高度育成高等学校をAクラスで卒業したオレは大学へ進み、生活費を節約するため、元クラスメートの堀北鈴音とルームシェアリングを始めた。(無謀)
事前の触れ込み通り、希望する進路は叶えられたものの、発生する諸費用はすべて自己負担。もはや、毎月1日にポイントが振り込まれることもない。そしてここに、晴れて苦学生としての日々が始まったのである。
「おかえりなさい」
出迎えてくれたのは、薄いピンク色のエプロンを付けた堀北だった。流れるような黒髪に、すらりとした肢体。どこから見ても、初々しい新妻そのものである。
「夕ご飯出来てるわよ。お風呂も沸いてるわ・・・それとも、わ、私にする?」ボソッ
最後は何を言ってるのか良く聞こえなかったが、経験上、敢えて触れない方がいいだろう。
「そうか・・・ありがとう。堀北は良い奥さんになりそうだな」
「・・・っ?!?」
ルームシェアということで、家事全般も交代制にしているのだが、やはり彼女は有能だった。ある1点を除いて、だが。全てをそつなく高いレベルでこなす姿は、さすが生徒会長を務めてAクラスで卒業しただけのことはある。次の当番では、オレも少しは本気を出さないとな・・・
そんなことを考えながら、なぜか玄関口で悶えている堀北を避けて中へ入ろうとしたのだが・・・
「待ちなさい」
「たうわっ?!」
豹変した堀北に襟元を掴まれ、引き摺り戻される。
「ゲホゲホ!ど、どうした?」
「女性の匂いがするわ」
「へ?」
予想外の言葉に、間抜けな声が出てしまった。
はぁ・・・単なるルームメイトでしかない堀北に、とやかく言われる筋合いは無いのだが・・・誤解は早めに解いておかないと、面倒な未来しか見えない。さすがにもう、コンパスが出てくることはないだろうが・・・(巨大フラグ)
「別に言い訳するようなことでもないが、心当たりは無いぞ。だいたい、お前に何の関係が有るんd・・・」
「いいからそこに立ちなさい!!」
「ハイ、スミマセン」
わざわざ言う通りにする必要もないのだが、下手に抗うと彼女は一切家事をしなくなるので、結局困るのはこっちなのである。(経験済み)
仕方なく直立不動の姿勢をとったオレの身体を、隅々まで嗅ぎ回る堀北。完全に変態だ。そして・・・
「この香りは・・・やっぱり・・・!!」
何がやっぱりなのかはさっぱりだが、かわいらしいピンクエプロンのポッケから、何やら取り出す鈴音さん・・・ってまじかよ?!
「あっぶな・・・!!」
鼻先を掠めたのは、特大サイズの製図用コンパス。おいちょっと待て!さすがにそれは冗談にならないぞ!?
「今のを躱すとはいい動きね。何か習っていたのかしら?」
「習字とピアノを少々・・・とか言ってる場合じゃないよな、これ」
鈍い銀色に光るコンパスを手に、無表情で立ち尽くす
そう、完璧美人の堀北鈴音は、とても嫉妬深いのである。高校3年間で目覚ましい成長を遂げた彼女だったが、この点ばかりはむしろ退化したと言わざるを得ない。
さっきも言った通り、堀北自身は良い奥さんになるだろうが、たかがルームメイト相手にこれでは、将来の
そう思う綾小路であったが、その結婚相手として自分が既にロックオンされていることには、終ぞ気付かないのであった。
(おわり)
【次回第2話:一之瀬帆波】
にゃ?!わ、私が綾小路君と・・・にゃははは・・・