憑依者はスタイリッシュなマッドサイエンティスト 作:社畜戦士
良識派の扱いが設定からして悪いです。
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「ドーゾ、粗茶ですが」
軽く湯気を立てる茶釜から“何処かで飲んだ事がある味”の飲み物を汲み出し、東国伝来の御高い茶器に淹れて渡す。
茶碗の内部に湛えられた液体は薄く澄んだ鶯色をしている。
まあ唯の緑茶よ。茶釜で煎茶を淹れる……ナシだと思うわ。
此の世界では東国の原産なのよね。現世的には帝国って中国大陸にあるっぽいのに。
「…………」
元大臣のチョウリ殿は訝し気な面でまずは香りからとでも言うのか、不躾にならない程度に湯飲みの中の香りを確かめるようにしていたが、すぐに眉を潜めたわ。
まあ当然ね。
コレは帝国で一番売れている緑茶だけど、一番売れているモノが一番良いモノではないもの。
だって、売れている事が価値の証明なら、世界で一番美味しいラーメンはカップラーメンになっちゃうわよ。
「……コレは何処の茶葉かね?」
チョウリ殿は何やらしかめっ面でそう尋ねてきたので、アタシも臆面もなくこう答えるの。
「アタシが経営している店で売ってる大量消費型の携行容器入りの緑茶よ。まあペットボトル飲料って奴ね」
伊〇園の味を目指したわ。グレードは最低のモノになるケド。
「………………」
アタシの発言に何やら渋面を作りなさるチョウリ殿。
高級な茶葉なんて軍隊で持ち運ぶのムリじゃない? アタシは今軍事行動の一環で此処に居るのよ?
そもそも此の中世風の世界観だと、ペットボトル飲料なんてかなりの戦略物資になるわよ。
一応アタシの麾下にある部隊に配ってる物資と同じモノだし、品質には自信があるんだけどね。
「緑茶にこだわりとかはないのかの……?」
「緑茶にこだわる? 何それ超キモーイ」
「超キモイ!?」
「アナタは緑茶が好きなの? アタシは緑茶が大嫌いよ。何処の馬の骨とも知れぬ世界の果てに生息する得体の知れない異民族共が得体のしれない葉っぱを得体の知れない水でふやかした得体の知れない飲み物!! ソレが緑茶よ。そんなモノを飲むんじゃないわよ!!」
「ヒエッ」
宣言と同時にポケットから取り出したベアリング弾を指弾で弾き茶碗に当てる。
『城一つに匹敵する価値がある』と謳われた御高い茶器だったけど、人体に命中すれば骨折する程度の威力の小鉄球を受けては敢え無く四散。
緑茶をブチ撒けながら茶器だった陶器片は飛び散った。ナムサン!!
「帝国人なら紅茶を飲みなさい! 此の非国民がッ!!」
全く、生粋の帝国人なら異民族の飲み物なんて飲むんじゃないわよ。
そんな愛国心の欠如した人非人だから都落ちなんてしたんじゃあないの?
