名探偵は高専生   作:れく

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プロローグ 世話焼き系と再会系

滝田(たきた)工業高等専門学校、通称滝田高専。

高専とは、中学卒業後に入学でき、一~五年生まで在学して専門分野を学べる学校のこと(本科卒業後に、更に二年高専で勉強できる専攻科というのもある)。

滝田高専の専門科目は機械系、電気・電子・情報系、建設・建築系、化学・生物系の四科目であるが、これらを本格的に学べるのは二年生から。滝田高専では、一年生の一~四組全てが共通の一般教科と、各専門科目のあらましを学び、二年生からどの専門分野に進んでいくかを一年生の間じっくり考えることができるのだ。

そんな学校にある生徒が………

 

 

 

入る学校間違えたかも。

昼休みの教室の喧騒の中、1-1の僕、式田想太(しきたそうた)は思った。

工作が割と好きだからという軽い理由で滝田高専に入学して早二週間。授業のガイダンスは終わり、一通り実際の授業の流れを把握し始めた頃。僕は危機感を抱いていた。

どの授業も当たり前だが中学の時より難しい内容で、ここから年々レベルアップしていくらしい。そして恐ろしいことに、高専というのは留年と隣合わせだという。

定期試験で赤点となる点数が比較的高く、また、レポート等の課題が多いことが原因で単位を落とし、留年することが多いのだという。実際、1-1にも留年生が数人いる。

その事に僕は焦り、そして思った。

家で休めなくなるのでは?

中学の時の成績が中の中よりやや上くらいだった僕では、これから授業が難しくなると家で勉強しなければ追いつけなくなるかもしれない。そうなると、家で休む時間が減ってしまう。留年はもちろん嫌だが、家でゆっくりできなくなるのも嫌だ。

というわけで、今は僕はその日に出た課題を昼休みなどの学校にいる時間にできるだけ進め、家でゆっくりする時間を増やしている。最近はそのことと、僕のコミュ障のせいであまり人と話さず、話しかけられることも段々なくなってきたけど。

とにかく僕はこの昼休みは、弁当を食べたら今日の二コマ目の授業で出た課題を進めるつもりだ。この課題は、全部家でやろうとすると僕の睡眠時間である夜十時をすぎるくらいの量あるので今のうちに進める。

腹が減っては課題はできぬ。リュックから取り出した弁当箱を開けようとしたら、頭上から「おい」と声を浴びた。

席について下を向いていた僕が見上げると、そこにはショートの金髪にヘアピンをつけ、学ランを着崩したチャラい見ための男子が僕を見ていた。寝癖を治しただけの黒髪で、キッチリ学ランを着た地味な見ための僕と見比べると、まるで陽キャに絡まれる陰キャのよう。しかし。

 

「なに、ヒロ」

「想太、学食行こーぜ」

 

ヒロと呼ばれたこのチャラ男は春川弘斗(はるかわひろと)。僕の数少ない友達である。小学生になった時にお隣さんになり、仲良くなった。いわゆる幼なじみである。中学も同じ学校で、高校、というか高専まで同じところに入学した。昔から人と話すのが下手な僕のことを何かと気にかけ、世話してくれている。クラスは僕と同じ1-1。僕と違ってコミュ強で笑顔が爽やかで、昔から男女問わず友達が多く、それは滝田高専に入学しても同じくであった。

 

「学食といっても、今日僕弁当持ってきてるよ」

「弁当持ってけばいーじゃん」

「でも…」

 

移動時間で昼休みに課題やる時間が無くなる。

 

「今、課題やる時間無くなるとか考えただろ」

「なぜばれたし」

 

まあ、長い付き合いだからこれくらいのことは普通にばれるか。しかし、課題ができなくなるのも嫌だが、単純に移動するのが面倒くさい。ここは話を逸らそう。

 

「そういえば『メカ娘』のガチャ引いた?確かヒロの好きなキャラいたような」

「そーだよ、聞いてくれよ!今やってるガチャでパスナ狙って引いて、とりあえず五十連したけど出なくて、そっから百連、二百連と増えてってもう天井まで行くかと思ったそのとき!天井一歩手前の二百九十連で出たぜマジ神!ビジュ最高!パスナしか勝たん!」

 

