憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト   作:社畜戦士

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【悲報】無能な波平カットの帝具使い、ナレ死。


File59:所詮は初戦は緒戦でしょう

 ――さて、お互いに不測の事態って奴かもしれないけど、凡そ連合側にとっては不本意であろう緒戦が起きたわ。

 

 何やら対陣していた敵勢の一部、およそ千人くらいの部隊が突如城壁へ向けて独立して進軍を始めたのよ。

 此方から見てもすぐに分かったけど、明らかな抜け駆けね。

 『決戦を目前にして功を焦った独断専行』って塩梅かしら。

 たった千人程度が、ソレも他の連合の助勢を得ずに何をする心算だったのかは知らないわ。

 一応その抜け駆け部隊の指揮官が帝具持ちだったようだけど、残念ながらその程度でどうにかなる戦力差じゃあないのよね。

 

 此方は普通にウチの配下から千人程度を即殲滅可能な戦力として、ニューフェイスのスサノオを派遣したわ。

 当然改造に改造を重ねたので、以前とは別物よ。

 スサノオが空を飛んで敵部隊の前に飛び出すと、件の部隊長が何やら弓矢型の帝具を向けて放つ素振りを見せたので、瞬時に禍魂顕現からの天叢雲剣で広範囲を斬り取る。

 パスを繋いだ死刑囚から幾らでも力を吸収し放題な今のスサノオならば、禍魂顕現の連打すら可能だったり。

 

 その後は普通に斬撃を飛ばして横凪ぎにして、憐れにも突出部隊は全員お陀仏よ。

 戦闘時間は正味10秒弱かしら。

 まあ雑魚掃除なんてそんなモンね。

 

 

 ――しかし、雑魚の勇み足とはいえ、戦端が開かれたのは事実。

 結果、他の部隊も緒戦の趨勢を見極めることも出来ずに、なし崩し的に各陣地から部隊が進軍を始めたわ。

 そして、連合が一度動き出してしまえば止めることは誰にも出来ない。

 どちらかの勢力が徹底的に叩き潰されでもしないとね。

 

 

 


 

 

 

 ――帝都南門前、旧イェーガーズ詰め所。現在は征南軍の管理する番所。

 其処にクロメは訪れた。

 既に懐かしい顔ぶれが集合しており、久しぶりの再会に喜色を覗かせて駆け寄る。

 

「クロメ!」

「みんな! 久しぶり!」

 

 旧友たち、即ち暗殺部隊の仲間たち。

 イェーガーズに招聘されてからは直接会う機会が無く、こうして一堂に会したのは部隊が結成されてからの凡そ半年ぶりだ。

 

 暫し旧交を温めるが、幾人かの顔ぶれが減っている事に気付く。

 そのことに言及するが……。

 

「マイルとセナ、あとリコは負傷しちまって……」

「怪我自体は治ったけど、今はドクターの養護施設で修養中だ」

「ジョーは比較的軽傷だったんだけど……まあ、ほら、アレだ」

「ドクターって普段おっかないけど、実は結構過保護でしょ? 怪我が完治するまで決戦には出さない~、って」

「他にも何人かリハビリで決戦には間に合わないみたいよ」

 

 

 帝国の暗部を司る暗殺部隊と言っても、実態は若年者だけで構成された実働部隊だ。

 ドクターの尽力で余程の事が起きない限り死ぬ事は有り得ないので、どれだけ危険な任務でも最低限生還はする。

 しかし依然未熟な若者たちであり、怪我の療養などでメンバーが完全に充足しているのは稀だった。

 

 とはいえ、それでも以前までとは破格の待遇だ。

 ドクターが手を加えるまでの彼らは文字通りの使い捨ての死兵のように扱われていた。

 危険な薬物で寿命を削り、限界を超えた力を引き出し続ける特殊部隊。

 次々に隊員は使い捨てられていき、負傷すれば碌に治療も施さずに処分される。

 そんな過去からすれば今は望外の好待遇だ。

 

 

 ――故に、そんな地獄から救ってくれた男の為ならば、彼らは帝国の暗部として幾らでもその武辺を揮う覚悟をしていた。

 

