残間を飛ばして数日、俺は山の自宅で残間の帰りを待っていた。
相変わらず町民から供物を寄越される。今は腐ることを懸念したのか乾物系が主だ。
「おお…天照の御子様」と何度も言われるけど俺は神様じゃないんで…。
「カァーーー!元就サマァーーー!!」
…残間が帰ってきた。めっちゃはかはかしてるわ。
えっ、ゴメン…そんなに遠かった?
「二件!オ話ガアリマス!」
「述べよ」
「マズハ刀鍛冶ノ里、長デアリ元就サマノ日輪刀ヲ打ッタ鉄地河原鉄珍ヨリ、言伝!
『直接ワシのとこ来てねん』トノコト!」
「は?」
「フ、二ツ目ヲオ聞キクダサイ…。
本部ヨリ、通達デス!毛利元就隊士ヲ本部ニ召喚!
オ館様ヨリオ話ガアルソウデス!ソノタメ案内役ノ隠ヲ送ッタトノコト!」
「は?」
は?
「おれが!きっちりお連れいたしますので!」
よろしくお願いします!!と、見慣れた隠が言う。
うんうん、元気はね?いい事だよ?
でも、お前いっつも俺が鬼を倒した後に一番乗りで来る奴だよね?毎度毎度現れるもんだから最近は恐怖を覚えていたよ。
そのお前が?とうとう俺の家に?おいこら何とか言えよ長曾我部。
「おー、よろしくな」
「はい!毛利様のご友人の長曾我部様ですね!」
いや仲良くしてんじゃねぇよテメェら。
長曾我部がついてくることに疑問を覚えろ。こいつ隊士じゃねぇけど、いいの?
鬼殺隊トップである「お館様」とやらに来いと言われたので隠の案内で向かうところだ。
どうせ、刀鍛冶の里へ行く許可を貰わなきゃいけないらしいからいいけどねぇ!!
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長曾我部には門の前で待ってもらうことになった。一応部外者だからね、あいつ。
「さ、こちらです」
隠に室内へ案内された。邸の大きさから豪勢かと思ったが、質素な造りだ。そこに居たのは顔の左上部が爛れた男だった。
「やあ、よく来たね」
…ああ、その目は好かぬ。左の外界こそ見えないようだが、全てを見通す目だ。
その声も気に食わぬ。安堵を催すゆらぎは決して受け入れられぬ。
「本当は君が入隊してすぐに話がしたかったのだけれど、様子を見ようということで話が纏まってしまってね。
最高階級の甲に昇格したようだから、これを期にと呼び出させてもらったよ」
「…それだけか?」
「君と話がしたいんだ。君の、その
「…………」
婆娑羅のことだろうな。俺はおそらく他の婆娑羅者と違って、光は光でも日輪のお力をお借りできる。
鬼殺隊にとって鬼を消し去る日輪はそれはそれは特別なもの。でなければ「日輪刀」なんて刀の種別に使いやしない。
「かつての偉人と同じ名を持つ、毛利元就。
君のその
「技術、だと?」
「君は造ったはずだよ。日の力を照射する鏡を」
あー、そういえば1個だけ…と思って
専らソーラーシステムとして使ってたけど。
「貴様はこの地を焦土とする気か」
そいつはいけねぇ。いけねぇなぁ。
前に俺も考えた。だが、それを行うには犠牲が多すぎる。
敵を屠ると同時に味方も屠る。
「人を害し、
──それでも尚、貴様は欲するか」
あまりに多様すれば民すら殺める。まあ、戦国時代に多様しまくってた俺が言うのもなんだけど。
あの時代と今とじゃ、人に必要なものが違い過ぎる。
「そうか……考えさせてくれないかな」
「それが今の答えか。…フン、甘いものよ」
考えさせてほしいということは諦めていないということだ。
考えも、その理想も甘い。
「日輪の御力は暖かきものだけでは無い。日輪はもはや業火の如く。その業火は鬼を焼き、田畑を焼き、川を焼き、地を焼き、人を
かつてから知っているだろう。何度も飢饉が起きただろう。
