俺たちが訪ねたのは作業場の方だったらしい。砂金は軽い足取りで荒れた道をポンポンと歩いていく。少し離れた所に住居らしき家が見えてきた。
「…あのような場所にあるとは」
「上手く木で隠れてたんだな」
「おーい、楸!居るかね」
砂金は戸をパァンと勢い良く開け放つと意気揚々叫んだ。
「はーい!どうしたの鉱乃?えっ…!あ、もしかして彼ら…!」
「念願の鬼狩りの婆娑羅者さね!」
出てきたのはおさげの若い女。手には料理中だったのか、包丁を握っている。包丁くらい置いてこい。
「ホント?!ホントに?!きゃあー!やったぁ!握手!握手してくださいな!あっ、包丁はここに置いてっと。
えっ、ちょっとまって、鉱乃。お二人は…」
「泊めるぞ?2日だ」
「お布団洗ってくるね!
あ、お茶出してから行くから上がって上がって」
きゃあー!きゃあー!と黄色い声を上げながら茶を淹れている。騒がしい。
えっ、そんなに婆娑羅者に会いたかったの?それとも鬼殺隊に?
落ち着いてきたのか砂金妻は自身の身の上話を始めた。
「
でも、鬼が怖くて怖くて…家に帰ったんだ。鉱乃は
「展開が早いなオイ」
「ホント、とんとん拍子も良いとこだったんだから。
そう、花が咲くような笑顔で砂金妻は言った。
「さあって、やろっか」
砂金妻は徐に立ち上がり、屈伸を始めた。おいおいおいおい、何始めようってんの??
「???」
流石の長曾我部も拍子抜けしている。
「これでも育手のところじゃ1番の強さだったんだから、ふふ。
婆娑羅者同士の模擬試合、やろうよ。全力でね」
そう言って楸は玄関に立て掛けていた竿竹を取り出し、表へ出た。え、竿竹???
「あら?その碇槍…先日雑賀さんが買っていったものじゃない?」
「サヤカのやつもここに来たのか?!」
「いえ、別の土地でね。うちの『バサラ屋』は日本各地で開いているの。紙に武器の絵を描いて、それを見て購入される方には数日後、指定された場所で武器の受け渡しをするのよ。その内のお客さんが雑賀さんなの。自分の武器の他に別の方の武器も購入なされたから印象的だったの」
いつだったかな〜、と竿竹をくるくると頭上で回している。俺はどっちかというとその竿竹が印象的だわ。
それから2日間。暇潰しにと、砂金妻との手合わせが始まった。長曾我部が。
時折、砂金妻が「ちょっと鉱乃の口におにぎり突っ込んでくるね!」と席を外したこともあった。
砂金妻は何者だろう?長曾我部と渡り合ってるんですけど。碇槍と竿竹の戦いって、竿竹不利だろ普通。壊れるだろ。
何で竿竹の方が押してんの?長曾我部って、鬼だぞ。鬼要素すっっくないけど、鬼(自称)だぞ。
それにしなくても、戦国時代で戦い抜いてきた男だ。それに竿竹が?互角で?渡り合って?ここまで俺が何を言いたいかというと、竿竹の強度がやべぇ。竹って何だっけ。いや、そこらで採ってきたものじゃなくて。
「出来たぞ!!!毛利殿!!」
長曾我部が押し直し手合わせに勝利した所で、砂金(夫)が息を切らして駆け込んできた。
「御先祖が残していた図面に、貴殿と同じ名で、貴殿と同じ武器が書かれていた。まあ、詳しいことはこれ以上追求するつもりはないさね。…長曾我部殿のことも」
あー、あるだろうな、うん。だってその時代のバサラ屋で買った本人だし。その辺、砂金はよく分かってるわ。
「そんなことより!武器だ、武器。
既に多少赤みがあるが…さあさ、見せてくれ。
砂金が抱えていた武器から巻いていた布を外していく。見えてきたのは薄く赤味を帯びた炎の様な刃。
柄を持つと刀身が更に赤くなった。緋色、という色か。
「綺麗な色ね!」
「そいつは『輪刀 天照』。太陽が燃える様を模したモンさね。以前の長が打った日輪刀とは違って、婆娑羅者の貴殿に定着する様に打ってある。その色から元には戻らんよ」
天へ掲げてみる。日輪を模した燃ゆる輪刀。かつても使っていた。
だけど、こんなに色鮮やかではなかった。目立ちたくないと赤を帯びるのを拒んできたけど、これは見事。かつて以上のものだ。
燃える炎の輪。御神の名を冠する「輪刀 天照」。
「…悪くはない」
「すげェ出来が良いってよ!な、毛利?」
「長曾我部、貴様」
「そうかね!そいつは武器師冥利に尽きるってもんだ。
だが、
婆娑羅者ベビーブームなだけあって、武器師である砂金たちは喜ばしいらしい。婆娑羅者のことは秘匿されているという話もある。
そんな中、この夫婦や一族は婆娑羅者のために武器を作り続けてきた。…ドーナツとか、オニイトマキエイとか、ちょっとお遊びに走るのは如何なものかと思うけど。砂金たちが居なくなった場合、俺は刀を手放すことになろう。
そう思えるほどに、この2日で打たれた刀は重さも大きさも刃の薄さも全てが俺にしっくりくる。砂金の腕の良さが分かる代物だ。
「担当は
「他にも何かあれば、ご連絡くださいな。各地にも赴くのでその時にでも、また会えたら」
砂金夫婦は口を揃えて言う。
「「どうぞまた、『バサラ屋』をご贔屓に」」
砂金 鉱乃(いさご こうの)
カマ神の面を着けた『武器師』。バサラ屋の店主でもある。
先祖代々、婆娑羅者の武器を作ってきた。
刀も打つし、布も織るし、鍋も作るし、ドリル型の槍も作る。日本の北側に一族で住んでいたが、集落が鬼に襲われたため祖父と両親と、幼馴染の家族と共に刀鍛冶の里に逃げてきた。祖父は寿命で他界したが、両親は旅をしながら武器を作っている。
妻の楸とは幼馴染で、鬼殺隊の最終選別に向かった楸は生きて帰ってくると確信しており、帰ってきた所で兼てより自分の婆娑羅者の武器にかける情熱を理解している楸に求婚した。
武器は使ってなんぼだし、壊れても次のを作ってやるけれど、失くされるとガチギレするのでご用心。
カマ神とは……釜の神様、竈の神様のこと。
悪いものを家に入れない、鬼の形相をした竈に居る身近な火の神様だよ。神無月も家に居てくれるから安心だね。
カマ神の粘土面を、竈の近くの柱に祀って安泰をお願いするんだ。家を建てるときに直接埋め込んだり、後から柱にかけるタイプもあるよ。左官さんの腕の見せ所だったみたい。
とにかく面が恐いよ。色々バリエーションもあるし、作り手の味が出るんだ。詳しいことは調べてみよう。間違ってたらごめんなさい。
砂金 楸(いさご ひさぎ)
鉱乃の妻。バサラ屋の武器以外の品の調達を行っている。弱いが炎の婆娑羅を扱える。
元々は育手の下で鍛練を積み、最終選別に挑んだが鬼を前にして恐れてしまい、生き残りはしたが隠にもならずに帰ってきた。
その後、鉱乃と結婚し、鬼殺隊にも自分以上の婆娑羅者がいるはず、その婆娑羅者の武器を鉱乃と作り上げたいと「鬼狩りの婆娑羅者の武器」の作成を夫婦で夢にしてきた。
「婆娑羅者の鬼狩りの武器」ではなく「鬼狩りの婆娑羅者の武器」である。