 ……という感じで盛り上げはしたが、特に理不尽が課されるという訳でもなかった。

 全軍の統帥権をドクターが握ったということは、即ち暗殺部隊の指揮権も得たということだ。

 よって、何処ぞの勘違い貴族の老害が『息子の敵討ちをしろ!』と騒いだりしていたが、統帥権の干犯になるのでその場で始末されたりしている。

 

 ちなみに何故老人が敵討ちを所望したかと言えば、諸事情から大臣閥の人間が暗殺され続けており、帝都直近まで賊が集結している混乱を突いて此の情勢下で尚殺されていたからだ。

 そこそこの権力者であった老人は愛息子を殺されたことで怒り狂い、常のように下位者である暗殺部隊へと命令を下した。

 

 ――しかし上で大きな権力構造の変化が起きた事に気付けない程度に無能で、尚且つ現場からは退いていた引退役人だった老人は、他所の派閥の権限に正面から唾を吐きかけた形に。

 結果、下っ端だと侮っていた暗殺部隊の子たちから公務遂行妨害として取り押さえられ、それでも納得しなかったのでそのまま首を刎ねられた。

 

 

 ――閑話休題。

 

 

 アホは「正面から革命軍に乗り込んで息子を殺した連中に目にモノ見せてやれ」とかアホ丸出しの命令をしていたが、当然ながらそんなこと実現不可能だしやる意味もない。

 そもそも削られているのは大臣閥の人間なので、究極的には別派閥のドクターを頂点とした暗殺部隊はその要請を受ける必然性も無かった。

 

 ――とはいえ、あまり革命軍の連中を図に乗らせるのは問題でもある。

 

 如何に損害を受けているのが別派閥とはいえ、全体として見れば帝国の戦力を削られているのは揺るぎない事実。

 それに中道派に属する人間の被害は防がれているとはいえ、敵勢を放置すれば常に暗殺の影に怯え続けなければならない。

 故に、ここらで敵の気勢を削ぐのは間違いではない。

 

 

「――って事で、俺らにお鉢が回ってきたってわけだ!」

「カイリ!」

 

 作戦の経緯についてクロメが説明を受けていると、現在暗殺部隊のリーダーを務めているカイリ少年が現れる。

 

 以前は暗殺部隊で運用されていた強化薬の影響で十代ながら白髪と皺まみれの老人のような風体になっていたが、今はドクターの再調整によって快復している。

 その上で常人を遥かに超えた身体能力と感覚を有しており、名実ともに暗殺部隊のリーダーを張るのに過不足ない人材だ。

 明確に肉体の老化という死を目前にしていた状態からの復活を経ているため、ソレを覆してくれたドクターには並々ならない恩義を持っている。

 よって、ドクターが命じるのであれば件の無能老人のような無謀な命令でも実行する気概があったが、流石に戦力的に無意味な特攻など指示するはずもない。

 

「とはいえ、あまり連中に好き放題されんのも面倒だろ? だから、適当に連中の暗殺実行部隊を削るって方針だ」

 

 流石に敵の本陣に突っ込ませるような馬鹿な作戦は立てないが、敵の暗殺実行部隊を削っていく程度は今の戦力でも十二分に実行可能だ。

 ノウケン以下のある程度の実力者は暗殺者を返り討ちには出来たが、革命軍が暗殺部隊として寄越したのはアカメだけではない。

 元々連中が抱えている複数の暗殺組織を持ち出しており、ナイトレイド以外の暗殺者も多数投入されていた。

 当然、数に任せて此の混乱した情勢で暗殺者を放られると、ある程度の実力が無ければ簡単に暗殺されてしまう。

 ノウケンのような少数の有力な武官が相手を返り討ちに出来ただけで、基本的に武官も含めて文官は護衛が居ても殆ど殺されている。

 

 ドクターの方針としても背信者はさておき、酷吏程度ならば従順であるうちは使役してやる心算でいる。

 よって、他派閥とはいえあまり無為に帝国としての国力を削られ続けるのは許容しかねた。

 そこで、『対暗殺者作戦』というまさにうってつけの存在として暗殺部隊を起用。

 前述した老人の意向に沿うような形になってしまうのが癪だが、ソレはさておき作戦概要。

 

 