全ては日輪による采配。日輪自ら行った裁定。人間如きが多様すれば日輪によってまたも裁かれるであろう」
俺は過ぎた力を持つ者ではない。
だから何度も思う。あんなのになりたくないんで!と。
「我が崇拝すべしは天に鎮座する日輪の他はない。眼前の者などを敬い、なんとする。故にそなたの申し入れは受け入れぬ」
「でも、その
「だからこそ、ちまちまと滅しておるのだろう。全てには限度がある。上限がある。越えてはならぬ壁がある。それを越えた時、我々は『人』でなくなる。
我は『国』を選んだ。最後に残るのは『国』だ。切り捨てられた犠牲も知らぬ『人』が積み上げる『国』だ」
「『人』、か。『人』のために鬼殺隊は日夜、鬼を滅しているんだ」
「そなたのいう『人』と我のいう『国』とが入れ替わったに過ぎぬ。理は同じ、『人』の為にと『人』を捨てるか、『国』の為にと『人』を捨てるか。要はどちらにせよ、払う犠牲は同じものよ。その増減に変わりがある程度のこと」
目的が違うだけで得られる結果と犠牲は同じもの。そこに心情は含んでいない。勘定に入れられぬものだからだ。機械的に結果を見るだけ。
そう思えば俺もこのお館様も変わりはないんだろう。
「そうかい…。君はかつての偉人と同じように『非情』の道を行くんだね」
「『非情』か…、『情』はある。我が身に掛ける『情』くらいは残っておろうよ」
「そうだろうか」
「…………」
それじゃあ何?俺は俺に対しても「情」の無い酷い人間と思われてんの?
…あー、毛利っていえばそうかも…。
でもでも俺は違うかんね?ただ俺が生きてた証を残したくないだけでね?全部無かったことにしたいだけだかんね?
「そなたは我を人でなしとでも呼びたいか」
口角を上げるだけで目の前の男は答えなかった。
はいはい、それは肯定ですね、分かりました。どーせ人でなしですよぅ。
まあまだ
「帰るのかい」
「…そうさせてもらう。貴様と話しているのは不快だ」
「そう言われたのは初めてだよ」
でしょうね!!
障子を開け、一歩足を踏み出した。すると室内の窓からカタンと音がした。
「いくら鬼でも、食らっちゃあいけねぇモンだってある」
「そうだろ?──毛利」
振り向くと碇槍を担いだ長曾我部が外から窓際に身を乗り出していた。
ホンッット間の悪い乳首丸出し男!今はちゃんと服着てるけど!
てか何で窓からお邪魔してんの?せめて入り口から来いよ!隠が「長曾我部様ー?!長曾我部様ー?!」って叫んでんじゃん?!
あっ、こいつちょっとキレてる。
「……刀鍛冶の里へ入る許可を」
「うん、許可しよう」
「行くぞ、長曾我部。外へ回れ。このまま刀鍛冶の里へ向かう」
「そうか、早く来いよ。毛利」
長曾我部はお館様とやらを睨みながら窓から離れていった。お館様とやらはまだにこやかだ。
俺はその後は何も言わずに邸を後にした。
「…『天照の御子』、そして『日輪の申し子』。どちらも書に残る異名だったね。その再臨か、模倣か。
本当は彼を、元就を柱に据えたかったのだけれど…。呼吸が使えないようだし、特例とするのは他の子たちに申し訳ない。
だけど、彼を甲の中でも上位に。柱と同等の立場に。彼を鬼殺隊から引き離すわけにはいかない。やろうと思えば、彼は鬼全てを瞬時に滅せる。…数多の人も殺めることになるけどね。
君たちはそんな殺戮兵器を求めていたのだろう?今は私の大事な子供たちの内の一人だ。決して渡してあげないよ。
そう、『彼』に伝えなさい」
毛利たちが立ち去った後、産屋敷耀哉は天井に向け言い放った。確かにそこに誰かは居た。
産屋敷耀哉の言葉の後、すぐに姿を消しているが。
「『鬼連れの剣士』…いや、あれは『神連れの剣士』になるのかな」