三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第弐拾陸話「黒幕」

「お初にお目にかかります。某は蒲生賢秀と申します」

「吉田重政と申します」

「進藤賢盛です」

「……布施公雄」

 

 俺に目通りを願った者は4人だった。一人は蒲生氏郷の父親である蒲生賢秀、吉田流の開祖である吉田重政。六角の両藤と呼ばれた進藤賢盛。あとは……、俺も知らないやつだ。史実にいた人物なのか?

 

「三好左京大夫義継だ。事前に聞いたが俺に対して降伏するという事で相違ないか?」

「はい。我ら4人ともその所存に御座います」

 

 代表者なのだろう。蒲生賢秀が喋る。歳は30代前半くらいか? 頑固者とも臆病者とも言われる彼だがこうして姿を見る限りそのどちらでもない、いうなれば時世を見て状況を判断できる人物のように思える。だがあくまで独立などは考えずにどこかの家の家臣に収まる事を良しとするように見える。つまり、三好家の勢いが良く、衰退など感じさせない限り裏切る人物ではないという事だ。それは八瀬の戦いから間もない事を考えれば納得が出来るな。

 

「納得したし俺としても貴殿らのような畿内に名を轟かせる者を受け入れる事に異論があるわけではない。……が、ただで召し抱えるわけにもいかない。それは分かっているな?」

「もちろんでございます。左京大夫様のご命令とあれば我ら如何様な命にも従いまする。その代わり、我れらが親族を譜代の臣と近い扱いを願いたく」

 

 つまり、自分たちが責任を取る為にほかの家族は譜代、つまりずっと三好家に仕えてきた家臣たちと同じように扱ってほしいというわけか。そこに領地の安堵などが追加されていないあたりめしあげも覚悟の上なのだろう。

 だが、そんな事で認められるほど今の三好家はひっ迫しているわけではない。彼らには自分の未来を自分で勝ち取ってもらうとしよう。

 

「諸君らの願いは理解した。だが、たかが降伏した者の家族を譜代と同列に扱う? 我ら三好家を舐めているのか? 確かに貴様らがいれば我が三好家は更に強力となる。……が、いなくてもかまわないのだ。ただ降伏した者を重宝するほど三好家は落ちぶれてはいない」

「……では、どうすればいいでしょうか?」

「簡単だ。お前らには近江を切り取ってもらう」

 

 俺の言葉に4人は目を見開いて驚く。流石に予想外の言葉だったのだろうが別に俺は無理強いをさせるわけではない。難易度は高いだろうがな。

 

「無論、諸君らだけでやるのは不可能だろう。ゆえに我が叔父康長を総大将に5千ほどの兵を付ける。貴様らはその軍門に入り、近江を切り取ってこい。兵を使わずに調略だけで落とすもよし。寡兵と言えど大きく力を落としている諸城を無理やり落とすもよし。好きなやり方を試すと良い。それで見事近江を切り取って見せよ」

「……」

「無理か? 別に無理なら無理でかまわないぞ。その時は外様として迎え入れ、最下級からの出世を目指してもらうことになるがな」

「いえ。そういうわけではございません。ご命令、確かに承りました」

 

 これでいい。よくわからない布施公雄を除きほかの3人は優秀だ。彼らが率いている兵に5千の兵が加われば南近江くらいは楽に切り取れるはずだ。流石に今の三好家に近江を切り取る余裕はないが裏切った兵を使うのなら話は別だ。今のうちに当主を失い混乱する近江を奪い取ってしまおう。近江は京から近すぎる。絶対に三好家の領土にしておかないといけない場所だ。

 唯一の懸念があるとすれば浅井家だ。あれは今でこそ六角家に臣従しているがそれでも北近江における影響力は高い。そしてそんな浅井家と俺は戦っているうえに当主の久政を討ち取ってしまっている。確実に俺に対して恨みを持っているだろう。素直に従うとは思えない。最悪の場合、いや確実に俺と敵対関係になるはずだ。そうなる前提で物事を考えたほうがいいだろう。蒲生達だって南近江をきちんと切り取れた時には嫡子を人質に出させて北近江の切り取り失敗と相殺してやればいい。そうすれば氏郷を近くに置くことができる。史実では会津で大大名になった人物だ。優秀なことに違いはないはずだ。

 

「では早速準備に入ってくれ。康長には後で伝えておこう。諸君らの健闘を祈っているぞ」

 

 俺は最後に笑顔でそういうのだった。

 

 

 

 

 

 

「おのれ……! 三好の小童め……!」

 

 やまと御所の一室にて一人のお歯黒男性が地団太を踏み、怒りをあらわにしていた。彼の名は近衛前久。正一位、関白の官位を持ち、人形のように意識が希薄な姫巫女に代わりやまと御所を運営している事実上のトップである。彼は幕府との関係を強め、自らの妹を将軍の正室に置き良好な関係を築いていた。

 彼としてはかつてのようなやまと御所を頂点とする在りし日の姿に戻したい野望があったがそのためには荒れた日ノ本を統一しないといけない。そのために足利幕府を利用しようと考えていた。彼は足利幕府に世の乱れを正させるとこうなった原因を追究し、幕府を解散。再びやまと御所に権力を集中させようと画策していた。

