高度育成高等学校をAクラスで卒業したオレは大学へ進み、生活費を節約するため、元同級生にして読書仲間の椎名ひよりとルームシェアリングを始めた。(癒し系)
事前の触れ込み通り、希望する進路は叶えられたものの・・・
「ただいま」
玄関で声を掛けるも反応がない。室内に入ると、薄いピンク色のエプロンを付けた椎名が読書をしていた。うつむき加減の整った顔に、ゆっくりとページを捲る繊細な白い指先。どこから見ても、その姿は1枚の名画のようである。
「あ、おかえりなさい。気が付きませんでした」
顔を上げた拍子に揺れる、豊かな銀髪。高校3年間、この笑顔にどれだけ癒やされたことだろう。図書館で共に過ごした時間は、なぜかいまもなお、オレの中で益々輝きを増しつつある。
「夕ご飯を作っておきましたよ、綾小路君・・・と言ってもコンビニのお弁当をチンしただけなんですが・・・」ボソッ
最後は何を言ってるのか良く聞こえなかったが、経験上、敢えて触れない方がいいだろう。
「そうか・・・ありがとう。椎名は良い奥さんになりそうだな」
「・・・っ?!?そ、そう言えば駅前のブックセンターに新刊が入ったんですよ!!いまから見に行きませんか?!」
いまから、か?正直疲れてるし、早く夕食にしたかったのだが、キラキラした上目遣いを見ると・・・
「大漁でしたね」
「ああ・・・そうだな」
両手に食い込む紙袋の重さにぐったりしつつ、オレは引き攣った笑いを浮かべた。あのあと、駅前のブックセンターで椎名の本選びに付き合い、文字通り
「あの・・・ご迷惑、でしたか?」
不安そうに瞳を揺らす
「いや、全然そんなことないぞ。オレも読みたい本があったからな」
そんな心にもない言葉がすんなりと出てくるあたり、オレも少しは『感情』というものを理解出来るようになったと言えるのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして翌朝。オレは見事に寝過ごした。昨夜は新刊を読みふける椎名に付き合わされ、ほとんど徹夜だったのだ。そんな日に限って、1限目から授業がある。今朝は朝食抜きになりそうだな・・・
「綾小路君が寝坊とは、珍しいですね」
一緒に仲良く寝過ごした椎名が、パジャマのままで微笑む。天然か・・・いや、そもそも誰のせいでこうなった?
矮小なもうひとりのオレが心の中で叫ぶが、それでも結局許せてしまうのは『かわいいは正義』だからだろう。(完敗)
「行ってらっしゃい。私は今日、休講なので、家事は任せて下さいね」
「ありがとう。済まないが任せた」
「はい」
見惚れるような笑顔に送られて、オレは家を飛び出した。一抹の不安を覚えながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま」
大学から帰宅し玄関で声を掛けるも、反応がない。室内に入ると、薄いピンク色のエプロンを付けた椎名が読書をしていた。ゆっくりとページを捲る繊細な白い指先に、美しい銀髪。その姿はまさしく、1枚の絵画のようなのだが・・・
「あ、おかえりなさい。気が付きませんでした」
「いや、気にしないでくれ」
答えながらキッチンを覗くと、今朝のまま山積みされた食器が見えた。洗面所では、洗濯機の中に洗濯物が生乾きで放置されている。
やはりな・・・
そう、親友でもある文学少女は、家事能力がゼロなのである。彼女の場合、労力のほぼ全てを読書に費やしていると言ってもよい。もしかして、ルームメイトとしてはハズレなんじゃないか?これ。
「椎名、台所はオレがやるから洗濯を頼めるか?」
不都合な真実から目を逸らしつつ呼び掛けるも、返事はない。またもや本の世界に没頭してしまったようだ。はぁ、仕方ないか。そして・・・
「椎名、夕飯が出来t・・・」
「はい、ありがとうございます」
パタンと本を閉じて即答するひよりさん。こういう時だけは、やけに反応が早いんだよな・・・
「わあ!すごく美味しそうです。綾小路君は良い主夫になりそうですね」
食卓を見て目を輝かせる椎名。果たして素直に喜んでいいものなのだろうか。今の時代、男性が家事をこなすのは当たり前であるが、最近の家事分担はオレが炊事洗濯掃除にごみ出し、椎名が読書・・・あれ?これって分担と言える・・・のか?(混乱)
さっきも言った通り、彼女自身は良い奥さんになるだろうが、
そう思う綾小路だったが、その結婚相手として自分が既にロックオンされていることには、やはりと言うべきか、終ぞ気付くことはないのであった。
てか、椎名は何のためにエプロンしてたんだ?
勘のいい綾小路君は嫌いです。ボソッ
(おわり)
【次回第5話:坂柳有栖】
ふふふ・・・今夜は寝かせませんよ?綾小路君。