「作戦目標そのものは悪くないのさ。敵の暗殺部隊とかいつ横やり入れられるか分かんねーっしょ」

「だな。削れるうちに削っとくべきだよな」

「無謀な正面特攻じゃなければなんとかなるもんね」

「態々警戒の強い部分に当たる必要は無いからねー」

 

 三々五々背景事情を共有し合うと、本作戦の詳細について話が出る。

 

「つっても作戦はシンプルだ。既に奴さんのヤサは割れてるんで、俺らでチクチクじわじわ削ってやれってさ」

 

 相手の拠点が判明しており、其処に属する人員や能力すらも詳らかになっている。

 此の状況で暗殺をしくじるような未熟者は、流石に今の暗殺部隊には存在しなかった。

 

「暗殺部隊の華だ。闇に紛れ、毒のように殺し、霧のように消えてやろうじゃないか!!」

 

「おぉ!」

「それが俺達の役目だからな!」

「目にモノ見せてやろーじゃん!」

「今のアタシ達なら、誰でも暗殺してやれるもんね!」

 

 

 

 ――こうして、革命軍側の暗殺部隊に対して、帝国側の暗殺部隊が投入された。

 暗殺者に対して暗殺者を充てるのは理にかなった運用だ。

 馬鹿正直に正面突撃を敢行でもしない限り、状況と盤面に差が無い状況で、暗殺者同士の衝突が発生したら……その場合勝敗を決めるのは、彼我の実力差。

 

 そして、アカメのような例外中の例外を除けば、帝国が抱える暗殺部隊の実力は傑出している。

 油断も慢心も無く、只管に標的を狩り尽くす闇の狩人。

 技を誇る事も武を掲げる事も無く、獲物を殺しきる事にだけ執心する暗殺者集団。

 そんな彼らと革命軍暗殺部隊の衝突の結果は――。

 

 

 


 

 

 

「おーおー、大慌てじゃん」

「まさか、『自分達が襲われることは無い』とか思ってんのかねー?」

「ハッ、ありえねーっしょ」

「うーん、油断慢心が酷いね」

「ウチらは楽できて有難いけどねー」

 

 光学迷彩装置によって透明化した私たちは、普通に小高い丘の上から標的たちが籠っていた陣地を見下ろしている。

 眼下では私たちが放った人造生命兵器である『栽培人(サイバイマン)』が大暴れしており、件の暗殺部隊の連中も駆り出されているようだ。

 

 流石に帝具持ちは此処には居ないようだけど、そっちはカイリが受け持ってくれた。

 此処の反対側にある陣地には帝具持ちが複数詰めており、脅威度から私を除いてもっとも腕が立つリーダーが向かっている。

 連中が何を思って帝具戦力を一か所に集中させるという愚を犯したのかは知らないけど、コレで少なくとも此方側がしくじる事は無くなった。

 なら、後は粛々と作戦を実行しないと。

 

 

「――それじゃ、行こっか?」

『応!!』

 

 

 私の合図で光学迷彩を纏ったままのみんなが、音も立てずに静々と進軍を開始。

 さあて、何人殺せるかな?

 

 

 


 

 

 

「ほーう、やっぱこっちが大当たりか」

「片方に待ち伏せ込みで帝具戦力を集中、か……」

「つまり、クロメたちの方は安パイって事よね?」

「そりゃあいい。今じゃドクターの預かり者なんだし、万が一にも傷物にできねーかんな」

 

 ――結果として、帝国暗殺部隊の二方向からの奇襲作戦は大成功に終わった。

 複数の帝具を回収するという赫々たる大戦果を挙げて、だ。

 

 経緯は何も複雑な話ではない。

 帝国側からの逆奇襲を想定していた革命軍は、囮として敢えて陣地を二つ突出させた。

 其処に暗殺部隊を二分し、片方は戦闘能力の高い順に暗殺者を配置し、片方は別動隊から引っ張ってきた帝具戦力を追加で配置した。

 戦力的にはどちらの陣地も同程度の力があり、帝国側が部隊を分けて襲ってきても、一丸となって襲ってきても対処できる見込みだった。

 