 しかし、結果は足利義輝は死に、義昭は捕まって三好家の新当主である義継の正室にさせられる事となった。それを受けて征夷大将軍の地位をよこせと義継は迫り、断ればそのままやまと御所を襲撃しそうなほど血気盛んだったこともありしぶしぶ了承する事となった。そのあとも献金をねだったり難癖をつけたりしたがあえなく失敗。最終的に周囲の大名家に三好家を袋叩きにさせようとしたが蓋を開けてみれば大失敗で終わろうとしていた。

 

「何故じゃ!? 麻呂の作戦は完璧だったはずじゃ! 何故失敗する! 何故朝倉は動かないのじゃぁぁぁっ!!!!!」

 

 前久は自分が首謀者だと言いふらすかのように怒鳴るが声を張りすぎてむせてしまい途中でせき込んでしまう。

 

「クスクス。だから言ったじゃない。貴方の作戦は失敗すると」

「まったく。関白様ともあろう御方がこの程度の事も分からないとは」

 

 そして、そんな前久の作戦を貶すように言う人物が二人。前久は二人の声を聴くと忌々し気に声の方を睨みつける。

 

()()! ()()! 黙っているでおじゃる!」

「あれ~? 関白さまったら図星を突かれて怒っちゃった?」

「小さい男だな」

 

 なお関白を貶す二人、今は亡き足利義輝に仕えた細川藤孝と三淵藤英は冷たい視線を関白に送ると説明を始めた。

 

「六角家は観音寺騒動で大きく弱体化していたわ。たとえ関白さまが取りなしたからと言って蟠りが消えるわけじゃない。その結果がありありと発揮されたのよ」

 

 男でありながら女口調で喋り、姿も美少女にしか見えない藤孝は妖艶な笑みとしぐさをしながら作戦の要と言える六角家の様子を話す。

 

「それに加えてきっかけとなった後藤家親子の殺害。ただでさえ宿老として六角家を支えた人物を殺せばその分だけで穴が生じるわ。それは優秀であればあるほどふさぐことができない穴よ。そして宿老という地位。もう塞ぎようがないわね」

「結果、六角家はかつての力を発揮できなくなった」

 

 藤孝の説明を受け継いだのは異母兄である三淵藤英だ。武士らしいキリッとした姿の彼は藤孝に代わり話を続けた。

 

「六角家についてわかってくれただろう。つまり、主力とするには弱く、脆すぎたというわけだ。そこは関白さまの完全な失敗だ。そして朝倉家。そもそも当主はまだ若い上に北には力を強めている本猫寺がいる。長年朝倉家を支えた朝倉宗滴が去年に亡くなっていこう越前への略奪が横行していると聞く。とてもではないがこちらに同調して若狭を攻める余裕などない。ま、朝倉を動かしたいのなら3年遅いか5年早かったな。そのどちらかなら朝倉家も余裕があっただろう。ああ、寺社勢力に関しては簡単だ。そもそも今回の件に反三好の寺社勢力は加担させていない」

「な! 何故でおじゃるか!?」

「簡単な話だ。こんな明らかに失敗するとわかっている策に寺社勢力を加担させるほど無意味なことはない。其れよりも次に備えて力を温存させておくべきだ。ゆえに寺社勢力は中立にさせたわけだ。まぁ、本猫寺に関しては理由が判明している。池田家家臣荒木村重の配下に芝山宗綱という女性がいる。そいつは個人的に本猫寺とつなぎを持っており、主家が大変だと本猫寺に協力を要請し、見事受諾されたという事だ」

「つまり、麻呂の策は時期が悪かったから失敗したといいたいでおじゃるか?」

「その通りですよ。私なら準備に3年から5年は掛けます。それくらいしないと今の三好家は倒せません」

「まぁ、その間に三好家は更に力を強めるだろうがな。だが、そこはそれに対抗でき勢力を使えばいいだけの話だ」

「? そんな大名家が一体どこにいるというのじゃ?」

 

 前久の疑問、それはある意味では至極当然と言えるものだ。そもそも、三好家を抑えられる勢力が六角家と朝倉家しかいないと判断氏らからこそ今回の策に出たのだ。三好家を抑えられる勢力がいるというのならそのものに頼み込んでいるはずなのだから。

 

「いるさ。()()西()()な」

「全部で4つかしら? まぁ、1つを除いてこちらから()()()必要があるけどね」

「一体なんじゃというでおじゃるか?」

「簡単な話だ。三好家を確実に滅ぼすために()()()()()()()()()()()()()()()()状況だ。近いうちに理解できるさ。我ら足利幕府幕臣団の恐ろしさをな」

「それよりも関白さま。今のうちに各地の反三好勢力を囲い込む準備をしておいた方がいいですよ。多分、義継は関白さまが主犯だって知ってると思いますから」

「そうなればこのやまと御所を監視下に置くはずだ。万が一に備えて武力は必要だろう」

「なっ!? 麻呂が殺されると!?」

「将軍を殺すような人だよ? あり得なくはないでしょ?」

「そういうわけだ。俺たちはここを去る。連絡については和田惟政を介して行う。彼女は忍びの出だ。監視をかいくぐり連絡を取ることなどたやすいからな」

「それじゃぁね! 関白さま。お元気で!」

 

 そういうと二人はやまと御所をひっそりとさる。主君を殺した三好家に憎悪を、復讐の炎を巻き上げながら。

 

 

 

 

 幕臣たちが蒔いた種。それは芽を出し根を張り、やがて大輪の花を咲かせる。その時、その花が芽吹くときが幕臣たちの悲願がなされるときとなるだろう。

 今はまだ、芽は出ていない。

 

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