三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第弐拾弐話「八瀬の戦い・壱」

 八瀬城は山城国の中央に位置している。そして、京と北方をつなぐ道の出入り口にもなっている。城主は八瀬某。先代の城主が死に、10代にも満たない娘が後を継いでいる場所だ。幸いな事に山城国の国人衆だが先代の頃より親三好の立ち位置を取っており、永禄の変後もそれは変わらなかった。おかげで俺は城攻めをすることなく八瀬城付近にまで到着する事が出来たがそれは六角家も同じだった。

 

「八瀬城が落ちることはなかったが同時に入り口を封鎖されたか……」

 

 八瀬城から見える眼下の景色を見て俺はそうつぶやく。敵は八瀬城の南に取ってある道を半包囲する様に陣取っている。おかげで京に戻るには目の前の六角家の軍勢を蹴散らさないと永遠にたどり着くことは出来ないようになってしまった。

 

「だが、もともと六角家は倒さないといけない敵ではあったのだ。背水の陣、とまではいかないが未来を勝ち取るためにも将兵には奮闘してもらわないとな」

 

 そうつぶやくと同時に、入り口に陣取った三好三人衆の軍勢が攻撃を開始した。先陣は当然ながら政康だ。政康の兵は中央、長逸は西、友通は南の軍勢とそれぞれ戦闘を開始した。

 

「敵はだれだ?」

「はっ! まず長逸様と接敵しているのが吉田重政。政康様は平井定武、友通様は三雲成持の兵となっています。そして、その後ろにそれぞれ進藤賢盛、六角義治、鯰江貞景の兵が待機しています」

「……どいつもこいつも強敵だな。」

 

 六宿老の一人である三雲成持に平井定武。弓術家にしてのちに吉田流を作り上げる吉田重政。六角家は本気で俺たちを倒そうとしているのだろう。もし、ここに蒲生家がいたら詰んでいたかもな。だが、蒲生家がいないという事は京の抑えは彼らだけで十分という六角家の信頼の証でもある、か。それに蒲生家がいる限り六角家の背後が脅かされる事はないだろう。

 

「……やはり、苦戦はするか」

 

 前線が乱戦模様となってきたがそれでも分かるのは敵の方が全体的に優勢という事だ。政康が自ら槍をふるっているようで中央だけは互角の戦況となっているが残り二つは、特に長逸の西の戦線が押されている。吉田重政は自らも弓の使い手であるためか彼の軍勢は全体的に弓兵が多いように見える。そのために長逸の兵に降り注ぐ矢の数も倍近くまで多く、それが原因で押されているようだ。

 友通に関しては彼自身が戦が得意ではないためだがそれでも指揮能力で言えば十分に兵を任せられる程度には強い。

 

「政勝を出す。友通を救出させろ」

「はっ!」

 

 大分序盤だが政勝はここで使うべきだろう。兵が崩れてからでは遅い。長逸か友通を優勢にさせて主力と言える政康を援護させる。そのためには比較的弱い三雲の方を崩す方がいい。長逸には悪いが暫く耐えてもらおう。

 

「四国衆に出陣する準備をさせろ。いつでも飛び出せるようにな」

「はっ!」

 

 四国衆の役目は政康の援護だ。流石に政康だけで敵中突破を図るには数が足りないからな。幸いにも四国衆には怪力無双で知られている七條兼仲を始め優秀な武将が多く存在している。政康の補佐を立派に勤め上げてくれるだろう。

 

「畿内衆は友通、長逸の援護だ」

 

 畿内衆は若狭出兵で酷使したからな。兵の損耗もそうだが不満の声もあるだろう。なので今回は大きく後ろに下げる事とした。

 

「さて、後は六角家の動き次第だが……」

 

 そう言いながら戦場を見れば、六角家は動き出している。

 

「やはり一筋縄ではいかないな。当主が無能でもそれを支える家臣団は優秀だからな」

 

 かつては長慶と互角に渡り合った六角家の猛者たちだ。当然ながら弱いわけでも頭が悪いわけでもない。戦場の流れを読み取り、自分たちの最適解を見つけてそれに向かっていく。だからこそ六角家はここで倒さないといけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ……! 丹波の者共は何をしていたのだ! 三好どもは全然疲弊しておらぬではないか!」

