任務のついでにとある町に寄った。
かなり洋風になった文化の進んだ町だ。道行く人が、洋風の衣服に身を包んでいる。
人が少なくなってきた辺りは、まだ武家屋敷が残っており、着ている衣服も着物が多くなってきた。舗装された道を歩っていると、珍しい毛色の子供が塀に寄りかかっていた。まじまじと見ることとなってしまい、子供の顔が歪む。
「なんだ、きさま。きさまも私のことを愚弄するのか」
俺は気付いた。はーーー!ちっこい!ちっこい石田だ!!
子供にしては人を10人くらい殺してきたような眼力!
前衛的な髪型!間違いねぇ!石田だコイツ!
「ヤレ、毛利か」
むすっとした石田を心の中で騒がしく眺めていると、俺の背後から声が聞こえてきた。
まめ石田はその人物を目に捉えると表情が一気に晴れやかになった。気のせいかな、花も舞ってるよ。どんだけ好きなんだよ。
「刑部」
「………大谷」
「久しいな、毛利。ぬしがわれを裏切った時以来よナ」
「既に過ぎたことよ」
焦げ茶色の短髪、垂れ目で一見優しそうな雰囲気を醸し出している。Yシャツの上に白地に赤い蝶が描かれた着流し、黒檀色の羽織。
声を聞かなきゃ、誰か分からなかった…!ズルい!変わり過ぎだろ!
え、何お前…背、大きくない?健康的過ぎない?筋肉ついてない?
「まあ、中に入りやれ。われとぬしは友人よ。茶でも出そ。三成、われの友人に茶の用意を」
「そうか…刑部の…。わかった」
ぱたぱたと石田が塀の先の屋敷に駆けていく。お前の家、そこだったのね。大谷と一緒に住んでるのかー。納得。
所で大谷、お前絶対逃さないって目をしてんだけど。目、反転してない?気のせいかなー、してない?してるよね!
石田に淹れてもらった茶を啜りながら、大谷は話を切り出した。
あ、このお茶美味い。
「ココで相見えたのも、運のつ…縁であろ」
おい、運の尽きって言おうとしやがったぞ包帯野郎。
…戦乱の世で俺は大谷と手を組み、裏で共謀していたことがある。俺はまんまと大谷を裏切り、石田たちを一網打尽にした。憎悪にまみれた大谷の目は忘れちゃいない。
それが昇華されているかどうかは分からない。恨むなら恨めばいい。殺すなら殺せばいい。
だが、先程も言ったように
…さて、どうする大谷。
「三成よ、少しばかり席を外せ。何、すぐに話は終わる。庭にでも居れば良い」
「…すぐだな」
「ああ、すぐだ」
優しい顔をした大谷は石田を見送ると、再び冷えた目でこちらを見た。
「…
「われの事と、徳川への復讐の心のみ、復讐の。それで良い、あれら記憶は真っ直ぐな三成には辛すぎるのヨ、ヒヒ」
「フン…相変わらず貴様は石田に甘い」
「われの刎頚の友よ、甘くもなる」
「話に入れ、我を呼び止めたのもそれが目的だろう」
大谷は俺がここに来ることを狙っていた。
いや、俺じゃなくてもいい、あの戦乱の世の記憶を持った『誰か』が石田を見つけることを期待していた。刎頚の友と言いながら、策に利用するとはな。
「全ては三成のため。われにはそれしか無い。故に、三成に生き延びてもらわなければならぬ」
「……何が言いたい」
「三成に稽古をつけて欲しいのヨ」
「は?」
何言い出すんだコイツ。まして、何故俺に。
俺はあれだぜ?あの毛利元就だぜ?あんたらのこと一回裏切ってんですけど。
「…ま、ぬしが現れるとは夢にも思わなんだ。だがまあ、都合が良い。ぬしは…鬼狩りだな?」
「…都合が良い、だと」
「この周辺には兼てより鬼が出る。人食いの鬼だ。鬼狩りが狩っても、また増えよる。鬼を狩ることのできぬわれは、三成を人から守れたにせよ、鬼を殺めることは出来ぬのヨ。なれば、三成自身に鬼より身を守る術を与えてやるのが、今の世には必要よナ。
三成には記憶がない。即ち、以前のように斬撃を扱えぬ。まずはそこから、末には鬼を殺めるように、と言ったところではある…三成の意思に任せるがナ」
一から十まで石田のことかよ。石田のためなら悪魔にでもなんのかよ。その垂れ目が逆に怖いわ。
「我に利は無いが」
「まあ待て、そう焦るな。育てばぬしの役に立と。三成の技量は知っておるな?取り戻せば…一人当千も夢ではなかろ」
「先世への賭けか。大きく出たな」
結果、賭けとしたのは石田の成長について。確かに期待は大きい。あの斬撃と瞬時に敵下へ移動する技量は鬼狩りの役に立つ。もとより、この廃刀された時代では役に立たない代物。役に立たせるのなら、やはり鬼狩りか。
「…フン、良いだろう。我の期待を裏切るでないぞ」
「ヒヒッ、あい分かった。何、賭けの代償はわれが用意しよ。
…安芸を失くしたぬしは、何を欲する」
「貴様も焦るでない。賭けの勝敗が決まる頃には伝える」
安芸以外に欲しいのは平穏だけど大谷に用意なんて出来るはずがない。平穏なら鬼なんて居ねーだろうよ!!