「……随分と差別的じゃのう。“非国民”など、差別用語じゃし」
「勿論アタシは差別主義者よ?」
「モ チ ロ ン ! ?」
「差別! 素晴らしい!! 選民思想! ステキ!! 封建社会! 天晴よ!! 官尊民卑! 大好き!! 言論弾圧! ドンドンやろうじゃないの!! 人権侵害! いいぞもっとやれ!! 平等社会なんて死んでしまえばいい! こんな帝国に誰がした!?」
「……あの……」
「いいかしら? ――人間はそもそも平等じゃあないのよ。アタシとアナタが平等? 同じ存在? アッハハハハ! 人と人とが本当に平等な存在だとでも思ってるのかしら? なにそれ超キモーイ! 同じだっていうのなら、アタシと同じ事を考えて同じ事を言って同じ事をしてみなさいよホラ! 出来ないでしょう!? やーいやーい! 何が平等主義だ平等社会だッ、死んでしまえクソッタレ!! アタシはね、平等だとか公平だとか、多数決だとか無差別だとか、努力すれば誰でも夢は叶えられるよっとか、そういう御託が死ぬ程大嫌いなのよ!! 人間なんて全ての個体に能力の差異が在るモノなのよバーカ!!」
「えぇっと……」
「世界はッ、優れた人種により優れた統治をされなくてはいけないのよ!! クズ共はどれだけ足掻こうともクズよ!! 生まれ持った能力の格差はどう努力しようとも埋められない! ソレを認めて、なぁなぁの平等主義なんぞ捨て去るべきなのよ!! 自分はもっと優れた存在になれるハズだとか、努力すれば認められるだとか、そういう甘ったれた妄想を患って勘違いした連中はみんな悉く死んでしまえばいい! 夢見んな! クズ共が! クズの癖に!!」
「えぇ……(困惑)」
「アタシはアタシという人間の限界を知っているわ。得意分野以外では大した才能が無いと自覚しているの。だから無駄な努力をして歪に違う自分になろうとせず、クズなりに社会の歯車としてグルグル回転する事を選んだわ! 幸せ!! ビバ自分! 歯車上等! クズ万歳!! そんな歯車でも、クズでも、多くを望まずに自分の役柄に徹していられれば天晴なのよ!! アナタもそう思うでしょう? そう思わなくてはならない! 思え!!」
「ポッチャマ……(錯乱)」
ちょっと言い包めロールでファンブルしちゃったけど、そのままの勢いで概ねアタシの要望は伝える事が出来たわ。
後は此処から説得ロールでダイスの出目が良くなる事を祈るだけね。
アタシの祈祷力が試されるわ。
「――信用出来んな」
「あらら、振られちゃったわね」
しかし、目の前の頑固そうなお爺さんは此方の要望を一顧だにせず切り捨てた。
やぁねぇ、ちょっと『先日帝都の無党派層を文武官民問わずに皆殺しにした者ですが、絶対にアナタを殺さないので国政に復帰して頂けませんか?』って言っただけなのに。
元大臣の癖に度量が小さいわねぇ。
……まあ普通に考えたらアヤシイどころの話じゃあないわ。
だから此の対応も郁子なるかな。
仕方ないシカタナイ。
故に、まずはアタシも此の手札を切るとしましょう。
「……此方をドーゾ」
「……これは?」
「所謂
「ッ!? ば、馬鹿な……」
「イヤン、馬鹿なのアナタ? アイツらオネスト閥を潰す為なら何でもする輩共よ?」
何やらチョウリ元大臣殿は愕然としていらっしゃるけど、その程度のジャブで驚かれても困るわ。
コレはほんの小手調べに過ぎないんだから。
交渉技術におけるジャブパンチよ。
内政官の仕事も出来ちゃう文武両道のナイスガイ(オカマ)によるジャブパンチ。
ジャブが程よくクリーンヒットしたようなので、連撃するわ。
此処からはずっとアタシのターンよ。
――ところで、態々辺境までアタシ自ら出向いたのには訳があるわ。
目の前の『仕事だけは出来る頭でっかちの役人筆頭』である元大臣のチョウリを懐柔して手勢に加える為よ。
コイツは良識派の領袖を務めていた過去があるし、政務能力だけならオネストに劣るモノでも無いもの。
ソレを自軍に引き入れたら、さぞかし役に立ってくださることでしょうよ。
まあ政治思想やら危機管理能力やらはガバガバなんだけどネ。
そのまま野に放つと勝手におっ死んでしまうだろう事は原作から見ても確定的に明らかな話よ。アタシは詳しいんだ。
だからアタシが上手い事管理して差し上げて有効活用しようって魂胆なの。
チョウリってばアタシが用意した『良識派を自称していた連中の汚職の証拠資料』を食い入るように検めているけど、其処に改竄や捏造の類は一切無いわよ?
唯々連中が『大義の為には一時的な汚職も止む無し』とかマジで笑っちゃうくらい間抜けな思想を貫いたが故の結果だもの。
その結果少なくない市民が『大事の前の小事』とかで飢餓や貧困に追いやられて死んだし、自身の権力基盤を強化する為に脅迫や讒言や暗殺までやっているんだから、正義厨は碌な事しないわよねぇ。
「さて、ソレを見て貰えば分かると思うんだけど、アタシは殺して当然のクズ共を駆除しただけなのよ。一応現行の帝国法典に則った刑罰として死刑が適当な連中しか殺してないわよ?」
少なくとも法に照らし合わせて適法な行為しかしてないのよ、アタシってば。
そういう部分も含めて再度の説得ロール判定を行うんだけど…………。
「――それでも、信用ならん。お主の行動は只管に過激じゃ。その牙が何処に剥かれるのか判別出来んのでは、おいそれとは同道出来ぬよ」
???
