三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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これで第二章は終わりです。次回より第三章第一次三好包囲網が開始します。
一応その前に登場人物の紹介を挟む予定です。今日の17時に投降予定です。


第拾玖話「浅井家」

 若狭から京に戻ると言っても簡単なことではない。実際、若狭を出てすぐに俺は六角の軍勢に道を阻まれた。とはいってもその軍勢は六角家の者ではなかった。旗は三盛亀甲に唐花菱。北近江の盟主、浅井家だ。

 

「浅井家が迎撃に出てきたようですね。六角家の家中の旗がないことからも足止めは浅井家に丸投げしたという事でしょう」

「数は5千。多くも、少なくもない微妙な数字だな」

 

 無視するには数が多く態々相手するには少なすぎる。足止めとしてみれば上出来と言える数だ。これが浅井家の総兵力なのか、それともわざとこの数を出してきたのかはわからないがな。

 

「仕方ない。対応は政勝に任せ一気に進むぞ」

「はっ!」

 

 俺は対応を政勝に丸投げした。政勝が率いる数は3千。浅井家より少ないが政勝が率いる軍勢だ。弱いはずがない。何より率いているであろう浅井家の当主久政は戦下手で知られている。現代では内政や外交面で再評価されているが武勇はそうではないからな。

 

「殿、この先にて波多野家3千、赤井家2千、その他丹波の豪族が率いる計3千の兵が陣取っています」

「数は報告通りか。だが待ち構えられているのは厄介だがここは政康を信じるしかない。あいつがやられるようなら、突破できないのなら三好家は終わりだ」

 

 なんとも個人の武に頼った危険な賭けだが仕方ない。今の俺たちはこの方法が最適解なのだから。だから頼むぞ政康。妹がおらずともお前なら突破できると信じているぞ。

 

 

 

 

 

「ええい! 何としてでも三好家の足止めをするのだ!」

 

 浅井家の本陣にて浅井久政は顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ。彼の眼下ではたった3千の兵に動きを止められている自軍の兵士とそれを実行している敵、三好政勝の兵。そして自分たちよりはるか先で悠々と京に向けて進んでいく三好家の本体の姿があった。政勝の兵とぶつかりすでに半刻(1時間)が経過したが当初の目的である三好家の足止めはかなっていなかった。それどころか、政勝という突出した武に押され始めていた。

 

「赤尾清綱様討ち死に!」

「磯野員昌様負傷! 戦場を離脱されました!」

「宮部継潤様討ち死に!」

「阿閉貞征様負傷! 撤退を開始しました!」

 

 次々と入ってくる家臣たちの報告。そのどれもが今戦場を駆け巡る姫武将の力を知らしめていた。そして、そんな本人は両手に持った斧を振り回しながら笑い、浅井兵を切り殺していた。

 

「アッハハハハハハハハッ!!!! どうした! それでも京極家から江北を奪い取った浅井家の人間か! もっとたぎらせろ! 戦い、殺しあおうではないか!」

「ひ、ひぃ! 化け物だ!」

「こ、こんなの相手に出来るわけない……!」

「逃げろ! 殺されるぞ!」

 

 あまりにも狂気をはらんだ政勝の様子に浅井の兵士は及び腰になり、中には逃げ出す者も出始めていた。そんな彼らを政勝が率いる兵は容赦なく殺していく。

 

「姫! あの丘に陣取っているのが浅井家の本陣だと思われます!」

「よし! 行くぞ! そして殺すぞ!」

 

 政勝は更なる血を求めるように舌なめずりをして久政がいる本陣に突撃を開始する。普段、穏やかな笑みを浮かべ誰に対しても丁寧な口調で話すが戦場に立ち、血を浴びるとたちまち豹変し、今のような状態になる。二つの顔を知らなければ初見では同一人物とは思えないだろう。

 

「死ねぇ! 死にさらせぇ!」

「うおおぉぉぉぉぉっ!!!! 姫につづけぇ! 久政の首を取るのだ!」

 

 政勝を先頭に兵たちが本陣に一気に向かっていく。その大きな流れを止める事は浅井家には不可能だった。浅井家に仕える家老を失い、猛将すら相手にしない政勝を止められる者は、止めようとする者は次第に減っていった。

 

「っ! 殿! ここは危険です! 無念ですが撤退しましょう」

「なんだと! 奴がこの兵どもの総大将であることは確実なのだぞ! 奴を殺せれば我らは三好家の足止めに向かう事が出来る!」

 

 久政はそう叫ぶが家臣としてはそれができないからこそ撤退を進言しているわけだが久政は引くことなどありえないとばかりに命令を出していく。

 

「(おのれ承禎め! 我が子を人質にするとは……!)」

 

 久政がここまで三好家の足止めに固執する理由は単純だった。久政は六角家に従属する際に大切な一人娘を人質に出していた。六角家の当主である承禎が女好きであることから男と偽ってだが。

 そして、今回の戦において承禎は久政に命令を出していた。それが三好家の足止めであり、六角家が京を完全掌握する前に三好家が到着した場合、人質を殺すと言ってきたのである。そのうえで自身の長女を久政の養子にするとまで言ってきており、六角家による浅井家乗っ取りが透けて見えていた。

 その結果、久政は何としても足止めを成功させなければいけなくなったわけだが現実は非情だった。

 

「て、敵がすぐそこまで来ています! このままでは……!」

「くっ! (所詮わしでは天下に覇を轟かす三好家の足止めすらできぬというわけか……)」

「おらおらぁ! 死ねぇ!」

 

 久政は本陣に飛び込んできた政勝とその兵を見ながら自分が武将として優れていないことを改めて自覚し、暗い気持ちになる。本陣の兵が久政を守ろうと動き出しているがそれを政勝が一方的に切り伏せ、兵たちがその援護を行っていく。確実に久政との距離は縮まっており、久政は自分の死が近づいている事を自覚した。

 

「お前が大将だな! 見るからに偉そうだ! 死ね!」

「(ふっ、名乗りすらさせてくれぬとはな。わしの相手などその程度で十分というわけか)」

 

 久政は自身に振り下ろされそうになっている斧を見上げる。不思議と恐怖心はなく、代わりに心残りである一人の女性が思い浮かんでくる。

 

「(猿夜叉丸よ。どうか、わしのように失敗せず、浅井家を再興してくれ。それがわしに対する最大の親孝行であるz……)」

 

 久政は自らの娘の事を思いながら政勝が振り下ろした斧に首を取られ、その生涯に幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「? 姫様どうかなされましたか?」

「……いや、何でもない。其れよりも直経、姫様などと呼ぶな。今の私は浅井家の一人息子、猿夜叉丸だ」

「は、失礼しました」

「今後気を付けてくれればいい。……直経。父上は元気にしているだろうか?」

「急にどうなさいましたか? 確か六角家の命で若狭から南下してくる三好家の足止めをしているはずです。あくまで足止めであるため殿が討ち取られるような危険はないでしょう」

「……そうか。そうだと、いいが……」

 

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