三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

16 / 49
第拾陸話「若狭出兵・伍」

 武田家との戦いを制し、吉田城に入城した俺は広間にて武田信豊とその孫である武田孫犬丸と面会していた。二人とも両手を縛られ、身動きが出来ない状態で座らされている。周りには武装した兵が数人待機しており、何か怪しい動きを見せれば拘束。出来ないのなら殺すことを許可している。

 

「初めましてと言っておこう。三好家当主三好左京大夫義継だ」

「……武田治部少輔信豊じゃ」

「……武田孫犬丸、です」

 

 自己紹介を手短に終わらせる。どうせ相手は捕虜だ。それに俺の方が官位が上だしな。ちなみに左京大夫は従四位上、治部小輔は従五位上だ。

 

「……左京大夫殿よ。何故ワシの若狭を欲する? 確かにお主の義父上である三好長慶とは両細川の乱にて争っていた。しかしワシは一度しか出陣していないのだぞ? それよりも離反した赤井や波多野がいる丹波を攻めるべきではないのか?」

「ん? ああ、そうか……」

 

 確かに報復という意味では若狭を攻めるメリットは低いな。遠いし、間に丹波があるから往来が面倒だしな。だが、それ相応のメリットもあるが……。

 

「まず言っておこう。俺は貴様らへの報復の為に出兵したわけではない」

「なっ!? ではなぜわが若狭を……!」

「単純な話だ。

若狭は小国であり、攻め落とすのは簡単だと思ったから。

丹波を攻めるためにも若狭、そして丹後を落とせば南北から攻め込めるから。

更に畿内周辺で三好家を唯一脅かすことができる勢力が朝倉家であり、それが京に来れる最短ルート上に若狭が位置しているから。

それが主な理由だな」

「……!」

 

 信豊が俺の言葉に絶句しているが一方で隣の孫犬丸は一定の理解を示しているあたり頭は回るみたいだな。武田孫犬丸、中々に優秀そうな人物そうだな。

 

「そ、そんなことの為に若狭を攻めたと!? ふざけるな!」

「ふざけるな? 今は戦国乱世。群雄割拠の時代だ。隙を見せ、それを突かれるような状態を作ったお前らの怠慢だろう。嫌ならこうならないように準備をしておけばよかったのさ」

 

 そう。今は戦国の世。昔からの権威が多少は通じるとは言ってもそれは本当に通じる者にだけだ。俺のようにそれを無視できる人物の前では何の効果もない。

 それをこの信豊は分かっていないのだろう。確か史実においても歌に傾倒していたという話を聞いたことがある。正直な話、なるべくして起きた結果と言える。

 

「さて、お前らに関してだが隠居してもらおう。無論、俺に仕えたいというのなら使ってやるが嫌なら寺にぶち込ませてもらう。場所は畿内に用意してやる。二度と若狭に戻る事は出来ないだろうがな」

 

 若狭は一国丸まる三好家の一門に任せる予定でいる。一人に一国全てを任せるのか、それとも複数人で分割するのかは決めていないがな。ゆえに武田家に引き続き統治を任せる気はない。その気があるのなら服従する様に使者を出しておしまいだっただろうからな。

 

「期限はたくさん。というよりも士官する気がないのなら寺に放り込むのは決定している。士官したくなった時にだけで言えばいい」

「……一つ、聞かせてくれませんか?」

 

 喋ることはないと広間を後にしようとしたとき、それまで黙っていた孫犬丸が顔を上げて質問をしてくる。

 

「父上、義統はどうなったのでしょうか?」

「……死んだよ。俺を殺そうと無謀な突撃を行ってな」

「っ! ……そう、ですか。答えていただき、ありがとう、ございました」

 

 理解はしていたのだろう。察してはいたのだろう。だが、実際に言われるまで信じられなかったのだろう。実の父が死んだという事実は。そしてそれを仇が目の前で淡々と言っているわけだ。

 ……危険だな。復讐を考え、そして()()()()()()()()()()()監視を付ける必要があるかもしれないな。

 俺は広間を出ながら孫犬丸の様子にそう結論づけたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ったく。戦では囮に使われ、そのあとは各地の城を平定する雑用か。今度の御館様は随分と豪族の扱いが悪いじゃねぇか」

「ちょっと! 知正! そんなことを言っちゃだめだよ!」

 

