三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第弐章【若狭出兵】
第拾弐話「若狭出兵・壱」


 若狭。現代で言えば福井県西部に位置する律令国だ。東は越前、西は丹後、南は近江と山城が存在するここは北方の出入り口となっていた。というのも越前、丹後を進む場合はどうしてもここを通る事になり、また、その逆も同じで若狭はなんでかんで通過しないといけない土地だった。

 そんな若狭を統治する守護家は武田家。甲斐の武田家を宗家とする武田家の分家だ。正確には武田宗家から分家した安芸武田家の分家という扱いになる。そして武田家という事はここも強いのかと問われれば否と即答できてしまう。何しろ両細川の乱で長慶と対立する細川氏を支持し、出兵した結果多くの有力家臣を失ったうえで大敗したのだ。おかげでただでさえ弱い若狭武田家はさらに弱体化。守護代の大頭や独立を許すこととなった。

 更にこれが原因で当主武田信豊とその嫡男義統の間で後継者争いが発生した。よくある話なのだが信豊が義統ではなくその弟に当主の座を与えようとしたためだ。結果、義統と信豊の間に亀裂が走り、お家騒動に発展しているというわけだ。

 

「……つまり、御館様は若狭武田家の混乱に乗じて横取りしようとしているわけですね」

「言い方がひどいな。若狭一国まともに統治できない守護に代わり俺が統治してやろうという善意だ」

「それを侵略・侵攻というんですよ」

 

 俺の言葉に若干の呆れて返事しているのは摂津の豪族池田家の当主、池田勝正だ。眼鏡をかけ、髪をおさげにしたこの少女は気弱な様子から委員長というよりもクラスでも目立たない図書委員的な雰囲気を見せているがそこは戦国武将だ。俺の徴兵命令に限界の3千でもって真っ先に応じてきた。

 永禄の変を終え、新年を迎えた俺の元にはほぼ全ての豪族があいさつしに来た。つまり、今のところは俺に従うという意思を示したわけだ。そしてそんな中でも池田家はいの一番に来ていた。少なくともこの女は俺に従う事にメリットを感じているという事だ。

 

「どちらにしろ今の若狭は格好の餌でしかない。守護は後継者争いで対立し、守護代は不服従。豪族はほぼ独立しているようなもの。そしてそれらを3万の兵で蹂躙する。これで負ける方が難しいだろう」

「それで返り討ちにされたら笑えないですよ」

「それもそうだな。だが、手は打っている」

 

 最近接触に成功し、里事雇い入れる事が出来た忍びの集団がいる。俺でも知らない100人ほどの小さな里だが忍びとしては十分すぎる実力を持っていた。そんな彼らを三好家の領内に領土を与えることで雇い入れる事に成功した。更に先行投資という形でまずは上忍に武士の地位を与え、里長には侍大将の地位を与えた。侍大将とは簡単に言えば兵を統率する指揮官の一つだ。つまり、ただ武士の地位を与えるだけではなく武士を統率する地位まで与えたという事だ。もともと吹けば飛ぶような小さな里だった彼らは喜び、俺に対して忠誠を誓ってくれた。

 そんな彼らを使い、若狭の情報を収集させている。相手方に何か動きがあれば即座に俺に知らせ、それをもとに俺がどうするかを判断、指示を出していくことになる。大体の敵はこれで対応が可能だ。更に一部の豪族に俺に降伏する様に密書を出しているなどして敵の結束を妨げている。少なくともこれで敵が一致団結する可能性はなくなるはずだ。

 そもそも、若狭全体で兵を集めたとしてもせいぜいが2万ほどだ。時間を掛け、後先考えなければ4万くらいは行けそうだが時間がない事を考えれば2万が限界のはずだ。

 

「今のところ若狭武田家は居城である小浜城を出る気配がないそうだ。どうやら後継者争いのせいで家中の意見をまとめる事が出来ないようだ」

「ここまで来ても後継者争い。私たちも気を付けないといけないですね」

 

 勝正にとっては他人事には見えないのだろう。顔を真っ青にして体を震わせている。確か弟に知正がいたな。生憎詳細は覚えていないが勝正の方は何だったかの理由で早期退場していたはずだ。なので勝正が感じる不安も分かるがいう事ではないな。うろ覚えの知識だし確定しているわけではないのだから。

 

「若狭武田家の当主武田信豊は昔ながらの風習を大事にする猛将だ。だが、古いしきたりと権威に固執するきらいがあり、それが原因で新しい事に対して排他的になっている。だが、その分若狭国内での結束を重視して豪族たちからの信用はそれなりに高い。一方の義統は父とは違い開明的で新しいことも積極的に受け入れている。そして父よりも能力は高いときた。おかげで守護代が義統を支持している。つまり、両者の勢力はほぼ拮抗しているが寄合的な側面が強い信豊が若干不利な状況だ」

 

 だからこそ義統は俺が永禄の変で足利義輝を殺した際には強引にでも父から当主の座を奪い取ろうとしたらしいが足利将軍家に歯向かう俺を痛烈に批判し、討伐するべき人物だと声を大にした信豊を守護代すら一時的に賛同した為に失敗。俺が若狭に出兵するまで長引く結果となっていた。

 義統にとってはつらいだろう。俺が攻めてくる可能性が高いから家中をまとめて防衛の準備をしたかったはずだ。だが、父の信豊も同じ意見であったために家中がまとまる事はなく、防衛すらままならない結果になっている。

 

「信豊は俺らにとって第一功を与えてもいいくらいの動きをしてくれている。このまま落城の時まで後継者争いをしてくれればいいんだがな……」

 

 とはいえそんなに話はうまく進むわけがない。それを物語るように俺が若狭に入り最初の城を落とした時、ついに小浜城に動きがあったと忍びから報告を受けた。

 

「武田信豊、義統を総大将に若狭武田軍5千、熊谷直之2千、武藤友益2千、粟屋勝久4千。そのほか若狭衆5千が集まり、こちらに向かってきております」

 

 計1万8千の軍勢か。思った通り2万くらいの軍勢になったな。だが、まさか攻めてくるとはな。籠城しても勝てないと悟ったのか? まぁ、どちらにしろここには今若狭にいるほぼ全ての兵が集まっている事になる。これを壊滅に追い込むことができれば若狭の平定は簡単になるはずだ。

 

「いいだろう。では、早速俺に従うと決めた豪族達に働いてもらうとするか」

「え? まさか私たちだけで相手しろなんて言いませんよね?」

「阿呆か。なんで勝てる戦で負け戦をしないといけない? これは確実に若狭を平定するための策だ。いいか? まずは……」

 

 そして俺は即興だが考えた策を話す。それを聞いた豪族たちは納得と同時に険しい顔をする。まぁ、豪族たちには悪いが被害が大きく出るだろうが耐えてもらうしかない。ここは三好家よりも豪族たちの方が適任だからな。

 

 さて、三好家当主として、万の大軍を率いての戦闘は初となる。俺の策がどこまで通用し、どのような改善点があるのかをしっかりと把握させてもらうよ。

 

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