ダイスの出目が良くなかったのかしら。
何やらまだ納得頂けないみたいね。
よろしい、ならば得心いただけるまで膝を突き合わせてセッションよ。
「そもそも、先だっての虐殺は一体何を目的とした凶行なのかの? お主の主義主張が見えないからには、儂は否定も肯定も出来ぬ」
はぁ? ゴミを駆除するのに主義も主張もないでしょうに。
アナタは部屋に落ちていた紙屑をゴミ箱に入れる行為に対して御高尚な理想や信念が伴っていないと認めないとでも言う気なのかしら。
「いやぁねぇ、主義も主張も目的も特に無いわよ? アレは純然たるアタシの個人的主観に基づく人事整理よ」
「
何を驚いてるのかしら?
帝都で拷問官が職種として成り立つくらいに日夜盛んに拷問を執行しているくらいの拷問大好き国家が此の帝国じゃないの。
その拷問には見せしめの意味合いが強く、情報を引き出したりだとか、政治的主義主張の転向を迫ったりだとか、そういう目的意識は特に無いじゃない。
言うなれば『拷問の為の拷問』じゃない?
ソレと同じようなモンよ」
「いやそのりくつはおかしい」
あらやだ、否定されちゃったわ。
「――まあ、目的意識とか特に無いんだけど、強いて言うなら手段の一つね。現行の帝国法規に於いて、死罪と為り得る罪状を重ねた輩を纏めて駆除したのよ。……何の為かって、アタシの派閥が政治干渉を行うのに清濁併せて他の文武官僚達が邪魔だなぁ、って思ったのよ。そもそも『汚職塗れで歪められた今の帝国法規』に則って処断すれば全員死刑に出来る輩しか処理してないしね」
「……其の為……? 其の為に、良識派もそうでないのも纏めて虐殺したのか?」
ああ、そういう事……。
アタシが態々虐殺という対外的に風聞の悪い行動を起こしてまで派閥の影響力を確保したのだから、其処でしか出来ない事があったのではないか、と。
そしてソレが分からない以上は、その目的の為にアタシが何時かチョウリの寝首を掻くのではないか、と懸念が残るワケね。
「いやー、確か『技術開発庁』の敷設の際にも談話で出したんだけど、アタシの展望としては『より良い社会の発展』が根底にあるのよ」
少しばかり前の話だけど、個人で研究だけしていても話にならないから政府機関として省庁を、献金を幾らか入れてやる事で造らせたのよね。
その際に大臣に敵対しないようにと思想チェックとかされた覚えがあるわ。
アタシとしてもその時点で大臣に歯向かう意味も理由も無かったから、その時の主張を公式談話として発布したのよ。仮にもアタシは大貴族なんだし、政治的働きは必要なの。
「……ソレは覚えておる。これでも帝都の動向は常に探っておるのでな。その後も幾度か上がっていた『特技大隊』の設立要望などで度々お主が公式見解を示していたのは知っておる」
「あら、じゃあ簡単じゃない。アタシの目的・主義・主張・願望は一貫して変わっていないわ。『より良い社会の発展』……コレを目指す以外の目的意識はアタシには無いわよ?」
「??? 話が見えないのじゃが……」
ああ、サイコパスあるあるね。
自分の中で「過程」と「結果」が常人とは異なるプロセスで結ばれているから、余人にその胸の内を理解され難いという。
そしてサイコパスにも個人差があるから、同じサイコパスだからって全てのサイコパス同士がお互いの意思疎通を円滑に行えるワケではないのよ。
Zeroの龍之介と青髭のように、似通ったサイコじゃないと意思疎通すら成り立たない可能性が往々にしてあるのよね。
……まあ龍之介と青髭って奇跡的に一瞬だけ噛み合ってただけで、実際はある程度コミュニケーションが続いてしまえばお互いの認識の齟齬に気付いて、結局Zeroお得意の仲間割れが起きていたらしいけど。
ともあれ、改めて説明する程の話でもないのよね。
アタシにとって『自身の魔術・科学の発明で社会を発展させていきたい』というのが目標なの。
で、『より良い社会を作り上げる』のが目的なのよ。
ドラクエで例えると、『魔王を斃す』のが目標で、『世界を平和にする』のが目的って感じかしら。
『目的意識の醸成』と『目標達成までのプロセス』の関係はよく社会人基礎力研修とかで取沙汰される話だけど、『自身の発明で社会を発展させたい』のが目標で、その結果『より良い社会を実現させる』事を目指しているワケ。
目標を経由して目的を達成させるというプロセスを構築するにあたって、目標と目的をはき違えてはいけないってヤツよ。
だから、大臣閥で真面目に仕事するんでも別に何の問題も無いでしょ?
