三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第弐拾漆話「包囲網の後に」

 三好包囲網と名付けた一連の出来事。それは意外にも僅か1月で終息した。若狭からの撤退から始まり、丹波連合による足止め、八瀬における六角家との決戦を経て三好家は危機を脱する事に成功した。大和の筒井家、和泉の畠山残党、摂津の播磨連合軍。全てを蹴散らし、平定するのにかかったのが1月だ。この出来事により得たものと失った物は大きく存在している。

 まず、得たものは六角家の領土全てだ。俺としては南近江を切り取れればいいなと思い、降伏した蒲生賢秀、進藤賢盛、吉田重政、布施公雄の4人を配下につけた三好康長を総大将に侵攻させたのだが結果、近江全土が手中に収まった。

 この報告を聞いたときは思わず嘘の内容を書いたのかと思ったほどだ。何しろ当初の想定では北近江の浅井家は従わずに独立するとばかり思っていたのだ。それを前提に色々と考えていたのにそれらが全て無駄になってしまった。だが、来た報告書を見れば何となくだが理解できるものだった。

 そもそも、浅井家は独立してやっていくには家臣が少なすぎたらしい。なぜか? 政勝が討ち取りすぎたからだ。浅井久政を始め政勝は家臣の多くを討ち取っており、その結果として独立しても領土を統治する家臣が足りないという状況に陥りそうだと予測したらしい。そんな浅井家に声をかけてきたのが蒲生賢秀だ。彼は恨みをいったん置いておいて、独立が難しい以上どこかの勢力につかないといけないがその場合、周辺で一番いいのはどこかを力説したそうだ。朝倉は宗滴を失い斜陽を迎えている。美濃は守護である土岐家を追放した斎藤道三が幅を利かせている。尾張は遠い上に今はいいが次代はうつけと呼ばれる姫になる事が決定している以上将来も安泰とは限らない。そうなれば将来も安泰の可能性が高く、血筋も権威も持つ三好家が好ましいと。恨みつらみは分かるがそれを抱き続けて判断を誤れば浅井家を更に窮地に立たせることになる。義継様とて鬼ではないために人手を貸してくれるはずだ。恨みを忘れられないのなら彼の窮地の際に晴らしてやればいいと。

 ほかにもいろいろと説得し、最終的に観音寺城にて人質となっていた浅井猿夜叉丸が三好家に降伏すると決断して浅井家が下ったそうだ。それを聞きほかの北近江の豪族も続いたというわけらしかった。

 つまり、三好家の中に恨みを持つ者達を招き入れてしまったという事だ。とはいえすぐに何かするとも思えない以上分断政策をしてみるか。土豪である為に土地から話すのが大変だが領地替えなどを駆使して力を落とさせ、そのうえで家臣たちを直臣にするなどして引き離す。今更「危険分子だから抱え込むの無しで」なんて言えないからなぁ。

 それに成功してしまった以上蒲生達を譜代の家臣として扱う必要が出てきた。その辺も後から家中に徹底させないとな。まぁ、確かな功績をあげたわけだし問題ないとは思うが……。

 次に、失った物に関してだ。これは播磨と丹波の領土だ。摂津に侵入した播磨連合軍は摂津豪族の居残り組と派遣した政康、そして何より本猫寺の力が大きかった。以外な事に本猫寺は三好家側として協力してくれた。なんでも荒木村重の家臣である芝山宗綱という姫武将が尽力してくれたおかげらしい。詳しくは知らないが個人的に本猫寺との伝手を持ち、勝正に影響されたらしい彼女は三好家の存亡の危機だと本猫寺に協力を要請したらしい。まぁ、おかげでこちらは貸しを作ることになり、それを相殺する代わりにあちらが求めた石山の独自運営を認める羽目になったがな。

 この一件は手早く処理をしないと未来においても寺社勢力による政治介入を許すことになりそうだ。タイミングを見計らって本猫寺をただの寺に戻したいものだ。

 そして丹波。ここに関しては今更出し失っても惜しい場所ではない。そもそも丹波領の統治には事実上失敗していたからな。丹波の豪族どもを何とかしない限り統治することは難しいだろう。

 だが、あちらも俺たちとの戦いでそれなりの損害を強いられている為か六角家が滅び去った後はこちらと和睦したいと申し出があったためにそれを受け入れている。これに関しては播磨も同じだな。これ以上の出兵はこちらの身を削ることになりかねない。そもそも、今の三好家が戦えているのは事実上の天下人として君臨していた先代三好長慶とその弟たちが率いてきた三好兵だからだ。それを使いつぶすのはもったいない。ただでさえ八瀬の戦いまでで大きく損耗させてしまっているのだから。

 

「だが、これで畿内周辺は落ち着いたと言える。いい加減後回しにしていた内政にも力を入れる時だ」

 

 当主就任から永禄の変。若狭出兵に三好包囲網とここまで戦ばかりをしてきた。そろそろ内政をしないと軍事行動を起こす余裕さえなくなるだろう。

 まずは何から始めようか? 田畑の復興か? 街道の整備? 城の改築か? いや、城の改築は後回しだな。やはり田畑の復興かな。この時代、いろいろと放棄された田畑が多くある。それに米を育てるのに向いていない土地などもある。すぐには無理だろうがそういった場所には別の作物を育てるなどして自給率をアップさせようかな。

 街道の整備も重要だろう。道を整えれば人が通りやすくなる。それは商人も兵士もな。あとは関所も整備しないとな。税を取るなとは言わないがそれはあくまで領境でのみにしよう。関所はあくまで付近の治安維持や取り締まりなどを目的にしよう。現代で言う警察や交番のようなものにしよう。とはいえそれはいきなりでは受け入れられないだろう。まずは直轄領や同意した者の領地でのみ行い、そこで実績を積んでから全体で行うようにする。

 

「誰か。友通を呼んでくれ。内政に関して話し合いたいことがあるとな」

「かしこまりました」

 

 俺は控えていた小姓にそう連絡を伝える。友通はかなりの政治的センスを持っている。現代での感覚で話を進めてしまわないようにこの時代にあったやり方を模索するには友通の力が必要だからな。

 さて、三好家をどのように発展させるか。その行き先が日ノ本統一後、国外に打って出た際に出来る事に直結するだろうからな。頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 そんな風に、三好家の中に目を向けていた為に。

 

 俺は確かな変化に気付く事が出来なかったのだ。

 

 

 

-厳島にて陶軍が辛勝。毛利元就討ち死に。一方で陶晴賢も流れ矢にあたり討ち死に。

-厳島の戦い直後に大内義長が陶家一党を追放し、自らの勢力を固めて毛利領に侵攻を開始。

-さらに()()()()()()()()()()尼子家による毛利領侵攻が開始。

-当主を失い、一世一代の賭けに負けた毛利家は毛利隆元がこもる吉田郡山城を焼かれる形で滅亡した。

 

 

 

 蒔かれた種は芽を出した。

 

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