが民間人に返り討ちになった形になっちゃったんだけども。
――さて、此処からどう政治的に決着まで持っていくべきかしら……。
ある意味で想定外の間抜けを晒した馬鹿共の処遇を考えながら、アタシは滂沱の涙を流しながら感謝の言葉を口にし続けるボルスの相手をしていた。
……まあこれくらいはね。
前世での感傷ってのもあるけど、そうでなくとも身内は守るわよ、アタシ。
狂猟隊が暴れてから4日目。
此の日は大臣との再度の折衝に費やしたわ。
アタシとしても馬鹿共は、少なくともシュラくんは確実に後顧の憂いを断っておきたいんだけど、大臣もいろんな意味で「ハイそうですか」とは言えないワケで。
そうなるとお互い政治に携わる者同士、笑顔で後ろ手にナイフを隠しながら、ってな雰囲気で妥協点を探りながら面倒な政治的やり取りを続けていったわ。
まあ最大限妥協した場合、シュラくんは生かしておいてもいいわよ。
既に
……でも、その妥協を勝ち取る為に大臣側が払える対価が無いのよね。
アタシは政治的には大臣に次ぐ政治派閥の
そんなアタシが欲しがるモノなんて、物理的にも概念的にも、そんなモノほぼ存在しないのよね。
欲しいモノが有れば作るか買うかするし、政治的に何かして欲しい事や協力して欲しい事がある訳でも無い。
その他諸々、大臣がウチに差し出せるナニカって存在しないじゃないの。
そうなると大臣の要望を受ける必然性が……。
――あ、そうだ(唐突)。
「――娘さんをアタシに頂戴」
「ファッ!?」
エスデス(娘ではない)との結婚を認めなさいよ。
そしたら譲歩してやろうじゃないの。おうあくしろよ。
馬鹿息子がやらかしてから5日目。
実はドクターの匙加減一つで即座に意識を覚醒させられる事実を知った大臣は、ドクターとの協議が続いていた中で時間を縫って息子に会いに行った。
此の交渉の結果次第では、というかかなりの高確率で此の馬鹿息子は処刑台の露と消える運命だ。
その為、情も愛も完全に失せていたが、実子に対する礼儀として事情の説明は自ら行うことにした。
その程度の執着はまだ持ち合わせていたからだった。
此の国においては所謂医療刑務所のような、受刑者に高度医療を施すような慈悲の制度は存在しない。
基本的に傷病の深い囚人はそのまま畑の肥やしにでもする方が有益という、何処かのマッドサイエンティストの方針が支持された影響だが、元々此の中世的世界では特に不条理な考えでもない。
ともあれ、そういった囚人に医療を施す施設など存在しない為、現在のシュラは普通に何の変哲も無い宮殿内部の牢に収監されていた。
意識不明で昏睡状態とはいえ、ソレ以外に外傷の類も無く、ドクターが起こそうと思えばいつでも起こせるという事実もあり、そうして無造作に牢屋に転がされていた馬鹿息子。
彼が眠る牢の前に辿り着くと、大臣はドクターから渡された機械機器を操作する。
そうしたらボタン一つでシュラはゆっくりと意識を覚醒させていき……完全に目が覚めると愕然とした彼は牢の外で自分を見下ろしていた大臣へ檻越しに縋りついた。
「お、オヤジ! どういうことだ、なんで俺はこんな場所に居る!?」
「――ハァ…………」
覚醒直後で記憶が曖昧な事もあってか、『僕わるいことしてないのに!』という被害者仕草を振りまいたシュラ。
今まではそうしていれば周りが右往左往して世話を焼いてくれたのだろうが、残念ながら事態は最早そのような段階にはない。
「……
「オヤジ……?」
その思いやりの心が届くといいですね。
「――帝都警備隊の下っ端にやられたのは……まあ、
「ッ! そ、そうだ! あのカス共に俺はこんな目に遭わされたんだ! 今すぐアイツらをぶっ殺して――」
何やら反省の様子も見せずに、この期に及んでパパに頼ろうとする馬鹿息子。
既に振り切れて消失していたハズの息子への想いが、限界を超えて冷え切っていくのを感じていた大臣は、コレ以上馬鹿の妄言には付き合わずに言いたいことだけを伝えることにした。
「――ですが、流石に無手の民間人にいいようにあしらわれるのは挽回不可能ですよ」