究極的にはアタシは『不経済状態の減少した、真面な社会構造』で生きたいだけなの。
其の為に『半端な汚職』とかを嫌うのであって、別に財政の収支がプラスになるならそれでいいの。『本気の汚職』はバッチコイよ。
汚職・腐敗・堕落・私曲・悪徳・疑獄・収賄、なんでもござれよ?
極端な話、大臣の腰巾着である『コボレ兄弟』みたく、『私腹は肥やすが仕事は出来る』人なら無問題!!
帝国全体の財政状況で見た時に、全体の流れが正負でプラスになるんなら別に汚職官僚が沢山居てもアタシは気にしないもの。
そもそも、個人が汚職で食い潰せる予算の額なんて限度があるじゃないの。
濁流派の領袖である大臣クラスになると、元々の給金がそもそも莫大なものだから、着服やら横領やらで懐に入れるにしたってたかが知れてるのよ。
其処に悪趣味な加虐嗜好が加わった事で傍目には酷い状況に見えてるんでしょうけど、文明レベルが中世で止まってるこの国でモラルや倫理を求めた所で、そんなモノは時代相応でしかないわ。
一番の巨悪がそんな程度の存在なんだから、それよりも下がっていっても大した話じゃあないでしょ。奴さんの倅はクソだけど。
――そして、『善良な良識派です。仕事は一切出来ませんが理想だけは高いです。濁流派が嫌いなので点数稼ぎの為だけの無意味な政策行動を乱立します。寧ろ国益は損ないますが正義の為です』みたいな、某銀英伝のフォーク准将みたいなそういうクズがアタシは一等嫌いよ。
実際問題、コイツらこそが帝国最大の巨悪だとアタシは思ってるわ。
大臣一派が金銭的な着服を幾らかしている間に、良識派とやらは功績稼ぎの為に無意味な箱物やら必要のない公共事業やらを乱発してるの。道路工事の為の道路工事とかね。
そして濁流派と良識派の全体で比べた場合、金銭面に限って見れば良識派(笑)の方が浪費している予算額は多いわ。
それも、圧倒的に良識派共の方がね。
そもそも濁流派が目立つとはいえ、曲がりなりにも帝国が存続出来ている以上は濁流派の大部分はちゃんと仕事はしてるの。
そして危険を冒しても何かをしようという良識派(笑)が少数ながらも一定数存在して、後は無難に巻き込まれるのを忌避して息を潜めて仕事をしている中道派。
というか濁流派共は楽をしたいんじゃなくて驕奢淫逸に耽りたいんであって、寧ろ仕事は最大限効率化しているのが大多数よ。
その点で言えば良識派は愚策を乱立して国家の財を損なう事ばかりなの。
そもそも着服やら横領やら金銭を懐に入れたとしても、無意味に溜め込んで悦に浸るような性質でもなければ、普通にその収奪した財貨は何かしらに購うじゃない。
という事は金がちゃんと市場に出てんだから、無駄な箱物とかを乱造して完全な浪費をするよりも遥かにマシだと思うのだけれど。
実例を挙げると、『帝国歴史博物館』とかいう良識派(笑)の妄想が詰まったデマゴギーで塗り固められたプロパガンダ物件とか、そういう類の愚物を建設・維持していくような無意味な浪費とかと比べたら兆倍はマシでしょ。
残念なことに、革命軍に所属しているのにそういう系統の意識高い系のカス状態なのがそれなりに居るようなの。
確かにナジェンダ元将軍みたいに良識と能力を兼ね備えた智勇兼備の幹部もいるようだけど、革命軍内部も相当に腐敗しているのよね。
それこそ、『帝国が落ち目だから勝ち馬に乗る為に革命軍に移る』だけのカスとかも存在するし、此の世界でアタシは実際に目にしてきたわ。
つーかそもそもあんだけ若いナジェンダが重用されているのは、普通に他が老害ばかりだからでしょ。
そしてアタシは『何が何でも革命がしたい』って考えの真っ赤なキチじゃあないのよ。チェ・ゲバラとかは厨二的な意味で好きだけども。……ああ、でも毛沢東とかポルポトとかは反吐が出る程嫌いね。
そもそもの話、アタシの全能力を以てすれば、政治腐敗を政治腐敗のままに国益を増強させられるの。
なら、何処の陣営に付くのかは、後はもう好みの問題でしょ?
