北上を続ける三好軍3万は迎撃にでてきた武田軍1万8千を迎え撃つべく陣形を構築していた。三好軍がいる位置は吉田城と呼ばれる城の麓に位置する平原だ。北西にYの字で平原が広がっており、武田家は二方向から攻める事が出来る一方で各個撃破されやすい特性もあった。
「元明は吉田城の城門前に本陣を置くのじゃ。ワシがその前面に出よう」
信豊は吉田城に入城すると眼下に広がる三好軍
そしてその両脇を武田四老と呼ばれる4人の家臣が固める。更に若狭西部の有力な豪族である逸見昌経も加わり、万全な状態となっていた。
対する三好家は平原の細さも合わさり三方向から攻撃を受けるような状態となった。戦闘は畿内衆と呼ばれる摂津・河内・和泉などに領土を持つ豪族たちで、それを補佐する様に阿波・讃岐の豪族である四国衆が後方に展開。そからさらに続き三好三人衆、三好義継、三好家の本領たる阿波を統括する篠原長房が兵を展開していた。
「兵が激突する分には問題ない広さだが道は防ぎやすい……。これは義統には後方から挟み撃ちにするように動かせることも出来るか」
信豊は吉田城の麓の様子を見てそう判断した。そして、それは義統も同じだった。彼は武田家5千のうち2千の兵を率いて少し離れた場所に展開していた。彼は娘の孫犬丸の策に従い三好軍を横から攻撃できるようにしていた。しかし、実際に現場を見てみればそれ以上に分断できるような立地となっていたのだ。
「だがこちらの兵は少ない。あまり無理は出来ないな」
義統の兵は2千。挟み撃ちにしようとした結果、簡単に返り討ちにされてしまえる兵数だった。義統はあまり無理はしないように戦の展開を見守ることにした。
「三好家の先陣! わ、私たち池田家がもらいます! 攻撃開始!」
そして、三好家側の豪族、池田家による攻撃により若狭の命運を決める吉田の戦いが開始された。
「行くぞ! 我ら池田家の力を武田家に見せつけよ!」
池田軍は池田勝正の弟である池田知正が先頭に立ち武田信豊軍に突撃を開始する。それに合わせて信豊も自ら先頭に立ち同じように突撃を開始した。それによりほかの軍勢も動き出し自軍の勝利の為に動き出した。
「武田信豊! 死ねぇ!」
「フハハハハハ! 小童ごときにワシが討ち取れるものか!」
池田知正と武田信豊。両者ともに先頭に立っていたために真っ先に激突する事になったお互いに獲物を構えるが知正は信豊の獲物に目を見開いた。
「なっ!?」
「どうした! まさか槍なんて細い物を持ってくるとでも思ったか!」
信豊が持つ獲物。それは巨大なこん棒だった。上から見れば六角形の形をした鉄の棒は知正が持つ槍が貧相に見えるほどの恐ろしい雰囲気を持っていた。そして、それを自慢する様に信豊はそれを
「行くぞ! 精々あがいて見せろ!」
「くっ!」
信豊はこん棒を振り回しながら知正に接近する。幸い、知正の持つ槍は長槍に分類されるため信豊のこん棒とほぼ同じ長さとなっている。おかげで信豊のギリギリこん棒の攻撃範囲外から攻撃する事が可能だった。
「五郎! 甚兵衛! 左右から攻撃しろ! 囲んで叩くぞ!」
「フハハハハハ! 弱者らしい卑怯な行いだな! だがその程度でワシの首を取れると思うなよ!」
知正は一騎打ちで信豊を討ち取る事をあきらめ、側近二人とともに数で押す方向に変えた。しかし、それに対して信豊はこん棒を振り回すことで三人を近づけさせないようにしていた。それどころか積極的に攻勢に出て押しているほどだった。
「がっ!?」
「五郎!?」
「フハハハハハ! まずは一人! ほれ、次じゃ!」
