京に帰還した俺たちは京の人々から恐れの感情を抱かれながら町の中を進む。あまり好かれてはいないのは理解しているがこれほどとはな。落ち着いたら京の街並みを復興してご機嫌とりでもしないといけないな。
「諸君。若狭出兵より続き丹波、六角との戦。ご苦労であった。
未だ各地では畠山残党、筒井家、播磨の豪族連合と戦いが続いているがそれも六角家という最大戦力を倒したことで終息するだろう」
俺は京の三好邸に集まった家臣、豪族たちにそう挨拶をする。ここにいるのは山城国の留守居組と若狭出兵から付き従った者達だ。まだ終わっていないとはいえ彼らを一度解散させる必要がある。流石に苦境が続いたからな。
「若狭出兵による恩賞は既に発表したため、後日恩賞を送らせようと思う。ゆえに今回は丹波連合、六角家との戦での恩賞だ」
そう話を切り出せばだれもが真剣な表情でこちらを見てくる。誰だって戦った分の報酬は欲しいだろう。戦費の補充のためにもな。
「まず、今回最も功績をあげたのが三好政勝だ。彼女は六角義治を討ち取り、六角家を総崩れに追い込んでいる。それがなければ六角家は抵抗する力を残した状態で撤退に成功していたはずだ。そしてそれを補佐した政康もだ。丹波連合では赤井直正を自ら抑え込み兵の損耗を減らすことに成功している。
ゆえに二人にはもともと康長と東西で統治する予定だった若狭一国を与える。政康が統治し、政勝がそれを補佐せよ。どうせ政勝だけでは統治は難しいだろうからな」
「はっ! ありがたく頂戴します」
「兄を支えられるように頑張ります」
「うむ。そして康長は京を守り、六角の手に落ちる事を防いでくれた。少ない兵でよくやってくれた」
「若狭に向かうために兵をそろえていましたからね。運がよかったですよ」
そう、意外にも京は持ちこたえていたのだ。そもそも、京には5千に満たない数しかいなかった。だがそれでも康長が若狭を拝領するために兵を連れて向かう予定だったためにそれなりに多い数だったのだ。そうじゃなかったから今頃京は六角家の手に落ちていたはずだ。
「ゆえに康長には山城国内で加増する。今後は京の防衛を一手に任せる。具体的には今後決める為にそのつもりでいてくれ」
「かしこまりました。義継様のご命令しかと承りました」
康長にはこのまま京の守りを任せてしまおう。こういう重要な場面においては一門衆を置こうとしてしまうあたり俺も保守的な人間なんだろうなぁ。そう考えると一族というのは重要な存在だな。そして、それに裏切られる事の衝撃もまた大きいだろう。
「そのほかにも大なり小なり功績をあげたものには様々な形で褒章を用意している。とはいえそれらはこの状況を切り抜けてからになるだろう」
「構いませぬ。我らとて褒章をせがんだ結果主家が滅びたのでは元も子もありませんからな」
「その通りです。御館様は我らを気にせずに目の前の脅威を取り除く事に集中してください。我らも微力ながら助太刀いたします」
「……すまないな」
本音なのか、それとも裏があるのか。それは分からないが少なくとも言われて気分が悪くなるものではないな。
とりあえず軍議を終えて軍を解散させた俺はそのまま京の三好邸にとどまり、全体指揮を執ることにした。そして三好三人衆や政勝にはそのまま軍を率いて各地の援軍に向かってもらう。政康は摂津、長逸は大和、友通は政勝とともに和泉だ。これらの地域にいる敵は全て弱小勢力。増援を送れば簡単に決着がつくはずだ。
「御館様。ご報告がございます」
「なんだ?」
「六角家の家臣がお目通りを願っています。具体的には寝返りたいと」
「ほう?」
意外だな。だが同時に納得した。六角家は承禎と義治を失い、滅んだも同然の状態になっている。流石に分家や六角家から嫁や婿をもらった家もいるだろうが今までのように安泰とはいかないだろう。つまり、六角家は崩壊の危機に瀕しているわけだ。
そして、そんな危機に瀕した泥船にいつまでも載っていたいと思うだろうか? 普通なら逃げる。より安全で、沈みようがない船に。それが三好家だったという事なのだろう。
「いいだろう。会おう。ただしこちらの兵には武装させ、いつでも仕掛けられる準備はしておくように」
「はっ!」
そう言って下がる小姓を見送りながら考える。この速度から考えて領地に帰らずにそのまま降ってきたのだろう。複数人という事はいくつかの軍勢が合流後、降る決断をしたというところか? 降るなら早いうちの方がいいという考えもあるのだろう。そういう考えは嫌いじゃない。問題は本当に降る気があるのかだな。
そして一体どの武将が降伏してきたのかだ。八瀬城で戦った武将のうち平井定武と猪飼昇貞の死は確認している。という事はそれ以外の者からとなるが個人的には蒲生あたりが仕えてくれるというのならありがたい。彼らは優秀だからな。まぁ、そんなうまくいくとは思えないがな。
「御館様。謁見の準備が整いました。降伏した将及び万が一の時の兵全て謁見の間にてそろっています」
「わかった。では行くとしようか」
しばらくして小姓が呼びに来た。その知らせを聞いた俺は立ち上がり謁見の間へと向かう。後に三好家を支える将来の家臣たちのもとに。