「は、ハァ!? ふざけんな! どうせアイツらが卑怯な事でもしたに違いねえ! だからあのクズ共を――」
未だに現実を直視出来ていない馬鹿には最早構わず、無視して通達事項だけを一方的に口にする大臣。
「――失望しました。この際遊び惚けていたことはどうでもいいんです。すべきこともせずに失態だけを積み重ねた事が許せない。――私は無能な人間が嫌いです、シュラ」
「ッ!?」
まるで無価値なゴミを見るような眼で、大臣は息子に宣告する。
――コレが最後通牒だった。
「……しばらく其処で頭を冷やしていなさい。なるべく命は拾えるように取り計らいますので」
「――――待ッ!?」
コレが他の部下や同盟者だったら此処まで庇うなど有り得ないが、曲がりなりにも自分の実子であるシュラ。
ソレに対するせめてもの情けとして、大臣は助命の為に奔走していた。
望外の僥倖として、奇跡的にもドクターが私的な要望を出してくれた為、このまま調整を続けられれば最低限の命は助かるかもしれない――。
そんな希望もあり、方々への折衝を再開する為に今一度老骨に鞭を打つ覚悟を決める大臣。
精神的に疲れ切った彼は、重い身体を引きずるようにしてドクターを始めとした別派閥の人間たちと会談をするために動いていた。
――ところで……2日ぶりに目覚めたシュラだが、
つまり着の身着のまま、普段着でマリア夫人たちを襲撃しようとしていた時の姿で。
――要は帝具も刃物や銃器のような得物の類も、全く没収されていない。
勿論コレには理由がある。
政治的にまだ処分内容が確定していないシュラは、現実世界風に言えば被疑者の扱い。
此の世界には勿論そんな法的区分も推定無罪などと言う言葉も存在しないが、ソレでも対処が決まっていない身分であり、無罪放免になるか惨たらしく処刑されるかもまだ決定していない立場。
それ故、ある種
『逃げようと思えば逃げられる』という状況で、ソレでも自制することが出来るか。
執行猶予のついたような人間が、其の言動を見られている……。
此処で大人しく反省する姿を見せられたら、自覚と自省を内外に示す形になるだろう。
そういった姿勢を印象付けることが出来れば、今後の大臣が行う減刑交渉の援けにもなる。
敢えて説明しなかったのは自発的に気付かないと意味がないのもあるが……当たり前だが、『逃げられるけど逃げないでください。その方が心証はよくなります』と馬鹿正直に教えてしまえば試す意味がなくなるから。
もっとも、死ぬかどうかの瀬戸際に立たされているシュラだ。
流石に此の状況で『ワンチャン』狙いで逐電するのは、常識的に考えて有り得ないだろう。
まさか、『帝具を没収されなかったのは試されているからだ』とは気付けなくとも、それでも『今なら逃げられる』とまでは思うまい。
ソレで捕まったのなら、言い逃れなど出来ずに処刑が確定するし、全土に指名手配もされるし、大臣閥を筆頭にドクターたちも全力で捕殺しにかかる。
流石に其処まで考えなしの無能な馬鹿だとは、大臣は勿論ドクターたちですら考えていない。
既に
ソレは畢竟、もう馬鹿の進退に興味が無いのと同義で、大臣から
――故に、此処からの出来事は誰にとっても想定外の話だ。
馬鹿が生きるも死ぬもどうでもよいと考えるドクターたちと、譲歩せねばならない最大派閥に対して明確な利益供与に成功した大臣。
此の時点で馬鹿の助命はほぼ確定しており、ソレが覆る事は
……そう、余程の事が無ければ。
ほぼ何も出来ずに原作同様に大臣に見限られた馬鹿息子の明日はどっちだ。
そして『馬鹿は来る』。
ちなみに。
ドS「お義父さん(オネストは父ではない)」
狂犬「今まで育ててくれてありがとうございました(育てられたとは言ってない)」
黒目「みんなで力を合わせて幸せな家庭を築きます」
槍兵「これからも温かく見守っていてください」
祝福しろ、結婚にはそれが必要だ…。
大臣「いつの間にか義娘がたくさんできていた。実際コワイ」
なお此の要望が通らなかった場合、腹黒副官によって計画されたR18-G作戦が決行され、大臣は生き腐れに堕とされる予定だった模様。
ある意味シュラのおかげで命拾いしたね、オネスト。