 

 六角家の本陣、そこにいる六角承禎は三好家の様子を見てそう怒鳴り声をあげた。観音寺騒動にて甲賀に逃れていた間に三好家は将軍家を殺し、自らが将軍を名乗るようになっていた。それも将軍家の血筋を継ぐ足利義昭を妻に迎えるという事も行い、足利幕府の主w影を残すという反発を少なくさせることもしていた。

 結果的にそれを良しとしなかった関白近衛前久によって承禎は家臣たちと和睦し、再び六角家の当主になる事が出来、こうして京に出兵していた。

 

「そもそも! 何故朝倉は動かない! 奴らが動けば三好がこうも早く戻ってこれなかったはずなのに……!」

 

 近衛前久より聞かされていた策は以下の通りであった。

 

第一段階:各地の反三好、もしくはそれに近い感情を持つ諸大名、豪族たちを決起させる。集団で決起させることで及び腰にならないようにという意味もあった。この時に決起するのは朝倉、六角を中心に、畠山残党、筒井家、丹波及び播磨の豪族。可能性は低かったが比叡山延暦寺や石山本猫寺などの寺社勢力。

 

第二段階:三好家の動きを止める。朝倉家が若狭にいる主力を抑え、帰還を阻止する。その間に六角家が京を抑え、三好に抑えられているやまと御所を奪還。可能なら居場所が知れない足利義昭を救い出す。各地では三好家の勢力を攻撃、ないし足止め的動きをする。丹波のみ山城に戻る街道を抑えて主力の南下を防ぐ。

 

第三段階:三好家の権威方面の失墜。やまと御所を六角家が抑えた後は関白近衛前久が三好家を朝敵に任命する。京を六角家が抑えてから宣言する理由としては逆上した三好家にやまと御所を襲撃されるリスクを減らすためであったが近衛前久がなるべく勝敗が決するまで中立、というよりも自分たちは関係ないという姿勢を崩さないようにして万が一三好が勝利した際に追及をかわす理由が主だった。

 

第四段階:各地の三好勢力の討伐。四国には手を出すことができなかったものの、畿内から三好勢力を駆逐することはこの時点で可能となっている。朝倉単独で三好主力を倒せるのならそれで良し。出来ないのなら損耗を与える方向で行き、南下してくるであろう三好家主力を丹波連合が迎撃、出血を強いる。そして、朝倉と丹波連合を相手にして弱ったであろう主力部隊を万全の状態で待ち構える六角家が叩く。主力を倒せてしまえば各地の三好家は各個撃破が可能となる。あとは六角家や朝倉家が畿内を掃討して完了する。

 

 それが一連の三好包囲網の全体図だった。しかし、ふたを開けてみれば朝倉は動かず、三好家は丹波連合との戦いで損耗したが予定よりも大分少なく済んでしまった。更に予想外にも早く戻ってきてしまった為に京の制圧が間に合わず、万全のじょつあいで迎撃する事が出来なくなってしまったのだ。

 加えて、中立ないしこちら側についてくれると予想していた寺社勢力は軒並み中立になって様子をうかがってしまい、本猫寺に至っては三好家に金銭や兵糧の援助をするなど協力する始末だった。

 

「何もかもが策通りに進んでいないではないか!」

 

 唯一、播磨の豪族たちが奮戦して有馬某を打ちとり、播磨から三好を追い出すことに成功したくらいであるが大勢で見れば影響なんてないに等しかった。

 

「このままでは我らも危うい。だが! ここで三好を叩けば我らが幕府の重鎮に、いや! 六角幕府を開く事すら可能であるぞ! 何としてでも三好を倒すのだ!」

 

 六角承禎は見てしまったのだ。足利家の人間を身内に引き込めば自分たちも幕府を開けるという事に。女好きである六角承禎は足利幕府ややまと御所を助けるというためではなく、自分の欲望の為に三好家と戦う事を決めた。

 そして、義継の野望と承禎の欲望。そのどちらが上であるかはこの戦いの勝敗をもって決するだろう。

 





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八瀬の戦いの展開図です
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