三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

22 / 49
第弐拾壱話「無題」

「おらおらぁ!」

「なんの!」

 

 籾井教業と三好政勝の一騎打ちは轟音響く大接戦となった。二振りの斧を武器に接近戦を繰り広げる政勝に対し籾井教業の武器はそれ以上に異色だった。

 大剣、クレイモア、そう言った物に分類されるであろう諸刃の分厚い剣だった。刃だけで150㎝はあり、柄も含めれば2メートル近くまで存在する巨大な武器だ。そして籾井教業はそれを軽々と振り回し、周囲を破壊しながら政勝に攻撃を仕掛けてくるのだ。

 当然ながら二振りの斧を持つ政勝が不利だがそこは斬馬刀の弱点ともいえる懐に入り込むことで対処しようとしており、その成果が籾井教業に無数に切り刻まれた傷跡だった。対する政勝は呼吸が少し荒くなっているものの、傷は痣以外になかった。つまり、“丹波の青鬼”と恐れられる籾井教業を相手に政勝は有利に戦闘を進めていたのだ。

 

「これならどうだぁ!!!」

「アッハハハハハハハハ!!! くらうかよそんなもん!」

 

 籾井教業が後ろに下がり、斬馬刀を横なぎに払えば政勝は大きくしゃがみ込み、それをよけるとクラウチングスタートのように一気に駆け出して籾井教業に接近する。

 

「な、めるな!」

「くっ!?」

 

 そして、その何度目とも知れない接近についに籾井教業は斬馬刀を放棄した。そして、右手に持った斧を振り下ろしてくる政勝の腕をつかみ、後方に回り込むと一気に押し倒す。

 

「がは!」

「斬馬刀がだめならその対処法はしっかりと決めてある。どうだ? お前の主君を苦しめた組手だぞ? お前はいつまでもつかな?」

 

 先ほど義継が締め上げられていた状態と同じ体制にされた政勝。だが、先ほどとは違い、籾井教業は本気で殺そうと力を込めており、政勝の体からは骨が軋む音が聞こえてくるほどだった。

 

「政勝様をお守りしろ!」

「あ? ……ちっ! これ以上は無理か」

 

 しかし、先ほどとは違う点が存在する。政勝を援護できる兵がいる事だ。複数の足軽が籾井教業に槍を突き刺していくがそれを難なく回避するがその際に自信が連れてきた兵が全滅している事に気づきこれ以上ここにいるのは危険だと判断した。

 

「しょうがねぇ。今回は勝負を預けておく! 次に会った時には殺してやるしおめぇの殿さまを○○〇(ピー)してやるかな!」

「ぐぞっ! まで!」

 

 政勝は逃げる籾井教業に手を伸ばすがそこで限界を迎えてしまい、気を失った。しかし、政勝の奮闘により、辛くも義継の本陣陥落はかろうじて回避する事が出来、三好軍のそうくずれを防ぐことに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、丹波連合は粘り強く三好家と戦うが元々の兵数差が戦えば戦うほど如実に表れていき、半包囲されかけるとそれ以上の戦闘は不必要と判断し、丹波連合は自領へと撤退を開始。三好家も損害は少なくなかったことと京へと急いでいた事もあり追撃は行わずに包囲を解き丹波連合を見逃すこととなった。

 結局、この日は近くで陣を取り、負傷兵と兵を休める為に翌日も足止めを食らう事となった。今回の戦いで丹波連合は2千近い兵を失ったが三好家はその倍の4千以上の兵を失う結果となった。若狭出兵時から考えればすでに2万5千以下にまで減っている状態だった。

 

「丹波連合は予想以上に手ごわい相手でした」

 

 兵を休めている間に行われた軍議でそう発言したのは赤井直正と戦っていた三好政康だった。赤井直正をしとめるどころか自分の身を守ることで精いっぱいだった彼は悔し気な表情で話す。

 

「幸いな事に将が討ち取られる事はありませんでしたがそれは向こうも同じ。波多野元秀を始め籾井教業、赤井直正などの有力武将は全員健在です」

「となると今後も丹波の者達と戦うときには今のような損害を覚悟する必要があるわけか……」

「特に赤井直正、籾井教業の両名は危険です。彼女たちは多少の兵力差など覆してしまえる武を持っています。しかし、我が軍に両名を抑えられる将はおりません……」

「直臣はそうかもしれないが豪族はどうだ? 阿波衆の七條殿などは剛力無双の武将だ。相手土れるのではないか?」

「籾井教業ならそうでしょう。ですが赤井直正は槍の突き、つまり早さと貫通力に特化した姫武将です。ただの怪力では相手になりません」

 

 今回の件で改めて発覚した丹波の底力。それらを相手取る事が出来る武将がいないことは三好家にとって丹波の切り取りを難しくさせる原因となっていた。

 

「丹波の強さは分かったが今はそれ以上に大切なことがある。先ほど報告が入ったが六角家は我らの動きに気付き、京の確保を取りやめて北上している」

「っ! それは誠ですか?」

「ああ。数は2万5千。兵の上では同等だが三雲成持、進藤賢盛などの有力武将のほぼ全てが参陣している。丹波とはまた違った強敵だ」

 

 六角の両藤と言われた進藤賢盛に六宿老の一人である三雲成持。まさに六角家の総力を挙げた軍勢と言えた。

 

「そして京の抑えとして蒲生家他一部の豪族が待機している。京側から挟み撃ちを出来る状況ではない。つまり、我らだけでこの軍勢を相手しないといけないわけだ」

「我らは丹波連合との戦いで疲弊しています。その状態で六角家と戦うとなると……。厳しい戦いとなるでしょうなぁ」

「それどころか敗北する可能性すらあるぞ」

 

 将たちの間でも不安の声が上がり始める。だが、そんな中でも義継だけは悲壮な表情を見せずにいた。

 

「諸君らの不安も分かるがこれは同時に好機でもある。六角家をここで倒すことができれば我らの体制は盤石となる」

「それはそうでございしょうが、勝つことは現実的ではない以上……」

「わかっている。だが、勝たねば我らに明日はない。明日、出発すれば京の北部、若狭をつなぐ街道のいりぐちたる八瀬城にたどり着く。幸いそこは六角家の攻撃を受けていないが明日にでも到着するだろう。そこが決戦の地となる」

「八瀬城……。あそこは入口が狭いです。入り口を確保できるかで戦の流れは変わるでしょうな」

「そうだ。そのためにも我らは速攻で進まなければならない。先陣は三好三人衆に任せる。次に四国衆、畿内衆と続き、俺、長房となる。長房には後方を見張ってもらう。また丹波連合が襲い掛かってくるかもしれないからな」

「かしこまりました」

「政勝は政康から離れた遊撃舞台として戦場をかき回せ。なるべく脆い敵を中心に倒すんだ」

「了解いたしました」

 

 次々と指示を出していく義継。それに家臣たちも答えていきやがて軍議は終わった。しかし、この場の誰もが若狭出兵とは比べ物にならない苦しい戦いとなるだろうことを予想し、覚悟を決めるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。