つまりは『帝国式シムシティを愉しむ』という選択が、アタシの決意。
言うなればコレは唯の趣味よ。
アタシはアタシの趣味嗜好として、革命主義者共を好かないの。
そして帝国を使ったシムシティを愉しむと決めたから、行政能力のブラッシュアップや各種行政手法の洗練を始めとした政府能力のスマート化を実行して、最終的に『中央政治は真っ黒だけど、平民として地方で大人しく生活する分には平気だし別にいいや』みたいな環境を作り上げるのが目指す地点ね。
其の為ならば自称良識派諸君を億万と鏖殺しても構わないと思っているし、実際にソレが可能なだけの能力がアタシには有る。
『独裁者による政治でも、ソレが平和ならばソレで良いというのが大多数の民衆の意見』なのよ。
勿論『人間を獲物に狩りを行う下衆な領主』とか『平民を攫って嬲って虐殺するのが趣味の貴族』とかはアタシの料簡の範疇外だけど、金銭を懐に収める程度の悪人は許容範囲内よ。
「――というワケで、アタシ的には汚職とか別にどんとこいなの。その代わり、帝国そのものの行政能力は勝手に此方で底上げさせて貰う心算よ? その際に『収支がマイナス』と判断した輩は容赦なく人事整理するけども……まあ、纏めるとあのショタ皇帝が後世で『名君』とか勘違いされる程度には仕事を勝手に頑張るってだけね」
「……何だソレは……たまげたなぁ……(困惑)」
言い包めが八割方成功した頃合い。
あと一手何かしらの手が打てれば此方に靡きそうな様子ね。
チョウリの方で残る懸念は、やはり実態はどうであれ清流派とか良識派を名乗る輩を駆除した事が気にかかるらしいわ。
とは言っても汚職をしていたのもそうでないのも、清流派なんてのは根本的に勘違いをしている馬鹿共の掃き溜めなんだけどねぇ。
シカタナイから、馬鹿共の掲げる理想がどれだけ非現実的で無意味な妄想かという現実を理解させてあげましょう。
「例を挙げると、あの……何て言ったかしら? 何年か前に大臣に賄賂を贈る事を固辞して更迭されちゃった馬鹿の名前……レバー? いやリバ? あらやだ、両刀使いみたいな名前ね」
「……確か、リヴァ元将軍殿では?」
あら、今迄脇に控えていたランがナイスアシストをしてくれたわ。
そうそうその負け犬。
今はエスデスのペットやってるんだったかしら。
「……そのリヴァ元将軍がどうしたのかね」
「ああ、ソイツっていうかソイツのした軽挙妄動についてなんだけど……『賄賂を拒否して更迭される』なんてのは下手な濁流派どころかオネスト閥すらも上回る最低な悪事なんだけど、その事についてチョウリ殿はどう思うかしら?」
「……は? 何故賄賂を拒否する事が悪事なのだ?」
……あぁ、やっぱりコイツも目先の事しか考えられない愚物なのね。
――いいかしら? なんでって、そもそも新大臣が汚職塗れの俗物だってのはその当時ですら周知の事実だったでしょ。
そんなのに賄賂渡さなかったらどーなるかって、少しでも考えるお頭が有れば理解出来るハズでしょーに。
案の定、将軍は更迭されるし軍は抑留されて完全に機能不全に至っていたわ。
まあ将軍以外の殆どの人間にとって残当な流れだったけどね。
賄賂の良し悪しなんて此処では考慮にすら値しないわよ?