ヒロが早口でまくし立て、一人で勝ち誇っている。その様子を僕はただ眺めている。

実はヒロはこんなナリでかなりのオタクで、はまったらとことん沼に落ちていくいわゆる『限界オタク』である。

高専に入った理由も、「好きなキャラの声や口調まで再現できたら好きなセリフ言ってもらえるじゃん!」とのことで、AI等を学べそうな電気・電子・情報系を志望している。

今は『メカ娘』という、色んな種類の女の子型ロボットを育成、バトルさせるスマホゲームにはまっている。僕もネットユーザーではあるので、『メカ娘』の概要はなんとなく知ってる。ちなみにヒロの推しはパスナというポニーテールのキャラだそう。

 

「ほらみてみてみてみて、可愛ええやろー俺の推し。いやー何度見てもビジュが良い!」

 

ヒロが自分のスマホを見せてきて、勝手に自分で惚れ惚れしている。よし、これで学食の件は流れるだろう。もう少しこの話を膨らませよう。

 

「あ、想太。話の続きは学食行ってからするから、早くいこーぜ」

 

マジか。覚えていたか。うまく逸らしたと思ったのに。かくなる上は。

 

「やだー移動めんどーい、課題できなくなるー、ここでも弁当食べれる!、ヒロもここで食べようよー」

「行くのが面倒だからって開き直りやがって。それに、俺は学食行って滝田カレー食べるという目的があんのよ」

「あの人気の?」

 

滝田カレーとは、名前から分かる通り滝田高専の学食で食べられるカレーのことで、かなりの絶品だとか。それで、昼休みには多くの学生だけでなく教員も滝田カレーを食べに学食にやってくるらしい。ちなみに僕はまだ食べたことがないどころか学食にも行ったことがない。

 

「そう。うかうかしてるとすぐ無くなっちゃうから、早く行こーぜ」

「僕教室いるんで、ヒロだけでいってらっしゃーい」

 

僕がそう言うと、ヒロは今まで上げていた口角をすっと落とした。

「いいから、早く、行くぞ!」

 

語気を強め、突然ヒロが僕の弁当をひったくる。そしてそのまま教室の外に出ていってしまう。

 

「待って、分かったから勝手に持ってかないで、あんまり揺らすと中のミニトマトとか潰れるから!」

 

 

結局僕はヒロに連れられ、学食までの廊下をとぼとぼ歩いた。弁当は無事揺らされずに返された。1-1の教室を出る前、クラスの皆が僕とヒロのいざこざを見ていたのか遅れて出ていく僕の方に視線が集まって顔が熱くなった。

そして教室から徒歩五分ほどで学食に着いた。

 

「混んでんなー」

「混んでるねー」

 

学食の中は賑わっており、注文の受け取り口には既に長蛇の列ができていた。これが滝田カレーの力か。

 

「じゃ、俺は列に並んでくるんで」

「え、この長蛇の列に?」

「ここまで来たら行くっきゃないでしょ。とりあえず、どっか座れるところ探しといてー」

 

そう言い残して列に並びに行ってしまった。

とは言っても、テーブル席の方を見ても、空き席なんてなさそうだが。とりあえず探しはしてみる。席に座る人々の合間を縫って空き席がないか探すが、どこも一人しか座れないところや、二席空いてはいるが間に人がいて、ヒロと座ったとしても離れてしまうところばかりであった。

もうヒロだけ残して僕だけ教室に戻ろうかなと思いながら右往左往して席をさがしていた。そのとき、視界の端で手を振っている人がいたような気がした。そっちを見てみると、その人物は明らかに僕の方に目を合わせていた。

 

「ここどうぞ」

 

そこには、片側三人座れるテーブル席で、大盛りの滝田カレーを目の前に置き、緑のニットに白衣を羽織る、茶色いショートカットの眼鏡女子が自分の座っている席の隣を手で示していた。

 

「え、あの」

 

どうしよう。眼鏡女子の示す席は一席だけ。眼鏡女子の向こう側にもう一席あるが、それだと僕とヒロの間に眼鏡女子が挟まって離れてしまう。しばらく人と話していなかったから、どう断ったものか分からない。

 

「あの、どうしたの?そーちゃん」

 

眼鏡女子が脳内処理落ちして固まっていた僕に困惑したのか、心配の声をかけてきた。

 

 

というか、『そーちゃん』?

