永禄の変は俺たち三好家が思い描いていた通りに進んだ。足利義輝を亡き者にし、その妹の足利義昭を手中に収める事に成功したからだ。これで足利家が復権することは不可能になったわけだ。
この世界においては何故か三好家が擁立したはずの足利義維や足利義栄がいない。そもそもいれば義昭を捕縛する必要なんてなく、さっさと殺していた。他の足利家は畿内から離れている為に呼び出すのは難しいからな。
「……」
「これが足利義昭か……」
俺の目の前にはぶるぶると震えながら一生懸命に平服、というより土下座する足利義昭がいた。そんな義昭を視線で睨み、周囲から囲むのは三好三人衆を始めとする三好家家臣だ。そんな彼らとは違いいまだに困惑する豪族たちもいるが今はどうでもいいな。
義輝は確か20代くらいだったが義昭はまだ3歳くらいの幼女だ。だが、今自分がおかれている状況は理解しているようで顔の付近の畳には涙の染みができている。
「あ、あのお館様。この度は一体何が起こったのでしょうか……?」
「ん? ああ、そういえば言っていなかったな」
豪族の一人、池田勝正が困惑気味に訪ねてくる。他の豪族も似たような疑問をもっていたようで口に出すことはなかったが俺の回答に注目している様子だった。
そろそろ彼らにも話してもいいか。ここまで来た以上後戻りはできないわけだし彼らが裏切るなら裏切るでかまわない。今のうちに裏切ってくれた方が傷口は小さくて済む。
「我ら三好家は足利家に代わりこの日ノ本の統治者となる。今回の一件はその最初の一歩である。古き時代の象徴にして日ノ本を統べる力を失って久しい足利家には消えてもらうと同時に我らの糧となってもらう。
今、この場で宣言しよう。俺は征夷大将軍足利義輝の妹、足利義昭を妻として迎え入れる。そして義兄が持っていた将軍職を俺が引き継ぐものとする」
案の定と言えるが俺の宣言に豪族たちからはざわめきが起こる。誰もが今回の一件の理由を知りどうすればいいのかを決めなけているのだろう。見る限りほぼ全ての豪族が困惑する中、いくつかの豪族はこちらに賛同するような視線をしていた。つまり、彼らが豪族の中で信頼できる人物という事だろう。無論信頼しきることは危険だが今のところは問題ない人物ではあるはずだ。
「諸君らはいきなりこのような話をされて困惑し、どうすればいいのかわからない者もいるだろう。俺はそんなお前らに否定も強制も脅迫もしない。俺に従っていくことが無理だと感じた者は去ってくれてかまわない。だが反乱を起こすというのであれば容赦はしないという事だけは覚えておくといい。……今日はこれで終いとする。各々話を持ち帰り熟考するがよい。三か月後の年賀の挨拶に答えを聞かせてほしい。尤も、去ることを決めた者は訪れる必要はないがな」
三か月もあれば身の振り方を決められるだろう。俺としてもそれまでに事後処理をきちんとこなす必要があるからな。足利将軍家が統治していた山城国の掌握。やまと御所に俺に将軍位を授ける工作。領土を接する事となった六角家に対するけん制。周辺諸国との関係……。足利将軍家を滅ぼしたからと言ってそれで全て終わりではない。ここからが大変なことの始まりなのだ。だが、それも全ては日ノ本の統一のため、俺がかなえたいと思った夢の為に必要なことだと割り切るしかない。
「義昭に飯盛山城の一室を貸し与えてやれ。外出制限以外はなるべく願いをかなえてやれ。俺の妻となる人物で、
俺はそう言って嗚咽すら漏らし始めた義昭を家臣に任せてその場を後にするのだった。
将軍足利義輝が殺害されたという噂はすぐに畿内を飛び越え、周辺地域に伝播する事となった。
ある者は
「下剋上が常のこの乱世においてついに将軍家も対象となったか……」
と、嘆き。またある者は
「公方様を殺すなんて恐ろしい……」
と、恐れ。またある者は
「公方様の仇を取り、我らが新たな天下人に!」
と、野望を抱く者もいた。
そんなこんなで三好義重の行った行動は日ノ本を騒がせる事となったがさらに行われた二つの出来事が拍車をかける事となった。
-三好義重が足利義輝の妹足利義昭と結婚。そのうえでやまと御所より義重に征夷大将軍の地位が与えられる。
-そして三好義重は三好義継に名前を改名した。
これは足利家の通字である義を継ぐという意味が込められている。つまり、足利家に代わり、自らが日ノ本を統治するという意思の表れを意味しているのだ。
そんな三好義重改め三好義継の挑発的ともとれる行動は群雄諸国の注目を浴びる事となるのだった。そして、注目の的となった三好義継はまるでよく見て見極めろと言わんばかりに最初の一手を打つ。
-三好軍3万。若狭に侵攻を開始する。