『個人的に賄賂がイヤだからって数万人の方面軍を機能不全にする』なんて事をしてもいいのかって話なんだから。
そんな簡単な事も分からない世間知らずの阿呆は、そもそも将軍の器じゃあ無かったって事でしょうよ。
『私は自らの意志で賄賂を拒否した。故に自らの心に恥ずべき所は一つも無い。後悔が在るとすれば、皇帝陛下に忠誠を疑われた事だけだ』
ですってwwwww
「――巫山戯てんじゃねぇぞ」
「ッ!?」
あらイヤだ、口が悪かったわね。
失敗失敗。てへぺろ☆ミ
『清流派とは斯く在るべし』って感じの御立派な主義主張よねぇ。
自分が、世間が、現実が、何もかもが見えていないわぁ。
手前が率いてる方面軍が丸ごと蔑ろにされてんだろーが。
此のカスが拘留更迭その他諸々で、数万の兵士が機能不全のまま辺境で足止め喰らってんのよ?
後任が来る迄そのままで? 帝国方面軍の軍人の一兵卒なんざ盗賊に毛が生えたようなゴミクズ共なのにね。
そりゃあ治安悪化に始まる割れ窓理論なんざ鼻で笑えるような阿鼻叫喚が撒き散らかされるわよ。
実際、此の事件によって『機能不全になった軍隊がどんな災厄を齎すか』という、分かりやすい事例が再現されていたもの。
なんでって、当然だけど抑留状態の派遣軍がそっくりそのまま無駄飯喰らいになるわ。
勿論上のゴタゴタは関係無いから、当たり前のようにその間の賃金が支払われなければオカシイわよね。
その費用をどうする気なんだよリヴァさんよぉ。
大臣に賄賂を払ってた場合のあくまでも個人的な損失と、結果的にカスの自己満足で失われたあらゆる国家的な財と。
さて、どっちが重いのかしらね?
まあ清流派のご意見としては、『清廉潔白な将軍様の矜持』は『数万の人間を数か月間養う費用及び都市一つの治安や人心等の安定』よりも大層重く崇高な代物なんでしょうね。
ご立派だわぁ。
立派過ぎて反吐が出るわね。
言っておくけれど、『数万人規模の軍の数か月間の維持費』よりも『大臣個人に要求された賄賂』の金額の方が大きいなんて巫山戯たお話はあり得ないわよ?
そもそも将軍なら相応の給金を支払われているんだし、仮にその場では支払能力が無くても『今は持ち合わせが無いから暫くお待ちください』とでも言って僅かなりとも心づけを出しておけばその場は穏便に収まるわよ。
何故って、大臣は金が欲しいだけであって、見ず知らずのご立派な将軍サマを何が何でも引きずりおろしたいワケじゃあないんだから。
ちょっとリヴァちゃんってば自意識過剰じゃあないかしら。
後で金が貰えるんなら、大臣も賄賂を要求しに行った使者も煩くは言わないでしょうに。
支払い能力って意味ならこれ以上ない程保証されているんだし。
その程度の考えも出来ないから、今の奴は一兵卒に落ちているんでしょ。
エスデスの直率とはいえ、所詮は階級的には特任部隊の暫定的まとめ役でしかないわ。
部隊を率いる指揮官の真似事もしているようだけど、奴が何かしらの階級に叙されたという話は終ぞ聞かないし、そもそも一度更迭されて斬首一歩手前だったアレを正式な官職に任ずることは出来ないからね。
つまりは実の無い形式的名ばかり中間管理職。
アレの現実的な階級は唯の一兵士でしかないのよ。
――さて、チョウリさん?
以上の事を踏まえてお聞きするわよ。
現実を直視しないで理想論だけ振り翳す良識派……そんな輩共が、果たして本当にこの国に必要な存在だと、今でも思うのかしら?
賄賂を拒否して更迭される、って三国志でもありましたね。
本作ではリヴァ元将軍はこんな扱いです。
彼のファンには申し訳ないですが…。