 池田軍は吉田城から西、若狭西部の平定の為に軍を進めていた。他にも畿内衆と四国衆がおり、1万近い軍勢となっていた。一方で北部には篠原長房が、東部には三好三人衆がそれぞれ向かっており、まともな兵力がなくなった若狭を一気に平定しようと動き出していた。

 

「それにしても本当に若狭は武田家の影響力が低いな。どいつもこいつも一当てすると簡単に逃げ出しやがる」

 

 若狭の守護とはいえ武田家の影響力は日に日に弱まっている。武田四老と呼ばれる重臣たちがいなければとっくに武田家の影響力は小浜城付近に限定されていただろう。

 ゆえに、そんな武田家が負けたという話はすぐにでも広まり、自分たちで自分の勢力を守ろうと個々で兵を出しては呆気なく逃げ出すというのが続いていた。

 

「それでもまだ降伏しようとする勢力が出てこないのは逸見昌経が健在だからでしょうね」

「前の戦で真っ先に逃げ出した奴だろ? そんなにすごいのか?」

 

 勝正の言葉に知正はいまいち逸見昌経がそこまで影響力がある人物とは思えず、怪訝な様子を見せる。実際、摂津の豪族でしかない知正にとって遠く離れたこの若狭の豪族の事など詳しく知っているわけもないしその必要もなかったのだ。そのため、詳細を知っている勝正が説明を行う。

 

「逸見昌経は若狭国内で最も影響力のある豪族よ。その影響力は武田四老にも、武田家にも匹敵すると言われているのよ。そしてそんな彼女が武田家に従う意思を見せているから若狭西部は武田家の下に収まっているのよ」

「つまりその逸見昌経を殺せれば若狭西部の士気はがた落ち。簡単に手に入るってわけだな」

「それよりは降伏してくれるのが望ましいわ。御館様も逸見昌経は名指しで言うほどの能力を持っているみたいだし降伏させることができれば池田家がもらえる褒章も増えるはずよ」

 

 自分たちだけで信豊を捕らえた池田家はこの出兵における恩賞の第一功が確定している。しかし、だからと言って更に活躍してはいけないというわけではない。勝正は更に褒章がもらえるようにするべくやる気を見せているが一方で知正の方は不満げな様子だった。

 

「? どうかしたの?」

「……姉貴。言いたくはないが御館様に従っていていいと思うか?」

「何よそれ。御館様に仕えたくはないって事?」

 

 勝正は少し不安げな様子で尋ねる。義継が期限を設けた際、真っ先に賛同したがそれは知正の意見をほぼ聞かず、池田家の意思をきちんと確認しないで行ったもののだった。そのために少なからず家中で不満があったのは理解していたがその一人に弟がいるとは思っていなかったのだ。

 

「別にそういうわけじゃねぇよ。だけど、このままあいつに仕え続けるのは危険だと思ったんだよ。わかるか姉貴? あいつの傍にいるとまるで吸い込まれるかのような感覚に陥るんだ。それが人を引き込む魅力という事なのかもしれないがあいつのは異常だ。飲み込まれた奴は二度と戻ってこれない。たとえそのままでいると危険だと判断しても、な。俺はそんな風に感じるんだよ」

「……知正。貴方の不安は理解したわ。だけどどちらにしろ従わなかったからと言ってどうするの? 独立しても周囲は三好の勢力圏。一番近い本猫寺も私たちより三好家を優先するはずよ。今は関係が薄れてしまっているけど両細川の乱のときに本猫寺は長慶様に協力しているのだから」

「そのくらいは俺も理解しているさ。だからすぐにとは言わねぇ。あいつ……、御館様の事をもっと理解する必要があると感じるだけだ。姉貴みたいに妄信的になんてなれねぇってわけさ」

「わ、私は別に妄信的になんて……」

「真っ先に挨拶したくせに何言ってんだかな。ほら、そろそろ次の城に到着するぞ。姉貴が総大将なんだからしっかりと指示を出してくれよ」

「そ、そうね! 後方の畿内衆に連絡して頂戴! 間もなく次の城に到着すると! 城攻めの必要があるかもしれないから準備してくださいと!」

「はっ! 了解しました!」

 

 勝正は全く知らなかった弟の胸の内を始めて知り、そのことに動揺しつつも池田家の当主として、軍を率いる指揮官として気持ちを切り替えるのだった。

 

 

 

 そして、そんな池田家の下に逸見昌経が降伏してきたのはこの翌日の事だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。