 ……そんな甘い想定は理不尽なまでの地力の差で覆されたが。

 暗殺者だけの陣地は純粋な戦闘能力の格差と装備の格差で。

 帝具持ちが控えていた敵の大本命は、奇襲暗殺によって即座に瓦解するという練度の差で。

 

 本命側には待ち伏せしていたアカメやレオーネという特級戦力も居たが、光学迷彩その他の装備で安全にやり過ごした部隊は、瞬時に敵陣の最奥まで侵入。

 同様にドクター謹製の特殊装備によって敵の戦力を一瞬で殆ど削ると、幾つかの帝具を奪取して無事に帰還した。

 

 

 実に無慈悲極まりないが、生憎と勧善懲悪の物語ではない此の世界。

 悪がのさばる時代に、健気に抵抗を試みた革命軍の戦力は決戦を目前に大きく目減りしてしまった。

 一応帝具戦力を全て投入したわけではなかったので、帝国に全ての帝具を回収されたわけではなかったが……。

 そして、ある程度時間があったから革命軍も帝具に適合する戦力を用意出来ていたが、決戦が秒読みの此の段階において帝国側が新たに帝具の適合者を用意出来るかは怪しい。

 

 よって、一部の例外を除いて革命軍有利な状況は変わりがない。

 その為、革命軍もあくまで『一部の部隊が削られた』程度の認識だ。

 奪われた帝具は確かに戦略クラスの貴重な代物もあったが、余程の事が無ければ帝具に適合できる人材など即座に用意出来るものではない。

 仮に帝国側が帝具に適合する人材を奇跡的に抱えていても、革命軍が把握している要注意戦力の内で新たにソレに合致する可能性は限りなく低い。

 

 ソレも其の筈、そもそも帝具を持っていない場合は最初から帝具に適合できるか試すだろうし、帝具を既に持っていた場合はリバウンドの関係で複数の帝具を運用する事は不可能。

 更に前提として、今回革命軍が奪取された帝具の出所は、大臣の秘蔵部隊から回収したモノだ。

 そして帝具を帝国上位の戦力である将軍たちではなく、あくまでも大臣の秘蔵部隊が有していた以上、将軍以下の上級戦力たちは帝具に適合できなかったと見るのが自然だ。

 

 その想定がある以上、再度帝具を奪取された現状であっても、革命軍は全く慌てていなかった。

 奪われた帝具はあくまでも上級将校には適合できなかった存在。

 故に、再度奪われたとしても帝国側の上級戦力が帝具で更に強化される可能性は薄いし、仮に適合者が現れても其の適合者は下級兵である可能性が高い。

 

 此の想定がある以上、下っ端の戦闘員が幾ら削られようとも革命軍上層部は慌てていない。

 帝具戦力が損失したのは確かに痛いが、相手の戦力が増えた訳でもない。

 それ故の余裕であったが……。

 

 

 

「よっし! 作戦成功を祝ってドクターがご馳走作って待ってるそうだ!」

「おっ! そいつはいい。決戦に向けて英気を養いたいところだったしよ」

「あー、甘いものが食べたーい!」

「クロメっち、みんなしばらく休養が充てられてるから、久しぶりに集まろうぜ?」

「うん! 積もる話もあるしね」





【挿絵表示】

栽培人(サイバイマン)】。
言わずと知れた量産型雑魚キャラ。DBに登場する、種を土に埋めると数秒で育つインスタント戦士。ハゲの人曰く、パワーだけなら泣き虫のロン毛に匹敵するほど。
ソレをモデルに開発した植物型怪魔兵器。土壌によって性能が変化するのはピーキーだと思ったので、普通に種の段階で強さが決まっている仕様にした。
戦闘力1000クラスというDB世界だと『平均的な星最強の戦士』に匹敵する強さ――なんてのは此の世界だと明らかに過剰なので、普通に超級危険種程度の強さにナーフ。戦闘力で測れば300も無いくらいか。若返った大魔王くらいなら軽く捻れる。M字ハゲ襲撃時の餃子には負けるが、大量に量産可能なので数で押せば強いし、自爆や溶解液も搭載しているので数値以上の厄介さを発揮できる。DBと違って個我と呼べるモノは存在しないので、使役者が弱かろうと反逆したりはしない。
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