三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第弐拾参話「八瀬の戦い・弐」

「引くな! 前に進め! ここで引くことは許されないぞ!」

 

 政康は兵たちを鼓舞しながら自らも槍を敵兵に突き刺していく。政康は平井定武の軍勢に猛攻を加えていたが義治の軍勢が前進し、援護に回ると動きが鈍ってしまった。というのも義治の軍勢もまた弓兵が多く配備されており、吉田重政勢のように雨のごとき矢を放ってきたからだ。

 頭上から降り注ぐ矢にも気を付けないと行けなくなった政康軍はその力と速度を大きく落とすこととなったのだ。

 

「くそ! これでは進めないぞ!」

「政康様! 友通様の軍勢が大きく前進! こちらの側面を付ける位置に来ました!」

「っ! 確か政勝が援護に回っていたな? 政勝につかせろ!」

「すでにそのように実行されています!」

 

 野生の勘とでもいうべきなのだろうか? 政勝は戦場において最適解と言える行動をすることが多かった。今回も戦場を見渡せる状況ではなかったにも関わらず政康が突破に手古摺っていると判断し、その援護に回るべく平井定武の軍勢に横やりを食らわせていた。

 

「良し! これで多少は目の前の敵が弱くなるはずだ! 皆の者! ここが一番の踏ん張りどころである! 命を捨てる覚悟で突撃せよ!」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

 政康の言葉に兵たちは雄たけびを上げる。平井定武は横からの奇襲に対応しようとするが政勝が率いる軍勢は本人の強さも合わさり政康以上の強敵となっていた。結果、政勝の軍勢は平井定武軍の中に深く食い込み、陣形を乱し、混乱を生み出していく。そこへ突撃を行う政康軍も加わりあっという間に平井定武軍は機能不全に陥ってしまった。

 

「うん?」

 

 ふと見れば義治の軍勢が放つ矢が平井定武軍にも降り注いでいた。それはつまり平井定武を見捨てて味方事三好軍を倒そうとしている事に他ならなかった。

 

「所詮は観音寺騒動を起こすほど家臣と主君の中は険悪であり、信頼関係はないわけか。敵ながら哀れだな」

 

 そうつぶやく政康のもとに平井定武が義治軍の矢に射抜かれて討ち死にしたという報告が入ってくる。六角六宿老の一人が主君によって殺されるという何ともあっけない結末だと政康は思うがこの好機を逃す手はないと攻勢を強めていく。

 平井定武の討ち死にはあっという間に広まり、平井軍は逃亡者が出始め、射殺す結果となった義治軍でも少なくない混乱が発生した。それを見逃すほど政康も政勝も甘くはない。一気に義治軍に殺到していく。

 

「行くぞ! 政康殿に続け!」

 

 そして、それを援護する様に四国衆が突撃を開始。指揮官を失い大混乱にある平井軍にとどめを刺していく。

 

「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!! 我が武の力をとくと見よ!」

「七條殿に負けるな! 我ら大西家の力を六角家に見せつけるのだ!」

 

 三好家において最大の武力を持っている七条兼仲と大西頼武・覚養親子は政康の後方に陣取り政康とともに義治軍に攻撃を開始した。四国衆の投入により、六角家の中央は大きく崩れ、三好家に有利な盤面となりつつあったがそれをただで見逃すほど六角家も甘くはなかった。

 

「吉田殿はおひとりで十分そうですな。ならば我らは義治様の手助けをするとしましょうか」

「我らは八瀬城を奪い取るぞ!」

 

 吉田重政の後詰を担当していた進藤賢盛は長逸を押す吉田重政を見てひとりで問題ないと判断し、義治の救援に向かった。その一方で進藤賢盛よりさらに北に軍勢を展開していた猪飼昇貞は単独で八瀬城攻略を目指して前進を開始した。

 

「所詮八瀬城は小城。入っている兵も少ない。だがここを落とせれば三好家の動きは乱れる事になる」

 

 名の通り猪の形をした兜をかぶった昇貞は獰猛な笑みを浮かべた。彼は前情報で八瀬城主が年端もいかない幼女であると理解していた。

 

「ヒヒヒ! 初潮を迎えていないおなごの抱きごとこちは素晴らしいからの! 今から楽しみだ」

 

 昇貞は下種な考えをしながら八瀬城の西に位置する急斜面の山を登っていく。それに気づいた八瀬城の兵が弓を射かけてくるが数の少なさもあり足止めにすらなっていなかった。

 

「ヒヒヒ! 無駄無駄! さっさとお目らの主をよこ、せ……!」

 

 昇貞はそこで気づく。自分たちに向かって巨大な丸太や岩が落ちてくることに。しかし、彼が気づいたときには丸太が眼前にまで迫っており、それを理解すると同時に彼の顔を吹き飛ばしてしまった。

 

「昇貞様!?」

「昇貞様がやられ……!」

「ギャッ!?」

 

 次々と落ちてくる丸太と岩に山を登っていた猪飼軍は次々とその餌食になっていく。兵たちは慌てて山を下りようと駆け下りていくが急斜面であったことからほとんどが転げ落ちて頭を打つなどして絶命していた。そうじゃない者も後ろから迫る丸太と岩の前に死に至り、無事に山を下りられたものはほとんどいなかった。

 

 

 

 

「よし。もう十分だろう」

 

 俺は山から離れていく敵兵を見ながらそう言った。八瀬城の兵が予め用意していたいという丸太と岩をほぼ全て出し切ったがおかげで敵の軍勢一つを壊滅させることができた。

 

「後はこっちの番だな。準備は出来ているか?」

「もちろんです。本陣の兵2千全員の準備が完了しています」

 

 その言葉に後ろを振り返れば準備万端と言った様子の兵士たちがいる。籾井教業の奇襲時には混乱していた兵たちもあれを経験したからか顔つきが違って見える。

 

「ですがよろしいのですか? 態々殿が出なくとも……」

「四国衆、畿内衆ともに出し切った。それによって敵も動き、大きな隙を見せてくれている。この機を逃すことは出来ないさ」

 

 長房には後方の見張りを頼んでいる。可能性は低いが丹波連合の侵攻に備えてもらう。この状況でのはさみうちはマジで詰むからな。前がふさがっているのに後ろもふさがれてはどうしようもなくなる。それだけは避けねばならない。

 

「さて、行くとするか。……諸君! 我ら本陣の兵は眼下の敵兵を追い払ったのちに敵の大将六角承禎がいる本陣に攻撃を仕掛ける! 籾井教業の奇襲時の醜態はこの一戦で拭い去れ! そして戦を勝利に導いた兵としての誉れを手に入れるのだ!」

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

「行くぞ! 我に続け!」

 

 俺は兵を鼓舞すると雄たけびを上げる兵たちの先頭に立ち、六角承禎への攻撃を開始するべく一気に山を駆け下りるのだった。

 

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