お前も俺も、どう考えたって掻き乱す側だろ。いや、俺はもうするつもり無いけど。
「…ああ!そうであった。ちと待て、良い物をやろ」
大谷は急にそう言うと足早に客間を去った。健康っていいなぁ。以前なら見られなかった光景だ。大谷が走るなど。神輿に乗って猛スピードで走ってたけど。それはMIKOSHIであって大谷ではない。
大谷が去った戸から、小さい石田がひょこりと顔を出した。あー、10歳くらいだろうか。
「…毛利、と言ったか」
「貴様は石田だな。我に何用だ」
「わたしも、話がある」
子供の眼光とは思えぬその瞳には焦りが見えた。
「私は、幼い。おそわれたとなれば、刑部にたよらざるをえない。だが、刑部に頼るばかりでは、友とはいえない。
そこで、刑部の知り合いであるきさまに、頼みのがある」
「…一応、聞いておいてやろう」
「私に剣術を、刀の使い方を、教えて、ほしい」
「石田よ、この時世に刀を使う必要はあるか?廃刀令が施行され、本来ならば使う理由も必要もない。それでも、よいのか」
「私は知る必要があると、誰かはわからないが、記憶の底で叫ぶようにうったえるのだ」
うーーーーーん、困った。
いやね?長曾我部みたいなコミュニケーションが取れる相手ならまだしも、俺だよ俺。毛利語自動翻訳機能付きの俺だよ。他人に対して寡黙気味な石田と上から目線の俺だよ?
「………仕方あるまい」
大谷と石田の話は一致した。稽古をつけてくれ、それだけの話。
刀を振れないわけじゃない。前世では輪刀を使うまでは刀を帯刀してたし、使うことも多かった。
前線に出なくなってからは専ら采配で指示出していた。そこからは使うことは少なくなったかな。
刀と輪刀は別物。輪刀はフラフープに刃を付けたものと思ってくれた方が分かりやすい。日輪を模してたから使ってたんだけどね!!!
「我にもやらねばならぬことがある。我がこの地に立ち寄った時だけだ。…それでも構わぬのなら好きにするがいい」
かくして俺は石田の剣の師匠となった。実戦メインの型のない剣道から始めるつもり。
でも俺知ってるかんな??どーーーせ、師匠の俺より刀の使い方上手くなるんだろ??目にも止まらぬ速さで居合するんだろ??
「三成よ、話は済んだか」
「ああ」
てめぇの差し金かよ。悪どい笑みでこっちを見た大谷は優しく石田の頭を撫でた。
おい石田、上見ろ上。お前の真上に悪魔がいるぞ。
「ぬしにコレをやろ。その詰め襟では…ヒヒッ、何処ぞの邪教を思い出すのでな」
「余計な世話だ」
大谷が吹き出しながら俺に差し出したのは、緑色の矢羽根柄の羽織だった。センスは良いよな!外道なだけで!
邪教についてはノーコメント!!
「さて、ぬしの強さは折り紙付きヨ。この5日で10もの鬼を1人で殺めたそうナ」
「…貴様、何処でそれを」
さっきから気になってたんだけど、こいつ、一応一般人だろ。何で政府非公認組織の情報を知ってるんだ。
しかもピンポイントで俺の情報を。
「なァに、とある鴉のウワサよ、ウワサ」