「ぎゃっ!?」
「甚兵衛も!」
一番前に出ていた五郎がこん棒によって頭部が吹き飛び、その一瞬を疲れ甚兵衛が吹き飛ばされた。両者ともに即死であることは簡単に見て取れた。其れゆえに知正は二人だけでは対応するのは無理だったと考えを改めた。
「全軍で信豊を討つぞ! 信豊に攻撃の暇を与えるな!」
「ほう? この程度の貴様が率いる兵にワシが討てるかな? やってみるがいい!」
これにより池田軍のほぼ全兵が信豊に殺到する事となり、信豊が率いていた軍勢を素通りさせる結果となった。しかし、信豊を兵から引き離したことで信豊軍は大幅に弱体化。数の少なさもあり、ほかの畿内衆と互角の戦いを見せるのだった。
一方、信豊と知正が戦っている場所から東、北から押し寄せてくる粟屋勝久は摂津の豪族である伊丹親興と戦闘を行っていた。両細川の乱では長慶からの猛攻から城を守り切るなどそれなりの能力を持った人物だが粟屋勝久はそれ以上の戦上手だった。
「弓兵! 槍兵を支援せよ!」
弓兵と槍兵による連携をもって伊丹親興軍を翻弄していく。数においても劣っている親興は勝久に少しずつ押されていった。
「親興殿! 大丈夫か! 加勢するぞ!」
「頼照殿か! 助かる……!」
そこへ現れたのは飯盛山城の支城である三箇城の城主である三箇頼照だった。彼は自らの手勢を率いて親興とともに勝久に対応した。これにより多少の戦力差は埋まったがそれでも勝久に勝てることはなく、じりじりと押され始めるのだった。
互角、劣勢と数のわりに押されている三好軍だが西部における戦いは優勢と言っていい状態にあった。もともと兵数がいない畿内衆に代わり西からやってくる内藤重政に対応したのが四国衆であり、兵数においてはほぼ互角となっていた。
「ほっほっほ、武田四老と呼ばれているからどれだけの実力かと思えば案外大したことないのぅ」
「くっ! まさか豪族風情にここまで翻弄されるとは……!」
香川之景はあまりにも脆い敵兵に思わずそうつぶやいてしまった。別に相手する内藤重政が弱いわけではない。武田四老の一角と言われるだけの実力は有しているがそれは若狭国内ではの話だ。三好家で見れば重政は並みの武将でしかなかったのだ。
「行くぞ! 我ら寒川家の力を見せつけよ!」
そして、香川之景に足止めされたところを寒川元隣が強襲する。讃岐衆の仲では武闘派の彼女の活躍もあり内藤重政の兵は次々と討ち取られていく。
「ぬおおおお! 讃岐衆に負けていられないぞ! 我ら阿波衆も活躍するのだ!」
更に白地城主である大西覚養とその娘、大西頼武も続き、さらにほかの阿波衆も殺到していく。内藤重政はそんな四国衆の様子を見て顔を青ざめた。
「くそ……! こんなのをどう相手すればいいのだ……! 仕方ない。逸見昌経と武藤友益に援軍の要請をしてくれ」
「はっ!」
内藤重政は自分一人では対応できないと早々に諦め、後方に控えている逸見昌経と武藤友益に援軍の要請をした時だった。南側の山より武田の家紋が描かれた旗を掲げた兵が四国衆に攻撃を開始した。戦前に少し離れた場所にいた義統の軍勢だった。
「義統様か! いいぞ。敵の勢いが大きくそがれた! ここで一気に畳みかけるぞ!」
内藤重政は攻め時と判断して一気に攻勢を開始した。更に逸見昌経と武藤友益も援軍の要請で動き始めていたが攻勢の為に四国衆へと向かっていく。四国衆が作った優勢の流れは義統の登場により一気に覆される事になるのだった。
「ここまでは予想通り。あとはタイミングを見計らうだけだな」