 

 

妙に親しい口調とその呼び方。誰だ。知り合いにいたか?必死に海馬をフル稼働させる。

 

「……シホちゃん?」

「あ、良かったそーちゃんだ!」

 

眼鏡女子ことシホちゃんが顔をぱっと明るくする。

秋野志帆(あきのしほ)。幼稚園からよく遊んでいた幼なじみで、ヒロの家とは反対の方のお隣さんだった。ヒロとも僕経由で仲良くなり、僕とヒロを交えて三人で遊ぶことも多々あった。それにシホちゃんは勉強がよくでき、テストはいつも九十点代だった。ちなみにこの時は眼鏡はかけてなかった。あと、細い体に見合わない程健啖家だった。

だが小学校卒業のとき、シホちゃんのお父さんの仕事の都合で東京の中学に引越してしまった。それからはぼちぼち連絡は取り合っていたが、中学校の三年間、一度も会っていなかった。

早速シホちゃんの隣に座らせていただく。

 

「久しぶり、元気してた?」

「ぼちぼちねー。というかシホちゃんいつ帰ってきたの、東京どんな感じだった、なんで滝田高専(ここ)にいるの、というか眼鏡かけたの?」

「待って待って多いよ。順に話すから」

「だってー」

 

小学校以来会ってなかった幼なじみが何も連絡無しに突然帰ってきて何も疑問が湧かないはずはない。

 

「まず、滝田には三日くらい前に帰ってきました。連絡無しだったのは、サプライズで会って驚かそうとしたからです」

「なるほど」

「でも、私は1-3なんだけど、いくら廊下見てもそーちゃん見つからなかったの。ひろ君はすぐ見つかったけどね。だから、今日はひろ君に協力してもらってそーちゃんを連れてきてもらったの」

「それでか」

 

まさかずっと教室で課題をしていたことでシホちゃんと会えなくなっていたとは。通りで、ヒロは弁当をひったくるなど強引な手を使って僕を連れ出したのか。それなのに僕はあんなにゴネて。後でヒロに弁当のミニトマトをあげよう。

 

「それでね、東京行ったら周り皆オシャレな子ばっかりで、私も感化されてメイクとか始めたんだけど、なかなか自分にピッタリ合う化粧品が無くてね。やや妥協して選んでたの」

「ふんふん、それで」

「それで、無いなら私が作ろう!と思って、高専の物質科に入ろうとしたんだけど、またお父さんの仕事の都合で引越しになって、こっちに戻ってきたの。それで、この中途半端な時期に滝田高専に入学しました」

「へー、でも今のメイクでも結構良いと思うけど。白衣に眼鏡でスタイリッシュだし」

「ありがと。眼鏡は、ただ目が悪くなったからかけ始めただけなんだけど。それに、本当は二年生になったら授業用の白衣貰えるらしいけど、これは趣味として着たいからってことで自前だけどね」

それは相当気合いが入っている。志望動機もしっかりしている。そのことへの劣等感と、少し引っかかったことから、一つ疑問がこぼれた。

「本当にそれだけなの?」

「え」

「いや、シホちゃんだったらそれだけでなく、もう少し危なげな理由で志望しそうだな〜と」

 

言ってから気づく。もし、本当にシホちゃんが前述の通りの理由で物質科を志望していたなら、それを疑うのはかなり失礼ではないか。

僕が発言を後悔し始めたとき、いきなりシホちゃんは手の平で自分のおでこを抑えた。

 

「はー、覚えててくれたんだ、私が危ないの好きだってこと」

 

そう言ったシホちゃんは、手の平をおでこから離し、かっ開いた二重の目を僕に向けた。

 

「そーだよ、本当に自分で化粧品作りたいってのもあるけど、一番の理由は化学実験とかで合法的に劇薬を扱いたかったからなんだよ!」

 

シホちゃんがさっきよりも快活に話す。

そうだ、シホちゃんは活発な性格で勉強ができることに加え、火薬や怪しい薬品など危ない物事に強い興味を持っていたんだった。広い公園に遊びに行ったときも、花火の火薬を集めて自作したというかんしゃく玉を投げていたことがある。ただし、いくら危険な物が好きでも、人には迷惑をかけないということは徹底していた。志帆ちゃんのお父さんお母さんの教育の賜物だ。

 

「東京(あっち)の高専ではさー、一年生からもう専門科目学べたのにさー、こっちだと二年生からじゃないと学べないって聞いてさー、びっくりしちゃったよね」

シホちゃんがダラダラと話し始める。あーそういえばシホちゃんが完全にさらけ出して話すときはこんな口調だったっけ。

 

「ま、でも改めて、物質系の道を選んでいいのか考え直すことができると前向きに考えることにします」

「そだね」

 

シホちゃんがぱっと平常時に戻った。志帆ちゃんがスプーンを手に取り、僕が弁当箱を開けようとしたところ。

 

「おーい、無事会ったか」

 

普通盛りの滝田カレーをのせたトレーを持ったヒロが、ようやく戻ってきた。僕から見て志帆ちゃんの挟んで向こう側の席に座る。

 

「どーよ志帆、再会シチュは」

「ばっちりできたよ。協力ありがとね」

 

シホちゃんが親指を立てる。ヒロは満足そうに頷くと、今度は僕の方に向き直った。

 

「お前を連れ出すの大変だったんだからな」

「うん、後でお礼する」

 

ヒロが頷く。

それからは皆でいただきますと言い(シホちゃんは二回目)、僕は弁当、ヒロとシホちゃんは滝田カレーを食べながら談笑した。ヒロの最近のガチャ事情を話し終わったところで、流れそれぞれの志望する専門科目の話になった。

 

「私はC系で、ひろ君はE系ね。それで、そーちゃんは何志望なの?」

 

志帆ちゃんが聞いてくる。ちなみに、M系は機械系、

E系は電気・電子・情報系、C系は化学・生物系、B系は建設・建築系を意味する。

 

「僕は……まだ分かんない」

「そーなの」

「高専に入った理由も、ただ何となく工作がしたいなーっていう軽い理由だから、ぶっちゃけ何系に進むかは決めてなくて」

「ふーん、そーなの」

 

そう言うとシホちゃんは滝田カレーの最後の一口を頬張り飲み込み、コップの水を飲んでコップの底をテーブルに強く置いた。

 

「まあ、一年は考える時間があるんだし、色々見てから判断でいいんじゃない?」

「そうそう、俺や志帆だって、途中で志望変えるかもしれないし」

 

そうか、僕は軽い気持ちでこのハードな学校に入ってしまって焦っていたが、一年はあるのだからのんびり考えていけばいいか。

 

「うん、分かった。これから一年かけてゆっくり考えてくよ」

「そーだね」

「そーだそーだ。だから焦って昼休みとかまで課題につぎこまなくていーの。帰ってからやればいいんだから」

「結局その話?」

 

まあ、そっちも考えておくよととりあえずは言っておく。

少し経ってから僕もヒロも昼食を終えると、誰からともなく言った。

 

「それじゃあ」

「「「ご馳走様でした」」」

 

昼食を終えた僕ら三人は一~三年生の教室が入っている教室棟まで一緒におしゃべりしながら歩き、階段を上がり、二階の渡り廊下を渡ってすぐの右手にある1-1教室の前でシホちゃんと別れた。1-3は奥から二番目の教室である。

 

「じゃあまた放課後ねー」

「分かったー」

 

志帆ちゃんが手をひらひらと振りながら1-3の教室に向かった。僕とヒロは1-1の教室に入る。

さて、課題は全くできていないが、もう昼休みは時間が無いから帰ってから課題をやろう。そう思いながら三コマ目の授業まで机で待機した。

 

 

結局課題は帰ってから全部やることになったが、学校で楽しいことがあったおかげでスッキリして集中できたのか、いつもの就寝時間を少し過ぎたくらいで課題を終えることができた。




高専メモ
・〜コマ;九十分の授業一つが一コマ。午前に二コマ、午後に最大二~三コマまで入る。半コマ(四十五分)の授業になることもある。

・滝田高専には制服の学ラン・セーラー服が一応あるが、始業式などの真面目な行事の日でもない限りは服装は自由(もちろん、学校生活にある程度ふさわしい範囲で)。そのため、中学のときのブレザーやデザインの違う学ラン・セーラー服を着てくる人もちらほら。中にはコスプレや女装・男装してくるような人も。
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